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松野信夫君 私は、
発議者を代表しまして、ただいま議題となりました
刑事訴訟法の一部を改正する
法律案について、提案の
趣旨及びその
内容を御
説明申し上げます。
我が国の刑事司法の目的は、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の尊重を全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することにあります。このように、我が国の刑事司法が適正手続の保障の下での事案の真相解明を使命とする以上、被疑者の取調べが適正を欠くことがあってはならず、それを防止するための方策が必要であるとともに、また、被告人は訴訟の当事者として十分な防御の機会が保障されなければなりません。
刑事訴訟法は、当事者主義の下、被告人と検察官とを対等に取り扱っておりますが、現実は、真相解明についての両者の力量には格段の差があります。特に捜査段階では、被疑者は取調べの
対象とされ、また自白は証拠の王とも言われて、ともすれば自白偏重に走りがちであります。
密室での取調べでは、威迫的あるいは誘導的な取調べを受けて真実と異なる供述がなされる場合もしばしば見られるところであり、公判において供述調書の任意性をめぐって長
期間の裁判が繰り広げられていることも少なくありません。
近時、冤罪とされる事件が続発しております。代表的な事件として富山の氷見事件、鹿児島の志布志事件、佐賀の北方事件等が挙げられます。特に前二者については、異例なことではありますが、最高検察庁も「いわゆる氷見事件及び志布志事件における捜査・公判活動の問題点等について」と題する検証
報告書を明らかにしています。最高検察庁は、この
報告書の中で、志布志事件の判決が、自白成立の過程で追及的、威迫的な取調べがあったことをうかがわせると
指摘したことを受け、検察官としては、自らが適正な取調べに努めることはもとより、警察における取調べの
状況をも的確に把握し、後の公判において取調べの適正に疑問を抱かれることのないよう努めなければならないとしています。こうした冤罪を防止する観点から、適正な取調べの担保を確保する
意味でも可視化は大きな
意味を持ちます。
また、
平成二十一年に導入される裁判員制度についても、取調べの適正化は極めて重要であります。そうであるからこそ、
一般国民である裁判員の前に事実に反する自白調書が提出されないよう細心の注意を払う必要があります。
取調べにおける捜査の必要性との調整も必要ではありますが、取調べにおける可視化は、無実の者を誤って処罰することほど重大な不正義はないとの刑事訴訟の要請に合致し、時代の要請でもあり、強大な権力である検察・警察権の行使を適正化する必要な制度改革であります。
この
法律案は、このような
状況にかんがみ、被疑者の取調べ等について録音、録画を義務付ける制度を導入するとともに、被告人と検察官との間の実質的な平等を確保し、実体的真実を追求するためには証拠の隠ぺいを許すべきではないとの
趣旨から、公判前整理手続において検察官の手持ち証拠の開示に向けたすべての証拠の標目の一覧表の開示を求めるものです。
以下、
法律案の
内容につきまして、その概要を御
説明申し上げます。
第一は、被疑者の供述及び取調べの
状況等の録音、録画を行うことであります。被疑者の取調べ等に際しては、被疑者の供述及び取調べの
状況のすべてを映像及び音声を同時に記録することができる記録媒体に記録しなければならないものとすることとしております。また、取調べ
状況等の録音、録画の義務
規定に違反してなされた取調べにおいて作成された自白調書等は、証拠とすることができないものとすることとしております。
第二は、公判前整理手続において、検察官の手持ち証拠の開示に向けたすべての証拠の標目の一覧表の開示を行うことであります。既に公判前整理手続においては証拠開示の方法が定められておりますが、被告人側は、そもそも検察官がどのような証拠を有しているか分かっておりません。実体的真実を解明するためには、有利不利を問わず明らかにされるべきものであり、その前提として証拠の標目の一覧表の作成並びにその開示をすることとしております。
以上がこの
法律案の
趣旨及び
内容であります。
何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。