○五十嵐
参考人 五十嵐です。きょうは、お招きいただきましてありがとうございました。
私は、
地方税財政に関して最も大きな
影響力を持っていて、かつ、今日的な話題になっている
道路特定財源に焦点を合わせまして、私の
意見を述べさせていただきたいと思います。
事前に皆様にレジュメをお出ししておりますので、これに基づいて
お話しさせていただきますけれ
ども、時間が十五分という形で限定されておりますので、とりあえず概略的に全体的な説明をさせていただきまして、もし不審なところがありましたら、後での
質疑応答等でお答えさせていただくという形にさせていただきたいと思います。
まず、一般市民から見まして、今回の
道路特定財源の
議論については、非常に大きな点で不信がございます。
一つは、小泉総理
大臣のもとで、皆さん御承知のとおり、
道路公団の
改革と民営化の
議論が行われました。さらに、その際、民営化以降の
道路についていろいろな
意見が行われておりました。
平成十八年十二月八日に
道路特定財源に関する
閣議決定がありまして、限りなく一般
財源化を目指すということが
決定されております。安倍
内閣でもこの姿勢は継続されたと思いますけれ
ども、福田
内閣になりましてこれが突如変更されまして、
道路特定財源に対する非常に大きな合唱が出てまいりました。
この変更の理由というものが
国民にはなかなか見えてこないということがありまして、政治に対する信頼感がないということを最近言われておりますけれ
ども、こういう
閣議決定の存在根拠、あるいは小泉総理
大臣の
国会での発言に対する責任、こういうことが非常にあいまいになっているというところが非常に大きな不信を生んでいるのではないかということをまず第一点、申し上げたいと思います。
二番目は、国の
政策に関してでありますけれ
ども、
道路特定財源は、御承知のとおり、
道路中期計画と一体となっております。中期計画は十年という期間限定でありますけれ
ども、このような時間を限定した計画を立てるということについては既に
国会で修正されております。従来、公共事業に関してはさまざまな五カ年計画がありましたけれ
ども、こういう計画は、いわば
暫定的な
措置である計画を永遠に延長するものであるとか、あるいは予算消化だけに使われるとか、あるいは縦割り行政を生むということがありまして、全国総合開発計画とともにすべての五カ年計画は廃止されまして、社会資本整備重点計画というものに移されております。
この中で、突如
道路だけがまた十カ年計画という形で浮上してきたことについては、どういう脈略なのか、ほとんど説明がつかないまま
議論されていることについて非常に不信を抱きました。
さらに、
道路中期計画の中身についても言いますと、当初、御承知のとおり、六十七兆円というふうに言われておりましたけれ
ども、これが、数日とか一週間
程度ですか、そのぐらいで現在の五十九兆円に変更されております。数兆円の変更というのは莫大な予算でありまして、これがなぜこういう形で変更されるかについてもほとんど
国民に説明されておりません。
従来、
道路公団民営化以降の
残りの
道路についてどうするかということ、これは、いいかどうかは別にしまして、それを全部つくるとしたらおおよそ二十兆円ぐらいというふうに説明されておりましたけれ
ども、この五十九兆円と二十兆円との間も、どういう脈絡で五十九兆円になっているのか、さっぱり説明がつかないという形になっておりまして、明らかに国土交通省あるいは
政府全体の
国民に対する説明責任が不足しているのではないか、根本的にこの中期計画は何だろうかというふうにまず思います。
二番目は、最近は、この
道路中期計画に関するいろいろな資料が少しずつ出てまいりました。その中で、
道路交通需要予測というのがございまして、これを見ておりますと、大方は、第一番目には四全総、今から二十年前の計画に基づいて、一万四千キロというのを
前提としてはじき出されているということであります。
しかし、四全総と今日、二十年後では、将来の
人口予測等について全くの逆転現象が生じておりまして、この
人口予測を見てみますと、近未来には急激に
人口が下がってきております。そういうときに、四全総で、いわば
人口増を
前提としたこういう計画が今もって維持されるべきかどうかについては、
道路需要予測においても慎重な考慮が必要だと思いますけれ
ども、これが修正された
動きはございません。この点で不信があります。
三番目は、
道路が必要だとあちこちから聞こえてきているんですけれ
ども、しかし、それでは、例えば本四橋の赤字とか、アクアラインの赤字だとか、その他多くの
道路の赤字について、どのようにこれに対処するのかについても、
政府側からほとんど見えてまいりません。このままいきますと、民営化した
道路についても、自動車量と通行料の低下によって、ひょっとすると民営化自体の四十兆円を四十五年かけて返すというあの採算すら狂うのではないかと言われております。全体的な
道路の赤字
状況についての説明をあわせて計画をつくるべきだと思いますけれ
ども、これについても説明がよくなされていないというふうに思います。
さらに言いますと、これは根本的な問題だと思いますし、
国会での一番大きな問題がここにあると思いますけれ
ども、こういういわば中期計画等、この計画論について、一体だれが決めるのかということを、これは私は再三にわたって、ずっと
国会でも何回か
意見を言わせてもらってきましたけれ
ども、この中期計画については、
国会の議決というのはありませんで、要するに、国土交通省が定めて
内閣が決めればこれでよろしいということで、十
年間で五十九兆円という途方もない額を使う計画について国
会議決がないというのは極めておかしなものだというふうに思いまして、今回、これが慎重に
審議されることを望みたいと思います。
それから二点目は、
道路の実情でございます。
先ほどもいろいろな人からいろいろな
意見がありますけれ
ども、
道路は足りない、足りないというのが日本の合唱でありますが、客観的に世界と比較いたしますと、可住地面積で見ますと日本は断トツ、
道路王国になっています。この点に御留意ください。
第二番目は、
道路という場合に、今の国土交通省、旧建設省の
道路だけではなくて、農水省の農業
道路を加えますとこれは膨大な数になるということも考えていただきたいと思います。これらをあわせて、必要な
道路はあり得ると思いますけれ
ども、本当に将来十
年間、
道路を
前提として五十九兆円も使うというほどの膨大な
道路需要があるかどうかについては、恐らく修正を免れないというふうに思っております。
それから、
道路についての三番目の論点は、
道路だけが今問題になっておりますけれ
ども、人々の交通には、
道路だけではなくて、鉄道もございますし、バスもありますし、その他、飛行場、港などの交通計画もございます。五十九兆円の計画がこれらと本当に整合性がとれているかどうか、これをどのように見ているかについては、私が見ている限りでは余り活発に
議論されていないように思いますけれ
ども、全体的な交通の総合的な計画のもとで
道路を考えていただきたいというふうに思います。
四番目、自治体についてでありますけれ
ども、御承知のとおり、宮崎県など、
道路が足りないということを盛んにアピールされております。その根拠として、ほかの県と比べて自分たちの県の自治体の
道路は非常に不十分になっているということを、いろいろ資料を挙げております。
しかし、今回の特徴は、それでは、いろいろな指標から見て、
道路についてかなり高い地位にある自治体の首長さんたちもあわせて、
道路がまだ必要だと言っているということでありまして、自治体の格差を是正するために、いわば劣位の
状況に置かれている自治体の
道路を直してくれということではなくて、上位にある
東京などいろいろな自治体も全部、
道路が必要だと言っていることについて、非常に奇妙な感じがいたします。
それから二番目は、
道路特定財源の問題でありますけれ
ども、これは実際、
先ほど参考人からも
意見がありましたが、
道路特定財源は、そのまま
道路に使えるわけではありません。私の調べたところ、おおよそ三分の一強が自治体の
道路に関する借金に回されます。つまり、いわば借金地獄になっているのが実情でありまして、そもそも、これだけの莫大なお金を持ちながら、なお借金地獄に陥っているというのも非常に奇妙な話でありまして、今回、そろそろ国の借金地獄に関するシステムを改めなければいけないのではないかというふうに思います。
それから三番目の論点は、このまま
道路特定財源のシステムを維持しておきますと、果たして、今出ました熊本県とか宮崎県とか、よく言われる
道路劣位の自治体の
道路が、ほかの自治体と比べてより優先的につくりかえられるでありましょうか。これは私には不思議であります。
道路がいろいろ不均等につくられているのは、それなりの根拠があって
道路がつくられていくと思いますけれ
ども、今の特定
財源の評価を
前提とすれば、あくまで、今の
道路の劣位にある自治体は依然として劣位にある。これを覆すためにはまさに政治が必要でありまして、政治家と
道路の
関係が再びクローズ
アップされてくる。これが
道路特定財源の根源的な問題であるというふうに私は思っております。
それから、システムに関してもう一つ言いますと、
道路財源はいわば麻薬のような状態になっております。端的に言いますと、自治体の持ち出しが少なくて大きな
道路がつくれる。そういう
意味では、自治体にとって非常に魅力であります。したがって、これは、永遠に
道路をつくっていくという根拠になってまいります。
一方で、だから
道路は要らないと言いますと、その
財源がほかの自治体に持っていかれると、その自治体は極めて不利な
状況に置かれるということでありまして、いわば中央集権構造とよく言われますけれ
ども、これが、
道路財源がそういう秘密を持っているということであります。
さらに不幸は、
道路特定にいたしますと、その地域に必要ないろいろな施策が行えない。地域によっては、
道路よりも福祉、医療、あるいは教育が必要だという自治体が当然あり得ると思いますけれ
ども、
道路特定財源にいたしますと、これが選択できない、
国民から見ても非常に不幸な状態になっているということであります。
さらにもう一つつけ加えますと、
道路をつくれば地域が活性化するというのは、いわば幻ではないかと私は思っております。少なくとも一九九〇年代以降、新しい
道路をつくること、スピードをふやすことが必ずしも地域の活性化に役立たないという
議論がたくさん出てまいりまして、
道路が来れば地域が活性化するという幻想も、そろそろ
現実をはっきり見たらどうかというふうに私は思っています。
最後に、一般
財源化に関して申し上げたいことがございます。
道路について、ガソリンに関しましては、全世界どこを見ても、御承知のとおり税金をかけております。しかし、日本のように、
道路特定財源という形で特定してこれを
財源にするという国は全くありません。日本は非常に特殊な国だということを御承知して
検討していただければと思います。
二番目は、自治体の危機感が今回非常にあらわれておりますけれ
ども、それは、
道路特定財源を一般
財源化すると、そのまま
地方自治体にそのお金が行くのではなくて、
地方交付税とあわせて全体的にカットされるのではないかということで、いわば一般
財源に対する批判と同時に、さらに、それを上回る心配事として、とにかく、一般
財源化すると、今まで
道路特定財源で維持されていた
財源が減らされるのではないかという危機感が非常に大きいように思います。この点については、国、政党あわせて、一般
財源化した場合にそのまま減らされることはないということを、何らかの形で自治体にメッセージを出していただければということです。
最後に申し上げたいことは、
道路が必要かどうかという
議論が今非常に行われていますけれ
ども、それより重要なことは、必要かどうかをだれが決めるかということが今問われておりまして、従来までは、国土交通省と、それに伴う一部の人たちでありました。一般
財源化しますと、必要かどうかを、実は、地域住民あるいは自治体が決められるようになります。政治システムの転換が非常に言われていますけれ
ども、住民を
道路に参加させる、あるいはもっと広げて政治そのものに参加させるということは今極めて重要な論点でありまして、
道路特定財源化いたしますと、住民が
道路に参加する、あるいは政治に参加するという選択肢が奪われる、しかもこれは十
年間続くということでありますから、極めて大きな失政を行う
可能性があるのではないかというふうに私は思っております。
以上です。(拍手)