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重村参考人 委員長並びに
委員の皆様、本日は、
北朝鮮に関する
拉致特別
委員会で
意見を述べる
機会を与えられましたことを感謝しております。短い時間でありますけれども、
拉致問題
解決のために、
委員の皆様の参考になるお話ができればと考えております。
さて、最近の
北朝鮮をめぐる
情勢は大きく変化しました。その変化をもたらしたのは、
韓国での
李明博大統領の当選です。それに、
北朝鮮の国内事情の悪化です。
李明博
政権の誕生で、
韓国と
北朝鮮の
関係は緊張しています。新
政権になっても
南北関係に変化はない、
南北交流は拡大するとの見通しも語られましたが、事実上これは間違いでした。シンガポールで行われた
米朝の話し合いはなお成果を生み出していません。また、昨日の
韓国の国
会議員
選挙では、与党
ハンナラ党が過半数を獲得しました。来週には
米韓首脳会談が行われます。二十日と二十一日には
日韓首脳会談も行われます。朝鮮半島をめぐる国際
関係は激変しようとしているというのが
現実です。
結論を先に言いますと、
北朝鮮は、内外ともに厳しい
状況に直面しています。
北朝鮮については、
北朝鮮の内部情報や
平壌の内部事情を
確認せずに、根拠を示さない論議がしばしば行われてきました。また、
北朝鮮を取り巻く内外の
情勢を理解せずに、根拠のない
主張がよく見られます。例えば、新聞報道や政治家の発言に、しばしば、
日本外交行き詰まりという表現が見られますが、これは、大きな間違いか、
北朝鮮の工作に乗せられていると指摘せざるを得ません。外交的に行き詰まっているのは
北朝鮮であって
日本ではないという事実がわかっていない。
また、
北朝鮮と話し合えとの
主張があります。これはもっともな
主張のようですが、話し合いを拒否しているのは
北朝鮮であるという事実を忘れてはならないのです。
日本は、問題は話し合いで
解決するとの
立場を明らかにしていますし、
拉致問題について話し合うのならいつでも応じるとの
立場を示しています。
経済制裁は、
北朝鮮との
対話を拒否するために行っているのではなく、
対話を引き出すための外交カードとして使っているわけです。
ただし、
経済制裁は、
経済制裁する、すると言っておどして
譲歩をとるのが一番の
目的なんですが、それができない場合に、
経済制裁をした以上は、途中で成果もないのに
経済制裁を
解除すれば、結局は
北朝鮮側の理に乗せられるということになる。
経済制裁をした以上、
一定の成果が出ない限りは続けるしかないというのが、これは
経済制裁の基本的な戦略でありまして、理由もなしに
解除するのは、結局は
日本外交の敗北だということになるだろうと思います。
さて、まず
平壌の内部
状況について御
説明してみようと思います。
北朝鮮は、ことしの新年
共同社説で、一昨年の
核実験について全く言及しませんでした。これは異例なことです。昨年は大々的に
核実験の成功と抑止力に言及しました。
核実験の成功は金正日総書記と軍の偉大な成果であるはずですが、それに全く言及しなかった。これは、
核実験をめぐる軍の
立場が後退したか、内部での評価に変化があった事実を示していると言わざるを得ません。
北朝鮮は二度と
核実験ができない
状況を理解していると見るべきではないでしょうか。
これはまた、軍の発言力が以前よりもやや低下している事情を示唆していると思われます。
平壌の内部は、現在、四人の実力者とその勢力が勢力争いを展開しており、不安定な
状況にあります。その実力者は、中国の全面的な後押しで復帰した張成沢行政部長と、金永南最高人民
会議常任
委員長、呉克烈党作戦部長、李済剛組織指導部第一副部長の四人です。この勢力争いは今もなお続いています。このため、中間幹部の人事の入れかえがしばしば起きています。中国は張成沢部長の指導力を拡大させようとしていますが、他の勢力の反発や妨害もあり、期待どおりにはいっていません。
北朝鮮は、今最大の危機に直面しようとしています。まず食糧が足りません。さらに外貨が極端に不足しています。エネルギーもありません。石油が足りません。
石油は、昨年のレベルでいきますと、軍事用に使える石油は三十万トンしかありません。全体で、中国からの原油の輸入合わせて百六十五万トンしか昨年は輸入できていません。
日本の自衛隊が一年間に使う油の量は百五十万トンですから、
北朝鮮全部で、国軍から産業から全部合わせて、自衛隊が使っている
程度の油しかないというのが
現実なんですね。
食糧に関しては、昨年の収穫は決してよくありませんでした。最低でも五百万トンが必要なんですが、四百万トンにも達しなかったと言われています。この結果、ことしの米の値段は昨年の倍に値上がりしている。これはやみ市場ですね。この価格の上昇が食糧不足を雄弁に物語っている。
最大の問題は、
韓国の
政権がかわり、支援が来なくなったこと。
李明博大統領は、
核開発を放棄しない限り経済支援はしないと明言しています。人道支援は行うと言っていますが、数量は調整されます。
韓国では、過去十年間に、
政府、民間合わせて約一兆円の
北朝鮮支援が行われたと言われています。これまで
北朝鮮が
日朝交渉に応じなかった理由は、
日本側が
制裁をしたからではなく、
韓国からの多額の援助があったためなんです。
日本の
経済協力に期待する必要がなかったからなんです。特に昨年は、
盧武鉉大統領が任期の末期ということで、
政府資金だけで一千億円を超える支援を
北朝鮮に行っています。
北朝鮮の国家予算は約四千億円しかありません。
韓国からの無条件の支援が
北朝鮮を支えたと言っても過言ではないのです。それがことしから激減します。
北朝鮮は相当な危機に直面します。
李明博大統領は、
北朝鮮が核兵器を放棄すれば、十年後には、
北朝鮮の一人当たりGDP、国内総生産を三千ドルにするという復興計画を発表しました。しかし、
北朝鮮はこれに反発し、軍事的行動を辞さないと発言しています。しかし、
北朝鮮は軍事行動とは言っていない、
北朝鮮が言っているのは軍事的行動であるというところにトリックがあるんです。
南北関係はしばらく緊張するでしょう。
北朝鮮はいつもの瀬戸際外交やおどし外交を展開しようとしていますが、実際には効果がないだろうと思いますし、
日本もこうしたおどしに乗せられるべきではないだろうと思います。
李明博大統領は、
韓国の
拉致問題や人権問題についても、
北朝鮮にはっきり
立場を表明しました。また、
日本の
拉致問題
解決にも積極的に
協力する意向です。これは、これまでの左翼
政権とは全く異なる
立場で、
日韓の
協力が推進されると言っていいでしょう。金大中、
盧武鉉政権の十年は、
米韓関係は最悪でした。また
日韓関係も悪化しました。
李明博大統領の登場で、
日米韓三国は、同盟と
協力関係を十年ぶりに回復することになります。
日米韓三国は、
北朝鮮に対し、
協力した外交を展開することができます。これまで、
韓国が
北朝鮮と
協力して、
日本と
アメリカに対抗する姿勢を見せたために、
日本の
拉致外交も、あるいは
アメリカの対
北朝鮮外交も困難に直面してきました。
日本は、李明博
政権の登場という絶好の
機会を生かし、
日米韓三国の連携を強化し、
拉致問題の
解決に取り組むべきです。ブッシュ
大統領はもとより、新しい
アメリカの
大統領に対しても、
日本の
拉致問題が
解決しない限り
アメリカも国交正常化しないという方針を要請すべきです。
さて、最近の
北朝鮮の
情勢をめぐる情報の中で、金正日総書記の健康状態、あるいは健在なのかというのが常に問題にされますが、
関係各国や各国の情報機関は非常に関心を持って情報を集めているわけですけれども、その中で、健康悪化説や影武者説の
可能性も指摘されている。金正日総書記に影武者が存在する事実は、十年以上も前に既に
確認されています。数人の影武者が存在します。実際に、数人の
日本人が影武者と面会し、
確認もしています。また、最近の金正日総書記と八〇年代の金正日総書記の声紋が異なる事実も何回か
確認されています。影武者の存在とその活動はにわかには信じられないかもしれませんが、多くの疑問が提示されているのは事実です。
さらに、金正日総書記が八〇年代に何度か東京の赤坂にひそかに姿を見せていた事実も、
関係者の証言で明らかになっています。赤坂にあったレストランシアター、コルドンブルーというのがあったんですが、このコルドンブルーに、一九八二年から八九年まで毎年ひそかに出入りしていた事実が、当時の
関係者の証言で
確認されました。これは本になって出版もされています。これは明らかに不法入国でありました。
信じられないかもしれませんが、
北朝鮮は、
拉致を初め予想外のことを行ってきました。
北朝鮮に関しては、予想外のことが何でも起こり得るというのが
現実なわけです。
さて、
北朝鮮は、
南北関係が悪化すると
米朝関係改善に乗り出し、
米朝関係が好転しないと
日朝対話を始めるという振り子外交をこれまでも展開してきました。シンガポールでの
米朝会談も、
南北関係の緊張を
米朝関係進展で乗り切ろうとする作戦の一環と言わざるを得ません。うまくいくかどうかはわかりませんが、
ヒルさんはうまくいきそうだと言っているんですが、大体
ヒル国務次官補が言ってきたことはこれまで当たったためしがない。我々はうそつきおじさんと言っているんですけれども、国務省の外交官の中であんなに能力のなかった外交官は、私は取材した中で見たことがないと言わざるを得ません。ともかく、
北朝鮮は、次はいずれにしろ
日朝対話に
動き出さざるを得ないという国際環境にあるということです。
現在、
北朝鮮には
日本担当の党書記や党高官は任命されていません。
日本と話し合う準備ができていません。
日朝交渉を担当している
宋日昊大使は高官ではありません。
北朝鮮では、金正日総書記に直接面会できない人物は高官とは言わないのです。
ともかく、
日本は焦って手を出すべきではないというのが
現実です。問題を
対話で
解決するとの
立場を明確にし、原則を譲らないこと。政治家の中には、パフォーマンスで
平壌に行ったり、
北朝鮮の当局者と会談するような方がおられますが、これは
日本外交を最も危うくする
行為だと言わざるを得ません。
北朝鮮による
日本の国論や外交分断に利用されるだけなんです。政治家の皆さんには、過去に
北朝鮮とかかわった政治家の中で、
国民に尊敬され、政治生命を全うした政治家はいないという教訓を十分に学んでいただきたい。
時間が来ましたので、終わります。(拍手)