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公述人(
河村小百合君)
日本総合研究所の
河村と申します。本日はこのような
機会をちょうだいいたしまして、大変光栄に有り難く存じます。
私の方からは、長年、
金融と
財政がオーバーラップするような分野を中心として
我が国の
財政運営を見させてい
ただいてまいりました
民間シンクタンクの立場から
意見を申し上げさせてい
ただきたいというふうに思います。
まず、
我が国の
財政の
現状ということでございますけれども、もう御案内のとおり、
一般政府ベース、
債務残高の対
GDP比の
規模がもう実に一八〇%に達しているということで、非常によろしくない状況ではないかと思います。
我が国の
財政が抱える
課題というのは、これほどの
規模の大きい
債務残高を一気に減らすことはとても無理ですので、その
方向性だけでもいかに持続可能な形に整えて次の世代に渡していくのか、そういった辺りを整えていくことが最大の
課題ではないかというふうに思っております。そういった
意味では、この国の
在り方、そして
財政運営の
在り方、そういった
意味で幾つかの
観点から抜本的な
改革を行うことが必要ではないかというふうに思っております。
そこで、本日はお時間も限られておりますので、その
観点のうちの
一つ、
我が国にある
意味で特有の
課題なんでございますが、そこについて申し上げさしてい
ただきたいと思います。
その
課題というのは、
我が国の場合、よその
主要先進国ではほぼ例がないことなんですが、これまでの
財政運営を振り返ってみますと、
金融的な手法を用いた
財政活動の
運営というものをされてきた
規模が極めて大きかったということが言えるかと思います。これは、いわゆる
租税等を
原資とします
無償資金ではなくて、
政府として
バランスシートを広げる形で市場から
お金を調達して、その
お金を
原資に何がしかの
財政的な目的を持った
政策運営をなさるというものだと思います。これは当然ながら、
バランスシートを広げておりますから当然ではありますが、先行きの
金融市況等に依存いたします
金融リスクを大きく抱えることになります。この点についてはもう当然ながら、既にこちらの
国会の場でも、そして
政府の方でも十分に認識されていらっしゃることでありまして、だからこそ
資産・
債務改革というものが行われることになり、その一環として
金融資産についてもいろいろな角度での
改革が行われてきたということだというふうに
承知しております。
じゃ、この大きな
金利リスク、どこにあるのかということで申し上げますと、非常に分かりやすく申し上げて、その
バランスシートの
規模ということで申し上げますと、一番大きいのが恐らく
財政融資資金特別会計だろうというふうに思います。これは
平成十九年度末、この三月末の
予定額の
ベースで約二百四十六兆円の
残高がございます。そして、二番目が
外国為替資金特別会計、こちらは約百三十兆円の
残高があります。三番目になりますと、これは近々国の
機関から外れることになるのかも分かりませんが、
公営企業金融公庫、こちらの方はかなり
規模が落ちますが、二十五兆円ということになろうかと思います。
このように見ると、今申し上げた
数字はあくまで
バランスシートの
規模でして、特に
財政融資資金特別会計などにつきましては、
資産・
債務改革の
観点から既にいろいろな
意味での
金利リスクへの対応がなされていまして、
財投債を使ってアセット・アンド・ライアビリティーの方での
ミスマッチの
縮小ということも行われておりますし、最近ではちょうど
金利リスク縮小のための
証券化なども行われたところだというふうに思います。
ですから、この
バランスシートの
数字だけがすべてを物語るわけでは決してないんですけれども、やはり
規模の面で見たこの
外国為替資金特別会計、
我が国の
外貨準備の勘定でございますけれども、これ実は
財投の方の
バランスシートの
規模で約半分強ぐらいがあると。しかしながら、これまでのところどうかというと、やはりかなりこの資金、特殊性があるということで、この
資産・
債務改革であるとか特別会計
改革の議論の中ではややちょっとほかの会計とは別の位置付けの扱いになってきたのではないかなと思います。
そこで、昨今、この
外貨準備の積極運用ということがいろいろ話題になっていることもありまして、この点についてじゃどう考えたらいいのかということをこれから申し上げさせてい
ただきたいというふうに思います。
我が国の
外貨準備、
外国為替資金特別会計に入っている
お金ですが、この抱えるリスクの考え方としては二通りがあるかと思います。メーンは
金利リスクでございます。これは日米
金利差に依存するものであります。
アメリカの
金利が
日本の
金利を上回っている限り稼げるという話であります。もう
一つは為替リスクであります。
ただ、これはやや特殊なところがございまして、
我が国の場合、よその国でもそうですが、
政府の会計でございますので現金主義というものが使われておりまして、その特有の事情がありまして、損益のカウントをする上ではこの為替リスクはカウントされないという、そういう形になっております。
これは、ですから、実際に外貨建て
資産を売却するときであるとか、これから少し申し上げますが、将来仮にこの
バランスシートを何らかの形で切り離すとか、それから時価評価をしなきゃいけなくなるようなことになったときに初めて問題になるものでありまして、当面今のこの
制度の中で運用していく場合には問題にならないというものだろうと思います。
じゃ、
外貨準備の積極運用をめぐってはどういうことを考えるべきかということを申しますと、三つ大きく論点があろうかというふうに思います。
一番目でございます。積極運用することによって、ちまたではいろいろシンガポールの例であるとかいろいろな諸外国の例が言われてはおりますが、果たしてそのような形で高い利回りが毎年稼げるのか、
財政再建に貢献するというようなことが持続的に期待できるものなのかどうかというのが一番目。
二番目は、
現状の
外貨準備、これは実は大変大きな
規模を
世界の中で見ても抱えておりますが、しかもこれは先ほど申し上げましたような
金融的な手法でやっておりますので、マーケットから為券を発行して
お金を調達しつつ、その
お金で外貨を買うというような形になっておりまして、そういった会計の中で
金利リスクそれから為替リスクへの対応をこれからどう考えていくべきか。
それから三番目の論点というのは、ソブリン・ウエルス・ファンドの
在り方が国際
金融市場の中でも今大変いろいろ問題になっている中で、
我が国がもしやるんであれば、ベストプラクティスというものをいかに確立していくか、コード・オブ・コンダクトというものをいかに確立していくかということが問題になってくるんではないかというふうに思います。
このような三つの論点があるかと思いますが、そういった中で、では、諸外国の
外貨準備政策運営がどうなっているのかということですね。お手元にお配りいたしました資料の二ページ目の
グラフを御覧い
ただければというふうに思います。
これは、一九八五年のプラザ合意のときから、かなりちょっと時系列的に長いんですが、主要国、欧米
先進国それからアジアの国なども含めて
外貨準備がどのような
残高で推移してきたかというのを示したものでございます。一番上の
グラフを御覧い
ただきますと、中国と
日本が図抜けて増えておりまして、下の方、たくさんの国があるんですが、もうほとんど
グラフびたっとくっついてしまってお分かりにくいことがよくお分かりい
ただけると思います。この点よく御覧い
ただくために、この左側の目盛りのスケールを実際には小さくいたしまして、三千億ドルというような形にいたしましてみたのがこの真ん中の
グラフでございます。一番上の
グラフではオレンジの点線になっておりましたユーロ圏が、真ん中の
グラフではこのオレンジの今度実線になって、この辺りにスケールが移ったなということで御覧い
ただければと思います。
御覧になりますと、
我が国と
経済規模の面で、そして
経済の成熟度合いの面で、これ国際収支の不均衡にも関係してまいりますが、類似しているような欧米の主要国、まあ
アメリカは基軸通貨国ですので少し立場が違いますけれども、そういった国がどのように
外貨準備をコントロールしてきているかと見ますと、適正水準について必ずしも定説があるわけではないんですが、どうもやはり三百億ドルから八百億ドルぐらいのところのレンジでほぼ横ばいで推移するようにしてきているという姿が見えるかと思います。こういった辺りが、やはり
外貨準備、保有する形態には、
日本のように
政府が持ったりそれから中央銀行が持ったり折半にしたりといろんな形がありますが、いずれの形をするにせよ、為替リスクであるとか
金利リスクであるとか、
国民の
資産をそういったマーケットのリスクにさらすことになりますので、必要最小限は保有するけれどもそれ以上は持たないという各国の考え方がこの事実によって示されているんではないかというふうに思います。
ちなみに、一番下の
グラフはアジア各国、これは輸出ドライブで成長してきた国、
日本も確かにその一員ではあるんですが、その国の
外貨準備高の推移でありまして、これは真ん中の
グラフとは違いまして、やはり右肩上がりの国が多いかなというふうな感じになっております。やはり輸出が各国の
経済成長を引っ張る上での中心でございますので、自国通貨高をやはりいろいろ介入等の形によってできるだけ抑制してといったスタンスがここに出ているかと思います。
これが現実でありまして、じゃ
我が国の
外貨準備の
規模といいますと、先ほど御覧い
ただきましたように、主要諸外国、
我が国と並べて比較することができる欧米主要国と比べると、
我が国の二十分の一ぐらいの
規模しか持っておりません。それぐらいに
我が国の場合は非常に
規模が大きい、裏返せばそれだけ
我が国の
政府として抱えているリスクが極めて大きいということが言えるかと思います。
次に、諸外国のソブリン・ウエルス・ファンドの運用の現実ということを
一言申し上げたいと思います。
一般的に情報開示は進んでおりませんが、ノルウェーなどの一部の国の、極めて開示が進んでいる国の例を見ますと、必ずしも毎年毎年ステディーに高い利回りを稼げるわけではありません。当然ながら、国際
金融市場の影響を大きく受けます。年によっては、株式市況が悪い年ではマイナス三〇%といったような値下がりということになることもあります。これは十分覚悟しておくべきであろうと思います。
こういったことを踏まえて、今後望まれる検討の
方向性ということでございますが、
我が国の場合、これほどの
外貨準備を持っていて、狭義の
外貨準備として適切な水準、必要な水準というのを相当上回っているだろうなということは事実だと思います。私として積極運用すべきだともすべきでないとも思ってはおりませんけれども、もし御検討されるんであれば、幾つかの点についてお考えい
ただければと思います。
一つ目は、先ほど申し上げましたように、積極運用とはいっても、年によって非常に大きく
数字が振れ得るということです。そのためには十分なリザーブを積んでおく必要があります。そうしますと、そのリザーブどこから持ってくるかということになりますと、やはり今毎年一般会計に相当な
規模、来年度は一兆八千億でしょうか、繰り入れておりますが、場合によっては何年間かその繰入れを止めてリザーブを確保しなければいけないというようなことにもなろうかと思います。
そして二番目は、この
外貨準備の抱えている大きなリスク。本来は、
バランスシート、両建てで売却して
縮小していくのが筋だろうと思います。しかしながら、いろいろ
アメリカとの関係であるとか、大変いろいろ政治的に難しい問題もあって、なかなか難しいのも現実であろうかというふうに
理解しております。ですから、ソブリン・ウエルス・ファンドも、やり方によっては、
外貨準備から切り離すことによってこのリスクをコントロールする手段として使うことももしかしたらできるかもしれないというふうに考えております。こういった辺りは、場合によっては、本質的には郵政
民営化で取られた考え方と少し通ずるところがあるかも分かりません。
三番目。移行するとすれば、会計はやはり
是非とも今のような公会計の
ベースではなくて、国際
金融市場のプレーヤーとして
活動するのであれば民間の
ベース、時価評価の
ベースに従うべきだろうと思います。当然ながら、競争規制などに従う必要もあろうかというふうに思っております。
最後に一点。やはり考慮すべきは、当然ながら
アメリカの反応かなというふうに思います。こうしたことをする場合、やはり当然ながら米
国債を売却しなければいけないということが出てくるかも分かりません。それを
アメリカが果たしてウエルカムと考えるかどうか、そういった辺りも考える必要があろうかと思います。
現在の市況を考えますと、円高が非常に進行しておりますし、非常に国際的な
金融市況も不安な状況にありますので、具体的にすぐにどうのというようなことではないかと思いますが、
我が国の中長期的な
課題として、この
金融的なリスクを大きく抱えている
政府部門の
改革の
一つの
観点として
是非とも御検討をい
ただければというふうに思っております。
以上でございます。