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参考人(
京極高宣君)
国立社会保障・
人口問題研究所の
京極です。今日はこのような場をつくっていただき、誠にありがとうございます。
私は
国民生活と
福祉の
結び付きに絞ってお話をさせていただきます。もっとも、
福祉とはいっても、例えば
福祉目的税という場合のように、どこまでを
福祉に含めるかという、定義によっては大変異なりますので、私の話では様々なハンディキャップを持った人々に対する対人的、個別的サービス、いわゆる対人
福祉サービス、英語でパーソナル・ソーシャル・サービスと言っておりますが、にポイントを置いてみたいと思います。本来であれば、
国立社会保障・
人口問題研究所の
所長として人口推計や
社会保障全般にも詳しく触れなければならないのですが、三十年間にわたり
社会福祉にかかわってきた立場から、今日は少し的を絞らせていただきます。
さて、
日本を含めて、先進諸国におきましては人口高齢化の波が押し寄せております。また、少子化の影響も話題になっています。我が国では、二〇〇五年を境に人口減少
社会の時代も始まり、少子高齢・人口減少
社会が到来していると言われています。少子高齢・人口減少
社会というのは、前
所長である阿藤氏が名付けた
言葉でございます。
そこで、
経済社会や
社会保障の動向の背景として人口高齢化の国際比較について見ますと、お手元の
資料一覧の一と二のグラフを御覧いただきたいと思います。一は六十五歳以上の高齢化率、二のグラフは七十五歳以上の高齢化率です。
日本は六十五歳以上人口を取っても、また七十五歳以上人口を取っても、人口予測から見ますと二〇〇五年以降は高齢化率が最も急速で高い水準となっていることがお分かりかと思います。ヨーロッパの先進諸国はアメリカと
日本の間ぐらいに位置付けられています。こうした超高齢
社会の到来というものは言わば人類未踏の
経験を意味し、
日本が取る高齢化対応というのは世界から見ても国際的注目を浴びるべきものと思います。
次に、
社会支出、これはOECDで
社会保障給付プラス施設整備費等を足したものでございますが、この
社会支出の国際比較を見てみたいと思います。三のグラフをお開きください。三のグラフはOECD基準の
社会支出を国際的に見たもので、国民所得、NI、ナショナルインカム、ないし国内総生産、GDPに占める
社会支出の
割合が、
欧米先進国の比較では
日本はアメリカよりやや高い
程度のもので、それぞれ約二五%と約二〇%の
程度です。スウェーデンではそれぞれ四〇%台、三〇%台と比べると、
日本は極めて低くなっています。
したがって、現在の段階では、人口高齢化ではほとんど差のないスウェーデンと比べても国民
経済に占める
社会保障等の
社会支出はまだそれほど多くないということを物語っています。将来的には、
福祉国家のタイプいかんにかかわらず、我が国が言わばスウェーデン並みになることは十分予想として付けることができます。
なお、この国民負担率と潜在的国民負担率の差が
日本は非常に大きくなっておりますが、これは御案内のように、財政赤字が最も大きいことを反映しております。
我が国は国民負担率の抑制の目安を五〇%に置いておりますが、スウェーデン、フランス、ドイツでは既に国民所得対比で、NI対比で五〇%を上回っており、特段その国で
経済危機的
状況、財政危機的
状況を表しているとは言えません。そもそも年金等の所得保障が発展してくると国民の負担も大きくなりますが、それにより給付を受ける分も大きくなりますので、国民負担率が名目的に上がっても、国民
経済が圧迫されて苦しくなるとは必ずしも言えません。
念のために申し上げますと、私見では、名目国民負担率から所得保障還元率を引いた数値を実質的国民負担率と私は呼んでおりますけれども、それは
日本の場合、一九九〇年から今日に至るまでむしろ傾向的に下がっております。年金などの所得保障が進めば名目的には国民負担率が上がりますけれども、実質的には必ずしも上がるものとは言えません。
今日のところはこれまでとして、次の例示として、近年国民的に注目されている介護サービスの国際比較を四のグラフで見ていただきます。
スウェーデンとデン
マークといった北欧が対GDP比で群を抜いていることは一目でお分かりいただけると思いますが、
日本も二〇〇〇年の介護保険発足の前後から急速に比率が上昇していることが目に付きます。現在の時点の
数字はここには書いておりませんけれども、今の勢いで行きますと、二十一世紀の前半のうちには急速な人口高齢化を反映して北欧水準を突破するのではないかと思います。
次に、現時点での
社会支出の政策分野別の
割合を国際比較してみることにしましょう。
五のグラフにあるように、
日本は超少子化のイタリアと
割合似た政策分野別構成
割合を持っています。イタリアは下から二番目です。特に、高齢
関係の支出が
日本の場合四六・七%と群を抜いて大きく、障害者等の
関係支出が四・三%、家族、これは児童を含みますが四・〇%、比較的少ないことが特徴となっています。
国際比較では、各国の制度が異なるため単純な数量的比較はできませんけれども、やはりこの間の
日本は高齢政策に最大の力点を置いてきたことの政策的反映がそこにあることは間違いありません。逆に、障害や児童
福祉、児童家庭の分野の支出が必ずしも他の先進国と比べて大きくなかったことをそれなりに物語っていると思います。
また、積極的労働政策ということで、旧労働省がやっている対策でございますけれども、この点では一・六二%と
日本はアメリカに次いで低いことも注目に値します。
〔
会長退席、理事加納時男君着席〕
以上、お話しした点は国際比較のことで、これからは
日本の
状況についてお話しします。
まず六のグラフを御覧ください。
これは私どもの
社会保障・
人口問題研究所の将来人口推計の推移でありまして、二〇〇五年の国勢
調査、センサスに基づいて私どもが推計したものであります。
二〇五六年から二一〇五年までは
長期の人口推計分析の
参考とするために示しております。二〇〇五年一億二千七百七十七万人をピークに、二〇五五年には
日本人口は八千九百九十三万人と九千万人を割り、さらに二一〇五年には四千四百五十九万人と五千万人を大幅に割り込むと推計されています。このままいけばということで、それに対するいろんな対応があればこの
数字は動いていきますけれども、現在の時点で見るとそういうことが言えるということでございます。したがって、巨視的、
長期的に見ると、絶えず右肩上がりで増加してきた
日本人口が、
日本の歴史を大きく縮小するという大変な事態を迎えるわけでございます。
老年人口比も、二〇〇五年の二〇%から二〇五五年の四一%とほぼ倍になり、逆に生産
年齢人口、十五歳から六十四歳は六六%から五一%と一五ポイント減少し、年少人口は一四%から八%と六ポイント減少し、その分、二一ポイントが老年人口で増えるということになります。
ただし、ここでちょっと注目していただきたいのは、老年人口数の厚さは二十一世紀前半においては余り変わらない、同じ幅で落ちているわけで、二十一世紀後半にはそれがだんだん薄くなっていくということが言えると思います。
次に、こうした人口動向の中で生産
年齢人口の概念も再検討する必要があるのではないかと私は考えます。
確かに、国連などで世界各国の比較をする場合には、六十五歳以上を老年人口として、十五歳から六十四歳を生産
年齢人口、十四歳未満は年少人口として
年齢人口を三区分するのが通例ですけれども、先進国の場合、一方で高
学歴化とサービス
経済化、情報革命などがあり、他方で
社会保障制度の充実もあって、六十五歳以上を老年人口とすることには無理が出てきます。また、十五歳では高
学歴化を反映できないため、もう少し年少人口も引き上げる必要性があります。
これは私の持論でございますけれども、二十一世紀後半に向かって五十年間の生産
年齢人口という仮定を置きますと、第一段階としては、二十歳から六十九歳まで生産
年齢人口を引き上げ、七十歳以上を老年人口として、そして二十歳未満を年少人口とするような
社会システムに転換することを訴えたいと思います。また、第二段階として、更に二十五歳から七十四歳までを生産
年齢人口として、七十五歳を老年人口、二十五歳未満を年少人口とするような
社会システム転換を図ることが
日本社会の大戦略と考えます。
私
個人は昨年いわゆる前期
高齢者の仲間入りをいたしましたが、自らは熟年後期と位置付け、国家国民のために頑張っておりますので、
個人的にも前期
高齢者として老年人口の中に入れてほしくない気持ちでございます。
〔理事加納時男君退席、
会長着席〕
ここで、二十五歳までの年少人口ということには若干の御疑問もあるかと思いますけれども、これは
大学院等の高
学歴化が進むということと、それから、いろんな障害を持っている
方々も二十四歳までにしっかりいろいろな教育を受けられますと、例えば知的障害者についてもいろんな仕事が見付かりますし、今のように養護学校を終わってそれまでと、あるいはややお茶を濁した形で養護学校高等部に行くということで、学校を卒業しますと小規模作業所とか授産所に行くということで、一般就労の道はほとんど閉ざされているわけでありますので、その辺りも大きく変わっていくと思います。
さらに、七のグラフを見ていただきます。これはあえて作ったんです。
一番上のAは、現行の六十五歳以上を老年人口とした場合の老年人口従属指数、言い換えれば生産
年齢人口何人で老齢人口一人を支えるかの指数でありますが、Aの方は一人の老年者を一・二五人、この逆数ですね、で支えることになっています。しかし、真ん中のBは七十歳以上を老年人口とした場合の指数でありまして、逆数で言いますと一・六一人で一人の老年者を、そして最後のCですね、私の第二段目と申しました七十五歳以上を老年人口とした場合の指数では、逆数で二・一七人で一人の老年者を支えるという結果になります。
御覧いただくと分かるように、特にBもCも二十一世紀後半においては極めて安定した推移を保っているわけですので、言い換えれば、もしCのような
可能性があれば、二人強で一人の老年者を支えるという極めて安定した人口構成の
社会が誕生いたします。
もちろん今すぐ七十四歳まで働けということではございません。働ける方は七十四歳までは少なくともできるように
社会意識や
社会システムの転換を図るということを時間を掛けて行っていく必要があるということでございます。
よく生産
年齢人口の減少を外国人の移入でと安易におっしゃる方がいらっしゃいますけれども、
日本が外国人を積極的に招くことには私も大いに賛成しておりますが、さきの六のグラフで見たように、この五十年間で四千万人弱ほど減る生産
年齢人口を外国人でカバーできることはオーダーが余りに違いがあり、
日本列島の半分に外国人が住んでもらっても間に合わないぐらいなようでございますので、やはり現実的ではないと思います。やはり
日本国民の英知と努力でそれを乗り越えるためには、生産
年齢人口を変え
社会の国民の意識や
社会システムの変換を図っていく必要があると思います。
さて、我が国の
国民生活の土壌においては、
社会保障は深く根差しております。
八のグラフを見ますと、これは年金、医療、
福祉その他のよく出てくるグラフでございますけれども、二〇〇五年度は、年金は四十六兆円、五二・七%、医療は二十八兆円、三二・〇%、
福祉その他は十三・五兆円、一五・四%となっております。
いわゆる
福祉サービスは
福祉その他の中に入っていますが、確かに一九九〇年度には年金、医療、
福祉その他がおおよそ五対四対一であったのを当時の厚生大臣、大内啓伍先生だったと思いますが、の諮問会議で二十一世紀
福祉ビジョンを発表し、その中では五対四対一を五対三対二にしようという提案がなされました。現在のところまだ
福祉その他は二〇%台の大台には至っていませんが、それに近づきつつあるのか、それに至らないで停滞しているか、ここは解釈のあるところでございます。
次に、グラフの九の一と九の二を御覧ください。
これらのグラフは、国民所得に占める
社会保険料と
社会保障給付の
割合をそれぞれ表したものです。
今日の
社会保障は、例えば
高齢者にとって老後
生活の転ばぬ先のつえではありません。
高齢者生活のセーフティーネットであり、さらにそれだけではなく、
高齢者の
生活の一部として地域
社会のソフトな
生活基盤を成しております。残念ながら、それを
統計的に表すデータは意外と少ないので、三年ごとの
厚生労働省所得再分配
調査に基づいて九の一、九の二のグラフを作ってみた次第です。
九の一、上の方のグラフでございますけれども、これは可処分所得、当初所得ですね、税金とか保険料を除いた分ですけれども、それに占める
社会保険料拠出の
割合を全
世帯と
高齢者世帯について取っております。
一九九〇年から三年ごとに二〇〇五年までにわたって
統計を取りますと、
社会保険料が全
世帯にとっては七%から一一%と上昇していることが分かります。また、
高齢者世帯にとっての負担は相対的に低く、三・五%から順々に上がって六・〇%となっております。いずれにいたしましても、
国民生活の
生活費の中にごく一部ですけれども
社会保険料がしっかりとビルトインされていることがはっきりしているわけであります。
それから、他方、九の二のグラフを御覧いただきますと、
高齢者世帯の可処分所得に占める
社会保障給付は、一九九〇年の八六・五%から順々に上昇して、一九九九年には一〇〇%を突破し一〇三・四%、さらに二〇〇五年には一二一・五%になったり、何と可処分所得の倍以上になっているわけであります。いかに
社会保障給付、特に年金が
高齢者世帯の
生活を大きく支えているかが分かります。
社会保障給付抜きに
高齢者世帯の所得では半分以下の
生活となってしまう
状況になっています。このように
統計的に見ると、
社会保障は、あえて申しますと意外に少ない負担で
高齢者全体の
生活を大きく支えているというのが
日本の
状況だと言えます。
この
社会保障のうち対人
福祉サービスが
国民生活をどのように支えているかについては、従来必ずしも
統計的に示されておらず、さっきの
福祉その他では大まかに分かりますけど中身が分かりません。そこで、言わば国民の実感に基づいて語られることが極めて多かったと思います。しかし、
高齢者、児童、障害児・者の三者に分けて、それぞれ
統計的に見たのが十二と十三と十四のグラフです。
十二のグラフは、
高齢者人口に占める介護サービス受給者の
割合でございます。時間が来ましたのでちょっと省略いたしますが、これはあくまでも介護サービスという介護保険上のサービスを受けている者だけでありますので、その他のサービスも受けますともっと大きくなります。
それから、十三は児童人口に占める保育所入所児童についてのみ調べたものです。これはかなり大きくて、五歳以下では三〇%と三分の一になっているわけでございます。
それから、十四のグラフでございますけれども、障害児・者に占める障害
福祉サービス利用者数でございます。これは、サービス利用者数七・〇%と非常に低く見えていますけれども、医療とかその他の、国の義務的経費であります障害
福祉サービス以外の様々な地域のサービスはここには含まれていませんので、実際にはもっと大きくなります。その代わりには必ずしもなりませんけれども、障害者手帳交付者の数を見ますと何と八四・〇%で、この障害者手帳は通学、通勤の割引から、その他様々なものに使われておるわけでありまして、かなり利用者数は多いということが言えるかと思います。
以上、いろいろと
福祉と暮らしの
関係を縦割り的に見てきましたけれども、地域レベルでトータルのものとして
統計的に見るとどのように言えるでしょうか。
近年、厚生省
社会局で作った
資料で、十五の図を見ていただきたいと思います。一中学校区、これは平均人口で一万一千六百二十三人で、全国の中学校数は一万九百九十二校でございます。非常に平均的な
数字でいいますと、医療二十九億五千万円を除いても、介護六億円、要介護者三百九十四人、
生活保護二億四千万円、被保護
世帯人員百三十八人、児童、特に保育ですけれども、一億一千万円、保育所児童数百九十六人、障害八千万円、自立支援給付者数四十七人と、かなりの金額、これを合わせて十億三千万円が地域
住民、少なくともここで挙げている利用者としては、七百七十五人に給付されています。それだけではなく、それをさらに支える豊富な
社会資源の存在、下の方にございますけれども、そういうものが大きく底支えをしているわけであります。
今や
福祉サービスは、この
高齢者、児童、障害者の一人一人にとって必要不可欠な
生活支援となっており、地域
住民にとって安心で安全なソフトな
生活基盤となっています。こうした
生活基盤に関しては、税や
社会保険だけで対応するものだけではなくて、
社会福祉協議会、民生
委員、ボランティア、NPO、自治会など、非営利の
住民の活動によって支えるものもありますので、どうか国会の
先生方も、地域
福祉の視点から、
お金の掛かる
福祉サービスばかりでなく、必ずしも
お金の掛からない非営利の市民活動を活発化させる施策の取組にも御理解いただけるように
お願いしたいと思います。
最後に、比喩的に申し上げますと、
福祉は
生活という家の庭に植えた一本の庭木のようなものだと例えることができます。ある
程度大きくなってきますと、水をやったり肥料をやったりしなければ育たないだけではなくて、枯れてしまうのであります。今そういう危険が非常に叫ばれている
社会状況にあります。もちろん、木を健全に育てるには、無駄枝を切り払ったりする剪定も必要ですし、また木が枯れてしまうような過度な、過剰な肥料をやったりしてもいけません。皆で大切に温かい心でもって、時間を掛け、手を掛けて育てなければいけないと思います。そうすれば、やがて花が咲き、実もなり、しかも冬になれば、木の葉も落ち葉となり、庭木の肥やしにもなり、土壌を潤します。その土壌から次
世代のほかの草花
たちも育っていくわけであります。決して手を掛けた分だけ負担が多くなるということではありません。その分給付が増え、サービスの質的向上があったり、その他多くの波及効果がもたらされると思います。いろいろな政策的対立もありましょうが、大所高所から
社会福祉の増進に超党派で取り組めるところは取り組んでいただけることを期待したいと思います。
私は、国民
経済と
社会保障の
関係に関しましては、既に慶応義塾
大学出版会から昨年八月に「
社会保障と
日本経済」という専門書を刊行しておりますが、本日は
国民生活と
社会保障の
関係の一部にあえて的を絞ってお話をさせていただきました。冒頭に申し上げたように、我が国は類を見ない少子高齢・人口減少
社会に突入する中で、国民の意識改革と
社会システムの変換を抜本的に図り、世界に範を示すような公私の総合的な
福祉的取組を国民的総意で行い、早急に対応していくべきだと申し上げ、私の話を終わります。
どうも御清聴ありがとうございました。