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参考人(
土居丈朗君) 慶應義塾大学の
土居でございます。今日は、このような形で皆様の前でお話をさせていただく
機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私の
意見の表明は、お手元に横長の
参考資料を御用意させていただきましたので、この
参考資料に沿いながらお話をさせていただきたいと存じます。
今、この場で
税制関連法案が
審議されておりますけれども、私は、これらの法案に
関連して四点ほど指摘をさせていただきたいと思います。
証券
税制に
関連する点にございましては、私は
金融一体課税に向けた取組として評価できる点が多いと考えております。特に、上場株式等の譲渡
損失と配当との間の損益通算の仕組みを導入するという点は、まさに今後様々な
金融商品の
所得に
関連して損益通算を一体的になすということで、まさに
金融所得の一体課税、これがだんだん進められて、より完成度の高いものに仕上げていくという意味では一里塚として重要なものだと考えております。
二点目の
租税特別措置に
関連するところでありますけれども、
租税特別措置の
透明化ということは極めて重要でありまして、非常にいい問題提起が今
国会で出されていると考えております。当然のことながら、その
租税特別措置の
効果を
検証するということも極めて有意義なことでありまして、これも積極的に今後取り組まれることを期待したいところであります。
ただ、その方法については十分注意する必要があると考えております。
業種別だとか
資本金別という形で、マクロ
経済の中で
租税特別措置がどのように
効果を持っているかということを
検証することは非常に重要なことでありますが、
個別企業が一体幾ら恩恵を受けているかということを事細かくあげつらうということになりますと、他国ではそういうことをしていないという点をかんがみますと、日本企業だけ世界
経済の中で不利になるという可能性があり得ます。
例えば、
租税特別措置をこういう形で使ったということが
個別企業の中で分かりますと、しかもその金額まで分かりますと、その企業はどれぐらい設備
投資を何に使ったかということが分かってしまって、企業戦略が間接的に漏れ出てしまうという可能性があります。そういう点はやはり、細かく
検証する必要はあるにしても十分な配慮をしていただく必要があるのではないかと考えております。
それからもう一つ、
租税特別措置という日本語にまつわる
議論の混乱があると思っております。そもそも世界的にはタックスエクスペンディチャーという
言葉で称されておりまして、つまりいったん国庫に
税金を納めるという前に税法上で
措置をして、事実上補助金を与えるかのような形で
措置をすると、
政策を講じるということであります。
一般論として、タックスエクスペンディチャーはどんなやり方でも全然
効果がないとか、すべて悪いものだという
議論はどこにもありません。もちろん有効なものと無効なものがあるということなのであります。当然ながらその
租税特別措置というものは、タックスエクスペンディチャー、いわゆる
租税歳出というような言い方で呼ばれますけれども、それと重なる部分も多いわけですが、必ずしも
租税特別措置法の中に書かれているものだけがタックスエクスペンディチャーに該当するものではないわけであります。本則の税法の中で既に事実上、租
税負担を減免するというような形で恒久的に認められているものもタックスエクスペンディチャーに入るものがあったりいたします。
別の言い方をいたしますと、
租税特別措置というのは、時限があって、そこで
特別措置法で
措置されているものと思いがちなわけですけれども、税法内で本則で認められているものもあって、ひょっとすると、本則の中に恒久的に認めるということよりかは時限を切って
政策の
効果を上げる形にした方がいいものもあったり、ないしは
租税特別措置法の中で事実上恒久化してもいいものを毎回毎回期限が切れるたびに更新しているというようなものもあったりするというところがあると思います。
ですからそこは、本則のものと
租税特別措置法の
措置とをきちんと再
整理をして、恒久的に認められるものは本則に入れるとともに、本則にあっても時限を切ってもいいものについては
租税特別措置法の中で規定するというような
整理があってもいいのではないかというふうに考えております。
それから、今回の提出法案の中では必ずしも明記されてはおりませんが、既に方向性として示されております中小企業の事業承継
税制については、これは中小企業、さらには地域
経済の活性化という
観点からも重要な
制度の導入であると考えておりまして、この積極的な活用が期待されるところであります。
そして四点目は、
道路特定財源のことでありますが、
参考資料は三ページの方に移っていただきたいと思います。
道路特定財源の
暫定税率に
関連いたしましてはいろいろ
議論が上がっております。これまでに既に
議論されていることの中で論点を挙げますと、真に必要な
道路を造るためには必要なんだと。ないしは、別の言い方をすると、無駄な
道路を造らないということであるならばそんな
税率は要らないんじゃないかという話もあります。さらには、昨今の原油高によって低
所得者に対して配慮するためには
暫定税率を撤廃するということが必要なのではないかという
議論もあったりいたします。さらには、先ほど来からもう出ておりますけれども、地球
温暖化対策のためには、
暫定税率を
廃止してしまうとそれに逆行するのではないかという
意見もあります。とにかく
議論は錯綜しておるわけであります。
そこで、私が有用でないかと思う
経済学の概念を一つ御紹介させていただきますと、ティンバーゲンの原理というものがございます。これは、
政策の目標をうまく達成するには、
政策目標の数と同じだけの
政策手段がなければならないということであります。ちょっと違った例えでいいますと、連立方程式の方程式の数と同じだけの変数の数がなければ、その方程式はきちんとした答えが見付けられないということと似たようなものであります。
二つの方程式の答えをきちんと見出したいときには、変数は
二つでなければならないということであります。
そういう
観点からいたしますと、
暫定税率に
関連しては、まずそもそも
暫定税率自体を残すのか、残さないのかという問題、それからもう一つは、そもそも
道路予算として一体幾ら支出すべきなのかという
歳出面、
歳入面の
二つの手段を持っております。
ところが、今挙げさせていただきました論点は三つありまして、三つの目的を同時に
二つの方法で解決するということはできないことであります。ですから、やはりそこは、例えば原油高に対する低
所得者への配慮というのは、これは
暫定税率の問題で解決するものではなくて、むしろ社会保障の方できちんと手当てするということで決着を付けていただく。
それとともに、もう一つ、真に必要な
道路を造るとか無駄な
道路を造らないということに
関連しては、これはまさに
道路歳出をきちんと精査すると、支出面からきちんと吟味するということが大事だと考えます。
そして、もう一つは地球温暖化という問題でありますが、さすがに
暫定税率を撤廃すると地球
温暖化対策に逆行するというところがあります。やはりそのためにも
暫定税率を
維持する。
暫定税率を
維持すると無駄な
道路ができるではないかということに対しては、もちろん
歳出面できちんと精査して、真に必要な
道路を造るという形で
議論をするということが必要だろうというふうに考えております。その意味で、
暫定税率を
維持しつつ
道路歳出を厳しく精査するということによって、これらの
二つの目標を同時に達成することができるだろうと考えております。
少し
観点を変えまして、
埋蔵金に
関連するところで私が考えているところを述べさせていただきたいと思います。
埋蔵金がいつまでも掘れば埋まっていて見付かるというようなことで
議論をされていると、なかなか真に必要な財政
政策のあるべき姿というものが
議論されないというふうな印象を持っておりまして、その意味でも、できるだけ早くきちんと
埋蔵金論争に打ち止めをしていただいて、冷静に税財政のあるべき姿を
議論していただくということが必要なのではないかというふうに考えております。もちろん、その
埋蔵金は、臭い物にふたをするかのごとく、何も精査せずにそのままふたをして終わりにしてしまうということを私が申し上げたいわけではなくて、客観的にその存在ないしは使い道についての
議論が必要だろうというふうに考えております。
埋蔵金というのは、多くはストックとして存在するということでありますから、当然このストックについては、活用方法についてはストックからストックへと、ストックはストックへという
原則を貫くべきだと考えております。その意味では、
政府の債務削減に充てるのが本筋であって、その年々の行政サービスに使うということは本来なじむものではないと考えております。少しやゆして言えば、
埋蔵金を見付けたと言ってそのお金を結局は無駄遣いしてしまったのでは元も子もないのであります。その意味では、
埋蔵金がもしあれば、それはストックからストックへという形で決着を付けていくということが必要だと思います。
さらには、一つ代表的に挙げられているのは、財政融資資金特別会計の
金利変動準備金ということでありますけれども、この金利変動については、もちろん
リスクをできるだけ減らすように努力するということは必要でありますが、
経済学の中で
リスクを完全にゼロにすると、ないしはできるだけゼロに近づけるということがどこまで本当にできるかというのは必ずしも自明なことではありません。あくまでもゼロに近づけるという努力は必要なんだけれども、いつ何どき想定していない
リスクが突然発生するというようなことも起こり得るわけでありまして、そういう意味では、
リスクを完全になくせないということであるならば、きちんとしかるべき準備をしておく必要があるというふうに考えております。
続きまして、
埋蔵金の在りかとしてもう一つ挙げられているのは独立行政法人に
関連するところでありますが、独立行政法人に
関連するところでは、
資産・
負債差額が丸ごと直ちに
埋蔵金だということではないと考えております。
独立行政法人も、もちろん有意義な仕事をしている反面、必ずしもそうでない部分もあったりするということであるわけですから、当然独立行政法人の事務事業についてきちんと精査して、その結果、不要な事務事業を
整理縮小することによって無駄遣いを減らすということができれば、それはもちろんほかの用途に活用するという可能性は十分にありますから、むしろ、そもそもそこにお金があるからそれが
埋蔵金だということではなくて、きちんと中身を吟味した結果としてそれが
埋蔵金だと思われるならば、それをきちんと有効活用するということが重要だと考えます。
今後の
税制改革の論議に際しましては、
参考資料の七ページでありますけれども、まず一つの大きな一里塚と考えているのは、
平成二十一年に予定されている年金改革に
関連するところであります。今の
政府の方針でありますと、基礎年金国庫
負担割合を二分の一に引き上げるという方針が示されております。そのためには、当然のことながら年金給付のために税
財源を投入する額を増やさなければつじつまが合いません。
ただ、必ずしも年金の改革に
関連しては百家争鳴といいましょうか、様々な案が出され、もちろん長所もあれば短所もあるというようなところであります。当然、年金改革については
国民的に広く様々な案が
議論されるべきでありまして、いろいろないいアイデアが出てくるということは歓迎すべきことなのでありますが、年金改革の将来的な理想像が固まらないうちは税
財源を投入する額を増やせないというようなことでは、これまた将来に向けた禍根を残すのではないかと考えております。
私が知っている限り、いずれの年金改革案も、高齢化に伴い将来税
財源を投入する額を増やさざるを得ないものが大半であります。結局のところ、いつ、いずれの時期にか年金給付のための税
財源を増やさなければならないということであるならば、一つの
チャンスとして
平成二十一年のときの年金給付のための税
財源投入額を増やすということについては、少なくとも党派を超えて大同小異で一致協力してその方針を
実現するということがあってもいいのではないかと。税
財源の投入額を増やすということにした後でゆっくりその理想像について腰を据えて
議論するということは決して悪い話ではないと考えております。その意味でも、年金給付の税
財源をきちんと安定的に
確保するという努力が求められると思います。
参考資料の八ページに移りまして、この高齢化と財政健全化の中で一体どのような税
財源が今後有力なのかということですけれども、私は
消費税が有力だと考えております。
所得に対する課税は社会保険料などの形で既に今後引き上げられるということが分かっております。また、
所得に対する課税は勤労世代に重く
負担がのしかかるということですから、今後も引き続き勤労世代にだけ重い
負担を課して社会保障の
財源を
確保するということでよいのかというふうにも思ったりいたします。さらには、貯蓄率の低下が懸念される中で、
所得税では貯蓄の二重課税という問題が発生しますが
消費税ではそうではないとか、社会保険料の逆進性を
消費税なら実は緩和できるかもしれないという期待も持てるところであります。
消費税は逆進的だという
意見もあるんですが、
経済学から考えるとそれは必ずしも正しくはないと考えております。もしその逆進的だという
言葉を正しく言うならば、累進的ではないと言っていただきたいというふうに考えるわけでありまして、実は
消費税は
所得に対しては比例的な税でありまして、ただし累進的ではないので高
所得者の人からたくさん税を取るというものの性質は持っていないという意味で、確かに逆進性とおっしゃられる方の
意見は多分そういうことをおっしゃりたいのだろうというふうには思いますが、学術的にはそれは逆進的だとは言いません。
さらに、社会保険料は実は
消費税よりも逆進的な側面があります。
国民健康保険などの定額の保険料だとか高
所得者に対する
負担の上限があったりとか、そういうようなことがありまして、
参考資料の十ページにございますように、低
所得者に対して、もっと露骨に言えば、
所得税の課税最低限以下の人でもより重く社会保険料を
負担させられているという側面があります。もし基礎年金の部分の
財源を
消費税で賄うというようなことになれば、その部分の社会保険料は必要なくなります。そうすると、その定額の保険料を引き下げることができて、その分だけ低
所得者に対する保険料
負担を軽減するという可能性も出てまいります。その意味では、社会保険料の
負担構造と
消費税の構造とを吟味しながら、今後
消費税の
税制改革における役割を御
議論いただければと思います。
私の方からは以上でございます。
どうもありがとうございました。