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参考人(
明日香壽川君) 東北大学の明日香です。
このような機会をいただき、どうもありがとうございます。
私は三番目ですので、ちょっとダブるところがあるかと思いますが、私なりに、地球
温暖化問題でなぜ
日本が悪役なのかというテーマで発表させていただきたいと思います。(
資料映写)
悪役かどうかというのは周りが決めることでありまして、先ほ
どもありましたように、実際に
日本とアメリカとカナダ、これにロシアが入るといいった場合もあるんですけれど、
国際社会においては悪役と言われているというふうに考えてもおかしくないと思います。
これはNGOが出した広告なんですが、これとは別に、
温暖化の
交渉をずっと時系列的に追っているアカデミックなペーパーでも、
日本は例えばギャング・オブ・フォーの一員とか、そんなような表現が使われています。だから、
日本はよく環境立国なり環境で頑張っているというイメージが国内にはあるんですが、
国際社会あるいはアカデミックな
社会ではそうでもないですよというのは御
認識いただければと思います。
これも、
日本でもちょっと話題になったんですけど、化石賞という、その日で一番
交渉を阻害した国に与えられる賞なんですが、
日本が三つ取ったと。先ほ
ども申し上げたように、自分がどう思っているかではなくて、周りがどう見ているかの
世界でして、少なくとも
日本はこのように見られているというのは、繰り返しますけど、御
認識をお願いできればと思います。
その国が頑張っているかどうかというのは、いろんな考え方なり
計算の仕方なり見方があります。
日本のパフォーマンスも実際それほど良くないと。これは世銀が去年出したレポートの紹介なんですが、
日本の政府の
温暖化政策を
先進国の中で最下位に評価しています。
どうやってやったかというと、国の
温暖化、温室効果ガスというのは五つのファクターで増えると。
一つは、人口が増えれば増えると。
一つは、一人
当たりの所得が増えれば増えると。その
二つは政府が余りコントロールできないんですが、例えば化石燃料の中でどういう燃料を使うか、石炭を使うか天然ガスを使うかというのは変えられますし、
エネルギーの中で何を使うか、原子力を使うか再生可能
エネルギーを使うか、そういうのによってもまた違ってきます。あと、産業構造ということで、GDP
当たりの
エネルギー消費量というのも政府がある
程度コントロールできると。その三つの政府がコントロールできるものとできないものを比較して、どれだけ頑張ったかで
排出量上位七十か国を評価したところ、
日本は上から六十一番目でして、
先進国の中では一番下だったと。
その理由が、非常に単純ですが、余り知られていないんですが、
日本で石炭消費量が非常に増えているんですね。
先進国の中で、これだけの化石燃料の中に石炭が占める割合が増えたのは
日本だけです。なので、
先進国で最下位になったと。
どうして増えたかというと、火力発電所が増えたから。これは電力会社だけではなくて、工場の中での自家発電の発電所も石炭を使うようになったと。結局、石油の代わりに石炭を皆さん使うようになって
CO2が増えてしまったと。
当然、じゃ何で石炭なんですかということで、安全保障の問題もありますし、でも、一番やはり大きいのは安かったからです。ですが、このときに何らかの政策があれば、カーボンに価格が付くような政策があればこのような
状況にはなっていなかっただろうというのが容易に想像できます。
その
日本の問題点、幾つかあるんですが、三つにちょっとまとめてみました。
まず、問題その一。三つの中の
一つのまたその一なんですけれど、実際には、先ほどW
WFの方の
お話にもあったように、
交渉の進展を阻害する側にいる方が多いというふうに考えられると思います。例えば、
バリでも二〇%から四五%の
数字を入れる入れないという話になったときに、やはり入れない方に
日本は回っていたと。
リーダーシップを取るというのは口だけと最初書こうかなと思ったんですけれ
ども、それだとちょっとあれなので、聞こえていると。
どういうことかというと、やはり皆さん考えていただければ分かると思うんですけれ
ども、だれかが
リーダーシップを取ろうというときに、その人が、自分はこれだけ頑張る、だからみんなも頑張ってくれと、付いてきてくれというふうなのが普通、
リーダーシップだと思うんですね。自分はやらないし、自分が何をやるかをあいまいにしながらみんな付いてきてくれと言っても、その人には、みんな信頼していないし、リーダーとは皆さん
認識しないと。まさに
日本は、
リーダーシップを取る取ると言いつつ、自分が何をやるかというのはあいまいにしたままで、ほかの国にこういうふうにやってくださいというふうに言っていると、少なくとも
国際交渉の場ではそのように皆さんが聞こえているということだと思います。
これも、
交渉担当者なり政治家の方も悪いところはあると思うんですが、やはり国民全体の意識が低いんだと正直な話は思います。
ちょっとビデオを見ていただきたいんですが、これはコンテストで一位を取ったビデオなんですが、アメリカで作られたもので、アメリカは六十一億トンの
CO2を出していて、それは十二億頭の象に相当するというようなものなんですが、何を言いたいかというと、
日本はまさにまだ自分には落ちてこないというふうに思っているんですね。ですが、
世界はそうではないと。例えば、オーストラリアでは物すごい干ばつで、イギリス人が来て以来の大干ばつになっていますし、ギリシャでは山火事で三分の一の山がもう燃えてなくなってしまっていると。去年、バングラデシュでは三千人の人が洪水で死んでいると。
だから、
世界では、もちろんそのすべてが
気候変動とは結び付かないんですが、少なくともこれより
温暖化が進めば
気候変動がより大きくなるとそういうような被害はもっと大きくなるというのを皆さん肌で感じていると。ですが、
日本は幸運なことに、何千人、何万人という人が死ぬ
状況ではないのでやはり意識が低いのかなというふうに私は思っています。だから、ほかの国では既にこういう
状況になっているということを申し上げたいと思います。
問題その二なんですが、やはり先ほどのともダブるところはあるんですが、自分が何をやらないと言って、
途上国にこうやってくださいというのがどうしても目立っているんですね。
主要排出国という
言葉を使っているのは
日本だけです。
主要排出国ってどこですかと聞かれて、多分答えられる人は
日本にもいないと思います。というのは、何番目からが主要なんですかという話になりますし、一人
当たりの
排出量はどんどん出していてもいいんですかということになりますし、そういうあいまいな
言葉を使って、かつ裏で
中国、
インドに
責任転嫁しているというのが、そういうふうなイメージで
日本は見られているというのが現状だと思います。
途上国から見て、一人
当たりの
排出量って非常に大きなファクターです。それがすべてだと言っても過言ではないと思います。
〔
会長退席、理事
広中和歌子君着席〕
結局、ここの図でありますように、どうせ
先進国の人が偉いことを言ったって彼らは何も変えない、かつ自分
たちはそのままであると。こういう
状況を変えない限り
世界は変わらないのに、
先進国は自分
たちだけ既存利益を守って、かつ何か問題が起きたときには自分
たちは
お金があるから逃げられるんじゃないかというような、これはあくまでもイメージですけれ
ども、私が
途上国の人と話をすると皆さんこのようなことはずっと言い続けますし、これからも言い続けます。だから、こういう問題を理解しないと、この
温暖化問題に関しては建設的な議論というのは難しいということだと思います。
日本の問題その三ですが、これも今と結局同じようなことを、
途上国の
技術・資金移転の重要性に対する
認識が全く違うと。先ほど、コマーシャルベースでの
技術移転というので、
日本政府はそういう文言を入れてタイでいろいろもめたということなんですけれ
ども、コマーシャルベースだったらわざわざ国連で議論する意義がないんですね。コマーシャルベースというのは、そのままほっておけばそのままで、ガソリンなり石油の値段が高くなればそのまま
省エネが進みますので、そもそもそういう話をする場ではなくて、それ以上の
技術移転あるいは資金移転をするためには何をすればいいかというのを考える場なのに、わざわざコマーシャルベースでやりましょうと言うことは、完全に矛盾しているというか、何が求められているか、何を議論しているかということすら
認識されていないのかなと。
〔理事
広中和歌子君退席、
会長着席〕
今、実は、バンコクでああいう
発言をしたというのは私は知らなかったのでちょっと驚いたんですが、まさにそこにいた人
たちは、何言っているんだというふうにお考えになったことかと思います。
かつ、
日本はいろいろ資金移転をします、資金提供をします、それは何億円ですというような話はよく出るんですが、それも余り
認識されないんですが、やはりよく見ると、既存ODAの付け替え、流用なり代用とか、そういう場合が少なくないんですね。全部とは言いませんけれ
ども、かなりの部分、半分以上がそうだという場合がほとんどだと思います。
途上国の人
たちが求めているのは、既存ODAではなくて、既存へプラスアルファなんですね。プラスアルファを言わないで、そこら辺をあいまいにしてこれだけ出しますよというふうに言っても、追加的ですよと言わないままにこれだけ出しますよと言っても全然
意味がないということです。だから、
途上国の人もばかではないので、この
数字というのは実際
日本のODAの付け替えかどうかというのはすぐ分かりますので、そこを問題にすると。
なぜ付け替えじゃ駄目かというと、
当たり前といえば
当たり前で、
温暖化対策に行くODAが増えれば、例えば病院なりに行く、ほかの目的のために行くODAがなくなると。だから、ODAの意義である
途上国の人
たちの生活を良くするということを考えれば、矛盾するということです。なので、
技術・資金移転、
日本の
技術移転、資金移転は非常に大事だと。
技術移転は特に大事だと。リープフロッキングという今
お話もありましたし、それは大事だと言うんですけれ
ども、かつ、
日本の
技術をこれだけ変えればすぐぱっと変わりますと言うんですけれ
ども、それは全然
途上国の人にとっては、それでって、じゃ、それでどうする、そのためにはどうすればいいのと、その
お金をどうすればいいのというようなことが問題であって、そこで答えを
日本が用意しないと
交渉が前に進まないですし、
日本は全くいつもと同じことしか言わないなと、大事なところになると何も具体的な話はないなというふうに
国際交渉では思われてしまうということだと思います。
これは、もう時間もあれなんですけれ
ども、COP13で、米国は出ていけと言われたんですけれ
ども、それは実は
技術移転をする、しないでもめたときですね。アメリカは
技術移転をしないということにこだわったので、パプアニューギニア代表の人が米国は出ていけと
発言したと。このとき鴨下さんは、実は前の夜までは米国と一緒だったんですけれ
ども、空気を読んで、米国案は支持しませんと言っています。このときに、
日本からもある
意味では裏切られて、アメリカの代表団は嫌々だけど皆さんの言うことに従いますというふうに言っています。だから、もしこのとき鴨下さんが前の夜の
日本政府の代表
交渉団のポジションと同じようなことを言ったら、多分
日本も出ていけと言われている
可能性はあると思います。だから、まさにこういうような
交渉が
バリなりタイでは行われていて、コペンハーゲンでも同じようなことが起こるかもしれませんし、起こらないように我々が何をするべきかということだとは思います。
これは強調したいんですけれ
ども、
技術・資金移転は、
途上国にとって本当にある
意味じゃ最重要条件だと思います。というのは、
途上国もある
程度削減はしなきゃいけないと、
削減するというような文言は入ったんですね。でも、ある
意味では、それは
途上国にとってギブ・アンド・テークのギブだったんですけれ
ども、当然テークが必要だと。それは、
技術移転をしてくれれば
削減するよということなんです。だから、まさにそこの今カードの出し合いが動いていて、そこでどれだけ
先進国がカードを出せるかというのが
途上国を巻き込む一番重要なことです。
どの問題に似ているかという、どの問題というか、エイズの問題に似ているというふうに私は考えているんですけど、どういうことを言いたいかというと、実はエイズも、
途上国にとってエイズの薬は高いと、エイズの薬を何とか安くしたいと。実際、今三百万人ぐらい患者さんがいて、何百万人と死んでいると。実は知的所有権、さっきも出ていましたけれ
ども、知的所有権が入った薬というのは月三万円掛かるんですね、エイズの方が飲む、一日二回飲まなきゃいけないんですけれ
ども。ですが、いわゆる知的所有権のないジェネリックな薬だと三千円で済むと。三千円と三万円というのは
途上国の人にとって非常に違うんですね。まさにエイズのときにも、
先進国政府なり企業は、そんなことをやったら会社がつぶれてしまう、企業収益がなくなってしまうと抵抗したんですけど、何百万人という人の命と引換えに、あと
国際世論が動いて、エイズに関しては知的所有権をある
程度免除するというのがWTOの下で決まりました。
まさに、このような
状況を
気候変動問題、
温暖化問題でも起こすかどうかというのが我々に問われていて、もちろん、すべてただにしろとか、そんなことはとても私も考えていませんし、
途上国の人も考えていないと思います。ですが、何らかの特別な措置、コマーシャルベースじゃなくて、何らかの政府がかかわる、政府だけじゃなくて国民全体がこの
技術移転の問題にかかわってほしいというのが、それで
状況を何とか変えてほしいというのが
途上国の人
たちの真摯な考えだったり、真摯な
意見だと思いますので、まさにこれにこたえるようによろしくお願いしたいと思っています。
最後の写真は、バングラデシュの洪水の写真で、私は一番インプレッシブな写真だと思ってはいるんですけれ
ども、まさにこういうことが日常茶飯事で
途上国では起きていると。ある
意味では
日本は幸せなんですけれ
ども、
途上国のこういう
状況をどういうふうに考えるか。どちらかというと、
日本はいつも国内に目が向かいがちで、はっきり言って票にならない分野だと思うんですけれ
ども、是非、今一番重要なときなので皆さんに御検討をよろしくお願いしたいと思います。
以上です。ありがとうございました。