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和地参考人 日本医療機器産業連合会会長をしております、テルモの
会長の
和地でございます。
きょうは、このような発言の場を与えていただきまして、大変ありがたいというふうに思っております。
私の方からは、
企業経営の
立場から、
医療機器産業から見た
ナショナルセンターへの
期待という
観点で
お話をさせていただきたいと思います。
初めに、
医療機器産業の
現状についてちょっと
お話しさせていただいた上で、それを踏まえて
ナショナルセンターへの
期待を述べたいというふうに思います。お手元の
資料をごらんいただきながらお聞きいただければと思います。
資料の一ページですけれども、これはもうよく御存じと思いますが、
世界の
医療機器の
市場規模をあらわしておりまして、
世界全体で二十兆円の
市場規模がありますけれども、そのうち約半分を
米国が占めております。
日本は、約一割の二兆円でございます。
左側のグラフをごらんいただくとわかるとおり、
米国、欧州、そしてアジアの
市場規模が拡大しているのに対しまして、
日本はほぼ横ばいの
状態になっております。
御承知かと思いますが、GDPに占める総額の
医療費の割合も、
日本は約八%で、
米国の一五%を初めとする
先進国の中では最低でございます。ちょっと前まではイギリスが最低だったんですけれども、ブレアがふやしたものですから、
日本が最低ということです。
二ページ目の
資料でございますけれども、これは、
医療機器の
日本の国内市場の状況をお示ししたものです。先ほど申し上げましたとおり、国内出荷額はほぼ横ばいの
状態ですが、輸入比率は着実に増加しておりまして、全体の約半分が輸入品となっております。
三ページをごらんいただければと思います。
医療機器は、大きく分けまして、CTとかMRIなどの診断機器と、カテーテルとかあるいは人工臓器などの治療用の機器に分けられます。診断用の機器につきましては輸入比率は約三〇%でございますけれども、治療用の機器は、何と六〇%が輸入品です。御承知のように、心臓のペースメーカーとか心臓の人工弁、こういった埋め込み型の治療機器は一〇〇%が輸入というのが実情でございます。
このような治療用の
医療機器につきましては、
現状では、
医療機器メーカー単独では開発が難しい局面になっております。例えばペースメーカーを例にとりますと、LSIとか、あるいは電池とか、あるいはソフトウエアの技術など、さまざまな要素技術が必要となります。
医療機器メーカー自前ですべてこれらを持つということは難しい面がありますので、基盤技術を持った企業に協力をお願いするわけですが、埋め込み型の
医療機器については、直接命にかかわるということで、大体の企業がヘジテートいたします。農耕民族のせいかわかりませんけれども、万が一のことを
考えて協力を得られないというのが実態です。
ちなみに申し上げますが、
日本ではすぐれた要素技術はたくさんございます。そのような意味で、国産品がない重要な
医療機器については、オール・ジャパンの開発体制の構築を
考える時期に来ていると私は思っております。
次に
資料の四ページでございますが、
医療機器の
医療に対する貢献が認識されるようになりましたのは最近のことでございます。以前は、
医療機器というと単なる
医療の道具というふうにみなされておりましたが、最近では、
医療機器の発展が
医療の進歩に直結することが認識されるようになってきました。
ここではカテーテル治療と内視鏡を使った手術を例に挙げますと、心臓
疾患の治療の際に、以前は、ここにドクターがたくさんいらっしゃいますが、開胸手術をしてバイパスを埋め込む手術が主流でした。これは現在でもすぐれた治療法でございますが、手術自体が
患者さんに大きな負担をかけますし、長期の入院も必要です。
これに対して、PTCAという、
医療用の細いチューブの先端に風船をつけたカテーテルを血管に通して、詰まっている心臓の血管の中に入れまして、風船を膨らませて、詰まったり細くなったりした血管を広げる。あるいは、ステントという、言ってみれば土管のような
医療機器を、広げた血管の中に置いて補強したりする治療方法。これが
医療機器の進歩によってできるようになりました。これならば、体に大きな傷をつけることはありませんし、入院の期間も非常に短くなっております。結果的に
医療費も少なく済んでおります。また、内視鏡を使った手術も、これは
皆さんよく御存じのように、
患者さんの負担や入院日数を大幅に軽減することができております。
しかしながら、まだまだ
医療機器の特性につきましては十分御理解いただけていないというのが
現状でございまして、きょう、こういう機会に
お話しさせていただくのはそういう意味でございます。とかく
医療機器を薬の延長で物を
考えているということが、いろいろなシステムの中でも散見されます。
資料の五ページに、医薬品と
医療機器の違いをお示しいたしました。
医療機器と医薬品は、病気の診断とか治療に使われるという点では目的は同じでございますが、この表に示しているとおり、本質的に異なる点も多々ございます。
特に、
医療機器は約三十万品目と言われておりまして、私が
会長をやっております団体も、MRI、CTスキャンから、目から歯から、治療機器すべてが入っておりまして、非常に多様でございます。それから、薬は約一万七千品目と言われておりますので、大変その辺が違います。また、使い方、操作方法によって、効果や安全性に大きな影響があるという点でも医薬品と異なります。繰り返し使う
医療機器については保守点検が必要だという点も、全く薬と異なります。
さらに言いますと、医薬品の場合は薬学部という専門の教育課程がありますが、
医療機器学部というのはございません。
人材の層という点でも大きく異なります。
そして、
医療機器の最大の特徴は、改善、改良が容易である。これは
日本人が非常に得意とするところでございます。つまり、
医療機器は使いながら進化させることが可能だということです。
資料の六ページでございますが、先ほど述べたとおり、
医療機器は多種多様でございますが、その背景となる技術も、ここに挙げましたとおり、多様な要素技術の集合体であると言うことができます。すぐれた要素技術と物づくりの文化を持った
日本にふさわしい産業と言ってもいいかと私は思います。
最近になってようやく
医療機器に光が当たるようになってまいりまして、骨太方針とか、あるいは革新的医薬品・
医療機器創出に向けた五カ年戦略など、
国家戦略のレベルで
医療機器が取り上げられるようになりましたことに対しまして、ここでお礼を申し上げたいと思います。
また、
日本発の革新的な
医療機器の開発に向けて、
医療技術産業戦略コンソーシアム、通称METISという
活動を六年ほど前から産官学連携のもとで進めてまいりまして、重点分野を七つの分野に絞り込んで、現在、第三期の
活動を行っております。
それでは、
医療機器の開発の課題は何かということですが、
資料の七ページに日米の開発プロセスの違いをお示ししました。日米を比較した場合に大きな相違点が二つあります。
一つは、
米国に比べて
日本では、
センター・オブ・エクセレンス、つまり症例の集中化が進んでいないということです。そして
二つ目がベッドサイドの開発ということです。
具体的に申し上げますと、
米国では、例えば心臓の手術を行う施設の集約化が進んでおりまして、
一つの施設で
年間数百症例から数千症例の手術が行われております。それだけドクターやスタッフの専門性が深まり、それを支えるインフラも整備が進んでおります。また、そのようなインフラがあるので、
臨床研究や治験が容易に実施できます。一方、
日本では、
日本全国どこの施設でも手術が行われておりまして、症例が分散してしまって、
米国ほどの専門性の強化やあるいはインフラの整備が進みにくい環境にあります。
また、ベッドサイド開発、すなわち、医師と開発者がイコールフッティングのパートナーとして、ベッドサイドで開発に取り組む環境が
米国にはあります。
日本では、いろいろ努力をされておりますが、まだドクターと開発者がイコールパートナーとして一緒に開発を進める環境はありません。このことによって、開発のスピードに大きな差が生まれております。
このような環境整備が、
米国での実用化推進の原動力の
一つになっております。
日本の
医療機器開発における最大の課題は、実用化のためのインフラが不十分であることです。アイデアを生み出す段階、あるいは
臨床研究や治験の段階、
審査の段階などに壁があって実用化に至っていない、出口が見えないというのが実情でございます。
資料の八ページはその一例でございますが、クリーブランド・クリニックでは
年間約二千五百件の
臨床研究が実施されておりますし、コーネル大学では
年間約千件の
臨床研究が実施されております。これに対して、
日本では、主要な五十二の
病院の平均が
年間約五十件というデータもあります。
米国では、このような膨大な数の
臨床研究を行うために、サポート体制や
研究者へのインセンティブなどの環境が整っているからだというふうに思います。
資料の九ページでございますが、
ナショナルセンターが独立
法人化されることによって、経営的な意識が入ることになり、効率化が進むというふうに思います。また、
活動の
自由度が上がることによって、そこで働く人の意識の向上、モラールアップが
期待できると思います。また、企業や
病院同士の連携とか、あるいは人的交流が促進されることが
期待されます。
医療機器産業の
現状や
米国との違いを踏まえまして、
ナショナルセンターへの
期待を具体的に五つほど申し上げたいと思います。
一つは、何といいましても、
医療機器の実用化の
中心拠点として
機能していただきたいということです。このためには、
ナショナルセンターが
センター・オブ・エクセレンスとなって、つまり、症例を集約化することによって専門性の向上やインフラ整備を促進するとともに、実用化に向けた
臨床研究や治験についても積極的に受け入れること、そして、企業等の開発者ともイコールフッティングのパートナーとして
臨床の
現場で開発を行える環境を整えていただきたいというふうに思います。
二つ目は、
臨床上のアンメットニーズ、つまり、これまで気がつかなかったようなニーズ、
患者さんにとって
メリットのあるニーズに基づいたアイデア創出を
期待したいと思います。魅力あるテーマであれば、企業としても共同開発への参画や実用化に向けた投資が可能と
考えております。
三つ目は、冒頭でオール・ジャパンの開発体制ということを申しましたが、
医療機器産業以外のすぐれた要素技術を持った企業から、
医療機器開発のための技術の集積を推進いただきたいと思います。それによって、
ナショナルセンターと異業種を含めた企業の連携を深め、いわゆる
医療クラスターとしての
機能を果たせるものと
考えております。
四つ目は、みずから治験を行うだけでなく、治験の中核施設として、他の
医療機関の指導や取りまとめの
役割を担ってほしいということです。
そして最後に五つ目ですけれども、
医療機器を扱うトップレベルの
医療機関として、
医療機器に精通した専門
人材を育成し、最も重要な
人材のインフラ整備に尽力いただきたいということでございます。
さらに、現在検討が進められておりますいわゆるスーパー特区に指定されることによって、
審査の迅速化などの適用対象となることで、よりスピーディーな
医療機器の実用化推進を担っていただきたいというふうに思います。
以上、
医療機器産業の
現状を踏まえまして、今後の
ナショナルセンターへの
期待を述べさせていただきました。他の
先進国に比較しまして規制が厳しい我が国の
ナショナルセンターが独立
法人化されることによって、
活動の
自由度が拡大し、さらに高度な
医療の
提供が可能となるとともに、実用化推進の
中心となる
役割を担っていただくことを強く
期待したいと思います。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)
〔
吉野委員長代理退席、
委員長着席〕