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参考人(圓山
茂夫君)
明治学院大学法学部の圓山と申します。
私は、兵庫県庁で
消費者行政に二十年間携わりまして、昨年から現職に就いております。本日は、地方自治体の法執行を中心に
レジュメに沿って
意見を述べたいと思います。
まず、地方自治体の
消費者行政の全般についてでございますが、
消費者行政は自治事務に分類されて、地方自治体の裁量に任されています。ここから地方自治体の財政難によって予算や人員は削減の一途をたどっております。
消費者行政は
事業量、職員数の基準がなく、独自
事業として行われております。このため、他の部局より一層の削減
対象となってきました。なので、例えば
消費者行政力の整備水準のような全国共通の目標が必要と考えます。
次に、地方自治体では事務処理特例条例によって都道府県の権限を市町村へ移譲しております。別表一を御覧ください。ここでは縦軸に都道府県、横軸に
法律名を取っております。四角は全市町村に移譲しているもの、丸は市に移譲しているもの、三角は一部の市町村に移譲しているものを表しております。
消費生活用製品安全法、電気用品安全法、家庭用品品質表示法、計量法などは移譲している都道府県が多いです。岡山県は
特定商取引法と
割賦販売法を移譲しております。この
状況は、小さな市町村、つまり少ない職員で多くの仕事を抱えている自治体で執行力があるのかどうか疑問でございますので、見直しが必要だと考えます。
次に、
特定商取引法の執行について申し上げます。
国と都道府県の執行
状況が別表二に掲げております。これは経済産業省が
特定商取引法違反に係る行政処分件数の
推移という一覧表にして公表しているものですが、過去に
業務停止命令又は指示処分をしたことのない県、右端の合計欄にゼロゼロと書いてある県が十県ある点が指摘されております。
特定商取引法の執行には難しさがあることが原因だと考えられます。
その第一は、開業
規制がないことです。
契約書を見ても、悪質な
事業者ほど屋号や偽名や電話代行
業者を使っていて
実態と異なることが多いです。真の
事業者名、経営者、事務所所在地を把握するところから始めなければいけません。第二は、国と都道府県の権限分担の特異性です。
特定商取引法の六十八条と施行令十八条に権限分担の規定がございます。
一方、宅建業法や貸金業法など通常の
規制法令は、言わば営業所、営業地域、行政庁一致型です。つまり、複数都道府県に営業所がある
事業者は国に登録をします。
一つの都道府県のみに営業所がある
事業者はその都道府県に登録をします。つまり、営業区域と監督官庁の
関係が明確です。その監督官庁が処分を執行します。
しかし、
特定商取引法は、言わば違法行為地の行政庁型です。そもそも開業
規制がなくて、監督官庁が定まっておりません。そのため、違法行為を起こした地の都道府県又は国が処分をする規定というふうになっています。
都道府県では、A県に営業所がある
販売業者がX県で違法行為をした場合はX県庁が処分します。A県、B県に営業所がある
事業者がY県で違法行為をした場合はY県庁が処分します。処分の効力はそれぞれX県、Y県の域内のみにとどまります。処分を受けた
事業者は他の都道府県では自由に営業ができます。むなしさに満ちています。
国が処分する場合は、経済産業局の間で協力体制があると聞いています。A県に営業所がある
販売業者がX県で違法行為をした場合はX県を管轄する経済産業局が処分をしますが、A県を管轄する経済産業局に
調査を依頼をしているようです。X県を管轄する経済産業局が処分を行えば全国に効力が及びます。
施行令十八条における国と都道府県の権限分担があいまいです。複数の都道府県で違法行為を行っていると分かっておる
事業者であっても、都道府県が二以上の都道府県の区域にわたるという理由で要請をしても、経済産業局は引き受けてくださいません。
消費者が経済産業局に法六十条の申出をしても、経済産業局から都道府県に移送してこられます。
第三に、
特定商取引法を執行する道府県の職員は、おおむね
一つの係の二、三人です。その
人数で十から二十にわたる多数の
法律事務を兼務しております。事務の例を下に掲げております。一方、経済産業局は、
特定商取引法専任の
取引専門官、係員、指導員などがいらっしゃると聞いております。
第四に、都道府県に
特定商取引法を執行する予算がない、又は少ない点です。国は地方交付税の算定基礎に執行経費を算入しておられますが、県は自由に使えるため担当課まで回ってきません。PIO—NETの端末機の設置は
消費生活センターのみで、
特定商取引法を執行するいわゆる本課には設置されておりません。
第五に、
消費者センターのあっせん率の低下により、違反事案の聴き取りが不十分になってきています。苦情件数の増加に
消費生活センターの相談担当者の
人数が追い付かず、簡単なアドバイスが中心になり、あっせんを行う率は以前の九%台から五%台に低下しております。この結果、違反行為の詳細が記録され、確認されている事案が減少し、執行の基礎となる資料として使いにくくなっています。
この
状況に対して提案がございます。
第一は、開業
規制、
登録制を行うべきだということです。
登録制で
事業者の
実態をつかみ、違法行為をしたら登録取消しを行うことが有効です。
これに対しては行政コスト論の反論がございますが、昨年度、二〇〇七年度の全国の
消費生活センターの苦情件数を大ざっぱに見ますと、
特定商取引法の
対象で、少なく見積もって二十八万件の苦情が寄せられています。苦情の解決とPIO—NET入力に一件三時間掛かるとして試算をすると八十四万時間掛かります。常勤の職員が年二千時間勤務として割り算をしますと、自治体では四百二十人分の人件費が掛かっていることになります。
登録制の不採用は、経済産業行政の事務コストを自治体の
消費者行政に転嫁していると言わざるを得ません。行政全体で見るとコスト増になり、また
消費者被害の増加ももたらしています。苦情処理に掛けている
人数の半分でも、例えば二百十人で登録事務と監督事務を行い、その結果、苦情が半減すれば
消費者被害も半減するという結果をもたらすと思います。
消費生活センターは、
特定商取引法の苦情処理の負担が減った分を製品事故などに能力を振り向けられると思います。
第二の提案は、都道府県をまたがる事案の執行を国に一元化することです。
A県に営業所がある
販売業者がX県で違法行為をした場合は国が処分する、A県、B県に営業所がある
事業者がY県で違法行為をした場合は国が処分する、A県に営業所がある
事業者がA県で違法行為をした場合は県内のことですのでA県庁が処分をするという形がいいと思います。X県、Y県の
消費生活センターからA県、B県を管轄する経済産業局に違反事案の
情報が伝わる
仕組みが必要だと思います。
第三に、
消費生活センターの体制強化が必要です。
法執行は、苦情受付時の詳細な聴き取り、
事業者、
消費者双方の言い分を聞くあっせんが基礎的な資料になります。これらを実施する
消費生活センターの体制強化が必要です。
次に、
割賦販売法の執行で予想される問題について申し上げます。
割賦販売法改正後の
個別信用購入あっせん業者の監督官庁の決め方は、通常の法令と同様の方法が予想されます。つまり、
カードを発行している大手の
クレジット業者は、既に総合で国の登録を受けております。中堅の
個別信用購入あっせん業者は、複数都道府県に営業所を持っていらっしゃるでしょうから国に登録することになるでしょう。営業所が
一つの都道府県にとどまる
個別信用購入あっせん業者は都道府県に登録することになるのではないかと思われます。しかし、現在のアウトサイダー
業者、つまり悪質な
加盟店を抱えている
業者は、ほとんど営業所が一都道府県内にとどまるというところにありますので都道府県登録になりそうです。
しかし、通常の法令は、言わば営業所、営業地域、行政庁一致型であるのに対し、
割賦販売法については営業所と営業地域の不一致型です。A県のみに営業所がある
クレジット業者がA県庁に登録するとしても、
加盟店は全国にわたりますので、全国的に違反行為が発生する可能性があります。しかし、監督処分を行うのがA県庁になってしまいます。
割賦販売法の執行が最も弱い県に悪質
クレジット業者が移転し、全国で営業を展開するおそれがあります。しかし、その監督は自治事務なので、その県の裁量に任されれば違法行為が抑止できない懸念がございます。ここは施行令の決め方となってくるのでございますが、少なくとも
クレジット業者の
加盟店が複数都道府県で営業する場合は、国の登録、監督処分とすべきだと考えます。
最後に、四番目でございます。
特定商取引法と
割賦販売法の
改正で残された課題を申し上げたいと思います。
まず、全般的に今回の
改正は、次々販売、不適正与信、過剰与信への対応としては大きく
評価いたします。速やかな成立、施行を望みたいと思います。
ただ、残された課題として、第一に、国際
クレジットカードシステムを
利用した決済代行
業者の
規制が必要と考えます。決済代行
業者とは、外国の
カード会社の
加盟店となって国内の
業者に決済
手段を
提供しております。外国を経由することで国内の
カード会社の
加盟店管理を潜脱しております。
別表三にフローチャートを掲げてございます。国内の
消費者との
取引がぐるっと外国を回って国際
カードシステムで代金請求がなされています。
こういった決済代行
業者のホームページでは、住民票と印鑑証明でオーケーなどと提携
業者を募集しています。国内では
クレジット会社の
審査に合格しないような
事業者をこのシステムに迎え入れています。
海外の
カード会社の
加盟店となって
海外で
カード売上げを計上し、受け取った立替金を提携
業者に送金しています。こういった決済代行
業者の提携
業者には、出会い系サイト、内職商法
業者、連鎖販売
取引業者、パチスロ攻略法
業者などが現れています。この種の苦情は三、四年前から増加しておりますが、チャージバックによる解決が困難な事例が多いです。
今後は一層、
割賦販売法の
改正と不適正与信の禁止によって、
クレジット会社の
加盟店を打ち切られた悪質
業者が決済代行
業者の提携
業者となるという抜け穴となるであろうと思われます。決済代行
業者は
割賦販売法改正案における立替払取次
業者に該当します。早急な
実態調査とともに、
認定割賦販売協会におかれましては、
会員に加入させて、指導、勧告をお願いしたく存じます。また、決済代行
業者が提携している
事業者の不適正与信を禁止する
規制が必要であります。
第二に、
特定商取引法関連です。
特定商取引法のクーリングオフの使用利益に関する規定が九条五項の
改正案として出ております。現行の
訪問販売の、クーリングオフをしたときは
提供された役務の対価の
支払を請求することができないに、
商品を使用したときの使用利益を請求することができないが追加されました。これは現在の解釈に沿った確認的な規定です。
しかし、電話勧誘販売、連鎖販売
取引、特定継続的役務
提供、
業務提供誘引販売
取引のクーリングオフ規定は従前のままで、
改正されないのは疑問です。
訪問販売と同様の法解釈をお願い申し上げたいと思います。
第三に連鎖販売
取引の
規制強化と、第四に
業務提供誘引販売
取引の中途解約、清算規定の導入がございますが、時間の
関係で項目のみにとどめさせていただきます。
今後は、
特定商取引法の全般にわたった御
改正をお願い申し上げたく存じます。
私の
意見は以上です。本日はありがとうございました。