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参考人(
小林米幸君) 今日お呼びいただきました小
林国際クリニック、AMDA国際
医療情報センター理事長の
小林でございます。
座ったままで失礼させていただきます。
私は昭和四十九年に医学部を卒業しまして、大学病院及び大学の関連病院で外科医として臨床を行っておりましたが、昭和六十年より、当時勤務しておりました大和市立病院の近くにありましたアジア福祉
教育財団難民事業本部傘下のインドシナ難民大和定住
促進センターでカンボジア人、ラオス人の
医療を見ることになりました。
そのとき気が付いたことは、
日本語ができない方が
医療を受けるのがこんなに大変だろうかということに気が付きまして、当時、病院では通訳を雇ったりいろんなことがありましたが、そういうことを考えますと、私自身、外科医をやるよりもむしろ自分のクリニックをつくってその中に通訳を置いて、
外国人の方はただ来ていただければいいと、そうやって
日本人と
外国人を共に診る
医療機関をつくろうと思いまして、平成二年の一月に開業いたしました。これが私のクリニックです。
現在の私のクリニックでは、
日本語のほかに英語、ベトナム語、韓国語、
スペイン語、タイ語、タガログ語で対応をしております。患者さんの大体八〇%から八五%が
日本人、一五%から一〇%ぐらいが
外国人と思います。医師は二名、看護師が三名。私ども医師二人で幾つかの言葉を話しますが、そのほかにタガログ語の通訳、それからベトナム語の通訳を
雇用しております。
これが、開業以来私のクリニックに先月の末までにやってきた患者さんですが、国別に見ますと、これは
日本人はもちろん除外してありますが、タイ人が最も多く、以下ずっと続いています。このスライド一枚見ていただきますと、およそ
外国人の方を診療する上での難しさというのが全部このスライド一枚で分かります。
まず
一つは、
国籍を見ていただけば分かりますけれども、非常に多
国籍であるということ、要するに
日本の第一外国語である英語だけではもうとても足りないということですね。
それから二番目に、次の公的保険加入、未加入とありますが、これは次の新規の患者さん総数、例えばタイ人を見ますと、千三百十三人の患者さんが来ています。これは一人が何度も来ることもありまして、それは延べの患者さんの方に四千七百五人と書いてありますけれども、これで見ますと、タイ人の中で保険に入っている方はわずか九十六人、たった七・三%ぐらいですね。国によっては非常に公的保険に入っている人が少ない。
ただ、その下の方のUSAと書いてあるアメリカ人の方を見ますと、百九十七人のうち八十人が入っていません。彼らの場合は、入っていないといっても、
日本に
在留資格がないとかあるいは入れない資格で
日本にいるのではなくて、彼らは自分の国で民間保険に入っているので、わざわざ
日本にやってきて
日本の公的保険に入らない。本当は入らなければいけないんですけれども、
義務のある方は。ただし、この
義務というのが罰則がない
義務なもんですから、結局入らないでいてしまうということですね。
ただ、保険に入っている方が多い例えばベトナム人、カンボジア人はおよそ九三%ぐらいが入っていますが、彼らにしても生活の元々の基盤が
日本になかったわけでして、保険に入っているといってもどうしても財政的な問題が出てしまうということで、
外国人の患者さんを診ることは
医療費の問題が必ず出る。
その次に、もう一度
国籍に戻っていただきますと、これだけの国があるということは、たくさんの文化を抱える人を診るということになります。
医療というのはやはり文化に裏打ちされたものですので、お互いの文化が分かりませんとお互いに理解できません。ですから、それだけたくさんの文化のことをある
程度知っていなければ、患者さんとお互いに意思の疎通ができないということですね。
それから
最後に、インフォームド・コンセントと人権という問題があります。
特に、今まで
日本で行われていた
医療と欧米の
医療は、全く人権やインフォームド・コンセントに対する考え方が違います。ということで、現場の医師や看護師と
外国人の患者さんとの間にトラブルが起こり得るということです。
先ほど地域
医療のお話をさせていただきましたけれども、私のところにやってくる患者さんを見ますと、同じ大和市内の患者さんが非常に多い。大体、車で三、四十分
程度の方がほとんどでして、要は、遠くからやってくるわけじゃなくて、地域にこれだけの患者さんがいるということですから、やはり私は、
外国人医療は地域の中の地域
医療の一環としてとらえるべきだというふうに思っております。
突然こういう写真が出てきてしまいましたけれども、私が開業した次の日に、NHKの夜のニュースで私のクリニックの開業のニュースが流れましたところ、次の日から
外国人の方から物すごく電話がたくさん来まして、とても診療できるような
状態ではなくなってしまいました。多くの方は、私に診てくださいというよりも、自分の窮状とか置かれた
状態とかいろんなことを訴える方なんです。
それだけ相談があるならば、いっそ
外国人の
医療相談、医事相談を受ける専門組織をつくってしまおうと思って、当時私が所属しておりましたAMDAという団体のメンバー六人で、一人百万ずつ寄附してつくり上げたのがこの組織です。現在、東京と大阪にオフィスがあります。これは東京のオフィスの写真ですけれども、こうやって日中、
外国人の方からたくさん電話が掛かってきます。現在、月曜から金曜まで、英語、
スペイン語、北京語、韓国語、タイ語で九時から五時まで対応しております。そのほかに、東京都の外郭団体から委託事業をいただきまして、東京都に住んでいる
外国人の方に関して三百六十五日、同じ言語で対応をしております。
これは関西にあるセンターですけれども、関西の方がちょっと規模は少ないですけど、このような規模で行っております。
これは、ある日の私どものセンターに寄せられる件数のまとめです。今日何でこんな
データ出したかといいますと、私が自分のクリニックで受ける印象あるいは経験したことというのは、もしかしたら私のクリニックの特異的なことかもしれません。ただし、全国から相談が来るこういう私どものセンターの相談を三百六十五日見ていますと、私のクリニックで起こっていることが決して私のクリニックの特異的なことでなくて、全国の病院で同じようなことが起こっているということが分かるというわけです。
この中には、幾つも患者さんが来るので言葉の通訳をしてくださいというような相談が結構あります。当初は
外国人の方自身からの電話を受けていたんですけれども、実際に病院に行ってしまうと、そこでそれを受け付けた、患者さんも困る、それから
医療をする方の医師も困る、看護師も困る、受付の事務の方も困るということで、現在は
医療機関あるいは医師等
医療従事者からの相談もすべて受けております。大体、年間にセンター東京で三千六百から四千件、関西では約八百から千件、トータルしますと年間四千件以上の相談を受けております。
どういう相談が多いかといいますと、言葉が通じる
医療機関を紹介してくださいというのが最も多くて、その他が二番目に来てしまいましたが、例えばタイ語とか中国語で毎日相談している機関というのはありません、多分
スペイン語もないと思いますので、例えば銀行とか幼稚園から、今来ているお母さんに通訳してくれとか、今目の前にいる銀行でお金何とかする人に通訳してくれとか、本来
医療じゃない相談もあるんです。ただ、これ何で受けているかといいますと、私どもが断ってしまうと、その
外国人の方も困る、窓口の方も困るということで、やむを得なくそのときに限って受けているということでございます。
現在、
外国人の
登録者数は、昨年末かな、一昨年末現在で
日本総
人口の一・六%を占めております。さらに、オーバーステイの方が約十七万、最近の
データで十五万近くになったという話ですが、
外国人登録をしている中にもオーバーステイの方は含まれます。ただし、実際に
外国人の方が、じゃ今日、今現在どれぐらいいるかといいますと、商用で来ているあるいは観光で来ているという人が含まれておりません、この
データには。ですから、この更に何倍かの人数の
外国人の方がこの
日本に今現在いると考えていいと思います。
さらに、これはちょっと前の
データになりますけれども、
外国人の入国者数、
日本人の出国者数ですが、こんなに多くの人数が
日本にやってき、
日本から出ていくわけですね。そうしますと、病気というのは国境ありませんので、いろんな病気の方が
日本に入ってくる、あるいは
日本から病気を持って出ていくということで、海外から感染症を持ち込むというようなことが十分に考えられまして、私どももそういうことを考えながら
医療を行わなければなりません。
さらに、先ほどもちょっと先生から出ましたが、看護師あるいは介護福祉士を
日本に、
外国人の人を入れようと、具体的には今フィリピンとインドネシアですか。そのように、
外国人の
労働者がどんどん入ってくることになりますと、どんどんどんどん今よりもこういう問題が起こるのではないかというふうに私どもは思っております。
ちょっとまとめてみますと、一、言葉の問題。二、
医療費の問題。三、宗教・風俗習慣と
医療習慣。先ほどちょっと忘れましたが、四番目に疾患の違い。これは決して人種差別をするわけじゃなくて、やっぱり民族とあるいはそこの置かれた環境、気候等から病気が違うということがありまして、やっぱり
外国人の患者さんを診るときにそういうことを考えませんと、
日本にある病気だけ考えていますと大きな病気を見逃すということがあり得ます。それから、インフォームド・コンセントと人権の違いというのがあります。
言葉の問題を見ていきますと、これは私のクリニックですけれども、右側に英語、右の下が中国語になっていますね。こうやって書きませんと、
外国人の方には、一体私のクリニックが何をしていて、診察時間が何かということが分かりません。残念なことに、都内の大きい大学病院でもこういう掲示が余りなされていない。ということは、
外国人の方は来てもらっては困ると初めから言っているようなものではないかなと私から思うと思えてしまうんですね。
こういうふうに看板もちゃんと書いてあります。もちろん、スペースがあればもっと幾つかの言葉で書きたいですけれども。こういうものがありませんと、一体ここがクリニックなのかどうか、あるいは何科なのかどうかということが分かりません。
私の院内のお知らせです。このインフルエンザのお知らせもタガログ語とかいろんな言葉で書いてあります。やはり
一つ一つこういうことをしていきませんと、
外国人の方から見ると不当に差別している
社会であるというふうに言われかねないというふうに私は思っています。
これは、昨年まで行われていた基本健診という健診ですけれども、ちょっとこれ名前消してありますが、上はたしかフィリピンの方です。下は中国の方です。この方々は
日本語ができるからこういうことを書けるんです。しかし、
日本語ができない、読めない方は、実際に住んでいてこういう健康診断が受けられる権利を持っていたとしても、それを行使できないということがあります。
これは私のクリニックの様子ですけれども、予防接種に来た方、とても
日本語の予防接種の問診票が分かりません。ところが、実際には問診票を書きませんと予防接種してはいけないことになっていますので、フィリピン人の通訳が一生懸命こうやって自分の国の言葉に訳して、マル・バツを付けて、私どもが予防接種をするというシステムになっております。
私どもは常にマイノリティーの存在に気をめぐらせなければいけないと思います。
日本人であり、なおかつ健康である私
たちは、
日本の
社会ではマジョリティーです。しかし、
日本語が分からない、あるいは
日本人ではなくても体力が私よりもない
子供たち、それから私どものように歩いたり活発に活動ができない高齢の方、そういう方がいるんだ、一緒に住んでいるんだということを常に考えながらプロジェクトを立てませんと、そういう方々を切り捨てたプロジェクトになってしまいます。
私どもが地域において基本的人権にのっとって生活していくためには、行政からの様々な情報が不可欠です。ところが、その情報をどうやって
外国人の方に周知するかということが問題です。
日本語以外のパンフレットを作成をするというのがありますが、英語で書けば国際化という時代はとっくに終わっています。もちろん、英語が重要じゃないと言うつもりはありませんけれども、英語だけではとても足りないという
状態になっているということであります。
外国人に向けてのそういう広報を困難にしているものが幾つかあります。例えば、予防接種のお知らせ、母子手帳、これは市町村によって全部違います。もし、これが全国統一版があれば、全国統一版を
一つ翻訳するだけですべてが終わります。ところが、神奈川でも大和市と横浜では違う。それこそ、全国にある市町村だけ母子手帳の種類があり、予防接種の問診票の種類があるわけです。こんなものを
一つ一つ翻訳していく作業を考えたら、とてもじゃないができません。ですから、私が常に思うのは、どうしてこういうものに全国の統一規模のものが
一つできないんだろうというふうに思うことです。
それから、
子供の予防接種については、今無料の
子供の予防接種というのが行われていますけれども、市町村自治体によって具体的な施行方法が違います。ゆえに、現況では、市町村の県境、町境がその境になっているわけですね。例えば、横浜市に住んでいるベトナム人の方が、ベトナム語の通訳が私のところにいるから私のところで予防接種をしましょうということはできません、無料では。こういうことの無駄を何とか省いて、こういう県境、町境というものをなくせないだろうかということも、私自身、いつも悩んでいることです。
通訳がいてくだされば一番いいんですけれども、
医療通訳をめぐる幾つかの
問題点がありまして、
一つは、通訳の完成度が各々違います。もう
一つは、
医療用語ってとても難しくて、これを習得するチャンスがなかなか多くはない。それから、
医療通訳の派遣に掛かる費用を一体だれが負担するんだろう。それからその責任。それから、どこまでが
医療通訳の守備範囲なのか。これが常に問題になります。
先ほども言いましたように、通訳のおぜん立て、通訳のための費用負担を一体だれが行うのか、これがいつも大変な問題です。私どものセンターにはいつも、通訳を派遣してくれという病院からの問い合わせがあります。ところが、一体、じゃこの通訳の費用をだれが払うんですかということになりますと、結局、じゃ結構ですという話になってしまいます。
医療機関は負担したくありません。通訳自身が負担するのは何かおかしい。しかし、患者さんには金銭的余裕がないという、すべてが駄目というのが今の
状態だと思います。
特に
受入れ医療機関が抱える問題といいますのは、診療報酬切下げによって経営が悪化しています。医師の数が少なくなっていまして、経営が悪化している。看護師の確保ができずに経営が悪化している。さらに、患者さんが来たからといって、
外国人の患者さんのために自分
たちが費用を出すのが一体適切なんだろうかということを、私どもは常に
医療機関の経営者の方から言われます。このとおりですね。
医療機関が
外国人を受け入れるためには、行政、NPO、個人などからの協力が必要と考えているようです。
通訳派遣の
問題点は、先ほど何度も言いましたが、だれが負担するのか。それから、事業が広く知られてきたら、いろんな
医療機関から同時に、通訳派遣してくれと言われたら一体どうやって調整するんだろう。それから、患者さんや
医療機関側が指定した、この先生の診察日は何曜日の何時と。じゃ、その時間にぴったり派遣できるだろうか。それから、患者さんの都合で突然、今日行きたかったけどあしたに変えますと言われたら対応できるだろうかというふうに思います。
そうしますと、むしろ私は、今私どものセンターが行っているように電話通訳をして、センターが流すと全国どこからでもアクセスできるということが便利じゃないかと思うんですね。ただし、電話代が掛かってしまう。それから、顔や表情が見えないと相手の緊張感が分からないということが
一つの問題ではあります。
残る手段は何かというと、インターネットを使ったハイビジョンの、お互いの顔を見ながら行う通訳方法ですね。これは、通訳が全国一か所にいても、現在、全国どこからでもインターネットのハイスピードネットはもう無料、使い放題が多いですので、金額的にはさほど大きくはない。
日本全国からアクセスが可能です。ただし、
医療機関にとってはその設備投資が結構大きなものになるんじゃないかと思っています。
これは私のクリニックで、私どものセンターとつないで試験的に行ったものです。私が診察をしています、タイ人の患者さんの。私どものセンターにタイ語の通訳がいて、こうやって、今日はどうして来たの、何があったのということを説明しているわけです。
お金の問題ですけれども、
外国人にも利用できる
日本の
医療福祉制度。現在、
日本の
医療福祉制度で、
外国人ですという理由で適用されないという制度はありません。ただし、
外国人全員がすべての
医療制度、福祉制度を利用できるというわけではありません。ポイントは、
在留資格を持っているのか、あるいはどういう
在留資格かということと、
外国人登録を行っているかですね。
外国人登録があってもなくても受けることができたというのは、去年までの結核予防法、現在は感染予防法、ちょっと名前変わっています。それから、
健康保険も、雇っているところがオーケーと言えば、現実に今でも不法滞在している人でも入れる
状況にあります。実際に入っている人もいます。それから、
外国人登録は必須条件ですよというのが幾つかありまして、
外国人登録をするということは、
日本人でいえば住民票がある、要は地方自治体の構成員になるということですので、地方自治体が行うもの、例えば
子供の予防接種、それから昨年までの基本健診、がん検診、こういうものは受けることができます。
どうして
医療費の未納が発生するのかといいますと、当然ですけれども、請求額が患者さんの申請した所持金を上回ることから発生します。決して
医療費が高いというだけではありません。例えば、
医療費が千円で終わっても、今日は五百円しかありませんと言えば当然未納は発生します。
医療費の未納を発生させないために我々が、
医療者側が努力することというのは、
外国人の方に適用できる
日本の
医療福祉制度を学び、利用すること。それから、インフォームド・コンセントに基づいた
医療、何でもかんでもすべて検査をするというのではなくて、例えば患者さんが来て、今この人に一番大事なことは何なのか、この人が持っているお金の範囲で今ベストのことはどうやってやるのかということを常に考えながら行うことです。
先ほども言いましたように、どんなに安く
医療費を収めても未納が発生することはあります。どうして発生するかといいますと、出稼ぎの
外国人が多いという現状ですね。出稼ぎということは、すなわち稼いだお金をほとんどすべて自分の国に送ってしまうわけです。三十万稼いでも二十五万送ってしまえば五万で暮らさなければなりません。そういうことが問題なんです。国民
健康保険に加入する資格があるのに、毎月の掛金がもったいないから入らない、結局病気になってしまう、病院に行く、だからお金がないという悪循環になります。その対策としては、こういう啓蒙活動を行って、国民
健康保険に入ることは大事ですよということを促すしかありません。
それから、よくあるのは、
日本に嫁いだ
家族を訪ねて短期来日した患者さんの
人たちが脳卒中になったりということがあります、心臓病になったり。こういう対策も、
日本にやってくるときに海外旅行保険に入るようというふうに説得するしかありません。
この方はアメリカ人の方ですけれども、民間の保険に入っていらっしゃった方ですね。
日本の保険は入っていません。こういう方が、病院の窓口でこういう保険証を出して、これ使えますかと言うと、
日本の
医療機関のほとんどは使えないと言ってしまいます。なぜかというと、私
たちにとって一番なじみのある保険というのはあの保険証なんですね。国民
健康保険と
健康保険、いわゆる
社会保険の保険証なんです。ところが、欧米の方はこういう民間の保険に入っていらっしゃる。この保険は、患者さんが窓口で全額現金で払って、私どもが右に書いてあるような書類書きますと、後で患者さんの銀行口座にお金が振り込まれると、ある意味、
医療機関にとっては絶対お金の取りはぐれのない保険なんです。ところが、知らないためにこれを断ってしまうということが非常に多いです。
それから三番目、宗教、風俗と
医療習慣。
これは結構大きいことでして、目には見えないといいますか、例えば頭にむやみに触られたくない、診察に際して起こることですね。タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーなど、いわゆる小乗仏教の国々では頭には仏様が宿っていると思われていますので、簡単に触られますと、これは怒るということになります。それから、宗教上、
女性が男性医師の診察を受けることができない。イスラム教の
女性はそうですね。ですから、産婦人科なんかですと、一生懸命
女性の先生を探すようになります。それから、素肌に触られたり見られたりするのが恥ずかしいというのは、一般的に東南アジアの
女性はそうです。ですから、私は、インドの
女性なんかでも、聴診器を使う場合には、一番
最初、服の中に入れるようにしています。もし、
日本人にやるように、看護師さんが後ろに行って、はいと言って全部服を上げたりしますと、間違いなくセクハラと考えられます。そういうことで、診療中に患者さんと言い合いになったりけんかになったりするケースがとても多いんです。
それから、宗教による制限、食事ですね。宗教による制限、イスラム教は豚肉食べません。ヒンズー教は牛肉を食べません。インド、スリランカなどの宗教的菜食主義者はもちろん菜食です。こういうのが入院しますと、病院の食事しか出ませんので、これで必ず問題になります。それから、中国系の人々の間では冷たい食事は妊婦や胎児の体に悪いと考えられていまして、これが入院してサラダなんか出ますと、これだけでもやはり不愉快、けんかになることもあります。それから、健康に関する考え方の違いもあります。中南米やアジアでも、太っている
子供の方が健康という考え方がありまして、これは病気ですよということをはっきり言いませんと、親御さんはいつまでたっても、今日はお子さん大きいわねと言いますと、ああ、先生に褒められたといってもっと食べさせるようになります。
手術に際してですけれども、麻酔に関して、特にアメリカ人の方は、お医者さんがきちんと麻酔をしますと無痛で手術ができると思っていますので、少しでも痛みを感じますと、まず訴訟をするということになります。それから、入院中、まあ入浴はいいですけれども、入院中の期間ですね。これは、
日本の
医療機関は入院期間が長いと。欧米の方は、
日本人のお医者さんはお金が大好きで長いんでしょうというふうに言いますけれども、実は確かに長いです。ただ、欧米が短いというのも、実は保険会社との
契約で、例えば胃潰瘍ですと、これだけの期間で幾らで治しなさいと言われますと、
医療機関はなるべく早い時間にお金をもらって退院させようとしますので、実際そうじゃないんですけれども、そういうことは余り
日本人のお医者さん御存じないので、それで問題になります。
それから、薬の使用方法。私はアメリカ人で体が大きいので、あなた方の二倍使わなければ効きませんとかですね。ところが、
日本では国民
健康保険を使っていますと、毎日使うお薬には全部、このお薬は一日これまでと決まっていますので、こういうことで出せないということでまたけんかになります。
これはカンボジアの方ですけれども、こんなに入れ墨がありますが、決してやくざではありません。これは宗教上の問題でして、この方は内戦で弾に当たらないようにとお母様が彫り師を呼んで家でやったんですけれども、こういう方が病院に入院してベッドで隣にいますと、
日本人の方は、色の浅黒い何かやくざが隣にいるんじゃないかと、怖くて寝られないとなります。こういうことも、実はそうじゃないんですよということを私
たちが
日本人の患者さんの側に話をしないと、
外国人の方を差別するようなことが起こりかねません。
これはカンボジアによくある、コインでこするんですけれども、熱が出たり体が痛いですと、こうやってコインで体をこするんですね。こういうものが体にありますと、
子供の場合は特に幼児虐待と間違えることがあります。
これは、
日本には余りありませんけれども、腕の柔らかいところにこういう棒を入れて、中に避妊のお薬が入っているんですね。こういうものを埋め込んで避妊をしているわけですけれども、
日本にやってきて、そろそろ妊娠したいからこれを取ってくださいというのがあるんですけれども、
日本ではこれが認可されていないものですから、こういうのは取れませんといって、私のところへ
静岡県や山梨県から、神奈川の私のところまで高速道路を使って車で走って取りに来る患者さんがいます。
病気の違いですが、
ブラジルにはシャーガス病というおなかが張ってしまう病気があります。タイやラオスではタイ肝吸虫、顎口虫という寄生虫疾患があります。発展途上国全体では結核が多いです。それから、エイズ、HIV感染症では、
日本における患者、感染者の約二〇%、
女性では約六〇%が
外国人です。ですから、そういう
外国人の方
たちを診る場合には、免疫抵抗力が落ちている場合は、私どもはすべて、いつもHIVの可能性も考えながら治療、診療しなければなりません。ただし、そういうことを考えることが、
国籍や民族による差別を引き起こさないように常に十分に注意をすることが大事です。
これはフィリピン人の方ですけれども、こうやってぱっと見れば結核と分かりますけれども、自分がオーバーステイでいるものですから、こういう
状態で病院に行かない。やっと、もうどうしようもなくてやってきたわけですね。一回やってくるとしばらく来なくなっちゃったんです。どうして来ないかといいますと、自分の国からこうやって結核のお薬を送ってもらって、自分で勝手に飲んでしまうんです。結局、この方はある
程度は良くなったんですが、また後で悪くなる。このように、
日本の統計に出ない、自分で勝手にお薬を持ってきて飲んでいるという結核の患者さんが結構いるんじゃないかと私はにらんでいます。
実際、私どもが結核とかエイズを見付けますと、保健所に届け出なければなりません。保健所はそれによって統計を作るわけですけれども、その統計から漏れ落ちる人が非常に多いということです。
これは、平成十九年十二月までの我が国におけるエイズ患者、感染者情報ですが、御覧のように、感染者では全体の二三・四%が
外国人、特に
女性を見ますと、六七・一%が
外国人です。同じくエイズ患者は全体の二一・六%が
外国人です。しかし、
女性だけを見ますと、五六・四%が
外国人ということになります。
ですから、
日本においてHIVを撲滅するためのいろんな活動が行われていますけれども、こういう活動をするに当たっては必ず
外国人に対する対応が必要です、宣伝とかですね。ところが、私どもが見ていますと、
日本人に対する啓蒙活動は行われていますけれども、
外国人に対する啓蒙活動というのは何か余り行われていないという印象があります。
インフォームド・コンセントと人権。人権に関しては、何をもって人権がある、人権がないと言っているのかよく分かりません、慣れるまでは。インフォームド・コンセントについても非常に厳しい考え方なので、インフォームド・コンセントが徹底できるように説明すべきですけれども、国においては、
医療、健康に関する基礎
教育、基礎知識がとても足りない人がいまして、こういう方に納得していただくのは難しいです。例えば、体温計、水銀体温計が読めないという人もいます。それから、国によっては非識字者、要するに字が読めないという人がいまして、こういう方に自分の国の文字で書いたものを見せてあげても分かりません。
外国人医療の難しさですが、
先進国からやってきた方は
日本の
医療を信じようとしない傾向にあります。すべてとは言いません。それは自分の国の文化の方が上だと思っているからです。逆に、発展途上国から来た方は、
日本に行けば何でも治ると思っている方がいまして、これは私どもにとって悩みの種です。私も通訳を付けて広東人の方を一生懸命往診していましたが、あるとき非常に怒っていまして、何だと思ったら、私が行って一年たっても麻痺が治らないと言われたことがあります。そうじゃなくて、これはあなたの次の発作が起こらないために治療しているんですよということを納得していただくまでに時間が掛かりました。
国際化の
社会での
外国人の
医療の理想というのは、特別扱いするんじゃなくて、やはり同じ地域の中の住民として
日本人と
外国人をどうやって診ていくのかということになると思います。
最後ですが、これは私が自分の地域、大和市に住んでいるフィリピン人の方々を集めて私どもの医師会で行っていることですね。夜になったらどうやって、病気になっちゃったらどこに行ったらいいのか、救急センターはどこにあるのか、なかなか行政の方からはお知らせが行きません。ですから、このようにフィリピン人の方だけ集まっていただいて、こうやって、
日本の
医療制度はこうなっていますよ、大和市の
医療制度はこうですよ、予防接種はこうですよということをやっているわけです。
これは、次の月に
スペイン語を母国語とする方だけを集めてやはり同じようなことをやっています。それから、ベトナム人の方だけ集まっていただいて、このようにベトナム語の通訳をして行っているわけですね。
外国人患者を地域の
医療機関で診ていくためにはいろんなことが必要です。
医療機関が対応できない言語についてのバックアップ体制、諸外国の
医療習慣について常日ごろバックアップしてくれる体制、
外国人にも利用できる
医療福祉制度についてバックアップしてくれる体制。この辺までは私どものセンターで何とかできると思っていますが、一番問題は、熱帯病とか輸入感染症などについて相談、バックアップしてくれる体制ですが、これは専門機関でないとできません。
外国人の診療に当たっての最大の
問題点は、医学部の学生のカリキュラムあるいは看護学生のカリキュラム、研修医時代の研修カリキュラムの中に
外国人の診療に関する講義が一切ないことですね。このために、
外国人を迎える医師、
医療機関の一人一人が、同じ人が常に迎えるとは限りません。迎える方がいつもトラブルに遭ってしまう、それがみんなでその知識を共有できない、これが一番大きな問題であるというふうに思っております。
以上です。どうもありがとうございました。