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参考人(
白川方明君) まず
最初に、量的緩和
政策の効果でございますけれども、今時点でどういうふうに評価するかということでございます。
量的緩和
政策を始める時点では、これは初めての
政策ですから、
決定をしたときの
議事要旨にも書いてございますけれども、効果を検証しながらこれを進めていくということで取り組んでまいりました。
量的緩和
政策の経験を踏まえて現時点でどう評価しているかということでございますけれども、
金融機関の流動性に対する不安を払拭しまして、極めて緩和的な
金融環境を提供することを通じまして
景気回復の基盤を整えるという効果はこれは発揮したというふうに思っております。これは大変異例な
政策ではありましたけれども、現実にあれだけ大規模なバブルが崩壊をしてしまい、厳しい
日本の
経済、それから
金融システムの
状況に照らしますと、量的緩和
政策の枠組みそれ自体は必要かつ適切であったというふうに今では考えています。
ただ、この
政策を、じゃどこまで進めるのが適当であったかということでございますけれども、今申し上げたとおり、
金融システムが現実に不安定になっているときには、あれだけ量を出すこと、あるいはゼロ
金利にすることというのは
意味があったわけでありますけど、逆に言いますと、
金融システムの不安定性が後退した後とか、あるいはいわゆるデフレスパイラルの縁に立たされたというような
状況が後退した後ももしこれを長く続けますと、今度はその副作用というものも出てまいります。
この副作用というものを考えてみますと、
一つは、
金融システムのショックに対する耐久力というのが結果として弱くなってしまう、将来何らかのショックが起きた場合に逆に耐久力が弱くなってしまうということが
一つと、それから人々が過度に
リスクテークに積極化してしまうということも
可能性としては意識されます。
日本銀行としては、そうしたことも意識しながら、最適のタイミングで量的緩和
政策を解除をしようというふうに努めました。ただ、これをどういうふうに評価するかということは、今回私が書きました本も含めてですけれども、これ、学問的にしっかり検証していくという話でございますから、私
自身がここでそれ以上立ち入った評価をすることは適切ではないというふうに思っています。
それから、長期国債の買入れでございますけれども、これ、この本でも多少書きましたけれども、
中央銀行の
バランスシートを考えてみますと、右側には負債、つまり銀行券と当座預金がございます。負債があるということは、当然それに見合って何かを買わないといけない、何かを保有しないといけないということであります。
今もそうですけれども、
中央銀行の負債として一番大きいものは、これは銀行券でございます。今
金利が非常に低い
金利でございますから、銀行券の発行残高が非常に高い水準で推移しております。これ自体がどんどん増えているわけではございませんけれども、今名目GDP対比約一五%でございます。
日本銀行、百二十年強の歴史がございますけれども、過去百年近くの
平均値計算しますと、大体これは八%、平常時は八%。銀行券のこの比率は極めて安定した
数字でございますけれども、今は
金利が非常に低いことと、それから、かつて
金融システム不安が発生して、いったん銀行券が出てしまったものがなかなか戻ってこない、これは銀行の預金
金利が高くありませんからどうしてもそういうふうになるわけですけれども。したがって、銀行券がたくさん滞留しているわけであります。
そのときに、じゃ、左側の資産で何を買うかということになりますと、民間の資産を買うかあるいは国債を買うかということになってまいります。つまり、
中央銀行としては、安全性、流動性、中立性等を考えて一番いい資産を、望ましい資産を買うわけでありますけれども、今言った
基準に照らしますと、全体としての流動性に配慮しつつ、国債というのが最も自然な選択だと思います。そのときに、
政府から
中央銀行が国債を直接買いますと、これは引受けになりますから、これは非常に危険な道であります。したがって、引受けは行っておりません。あくまでも市場から、市場のふるいに通したものを買うということを行っています。
問題は、買い入れる国債の量が適切かということでありますけれども、先ほど申し上げたような銀行券の発行量が現実に非常に高い水準であると。それから、量的緩和の中で当座預金の残高も増えましたから、それに見合って長期国債を購入を増やしたということでございます。
ただ、実は長期国債といいますと、非常に期間の長い国債というイメージになりますけれども、実際にはこれは期間一年超の国債をすべて長期国債という名前で呼んでおります。現実には、期間一年超の中で、
金融機関が様々な期間の国債を持ち込みまして、この量的緩和期も
平均的な残存期間は実はそんなに長いものではなくて、期間によって若干違いますけれども、三年前後、三年から四年ということでございました。
これはFRBもそうですけれども、国債全体としての流動性、つまり期間のばらつきを考えた上で、いつでも国債がいざという場合にはこれは売却をできるとか、いざという場合にはこれを償還で減ってくるということ、そういう
状況を全体として保てるように維持してまいりました。
長期国債の問題は、これは結局、量的緩和
政策をどのように評価するかということとイコールではございませんけれども、かなり関連した問題であり、その中で我々としては十分
中央銀行の資産の健全性にも配慮しながら運営をしてきたということでございます。