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参考人(
武藤敏郎君) まず、プライマリーバランスの黒字化
目標でございますが、財政の健全化を図るということについては
金融面からも是非必要なことであるというふうに思っております。財政のサステナビリティーというものに仮に疑義が生じますと、それはいろんな形で国債金利等に影響をし、それが
マーケットの不安定な形になっていく
可能性があるわけでございまして、財政のバランスを目指すというそのこと自身は大変望ましいことだと思います。
ただ、どのような形でそれをいつまでにやるのか、その実現のための手段は何かということになりますれば、それは財政の問題として御
判断なされることであろうと、
基本的にはそのように思っております。
それから、
財務省に私が在籍していた当時、国債発行が巨額に上ったという話がございました。当時、一九九〇年代バブル崩壊後の
日本経済の姿、これを思い浮かべてみますと大変な
デフレスパイラルの縁にあったと。
企業は三つの過剰、設備の過剰、雇用の過剰、債務の過剰を抱えておりましたし、民間
金融機関は大量の不良債権問題を抱えておりました。こういう中で
経済が低迷したときに財政としてどうしたらいいか、この財政
政策の大きな、何と言いますか
課題があったわけでございます。
財政
政策につきましては、もちろん当時の政権の御
判断が最終的なものを
決定するというふうに思っておりますが、私どもとしてはあの当時財政出動が必要ということであるならば、どういう財源の調達が可能なのか、どういう規模がどの程度の効果を持つのかということを
分析した結果、今のようなことになったわけでございます。財政出動を余儀なくされた
状況があったというふうに思っております。
しかしながら、なかなかこの財政出動が効果を発揮しなかったということがあろうかと思います。それは、巨額な不良債権が民間にあるときには、財政出動で言わば呼び水的な
政策を取っても、バランスシートに毀損があるという
状況の中ではなかなかこの火が燃え広がらないといいますか、
経済の広がりをなかなか持たなかったということだと思います。しかし、ある程度のめどが付いたところで、この国債発行額に三十兆円の枠をはめて国債発行の量の制限をするようにいたしました。ここには健全財政に向けての
考え方があったと思います。
一方、
日本銀行が長国の借入れ一・二兆円を二〇〇二年に確かに行いましたが、これは今日でも続いておりますけれども、円滑な
資金供給という
金融調節上の
理由でございます。決して財政支援のためにやっているわけではありません。
といいますのは、
成長通貨というものを提供するために、やっぱり長期国債の買入れをするというのは、日銀のバランスシートを考えた場合、負債が長期であるならば資産を長期で保有するというのは合理的な選択であります。
アメリカのフェデラル・リザーブにおきましても、長国というのはしかるべく、日銀よりもはるかにシェアの高い量を保有しておるわけでございます。
その後、私が副
総裁に就任しましてから、この日銀の長国買入れをどうするかという
議論があったことがございます。九人の
委員が全員これを
維持するということでございました。財政の観点からこれを引き続き
維持すべきだといった
議論をしたことはございません。また、そのようなものではないというふうに初めから考えられた
政策であったというふうに思います。
それから、川上
インフレ、川下デフレというお話がございました。
確かに、
企業物価は三%あるいは四%近く
上昇しておりますし、消費者
物価はなかなか
上昇いたしません。これにはいろいろな
理由があろうかと思います。一つ一つ時間の制約があるので詳しく申し上げられませんけれども、厳しい国際競争というものもありましょうし、なかなか一般の
国民が川下の
物価を引き上げるというようなことに対して受け入れ難い環境がある、
企業の方に価格支配力がなかなかないといったようなこともあろうかと思います。
このような
状況の中で、
中小企業におきましては、確かに、原材料は
海外の原油あるいはその他の原材料価格が
上昇する割に自分たちの製品の価格に転嫁し難いという
状況から、
中小企業の
収益環境はなかなか厳しいものがあるということでありまして、この問題は非常に奥の深い、非常に深刻な問題であるというふうに受け止めております。
今の消費者
物価が、一月は〇・八%ということでありますが、そのほとんどは原油価格なり食料品価格の
上昇でありました。やはり、需要というものがきちっと付いてこないと、この
物価がなかなかプラス領域になってこないということがあろうかと思います。
そのためにはどうしたらいいかということになれば、やはりこの現在の緩和的な
金融環境を継続して、今デフレかどうかということに対してはちょっと
議論がありますけれども、少なくとも
デフレスパイラルの縁にあるとは思っておりませんが、緩和的な
金融環境を
維持することによって持続的な
経済成長を図っていくというのが重要な
金融面の
政策かというふうに思います。
金融経済の肥大化というお話がございました。
確かに、あらゆるものが
金融商品化される、土地でありましてもREITという形で
金融商品化されていくということであります。このことは大変大きな
意味を持っておりますけれども、その流れ自身は
マーケットの流れであって、私どもは、それを止めるとか、おかしいとか、そういうことを言うこと自身なかなか難しい問題があると思います。
要するに、実態が、そういうものの需要があれば、そういうイノベーションがあれば、そういうものが広がっていく、それが
マーケットでもって取引されていくと。ただし、その取引される
マーケットの商品の
信用というものはどのように確保するかということについては、まさに今サブプライムローン問題が起こっているような、ここにも大きな問題があると私は思っております。
確かに、肥大化したこの
金融商品の構造というものがサブプライムローン問題というものに結び付いて、それが
国際金融市場を非常にボラタイルなものにして、結果的に
日本経済に対しても悪影響を及ぼしつつあるということは事実だろうと思います。この問題につきましては、相当、今後の
アメリカ経済の
動向、
世界経済の
動向、
国際金融市場というものを
分析しながら、必要があれば機動的な
政策対応をしていくということで我々としては十分に注意しながら
分析をしていきたいと、このように考えております。
すべてにお答えできたかどうかはちょっと分かりませんけれども、時間の関係もありますので、以上でお答えとさせていただきます。