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梶井参考人 梶井でございます。
委員長が
忌憚のない
意見をということでございましたので、私は、この
民主党の出された
法案に即しまして、遠慮のない
意見を申し上げてみたい、こう思っております。
お手元に「
年頭所感」という変なのをお配りしてあるかと思います。これを後でお読みいただければと思うんですけれども、今、
日本の
農政が
最大の
ポイントを置いて取り組まなきゃいけない
課題というのは、今お配りしましたものの冒頭に、国際的な
穀物需給が大変な
状況になっているということを書いておきましたけれども、この
状況の中で、
食料自給力をいかに
強化するか、
食料自給率をいかに
引き上げていくか、ここのところにやはり
農政の
最大の力点を置いて取り組むべきではなかろうかというふうに私は思っております。その点について今の
農政はちょっと頼りないところもございますので、そういう
課題にこたえるという
意味でいいますと、今回の
民主党の出されました
農業者戸別所得補償法案は、まさにその
課題にこたえるという
意味で私大変高く評価しております。
その趣旨を、お配りしましたものの九ページ
あたりからちょっと書いているんですけれども、この
戸別所得補償法案第一条「
目的」で、これも改めて私が読み上げるまでもなく
皆さん御存じのところですが、「
食料の
国内生産の
確保及び
農業者の
経営の安定を図り、もって
食料自給率の
向上並びに
地域社会の
維持及び
活性化その他の
農業の有する
多面的機能の
確保に資することを
目的とする。」ここで、今の
最大の
日本農政の
課題にこたえるためにやるんだということが明確に書かれている。その点で、まず第一に私がこの
法案に賛意を表する次第なんです。
そのために一体何をやるかということで、第三条で、
主要農産物の
種類ごとに国、
都道府県及び
市町村、
行政の方で
生産数量の
目標を設定するんだということがはっきり書かれております。この中には今問題になっております米の
生産調整の
目標なんかも当然入るんだと思うんですけれども、私は、この点が非常に大事な点だと思うんですね。
そして、国、
都道府県及び
市町村は、前項の
生産数量の
目標を設定したときは、遅滞なくこれを公表し、そしてその達成に努めなきゃいけないということが第三項の方に書かれております。
この点が非常に大事なところでありまして、今、
生産調整というのは非常に大事な
課題として取り組まれているんですけれども、この
生産調整について一体こういうふうな
政策目的というものが明示されてきたのか、これが非常大事な点だと思うんですね。その点に関しまして、私、最近の
農政で大変な
政策目的の認識の
変化が起きたんじゃなかろうか、こう思っております。
といいますのは、昨年暮れ以来、これは自民党の
先生方の大変な御
努力があったと思うんですけれども、
品目横断的経営安定対策なり、あるいは
米政策改革のあり方について大変大きな
見直しが行われております。
見直しが行われている中で、私、
農水省のお
つくりになりました
平成二十年度の
農林水産予算の
説明を拝見しまして、大変びっくりしました。昨年の八月ごろに出された
概算要求の
説明書と物すごくさま変わりしておりましたですね。これはもちろん
先生方もお気づきになっていらっしゃるかと思うんですけれども、
概算要求の
段階で
農水省がお
つくりになった
予算の
説明では、
米政策改革の
目的というのは
需給調整、
需給調整は何のためにやるんだということは、これは望ましい
米づくりのためにやるんだ。望ましい
米づくりというのは、
農業者、
農業者団体が
市場の
状況を敏感に感じ取って、それに応じた
米づくりをやっていく、それを
つくり上げる。そのために、
農業者、
農業者団体主体の
需給調整システムとして
生産調整に取り組むんだということが書かれておりました。
米政策改革大綱以来そういう
考え方が強調されてきていたんですけれども、今回新しく出されました
平成二十年度の
農林水産予算の
米政策改革の
説明のところには、その言葉は
一つもありませんでした、完全に消えていました。完全に消えていて何が出てきたかといいましたら、
食料自給率の
引き上げです。米の
生産調整の徹底、そして同時に、その
生産調整の枠組みの中で、
飼料米なり
エタノール米なり、そういう非
主食用米の
生産というのを
拡充するんだ、
食料自給力の
強化、
食料自給率の
引き上げ、これが
米政策改革の
目的に入っていました。これは大変大きなさま変わりでありまして、大変歓迎すべき
変化だというふうに私は思いました。その点でいいますと、
民主党のこの案の第一条、第二条で言っていることが明らかに
予算の
説明の
変化としてあらわれているというふうに思いました。
このお渡ししましたものを書いた
段階では、その
変化というのを私はまだよく認識しておりませんでした。校正の
段階で初めてその
変化というのがわかりまして、後書きに書いておいたんですが、しかし、その前に、自民党の
先生方の方で、昨年の暮れ、十月以降
見直しについて随分御議論されて、出されているいろいろな改革の方向を漏れ承りますと、どうも
民主党の案に随分近づいているような感じがいたしました。
この一番最後の十一ページの上の方、校正に入ってというのは、これは後で書いたんですが、その前のところは、これは随分近づいてきている。それで、どうもこの近づいた中身からいいますと、
戸別所得補償法案の実質を自民党も否定しがたくなっているということではなかろうか。そういった
意味で、
実態認識といいますか、とるべき
政策の方向の認識というのが随分近寄ってきているんじゃなかろうかという印象を、私、
米政策改革の
変化なんかを見まして持ちました。
そういう点からいいますと、あれがいかぬ、これが変だという形でけなし合うんじゃなくて、この
法案のいいところをぜひ取り上げて、それを法律としてやっていただく、実体化していただく、それをお願いしておきたいと思うんです。
参考人の
意見としては変な
意見ですけれども、まず冒頭そのことを申し上げておきたい。修正すべきところもそれはあるでしょうけれども。
それに関連しまして、非常に大事な点は、第三条のこの書き方に関しましては、
生産調整という問題は国の
政策として取り組むんだ、これを明確に示している点が非常に大事な点だと私は思うんですね。
その点は、これは古い話になって恐縮ですけれども、この
生産調整政策というのは、水田総合利用
対策として初めて本格化しなきゃいかぬというときに、当時の
鈴木農水相、私どもは善幸さん、善幸さんと言っていたものですが、
鈴木先生がその当時農林
大臣でございました。これは記者発表の言葉だったと思いますけれども、
生産調整というのは総合
食料政策の一環としてやるんだ、
日本で今
自給率の低い作物の
生産に
生産をシフトさせて、全体として
自給率を
引き上げていく、そういう総合
食料政策の一環として、
自給率引き上げの一環としてやるんだということを大変強調されておられました。ただ単に
米価調整のためにやるんじゃないよということを
鈴木善幸
大臣は大変強調されていたんですね。
私は、米の
生産調整政策というものが持つ
意味は、今そこに凝縮されていると思うんです。それを改めて
民主党のこの案が
政策の正面に据えたということは、大変歓迎すべきことであるというふうに認識しております。
それを達成する手段として、
生産数量の
目標に従って
主要農産物を
生産する販売
農業者に所得を補償するための交付金を交付するということが第四条で書かれております。先ほど
鈴木参考人も、これが
ばらまきというふうにとられないかということを大変心配されておりましたけれども、今、
日本国民が
最大の
課題として直面しなきゃいけない
食料自給率の
引き上げ、自給力の
強化という大
目的に従ってやるんだ、これが
政策目的にはっきり据えられている、もっと
国民は今の
食料危機というような問題について認識を深めてもらう必要はありますけれども、それである限りにおいては、私は、どれだけ多数の
農業者のところに行こうが、
ばらまきなんて言われる筋合いは何もないと思うんですね。
なお、ついでに申し上げますけれども、私は、
ばらまきという言葉は大変不穏当な言葉だと思っております。私はよく学生に、名誉教授になって学生と接する機会は少なくなったんですけれども、たまに来る学生によく言うんですけれども、おまえら広辞苑引いてみろ、広辞苑には
ばらまきとは何と出ている。
ばらまきという名詞はありませんよね。ばらまくという言葉は出てまいります。ばらまくとは一体何だ。1ぱらぱらまく。これは2の方が非常に大事なあれでありまして、2不特定多数の人に惜しみなく金品を与えることとなっているんです。これがばらまくの
意味なんですね。
私は、今までどんな
農政を見ましても、
農業者にただで金品を与えるようなことを我が
農政はやったことがあるのかしら、
ばらまきという言葉をつくった方はその辺のところを大いに反省していただきたいと思います。
その点に関連しまして、もう
一つ私が申し上げたいと思いますのは、附則の第二条で、この所得補償
法案が成立したら、
農業の
担い手に対する
経営安定のための交付金の交付に関する法律を廃止すると明確に書かれてあります。これも私は大賛成であります。
実を言いますと、この
農業の
担い手に対する
経営安定のための交付金の交付に関する法律が審議されておりました
段階で、私、
平成十八年六月八日の参議院の
農林水産委員会に
参考人で
出席させていただきまして、この
法案に対しては反対だという趣旨を申し上げました。反対とはどういうことかといいますと、この
農業の
担い手に対する
経営安定、いわゆる
品目横断的経営安定対策の中身になっているものですけれども、
担い手に対象を限定して、
担い手を限定してこれに所得補償の道を講ずるというのは、
農業構造の改善の進展になるんじゃなくて逆にマイナスになるということを私そのとき申し上げました。
繰り返しませんけれども、といいますのは、これはそのときも申し上げたんですが、
農水省が大変苦労してやっております
農業構造動態統計なんかを見れば、あれはセンサスの前年で比べてやっているわけですけれども、五年間の間に、例えば五ヘクタール以上の
農家は二〇%は脱落していくんです。しかし、二〇%が脱落する反面で、五ヘクタール以下、二ヘクタール、三ヘクタールの方々は、おれは頑張ってやろうということで
規模拡大して五ヘクタール以上になって、そういう上がり下がりの動態の結果として今まで五ヘクタール以上の
農家がふえてきていたわけです。
農業構造の
変化というのはそういう動態を通じて起きるんだ。それなのに、一定の、例えば四ヘクタール以上の
農家だけに所得補償をやって
幾ら保護しても、
米価がいいときでも二〇%おっこちたんです。
幾ら保護されても、その中で、例えば家族の働き手が病気になったとかということがあれば
規模縮小せざるを得ない。そういう条件は今まで二〇%ぐらいの頻度で起きてきていたわけです。それが今後ないということは保証されない。
他方で、
米価がいい、これだけの所得が
確保されるというふうな見通しがあれば、下から意欲を持って上がってくる人たちがいるわけです。むしろそういう下から上がってくる人たちの意欲をなえさせてしまう。この一定
規模以上層に
施策を限定して行うような
政策は、むしろ二ヘクタールあるいは一・五ヘクタールの人たちの意欲をなえさせてしまうんだ、それが非常に問題なんだということを私は申し上げまして、このときから反対しているんですけれども、それを今回、
法案の第四条との兼ね合いの中で、第二条でこれは廃止するというふうに明らかに出されましたのは、私は大賛成でございます。
もう
一つ、それに関連しまして、一般的に、これは政令でゆだねられている面もございますけれども、
主要農産物について所得補償の
施策を講じましても、中
山間地なんかの非常に特殊な条件の悪いところについては特別の手当てをやる必要があるということで、現在でもこの中
山間地についての直接所得補償は
政策としてやられているわけですけれども、これを第八条で特に明記して、その
保護というものを書かれている。この点も私、大変時宜に適した
法案内容だということで、高く評価する次第なんです。
ということで、
農業者戸別所得補償法案は、いろいろ吟味しなきゃいけない
問題点もございます。ございますけれども、その点については諸
先生方の方でもいろいろ御審議されるでしょうから、そういう点は詰めていただいて、なるべくこれが成立することを期待したいと思うんです。
以上です。(拍手)