○
参考人(
飯尾潤君) 御紹介いただきました
飯尾でございます。
政策研究大学院大学で
政治学を研究しておりますので、その
観点から、
統治機構全般にわたる
観点から今回の
法案について
意見を述べさせていただきたいと思います。
初めに、承知しておりますところでは、この
法案、
国家公務員制度改革基本法案、
政府提出法案でございますけれ
ども、
衆議院で
与野党数多くの
政党の
賛成をもって本院に送られたと承知しております。私の
考え方では、このような
公務員制度のような基本的な
法律については
与野党のできるだけ広い
合意があることは望ましいと思っておりまして、今回の運び方は大変喜ばしいことだというふうに考えております。
ただ、
公務員制度は非常に幅の広い問題でございまして、私
どもから少し拝見いたしまして
法案ではまだ網羅していない問題もあるような気がいたします。あるいは、今後、
制度を具体的に設計する際に、この
法案をどのような
精神で考えていくべきかということはまだまだ
議論される必要があるように感じておりますので、その点について申し述べさせていただきたいと存じます。
まず第一点でございますけれ
ども、
公務員制度改革というのは非常に幅の広いものだというのはもう御案内のとおりでございますけれ
ども、重要なことは、
法律の
条文を変えただけではなかなか
実態は変わらないのではないかということを
危惧するという点でございます。
例えば、今回の
法案では
能力主義ということが強調されていると承知しておりますけれ
ども、あるいは
キャリア制度ということが批判されているということを受けての
改革であるというふうに承知しておりますが、
現行の
国家公務員法制内ではそれなりに
能力主義も掲げており、あるいは
キャリア制度ということは全く
現行の
法制度にはないわけでございます。
法制度にはないにもかかわらず
現実はそのようになっているということでございますので、今回も
法制度は変わったけれ
ども現実の
実態は変わらないということでは良くないわけでございまして、その点については一段の
工夫が要るのではないかというふうに考えております。
その点では、しばしば
法案はこの
条文をどうしようという
議論に終始することも多いわけでございますけれ
ども、やはりこの
法案の
精神について、ここにおられる
国会議員の
皆様方、あるいは
対象となる
公務員の
皆さん、あるいは
国民各層の
共通了解をつくる必要があるんではないかというふうに考えております。そういう点では、当事者間の
合意といいますか、今後は
制度を運用する
公務員の
皆さんにこれはどういう
制度なんだということを周知徹底する必要があるのではないかというふうに考えます。
しばしばよく見られるところは、
条文はこうなっているけど、このように
解釈すれば従来のままでも大丈夫だとか、そういうふうな行動が見られますので、そうならないように十分な
工夫が必要なのではないかというふうに考えております。その点では、今後も、実はこの
法案が成立した後も様々な
改革は続くわけでありますけれ
ども、
公務員制度いかなるものであるべきか、あるいは
公務員はどのような働き方をすべきかということについて
国会議員の
皆様方の
議論が続けられるということが必要ではないかと思います。
その際に、これまで
報道等で承知しているところでは、どちらかといえば
公務員制度については霞が関の
幹部の
公務員についての
議論が
中心であったと思いますが、
公務員というのは非常に多様でございまして、現場で様々な
仕事をしている
人たちもいます。そういう
人たちに対してどのような働き方をしてもらうのかということも十分な
議論をしていただきたいと思うわけであります。
その点で、しばしば、これは必ずしも
国会における
審議がそうであるというふうに認識しているわけではありませんが、
報道機関等の
報道によりますと、
改革をめぐって駆け引きが行われて綱引きになっている、押したり引いたりだということでありますが、この
法案が成立した暁には、そういうことではなくて、総合的にどういう働き方をするのかという具体的な
イメージをつくっていくような
努力が必要ではないかということが大
前提としてまず申し上げたい点でございます。
それを
前提にいたしまして、第二の点でございますけれ
ども、この
法案非常に重要であるというふうに私は思っておりますのは、これまでの
国家公務員法制その他では、
政治家の方、
国会議員あるいは
大臣を始めとする
政治家の方と
一般の
公務員との
関係について必ずしも十分な目配りがない
側面があったのではないか。ところが、今回の
法案ではそういう点について新たな視点を導入しているところが大きいというふうに考えます。
例えば、
内閣一元
管理ということがしばしば言われておりますし、今回の
法案の
一つの、
内閣人事局の設置などは目玉の
一つであろうというふうに考えております。ただ、これはどういうことであろうかと考えますと、これまでの
法律では
大臣が
任命権者として任命している、ですから
政治家が任命するんだということ、それを
内閣に移すんだということでは実は恐らくないということであります。これまでの
法律では
大臣は任命するということになっておったけれ
ども、
分担管理という中で各
省庁の
官僚の
皆さんがそれぞれ原案をお作りになって、そのまま承認されることが大多数であった。これ自体、それぞれお互いの職務を知る者が推薦し合うということはそんな悪いことではありませんが、
余りに行き過ぎて、どうも
主導性がなくなっているのではないか、その中で
内閣ばらばらになっているのではないかという批判にこたえてこのような
法案を作られたというふうに承知しております。
しかしながら、
内閣で
管理をしたといっても、
内閣総理大臣、
官房長官が
リーダーシップを振るわれるわけですけれ
ども、それを補佐する
職員、これは
内閣人事局に所属するんだと思いますけれ
ども、そういう
職員がいかなる人であるべきかというのは非常に難しい問題であります。これは単に
忠誠度の高い人を集めてくればすぐにできるというわけではなくて、長期的に
制度が安定的に運営されるためには、やはり長年にわたってどのような人を登用していくのかということを
与野党を通じて
合意をつくっていかないといけない、そういう問題であります。そういう点については、
与野党を通じてその
イメージを共有して、きちんと、例えば政権が交代しても
内閣が交代しても
一定の方針でこれを運用していくという、そういうことが
是非とも必要であります。
そういう
観点からしますと、実は今回のこのような
改革の非常に重要な
ポイントは、
政治家の
皆さんと
公務員の
世界との
関係を少し変えようという、そういうことになっていたのではないかというふうに思います。どちらかというと、
日本の
公務員は非常に、諸外国に比しても、例えば
政治家の間の
根回し等についても非常に積極的であるということが知られておりまして、ただ、それがやや行き過ぎているのではないか、もう少し
政治の
リーダーシップを確立すべきだという
改革だと
理解しておりますが、そうしますと、今回の
法案にありますように、
公務員の
世界について
改革をするというだけではなくて、やはり、大変恐縮ではございますけれ
ども、
政治家の
皆さんの物の決め方についても
改革しないとこれは
セットになっていかないということになっているのではないか。これまでどちらかというとやはり
官僚の
皆さんが丁寧に
根回しされることを
前提に
政治家の方は行動されていたけれ
ども、これからはそうではないということであります。
例えば、これは
衆議院で
修正された
ポイントの
一つでありますけれ
ども、政官の
接触の
管理ということもございます。実は、そういう点から考えますと、
日本の
官僚の
皆さんが非常に
議員の方と
接触が多いというのは私
ども政治学者としてほかの国と比べてもよく知っていることでありまして、どうもちょっとこれは行き過ぎているんではないかという感覚を持っておりましたので、
接触に
一定の
制限を付けるということは私も
賛成でございます。しかしながら、
政府提出法案にあるように一律に禁止してしまって大丈夫かということについては
危惧の念を持っておりましたので、その点では
修正案において、
記録にとどめて、
接触についての
一定の
制限を設けるとされたのは非常に妥当だろうと思います。
しかしながら、この
修正の
趣旨が、
接触は実はいいんだ、
記録さえすればどんな
接触しても大丈夫だというふうに
解釈されるのはよろしくないんだろうというふうに考えておりまして、これに併せて、
余り根回しの必要がなく
政治家の
皆さんが自律的に
意思決定ができるようになれば
官僚の
皆さんと
余り接触しなくても大丈夫だということになるということが必要でありまして、そうなれば更に次の
接触禁止の方に進んでいくということもあり得るんだろうというふうに思いまして、この現在出ております
法案の
解釈についてそういうことを考えたいと思います。
そういう点から考えますと、これまでややもすれば、
与野党の間、あるいは
与党の中、あるいは野党の中であっても、何かあるとすぐに
公務員の方に
説明を求められる、そして
公務員の方の
説明を通じて
合意をつくられるという慣行があったというふうに承知しておりますけれ
ども、これからはやや、
政府と
与党との
調整を始めとして
政治家の
皆様が自ら
調整をしていく、あるいは
政党内部についても自ら
議論をして
意思統一を図られるということの
重要性が非常に高まっているんではないかというふうに考えるわけであります。
そういう点から考えますと、この
接触の問題は実は二つの異なった
側面があるというふうに考えます。
これちょっと
順序が逆になって恐縮ですけど、
目的の点から考えますと、
一つは、
接触制限といいますか
接触について
監視をすることの
目的の
一つは、
大臣が
公務員を監督するという
側面であります。つまり、
大臣が
公務員を監督するというのは、
大臣の
意思にかかわらず、しばしば
議論をされますように各
省庁の
官僚が違う
根回しを
政治家の間にするというのはよろしくないことだということでありますが、逆にそういう点は、これは
公務員が
政治的決定に関与するのは好ましくない、
政治的中立であるべき
職員がそういうことをするのは好ましくないという
趣旨だと思いますが、そういう点から考えると、相手方の
政治家も
行政に不透明な介入をするということがやはり具合が悪いということと
セットであろうというふうにも考えますので、その点についての
理解も必要だろうということで、
官僚側だけではなくて
政治家の側の態度も問われているということを申し上げるわけであります。
そういう点から考えますと、実はこの裏側になっている問題は、
国家公務員の
政治的中立をどのように考えるのかということでございます。
政策立案に
関係しますと、
大臣の下に、
大臣は
政党政治家であることがほとんどでありますし、
内閣は
政党内閣制でありますから、
議院内閣制の下では
政党内閣制となりますので、
一定の
方向性が出ているのは明確であり、
企画に関与する
職員というのは
政治的に
中立だといっても、それは限度があるのは明確であります。
しかしながら、じゃ、
官僚の方がほかの独自の
政治的な
意思を持ってよいかというとそうではないということになってくると、その
仕分の問題を考えていくということになってくると、
官僚の
皆さんも
政治的中立であって、そして技術的、専門的な見地においては
政党からの
意見であっても自らの
意見をきちんと述べるというふうな意味での
政治的中立の
保障の措置も、またこれと、
接触禁止とともに
セットとしてならなければいけないのではないか。従来、
法律では抽象的にそのようなことが述べられておりますけど、どのように具体化するかというのは今後の課題だろうというふうに考えているわけであります。
次の
論点に移りますが、次の
論点は、実は第三の
論点は、それをもう少し具体化したときにどういうふうになるだろうかということでございます。
これまで、どちらかというと
官僚の
皆様が、あるいは
公務員の
方々が
政治家の
皆様に対していろいろな不当な
影響力を行使しているんではないかという
議論が多かったかと思います。じゃ、逆に言うと、そのような
影響力を行使しなくなったら
公務員の
皆さんはどんな
仕事をするのかという具体的な
イメージをこれからつくっていかないといけないんではないか。つまり、
政治家の方と
公務員の方との
仕分、先ほど少し申しましたが、そういうことを考えていくということになってきます。
そういうことになってきますと、やはり今回の
法律が
前提としておりますのは、これまで
日本の
行政は、どちらかというと
行政が自律的に、例えば
省庁間調整も
官僚の方が
中心、
公務員の方が
中心になって
調整するというのがごく普通、それがまとまってから
政治家の方は物を決められるということが普通であったというふうに思いますが、そういうことも
内閣レベル、
政治家レベルで
省庁間調整も積極的にやっていかないといけないんではないかというふうに考えるわけであります。
あるいは、そういう点から考えますと、
大臣の
役割が増大しますし、あるいはそれを補佐する、
政治家側で補佐する副
大臣、
政務官の
役割の向上というのが
是非とも必要でありまして、ややもすればこれまで、もちろん御
努力はしておられるわけですが、副
大臣、
政務官の
仕事はやや儀礼的なものになる傾向があったんではないかというふうに
危惧をしておりますので、その点の充実ということを具体的な
場面で考えていく必要があるというふうに考えます。
あるいは、その点から考えますと、これも申し上げにくいことですけれ
ども、
国会対応についても何らかの
合理化が必要な
場面に来ているんではないだろうかというふうに考えまして、やはり
政治家が
責任を取って行うべきことと、
公務員の方が
準備をするということの
仕分、やはり
政治家の方は、
大臣はやはり
政治家としての
責任で
答弁な
どもされるし、そういうことでもある。あるいは、しかし調査その他で必要な資料は役所の側で
準備されるというのも当然でありますけれ
ども、それもアドホックではなくて、例えば
公文書管理法その他の整備も進められていると聞きますけれ
ども、あるいは
情報公開制度その他を使って、やはり必要な
情報がいつでも
準備されるという、そういう
行政機構の
体制づくりも必要ではないかというふうに考えます。
そういうふうに考えますと、先ほど少しお話をしかけましたけれ
ども、
大臣の下で
企画業務に携わる
職員と、それから専ら
政策の執行、運用に携わる
職員ではやややはり
対応に差があってしかるべきではなかろうかというふうに考えまして、現在のところは
公務員として一くくりになっておりますけれ
ども、その点についてのやはり
考え方が必要で、
大臣や副
大臣を専ら補佐するようなそういう
役割のものと、あるいは
公正中立に
行政事務を執行するという
役割については、
行政組織の面でも何らかの手当てが必要なんではないかというふうに考えるわけであります。
それがより深刻だというふうに私が考えますのは、今回の
法案の中に
外部からの登用を容易にするような、そういう発想もございます。しばしば
議論されますように、
政治的任用が
日本には少ないということは私も
賛成でございまして、
外部から
政治家と
政治的意思を共にする方を登用されるというのは非常に重要なことだというふうに考えておりますけれ
ども、そういう
職員と
一般の
職員との
関係はどういうものであるかということについても
議論が深められる必要があるだろうというふうに考えているわけでございます。
その次の
論点に参りますけれ
ども、そういうふうに考えますと、実はこの
法案の最も重要な
ポイントは、やはり
公務員の
身分保障と
能力主義その他の
関係をどのように考えるのかということではないかというふうに考えます。そう考えますと、実はこの
法案を拝見いたしますと、
幹部職あるいは
管理職という言葉において、やはり
一定の
職員についてはこれまでとは違った形の処遇をしないといけないという
考え方になっているだろうと思います。
時間もありませんので簡単に申し上げますと、やはり新しい
幹部職というのは、これまでの御
議論な
ども記録を拝見いたしますと、幅を持たせて
身分保障しよう、つまり、例えば事務次官であるとか
局長であるとかいうことになると、いったん任命されるともう全く降格はないというのではなくて、ある幅の中で処遇されるんだという
議論がされていると思いますけれ
ども、そういう点から考えると、やはり昇任であるとか降任であるとかいうものの
解釈をどのようにするのか。
現行法制でいうと、
給与法の
格付というもので非常に細かな
格付がなされておりますけれ
ども、そのようなことがよろしいのかというと、やはりそうではないのではないかと考えます。そういう点でいうと、やはり
身分保障というのは幅のある
身分保障であって、その中で上下のポストに任ぜられるという
制度を積極的に設計する必要があり、その点では、やはりこれまで
国家公務員法制の中では
公務員の
格付は
余りなく、
給与法に頼っているという現状を変えていくという必要があるんではないかと思います。
これは、これまでの
法案の
審議を拝見いたしますと
幹部職については随分そういう
議論がされているように思いますけれ
ども、やはり
課長職その他を
対象とすると認識しております
管理職についてもやはりそういうふうな
理解をする必要があるんではないだろうか。あるいは、
キャリア制度の見直しということを考えると、
管理職になるときに再
選抜制度があって、その上での
身分保障だというふうな
制度設計も今後必要であろう。
あるいは、そういうふうに
能力主義の
人事を行っていくということになりますと、
人事評価機能を強めなければいけないということで、意識的に育成しなければいけない。やはり
日本の
民間企業と比べても、
日本の官庁は、そういう
人事評価機能についてはやや手間を省いて、それでも大丈夫な
人事制度を持っていたと認識しておりますので、意識的に育成する。あるいは、それに対して
能力主義の
人事を行えば不満も出てくる、こうなってくると
公平機能が出てくる。あるいは、
政治家が判断するとなると
政治的中立を侵すということも出てきますので、
政治的中立を守るための組織的な手配、現状でいくと
人事院がそれに当たる
役割でございますが、これまでそういう機能については
余り議論をされていないように思いますので、これからは積極的にそういう機能についても配慮すべきだろうというふうに思います。
それから、最後、五点目でございますが、今回の
法案では必ずしも明確でないところがあるというふうにも認識しておりますけれ
ども、いわゆる退職
管理の問題については今後
議論を深められて、法的な措置をとられるべきであろうと思われます。
報道等でも、あるいは
国民各層でも大変関心の高い問題でありますので、これは
政党によって様々な立場の違いがあるということも私は承知しておりますけれ
ども、それはやはりどちらかの
議論の決着の付け方が必要であろうと考えます。早急に
与野党で
合意をつくるのか、あるいはそうでなければ、有権者に総選挙においてどのような方針で臨むかということを選択してもらう。どちらかを選ぶということについて、早急に方針の整理が必要だろうと考えます。
そういう点から考えますと、やはりこの退職
管理の問題は現状で動いている問題、天下り等、言われるような問題もありますけれ
ども、それを全体としてシステムとして移行させるためにはやはり総合的な
制度設計が必要で、いかなる方策を取るにつけても、やはり
公務員の生涯的な
身分保障ということと
セットで何らかの
議論がなされるべきだというふうに考えております。
時間でございますので、以上、最初の
意見の表明を終わらせていただきます。ありがとうございました。