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若林国務大臣 農林水産委員会の開催に当たりまして、私の所信の一端を申し上げます。
農林水産業と農山漁村は、
食料の安定
供給はもとより、国土や自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承といった多面的機能の発揮を通じ、
国民の暮らしにおいて重要な
役割を担っています。
農林水産業を持続的に発展させ、農山漁村の活性化を図ることは、
地域を再生し、
国民生活の安定向上を図る上で、不可欠であると
考えております。
農林水産行政をめぐっては、今年度から実施に移した
農政改革の着実な推進、食品に対する
消費者の信頼の確保、重要な局面を迎えている
WTO交渉への的確な
対応を初めとして、先送りのできない数多くの政策
課題を抱えています。
私は、昨年、
農林水産大臣に就任して以来、
生産現場や
消費者の声を十分に踏まえるよう心がけながら、これらの
課題に取り組んでまいりました。今後とも、常に
国民の立場に立った
農林水産行政を展開することによって、地方の主要な
産業である
農林水産業の活力を高め、生活者や
消費者が主役となる社会の実現につながるよう、全力で諸施策の推進に取り組む所存です。
その第一は、
国内農業の体質
強化と農山漁村の活性化です。
農業従事者の減少、高齢化などによる
生産構造の脆弱化や経済のグローバル化が進展する中、
我が国の
農業、農村が活力を持ち続けるためには、意欲ある
担い手の育成などにより
農業経営の体質
強化を図り、力強い
農業構造の構築に取り組むことが不可欠であります。
このような
観点から、昨年四月より、水田・畑作
経営所得安定
対策の導入、米政策改革推進
対策の見直し、農地、水、環境保全向上
対策の導入という三本の柱から成る政策改革を実施に移したところです。これらの
対策については、その着実な実施を図るため、私を含めた
農林水産省幹部が全国に出向いて直接
生産者や関係の皆様の御
意見を
伺い、より
地域の実態に即したものとなるよう必要な改善を行ったところであり、引き続き、
関係者に丁寧に
説明を行いながら、
対策の普及、定着に努めてまいります。その際、高齢者や小規模な
農家も安心して
農業に取り組むことができるよう、集落営農を組織化しやすくするための支援を充実するなど、きめ細かな
対応に努めてまいります。
また、米の
消費の減少や、
輸入に多くを依存している麦、大豆、
飼料作物等の国際
需給や
価格の
動向等を踏まえ、米の
生産調整を確実に実施し、水田において自給率向上が必要な麦、大豆、
飼料作物の
生産を進めるとともに、非
主食用米等の低コスト
生産を着実に定着させる
取り組みを推進します。
農業の最も基礎的な
生産基盤である農地については、その有効利用を図る
観点から、昨年十一月に「農地政策の展開方向について」を取りまとめたところであり、この方向に沿って、改革を順次具体化してまいります。
このほか、
生産、流通の各
段階での
食料供給コストの縮減の
取り組みを強力に推進するとともに、農協の経済事業改革を推進します。また、
農業の体質
強化に向けて
生産性の向上、低コスト化を図る技術の開発、普及を推進するほか、知的財産の戦略的な創造、保護、活用を進め、
農業の潜在的な力の発揮を図ります。
農山漁村においては、人口の減少や高齢化などにより、その活力の低下が懸念されており、農山漁村の活性化を図るため、既存の枠組みを超えた新たな
取り組みが必要となっています。昨年十一月に取りまとめた「農山漁村活性化のための戦略」に基づき、
地域のリーダーとなる人材の育成、祭りや伝統、文化などの保全、復活による農山漁村集落の再生、子供たちの農山漁村における宿泊体験を初めとした都市と農山漁村の交流の促進等に
取り組みます。また、
地域の基幹
産業である
農林水産業と商業、工業等の
産業間での連携、いわゆる農商工連携を
強化し、
地域産品の販売促進、新商品開発への支援などを通じた
地域全体の所得の向上と雇用の確保を図ります。
さらに、深刻化、広域化する野生鳥獣による
農林水産業被害に
対応し、
地域の実態に即した
対策の抜本
強化を図るため、市町村等の計画に基づく
取り組みを総合的に支援します。
第二は、食と農に関する施策の戦略的な
取り組みについてです。
昨今、途上国の経済発展に伴う
食料需要の大幅な増加、バイオ燃料
需要の増加や地球温暖化による
農業生産への悪影響など、
食料をめぐる
世界情勢に大きな変化が見られます。
食料問題については、現在、私が主宰する
食料の未来を描く戦略
会議において議論を行っているところであり、今後、この議論の成果を取りまとめ、
食料に関する
認識を
国民全体で共有できるよう広く発信してまいります。さらに、
平成十八年度に三九%に低下した
食料自給率を
平成二十七年度までに四五%とする目標の達成に向けて、
生産と
消費の両面から戦略的な
取り組みを進めるなど、将来にわたり
食料を安定的に
供給するための施策を積極的に展開してまいります。
食は生命(いのち)の源であるとともに、健康で充実した生活の基礎となるものであり、
生産、加工、流通の各
段階を通じて食品の安全と信頼を確保し、
消費者の視点に立った
農林水産行政を展開することは、国の重要な責務であります。
昨今、薬物中毒事案の発生により食品の安全に関する不安が高まっていることや、食品表示に対する
消費者の信頼を揺るがすような事案が相次いだことを重く受けとめ、内閣府や厚生労働省と迅速な情報共有を図りながら
政府一体となった
対策を進めるとともに、食品表示特別Gメンの新設による監視体制の
強化や食品の業者間取引へのJAS法の品質表示の義務づけ、食品の製造、流通等に携わる企業の法令遵守の徹底を図るなど、
消費者の信頼確保に努めてまいります。また、
国民の皆様から情報提供があった場合には、直ちに行動するとともに、たらい回しにならないよう関係機関との連絡を密にするなど、
消費者の視点を重視した
対応を徹底し、
消費者から見てわかりやすい行政を推進してまいります。
このほか、食品の製造過程における管理の高度化を促進するなど、農場から食卓までを通じた食品の安全確保の
取り組みを進め、
消費者の被害の未然防止に努めるとともに、
国民の皆様に食や農への
理解を深めていただくよう、食育を推進してまいります。
米国産牛肉の
輸入問題については、現在、日米間の技術的な会合の結果を取りまとめる作業を行っているところであり、食の安全と
消費者の信頼確保を大前提として、科学的知見に基づいて
対応してまいります。
次に、現在、重要な節目を迎えている
WTO農業交渉については、多様な
農業の共存を理念として、引き続き議論に積極的に参画し、
輸出国と
輸入国の
バランスのとれた
貿易ルールの確立に向けて戦略的に
交渉に取り組んでまいります。一方、日豪を初めとしたEPA
交渉については、
我が国全体としての経済上、外交上の利益を考慮し、守るべきものはしっかりと守るとの方針のもと、
食料安全保障や
国内農業の
構造改革の進捗
状況にも留意しつつ、
政府一体となって取り組んでまいります。
我が国の
農林水産物や食品の
輸出促進については、
平成二十五年までに
輸出額を一兆円規模にするという目標の達成に向け、検疫協議の加速化など
輸出環境の整備、品目別の戦略的な
輸出促進の
取り組み、意欲ある農林漁業者等に対する支援、
日本食、
日本食材の海外への情報発信等に重点的に
取り組みます。
第三は、地球環境保全に対する貢献です。
農林水産業は、自然の循環機能を利用しながら営まれる活動であり、持続可能な
農林水産業を推進することにより、地球温暖化を初めとした環境問題に適切に
対応していく必要があります。
農林水産省としても、本年七月に開催される
北海道洞爺湖サミットに向けて、
農林水産分野における資源、環境
対策に積極的に取り組んでまいります。
まず、京都議定書における温室
効果ガスの削減目標を達成するため、美しい森林(もり)づくりを
国民的な運動として展開し、市町村の自主性、裁量性を生かした森林整備の
取り組みを支援するなど、間伐を初めとした森林の整備、保全等の森林吸収源
対策を着実に進めてまいります。
次に、国産バイオ燃料の大幅な
生産拡大に向けて、農林漁業者とバイオ燃料製造業者の連携による低コストでの安定
供給に向けた
取り組みや、
食料と競合しない稲わらや間伐材等の非食用資源から効率的にエタノールを
生産する
日本型バイオ燃料
生産拡大
対策を推進します。
さらに、昨年七月に策定した
農林水産省生物多様性戦略に基づき、
農林水産施策に生物多様性の保全をより重視した視点を取り入れ、生物の生息、生育環境としての質を高める持続可能な
農林水産業を推進してまいります。
第四は、森林・林業政策の推進です。
我が国の国土の三分の二を占める森林は、地球温暖化の防止のほか、国土の保全、水源の涵養など多様な機能を有しております。この緑の社会資本というべき森林を後世に引き継いでいくため、森林・林業
基本計画に基づき、
国民のニーズをとらえた多様で健全な森林(もり)づくり、
国民の安全、安心の確保のための治山
対策を推進するとともに、森林施業の集約化等によるコスト削減、市場ニーズに
対応した木材製品の安定
供給体制の確立により、国産材の利用拡大を軸とした林業・木材
産業の再生を図ります。
なお、官製談合問題を起こした緑資源機構については、本年度限りで廃止することとし、今後とも、入札談合の再発防止に万全を期し、
国民の信頼回復に努めてまいります。
第五は、水産政策の展開です。
我が国の水
産業、漁村は、資源
状況の悪化、漁業
生産構造の脆弱化、燃油
価格の
高騰など厳しい
状況にある一方、
世界的に水産物への
需要が高まるなど、これまでにない情勢変化に直面しています。
こうした中、力強い水
産業と豊かで活力ある漁村を確立するため、昨年策定した水産
基本計画に即し、科学的根拠に基づく持続的な利用を
基本とした水産資源の回復、管理の推進、漁船漁業の
構造改革や新たな
経営安定
対策の導入による足腰の強い
経営体の育成確保、品質衛生管理機能の
強化や漁港、漁場、漁村の総合的整備など、水産政策の改革を早急に進めてまいります。また、燃油
価格の
高騰に
対応するため、漁業者の
経営体質の
強化や省エネ型漁業への転換を緊急かつ集中的に推進します。
平成二十年度の
農林水産予算の編成に当たっては、以上のような
農林水産政策を展開するために十分に意を用いたところです。
また、施策の展開に必要な法整備については、今後、御審議をよろしくお願いいたします。
以上、私の所信の一端を申し上げました。
農林水産行政は、現場に密着した政策
課題であると同時に、
国民の毎日の生活に深くかかわっているものです。このため、
生産現場の
取り組みや
消費者の声を積極的に政策に反映するとともに、わかりやすく丁寧な政策運営を行うことにより、
国民の信頼と支持が得られるよう努めてまいります。
委員各位におかれましては、
農林水産行政の推進のため、今後とも一層の御支援、御協力を賜りますよう、切にお願い申し上げる次第であります。