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参考人(
島崎邦彦君) それでは、
日本の
地震予知・予測について
お話をさせていただきます。
最初に
日本の
地震の課題を御
説明して、その後、
現状を
お話ししたいと思います。(
資料映写)
日本における
地震の
問題点、二つ大きくございます。
一つは、
日本の
皆さん方が本当に
震災の
危険度に
お気付きになっていないと思われる点でございます。それから、個々の
震災ではなくて、先ほどもちょっとありましたが、
震災が連発して来る、こういう事態をなかなか考慮されていない、この二点について
お話ししたいと思います。
一般の
皆様に御講演をすることがあるんですけれども、例えば
地震というのは低
頻度の
巨大災害という
特徴がございます。これはなかなかつかまえにくい
特徴でございまして、簡単に言いますと、
巨大災害ではなく低
頻度の
災害ということで、
皆様のお宅が例えば
火災に遭うのはどのくらいの低
頻度と考えていらっしゃるかというふうにお伺いします。この場合、
戦争や
地震による
火災を除きますけれども、大体、こんなふうにお伺いすると五十年から百年だとか数百年という答えが返ってきますが、実際には千五百年に一回という
程度の
頻度でございます。しかし、十分これに対して
火災保険という形で対処されているわけでございまして、三十年
確率でいうと二%、この十倍が
交通事故で負傷する
確率、この十分の一が
交通事故で死亡する
確率ということになります。
保険の
お話をしましたけれども、現在、
火災保険に入っている方のうち
地震保険にも加入されている方は四割
程度、非常に増えましたけれども、やはり
地震保険に入らない方の方が多いのが現実でございます。実際そういう方にお伺いすると、ほとんどのお答えは、
地震保険の方が高いというお答えがあります。これは非常に簡単な
お話でございますけれども、なぜ
地震保険の方が高いかというのは、これはまさに
地震のリスクが高いからでございまして、そういう簡単な理屈すら多くの方が御存じないというのが
日本の
現状だと私は思っております。
それから、
台風あるいは
風水害との比較ですが、これは
保険関係の個人の住宅、家財の損害額で比べますと、大きいときでは二十倍
程度、年平均しても七倍強、実は
地震の方が
災害額が大きい。先ほどの
お話のように
温暖化するとこの差は縮まるかもしれませんけれども、それが
現状でございます。
このように
地震のリスクが高いにもかかわらず多くの方がなかなか気付いていただけないということは、そのようなとんでもない
被害を起こす
地震、これが比較的まれである、ですから、通常はそういった
現象は起こりませんので、ついついそういったものは忘れがちである。しかし、国を預かる
皆様方は、そのとんでもないことが起こるんだ、起こり得るんだということを是非お考えいただきたいと思っております。
これは例えば過去百
年間の住宅の
被害でございますけれども、三十回、二十一回、十五回というように比較的小
被害、こう言ってはなんですが、これは頻発します。しかし、これは全体から見ますとごく一部にすぎません。計七十七万棟のほとんどは関東大
震災の五十八万棟で占められています。
地震災害の本質は、このようにとんでもないことが起こる、そしてそのとんでもないことが全体の九割、八割を占めてしまうという、そういうことでございます。そして、そのとんでもないことが起こるまでは、そんなものは起こらないだろうと思っているということがこれまでも繰り返されてきたと思います。
仮に、
死者、行方不明者数が千人を超える、このような
震災を私は勝手に大
震災と呼んでおりますけれども、これについても、例えば
日本で何年に一回ぐらいかということを一般の方にお伺いすると、大体五十年以上に一回ではないかというお答えが返ってまいります。これは非常に自然なことで、ある意味、
皆様方の経験に裏打ちされていると思います。実際には、過去二百
年間の統計を取りますと、十二年に一回というのが現実でございます。ですから、人間の一生の間に五、六回起きて不思議はない。もっとも、自分が
被災者になるかどうかは別ですけれども、それほど
頻度が高いのです。
ただ、こういう二百年の統計を取りますと、昔は家が非常に貧弱だったのでそのまま比べられないんではないかという
お話がございます。しかし、一方では
人口が増加して、かつ非常に脆弱な都市が生まれていますので、皆さん御存じのように現在でも多数の家が強烈な揺れに耐えられない
状況でございまして、今度の四川の
地震では
皆様のおかげで学校の問題が解決に向かうことができたようで大変喜んでおりますけれども、この内閣府の統計にありますように、実際に個人の方は耐震改修も耐震診断も行っていないというのが
現状、皆さん御存じのとおりでございます。このようなことを考えますと、二百年の統計といいましても現在でもそのまま通用するのではないかと私は考えております。
なぜ
皆様が五十年に一回だと思われるかといいますと、戦後、経済が成長して繁栄したこの五十
年間に、阪神・淡路大
震災を除いて大
震災と言われるような大
震災が起こっていないというのが現実でございます。これで左側を見ていただきますと分かるように、一九四三年から四八年までの六
年間に五回大
震災が繰り返したということは現実にあるわけでございます。これがなぜ
日本国民の記憶として定着しなかったか。これはもちろん
戦争があった、
戦争の方が悲惨だったということが
一つです。それから、中には、
戦争中だったので
地震の
発生自体が秘密であった、機密事項であったと、そういうこともございます。ほとんどの方はその後の幸い大
震災の起こらなかった静穏な時期に人生の大半をお過ごしでございますので、それから、五十年に一回ぐらいだろうと、そういう経験的な数値が出てくるんだろうと思います。
しかし、先ほど申し上げましたように、平均して十二年に一回だということは、どこかで固め打ちの
地震が起こるということでございます。そして、この
地震は、先ほどの
お話にもありましたけれども、
南海地震、あるいは東海、
東南海地震、このような
地震の前後に集中して起こるという性質がございます。
南海地震の三十年
発生確率は公表時には四〇%でしたけれども、現在五〇%を超えておりますし、
東南海地震は先ほどの
お話にありますように六〇から七〇%と、今にも起こりつつあるのではないかという
数字に次第に上昇しているところでございます。
過去の例をもう
一つ申し上げますと、右側の安政のときは、特に固まって一年以内に
東海地震、
南海地震、それから江戸
地震が起きております。現在の
中央防災会議の推定によりますと、一年以内に計二百六兆円が失われたということでございます。これは架空の話ではございません。実際に過去に起きたことでございます。しかし、一般の
皆様は余り御存じない。
実際このような
震災がこの平和な今の時代に繰り返して起きるとしたらどうなるかと考えてみますと、大変恐ろしいことがあるのではないかと思います。
最初の
震災、二回目の
震災ぐらいは世界各国が非常に同情してくれて援助の手を差し伸べてくれるかもしれませんけれども、三年目にもまた大
震災が起こる、四年目にもまた大
震災が起こる、こういう繰り返しがあれば、世界中の人は一体この国はどういう国なんだろうかと思い始めるに違いないと思う次第でございます。
皆様御存じのとおり、神戸の
地震ではアジア有数のハブ港であった神戸港がその地位を失っております。いったん失った地位はなかなか取り返せません。それから、この間の中越沖
地震では、御存じのように、自動車の部品メーカーが被災したことによって自動車の生産が停止されております。私がもし自動車産業に携わっていましたら、あの一社だけに部品を作らせるのは危険だなと思うに違いありません。もう
一つの選択肢、あるいはもう二つの選択肢をほかの場所に備える。今回は、そういった地方の問題ではなくて
日本がその対象になるのではないか。
日本でしかできない、そういったものは世界各国から見たら非常に危険ではないか、
日本だけに任せておくことがいいのだろうかと、そういう話になりかねない。その意味では、
日本の国難が起こるのではないかと思います。
安政の
一つ前は宝永でございますが、このときは関東大
地震が起きて、その後、宝永の
南海・
東海地震、私どもが知っている
日本で
最大の
地震が起きます。その後、おまけに富士山が噴火するという、こういう
現象が重なりました。
その
一つ前の慶長のときは豊後の大
津波ですから、別府湾から四国、それから近畿の有馬—高槻構造線、これが恐らく一週間以内に続けざまに
地震を
発生するという、こういったことが起きたと思われます。
このように連発する、二つ影響があると思います。
一つは、当然、累積効果ですね。どんどん
被害が大きくなる。それで、外から見ていると、実質以上に危険だというふうに評価される。この間もサッカーの選手が来ないとか、そういうことがありましたけれども、実質以上に言わば風評といいますか、そういったふうに感じられるのではないか。それからもう
一つは、間隔によるんですけれども、応急
対策をしている、あるいは復旧
対策、復興
対策、それを一方でしているときにもう一方で
地震が起こるという非常に厄介な
現象が起こるかと思います。さらには、これは累積的な効果ですけれども、
地震保険など、すべてが一遍に起きてしまえばそれに対して支払をすることができますけれども、支払が済んだ後で次の大
震災が起こる、こういうことが起こると一体どうしたらいいのか、これまで考えられていないのではないかと思うので、是非この連発するということも考慮して
対策をしていただく必要があるかと思っております。
昭和、安政、宝永とさかのぼっていて、宝永は先ほど申し上げましたけれども、全長六百キロを超える大
地震が起きたということでございます。それよりも前もほぼ規則的に百年から百五十年で
南海地震が繰り返しておりまして、今世紀の前半にはまず間違いなくこの
地震が起き、その前後にはそれ以外の
地震が連発する、どのような間隔かは現在分かりませんけれども、そういうことが予想できると思います。
しかし、まだ時間の余裕があるだろうと思われるかもしれません。しかし、最近の
地震を見ていますと、既に
規模は小さいながら連発の
震災が起きております。
一つの例だけ挙げさせていただきますけれども、福岡県西方沖の
地震でございます。この緑色が余震でございますが、実はその後の
調査等々から、ここは非常に長い活断層系の北の半分だけが壊れたんだということが分かっております。南の半分はまだ手付かずといいましょうか、壊れていない
状況で、それがまさに博多の町の真ん中を通っているということでございます。
現地へ行ってみますと、南の方ではこういう段差が付いておりまして、普通は土地の
境界になっておりましてこんなふうに家を建てることがないんですけれども、北へ行きますと段差が付いておりませんので位置が分からなくなり、しかもそこはこのような高層マンション群になっているという
状況でございます。更に北へ進みますと石油基地が存在する、こんな
状況でございます。これはごく一部でございますけれども、現在でもそういった連発する大
震災という危険はゼロではないということを申し上げたいと思っております。
私が勧めることは、
日本の
地震のリスクを世界に開示する、あるいは国民にも開示する、そしてそれだけではなく
対策を進めてそのリスクが実際に減らせることを示す、こういうことが必要だと考えております。
現在、
日本の震源、海溝で起こる
地震と直下型に分けますと、海溝型はほとんどが既知の震源でございまして、長期予測で既に
三つの
地震がここで起こる、マグニチュードXと予測されているどおりに起こっております。一方、活断層で起こる直下型の
地震はほとんど未知の震源でございます。そこにございますけれども、その理由は、これまでの活断層
調査がマグニチュード七以上であったことと、それから、沿岸はごく一部しか
調査が行われていないという、この原因でございます。
現在どこまで
地震予知が進んでいるかといいますと、ごく一部ですが、非常に規則的に起こる
地震については予知ができております。
東海地震については現在ゆっくり
地震というものが検知されておりまして、これが先行して起こる可能性が非常に大きいと思います。活断層に関しては、まだまだ
調査が不十分なところがたくさんございます。
これは釜石沖の小さい
地震ですけれども、マグニチュードも位置も時間もほぼ予定どおりに起きておりまして、この次もう一回起きて、それも予測どおりになっております。
これは
東海地震の例ですけれども、皆さん御存じのように、毎年私もこの
防災訓練に参加しております。
これは
平成十八年度の例なんですけれども、訓練は、実際にどういう変化が起こるかということも予想して、それに対して備えます。これは訓練用なんですが、実際、気象庁へ参りましたところ、現実はこのような変化が起きておりました。佐久間、本川根という場所で、先ほどのこの下の二つの場所ですけれども、まさに訓練とほとんど同じ
現象が起きているということがございました。量は現実の方が小さいんですけれども、これが左側が現実でございまして、ゆっくり
地震があの位置で起きている。右は訓練に想定したものでございます。ですから、左のようなことがより震源域に近いところで更に加速していけば、これは訓練と同じようにといいましょうか、本物の
東海地震の
発生につながるんだろうと思っております。
主要活断層帯については、
調査は不十分でありますけれども、既に北海道から九州までこのような活断層帯の
発生が高いということが分かっております。
それから、済みません、レジュメのところで、南関東のやや深い
地震を追加していただければと思います。済みません。一番大事なところを省略してしまいました。訂正いたしたいと思います。
実際、関東は大正関東
地震の後の静穏期から活動期へ抜けるところでございます。赤い点線内でマグニチュード七
程度の
地震が三十年以内に七〇%ぐらいの
確率で
発生するだろうというのは予測でございます。しかしながら、素性が残念ながらよく分かっておりませんで、唯一素性が分かっているのが、
皆様エレベーターが止まったり鉄道が止まって帰宅が深夜になった二〇〇五年七月二十三日の
地震で、これはフィリピン海
プレートと太平洋
プレートの境目で起きた
地震でございまして、ほぼ二十五年に一回繰り返していることが分かっていますので次の
地震も予想が付きますが、これ以外については現在
調査中で、なかなか昔の
地震の記録を得るのが難しい
状況でございます。
一方、海溝型の
地震に関してはかなりの部分が既知でございまして、このような予測が行われているというような
状況でございます。
以上です。