○
坂参考人 弁護士の坂でございます。
現在、日本弁護士連合会の
消費者問題対策
委員会の副
委員長をしております。本日は、発言の
機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
日本弁護士連合会は、今回の
保険法の
見直しに関して、昨年九月に
保険法の
見直しに関する中間試案についての
意見書、さらに、ことし二月に
保険業法の
改正に関する
意見書を公表しております。
本日の私の
意見は、これらの
意見書をも踏まえつつ、主として
消費者保護、
契約者ら
保護の
観点から述べさせていただきます。
まず申し上げたいことは、
保険金不払いの問題や
保険に関するトラブルの現状を踏まえた御
検討をぜひお願いしたいという点であります。
先ごろ報道されましたところを見ましても、
国民生活センターが集計した苦情相談の件数は、二〇〇七年度において一万六千件を超える見通しである、三年間で倍近くになっている、こういう報道がされております。また、
平成十七年以降、
生命保険会社における
保険金の不適切な不払いを初めとして、
生命保険会社の
保険金等の
支払い漏れ、
損害保険会社の付随的な
保険金の
支払い漏れ、第三分野における不適切な不払い等が次々と明らかになってまいりました。
こうした問題は一時的な問題であると見る向きもあるようですが、これらの問題は、
保険商品の特性や
保険の現状に基づく構造的な背景を持った問題であることを十分御
検討いただきたいというふうに
考えております。
もともと
保険商品は目に見えない商品ですので、
契約者、
消費者らにとって
理解が容易な商品ではありません。そして、近年、その商品
内容はますます複雑化、多様化しており、
消費者、
契約者らにはますますわかりにくくなっております。また、
保険会社は、
保険商品をみずから開発するなど
保険について十分な知識や経験、情報を蓄積している企業体であるのに対して、多くの場合、
消費者、
契約者らは、専門的な知識を有しない個人や中小企業、団体であります。一連の不払い問題はこうした構造を背景としているものであり、決して一時的な問題と見るべきではありません。
こうした問題は、多くは
保険業法において
対応すべき
部分もありますが、しかし、
保険契約法においても、こうした構造的な問題を踏まえて、
保険契約者等の
保護を
検討すべきであります。今回、
法案の
提案理由とされている
保険契約者らの
保護も、このような構造的な背景を踏まえてとらえられるべきものと
考えます。
このような
観点から、今回の
法案において新しく
告知妨害に関する
規定が
整備されたことは、
消費者、
契約者らにとって歓迎すべきことであります。立法とともに、ぜひ
保険会社各社においても、これを一つの契機として、さらなる業務改善が行われることを期待したいと
考えております。
次に、今回の
法案においても、
保険契約法における
基本的な
ルール、
保険会社が適切な危険測定を行うための
告知義務に関する
規定や、
保険金の不正
請求等のモラルハザードに
対応するための免責事由や、重大事由
解除に関する
規定が設けられております。
これらは、
保険集団を適切に構成し、
維持していくための大切な
規定ではあります。しかし、一歩間違うと、不当な不払いの道具になりかねません。実際、
保険金の不適切な不払いの事例においては、
告知義務違反や重大事由
解除を乱用する形で不適切な不払いが行われてきました。
保険契約者側にとって、
保険事故が発生したときに適切かつ確実に
保険金が支払われることは極めて重要であります。このことは、
保険の本質的な機能です。今回の
保険法においても、
制度が不当な不払いの理由として乱用されることがないよう配慮の上、モラルハザード防止の必要との
バランスを適切にとる必要があります。
この点について、
法制審議会保険法部会の議事録を拝見いたしますと、
解釈に関する議論の中で注目される確認が幾つか行われております。
一つは、
告知義務違反についてであります。
契約者側が故意または重大な過失によって
告知義務に違反した場合には、
保険金は支払われません。
法制審議会保険法部会では、この重大な過失の
意義について、これは故意に非常に近い場合である、故意と言われても仕方がないような注
意義務違反が非常に甚だしい状態、こういう限定された場合を指すものであるということが確認されております。
また、免責事由について、
保険契約者らが故意または重大な過失によって
損害を発生させたとき等には
保険金は支払わないとされていますが、この免責事由における重大な過失についても、故意に非常に近い、こういう
解釈を前提とするものであるということの説明が行われております。
保険契約者らの
保護を図り、また
制度の乱用を許さないためにも、これらの
解釈は極めて重要というふうに
考えます。
次に、
法案の
検討に際して、なお御留意、御
検討をお願いしたい点を四点申し上げたいと思います。
第一に、
支払い時期に関する点です。この点は、ぜひ慎重に御議論いただきたいと
考えております。
法案では
契約者保護の
規定の一つとして
提案されていますが、
提案の
規定は、一歩間違うと、かえって
契約者保護を後退させるおそれがあるとの心配があります。
法案では、
保険金の
支払い時期について具体的な
規定を置かず、相当な
期間という抽象的な基準しか定められておりません。また、この相当な
期間に関する立証
責任は
保険契約者側が負うとされているようであります。この条文を
保険契約者側が使いこなすことは、必ずしも容易ではありません。
他方、
保険相談の現場では、
保険会社側が
調査と称してなかなか
保険金を支払ってくれない、こういう声を耳にします。
こうした心配を払拭するためには、
保険法において、
支払い期限についての明確な期限を定めることが望ましいと
考えております。この点、日本弁護士連合会は、昨年秋の中間試案に対する
意見として、三十日という
期間を明確にすることを求めていたところであります。
第二に、重大事由による
解除についてです。
保険契約者らにおいて
保険会社の信頼を損なう重大な事由が生じたときには、
保険会社は
保険契約を
解除し、
保険金を支払わないとすることができるとされています。
この重大事由
解除について、
損害保険を例にとりますと、これは三十条一号、二号に定められておりますけれ
ども、ここに具体的な
規定が置かれております。
保険金取得を
目的として故意に
損害を発生させた場合あるいは詐欺による
保険請求の場合に、こうした重大事由
解除ができるという定めが置かれています。これに加えて、同条の三号では一般的な包括
規定が置かれています。この三号については、定めが抽象的であることから、乱用が心配されます。このような包括
規定を設けるのであれば、一号あるいは二号に匹敵するほどの重大な事由に限定する表現とするべきであります。あるいは、最低限その
趣旨を
解釈で明らかにしておくべきと
考えます。
第三に、今回の
法案では、被
保険者が
同意をしないまま
保険契約が締結された場合や、
同意による
契約でも
保険契約時とは状況が変化した場合に、被
保険者は
契約の
解除請求ができるとされました。
この
規定は、被
保険者の自己決定権の尊重、モラルハザードの防止の
観点から、非常に重要な
規定です。しかし、この
規定が十分にワークするためには、最低限被
保険者が
保険契約の存在を知ることが必要であります。したがって、被
保険者の
同意を得ずに
保険契約が締結された場合には、
保険会社が被
保険者に対してこれを通知するなどして、被
保険者に
契約がされたことを知る
機会を確保するべきであります。
なお、今回の
法案は、現在
商法の一部に
規定されている
保険契約法を、
保険法という単行法にしております。こうした
法律の形式により、
消費者契約法の
適用関係は、これまでとは
基本的に変わるものではないと
考えられます。この点は、
法制審議会保険法部会では議論の前提となっていたところかというふうには
考えますけれ
ども、立法においても念のために明らかにしておくべきと
考えます。
次に、今回、
保険法の
見直しに伴い行われてきた
保険業法の
見直しあるいは
保険監督について、三点
意見を述べさせていただきます。
第一に、
保険金の迅速かつ適切な
支払いを確保するためにも、
保険業法において、
保険会社が
保険事故について迅速かつ適切に
調査を行うべき義務を負っていること、これをぜひ立法で明確にすべきと
考えます。
第二に、
保険法の
見直しにおいても論点とされているところですが、未成年者に
保険を掛けることの是非についてです。
この問題は、
保険業法ないし
保険監督において対処を
検討するとして、
保険法では特段の
規定を設けないということにされました。
金融審議会第二部会の報告では、「未成年者の死亡
保険についてはモラル
リスクが高いものがあるため、何らかの
対応を図るべきであるとの
意見が大勢であった。」と報告されているところであります。
この間の経過からも、これは
保険業法で
対応される問題かとは思いますが、未成年に高額の
保険を掛けることは利益相反の問題があり得るということも指摘されているところであり、
保険業法ないし
保険監督において早期に適切な
対応が行われるべきであると
考えます。
第三に、ことしの一月の
金融審議会第二部会報告では、
保険金の
支払い、解約返戻金、
保険会社の説明義務等、これらの重要な論点について引き続き
検討すべきであるとされております。こうした重要な論点については、早期に議論を具体化すべきであると
考えます。
最後に、
保険業界の皆さんにもこれは御
検討いただいている点かと思いますけれ
ども、
法制審議会でも議論になった点について、一点述べさせていただきます。
責任開始前発病不担保条項についての問題です。
この
責任開始前発病不担保条項は、
保険会社の
責任開始前に発病しているものについて
保険金は支払わないとする条項であります。この条項については、若干問題が生じております。
契約時に、当時本人が症状についての自覚症状を持っていなかった場合、こういった場合についても、後で
保険金が支払われないということが言われる。あるいは、
契約時に当時の症状について正しく
告知していたところ、
保険を引き受けてもらったので安心をしていた。ところが、
保険金を
請求した段になって、
告知義務違反はないけれ
ども、
責任開始前発病不担保条項により
保険金は支払えませんよと言われる。あるいは、
告知をしなくても入れますとされている
保険で、
保険金が出ると思って加入をしたのに、この条項を理由に、後に
保険金が支払われないという事態に遭遇する。こうした事態はいずれも、
保険契約者の期待に反することになれば、
保険契約者にとっては酷な結果となるものであります。
この問題については、
法制審議会保険法部会では、問題がある点では
認識は共有されたものとお聞きしておりますが、
保険法で一般的な
規制を行うことは技術的に難しいとの議論があり、また業界の方でも適切な
対応を行うという発言がありましたことから、
保険法に盛り込むことは見送られております。この点につきましては、ぜひ業界の適切な
対応を求めるとともに、
保険業法、
監督法においても適切な
対応を求めたいと
考えております。
以上です。どうもありがとうございました。(拍手)