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清水参考人 私は、全国福祉保育労働組合という名前の労働組合で役員をしています
清水といいます。
今は労働組合の役員になっていますけれ
ども、それまでは、
介護ではありませんが、障害者福祉の現場で十六年間仕事をしてまいりました。そういうことも含めて、きょうはお話をさせていただきたいと思います。
きょうは、貴重な時間をとっていただきまして、こういう
機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
さて、私
たちの労働組合は、民間の
介護であるとか障害者福祉、それから保育所、こういった福祉関係の人で構成している、そういう労働組合です。きょうは、そういった職員の声も持ってここに来させていただきました。
今、全国の
介護の職場ではどのような事態が起きているのか、そこで働く職員の労働の
実態はどうなっているのか、また、福祉や
介護の労働組合として現在の
介護職場をめぐる状況をどのように考えているのか、そういったことについて、簡単ではありますが、お話をさせていただきたいと思います。
二〇〇〇年に
介護保険制度が発足しまして、
介護が家庭で担われていた時代から、社会がそれにかわって担う、こういう時代に変わってきていると思います。また、高齢化社会の到来とともに、
介護に対するニーズも高まり、より専門的で個々のニーズに
対応し得る
介護、また個々の選択による
介護、こういったものも求められるようになっています。今や
介護というのは、これからの社会の
あり方を考える上で欠くことのできない一つの要素になっていると思いますし、それを支える人材の問題、これも同じように大切な問題としてクローズアップされてきているのではないかなと思っています。
ところが、実際の
介護の職場では、人が集まらないもしくは人が離れていく、こういった
人材確保の問題が極めて深刻になっていると言えます。
皆さんのお手元に資料としてお配りしていますが、この黄色い冊子ですけれ
ども、これは、福祉保育
人材確保研究会が、私
どもの労働組合それから研究者の方や現場の方も入っていただきまして行った
調査なんです。それをまとめた冊子をお配りしていると思います。この
調査は、大阪それから新潟の
事業所、また全国の福祉労働者を対象に行った
調査です。
この
調査によりますと、職員総数に占める退職者の割合は、大阪の
事業所が平均一九・七%、昨年の数字ですが出ています。新潟県では一二・三%。厚生労働省の
平成十七年の雇用動向
調査というのがありますが、この数字を見ると、全産業で一七・五%、
医療、福祉関係で一八・五%、こういう数字が出ています。ですから、今回の
調査では、大阪で高い数字が出ています。つまり、都市部でこの問題が深刻になっている。これは一つあるかと思います。
そして、その離職の理由、これも
調査をしているんですが、それを見ると、第一が転職のため、第二が健康上の理由というふうになっています。ここからも、
介護という仕事から労働者が流出している、こういうことがうかがえるんじゃないかなと思っています。
また、賃金に関してということでいいますと、平均して十五から二十万円、ここの水準におよそ三五・五%ぐらいの人が集中しています。これが、例えば勤続十年未満、比較的若い層ということで見ると、五〇%から六〇%、このくらいの人が大体このくらいの水準にいるということです。それから、常勤パート労働者に限って見ますと、十万円から二十万円、このランクにほぼ全員が入っているという状況になっています。
ただ、この
調査は、
介護労働者だけの数字ではないということはありますが、
介護労働者も含め、福祉にかかわる労働者全体の賃金水準、その
実態がおわかりになっていただけるのではないかなと思っています。
特に、若い職員について言いますと、賃金が低いために親から経済的に自立できないとか結婚できない、いわゆるパラサイトシングルというんですか、こういう状況も生まれています。まさに官製ワーキングプアといいますか、そういう
実態が生まれているんじゃないかなと思っております。
また、職員配置について言いますと、現在、常勤換算方式というのが
介護保険制度でも導入されておりますが、限られた
報酬額の中で必要な職員数を確保しようとすれば、正規職員の賃金では確保できない、非正規職員として採用することにどうしてもなってしまうわけです。その結果、全国の
介護職場では非正規の職員が急増しています。
本来、福祉や
介護の仕事では、例えば、長期休業者の代替の場合の採用ですとか、もしくは時間帯や時期に応じて一時的に職員を確保する必要がある場合を除いては、基本的に非正規での雇用は必要ないと思っているんですね。ところが、現在、全国の
介護職場で進行している事態というのは、本来であれば正規の職員として採用したいけれ
ども、
財源がないために非正規、臨時とか嘱託とか、こういう形態で採用せざるを得ない。そのための非正規職員の増加という問題が生まれています。
また、
利用者への処遇という面でも、この
人材確保の問題というのは重大になっています。
これはある特別養護老人ホームの例なんですけれ
ども、例えば、夕方から夜勤に入りますが、その際、四人で八十人のお年寄りを援助することになります。そのときの職員の仮眠時間は基本的に二時間半なんですけれ
ども、実際にはほとんど寝ることはできません。また、認知症のために夜間歩き回る方もおられますので、職員一人はずっと付き添うわけです。そうなると、その職員は一睡もできないということになります。
入居しているお年寄りには、歩行が不安定で転びやすく、骨粗鬆症等の疾病にかかっている方も多いため、転倒すると骨折したり歩けなくなってしまうわけです。非常に危険なわけですから、必ず職員がそこには付き添うということになります。また、入居者の中でだれかがぐあいが悪くなるということになれば、救急車で
病院に搬送しますし、そのときも、まただれか職員が付き添わなきゃいけないということになります。
介護職員は、夕方五時から夜勤に入って翌朝九時まで、およそ十六時間拘束されます。しかし、その後、定時の九時で終わるわけですけれ
ども、九時にすぐに帰れるかといえば、決してそうではなく、記録や次の日勤者への引き継ぎ、また打ち合わせなど、そういった残業もあります。結果としては昼過ぎまで残って仕事をしている、こういうことも多々あることです。こういった
実態は、老人ホームだけではなく、例えば
グループホーム、こういった職場でも同様だと思います。
こうした状況は、入居者にとっても極めてリスクが大きい。つまり、施設で安心、安全に暮らすことができるということではないということなんです。しかも、入居者から見れば、自分がなれて、自分のことをよく知ってくれている職員が次から次へと職場をやめていくわけですから。このように、
介護職場の
人材確保の問題というのは、
利用者の
生活や人権を守る上でも大変な状況を生んでいると言えると思います。
介護の仕事は、高い専門性が要求される仕事だと思います。その専門性を身につけるには、学校での教育だけではなく、実際の現場に就職してから経験を積んで、研修を受けて、そういったことを通じて学んでいくことが大切なんです。ところが、実際の職場は働き続ける条件がない。
介護の仕事を志す人が働き続けられる条件をつくり出すことが、今何よりも求められているというふうに思っています。
では、なぜこのような状況が生まれるのか。若干私
たちの
意見を述べさせていただきたいと思います。
結論を言えば、
介護報酬単価や職員配置の低さからくる
介護職員をめぐる劣悪な労働環境、これに原因があることは明らかだと思っています。
昨年、
人材確保指針と言われる基本指針の
見直しが十三年ぶりにされました。この基本指針にはこう書かれています。前文のところで、「福祉・
介護サービスの仕事が」「少子高齢化を支える働きがいのある、魅力ある職業として社会に認知され、」途中略しますが、「質の高い人材を安定的に確保していくことが、今や
国民生活に関わる喫緊の課題である。」としています。また、
人材確保の基本的な考え方として、「就職期の若年層を
中心とした
国民各層から選択される職業となるよう、他の分野とも比較して適切な給与水準が確保されるなど、労働環境を
整備する必要がある。」と書かれています。さらに、労働環境改善のためには、第一に給与等の改善が必要だともしています。
私
たちは、ここで示された考え方に全く同感できます。これを具体的に進め、実効性あるものにしていただくことが何よりも大切だと思っています。
ただ、そのためには、
二つのことを申し上げたいと思います。
一つは、
介護報酬の大幅な引き上げという問題です。
東京都福祉保健局が昨年五月にまとめた
介護保険施設に係る
介護報酬の
地域差等に関する
提言というのがありますが、ここでは、
介護保険施設の
報酬額の人件費率が四〇%と設定されていることに対して、東京都内の民間特別養護老人ホームでは
平成十五年度で人件費率が七〇・六%に上るという数字が出ています。設定されている四〇%というのは三対一の職員配置を基準に算定されていますが、実際には、
介護職だけでなく、施設長や事務やほかの職員も雇うわけです。そうなると、結果として、こういった七〇%を超える人件費をとらざるを得ないという
実態が生まれています。
このような福祉労働者の賃金を初めとした労働環境を改善するためには、
介護報酬単価を大幅に引き上げることが早急に必要だと考えています。
次に、引き上げる際の基準の問題、これがあると思います。
先ほど申しました
人材確保指針の中では、「適切な給与水準を確保すること。」と明記されています。そして、その給与体系の
検討に当たっては、福祉職俸給表を
参考にすることとしています。この福祉職俸給表というのは、橋本内閣時代につくられた公務員の福祉職に適用される給与表です。私
たちは、この給与表が民間の
介護職員にも適用されることが必要だと考えています。そのためには、この俸給表の水準で人件費を算出して、その額を基礎にして
報酬単価を組み立てていくべきではないかと思います。
また、さらに、
報酬単価に積算するだけでなく、実際に施設で適用されなければ意味がありませんから、
事業者に対しても、この給与表の水準を基礎にした賃金の基準を創設する必要があると思っています。現在は、
報酬単価上も
事業者に対しても明確な賃金支払いの基準がないため、職員の賃金というのは全くの現場任せになっています。そのことが、給与水準の上がらない一つの要因でもあるのではないかと思います。
今回の民主党から
提出された
特別措置法案では、
一定の賃金水準を定め、その水準まで、およそ二万円の賃金を引き上げるという
内容です。この点で、この
法案は私
たちの考え方とも一致いたしますし、歓迎できる
内容だと思っています。
また、
介護報酬見直しのワーキングチームでは、
地域格差の解消という
視点での
検討もされています。その場合も、
報酬単価の人件費の基準を引き上げて、都市部でも
地方でも賃金改善につながる方向で
議論が進むことを願っています。
その
人材確保指針が出てから現在まで何カ月かたっているわけですが、中央福祉人材センターの数字によりますと、この何カ月間の有効求人倍率がどう変わっているか。一向に改善はされていないわけですね。むしろ悪くなっている。
例えば、昨年の八月は一・三六倍あったのが、この一月、二月では一・四倍を超えるというふうに上がってきています。また、もう少し細かく見ると、例えば分野別という数字があるんですが、
介護施設では三・八倍、これを第一希望として
介護施設を希望しているということに限った求人倍率で見ますと、六・三四倍という高い数字が出ています。それで、
介護施設以外の
高齢者関係、例えば居宅の関係の
ヘルパーさんとかだと思うんですけれ
ども、こういう職種に限って見ますと七・五二倍、第一希望ではどうかということでは、実に二十八・九六倍という求人倍率になっています。そういう意味でも、早急に具体的な
対応、対策をとっていくということが今求められているのではないかと思います。
資料としてもう一つ、ピンクの冊子をお配りしていますが、これは私
どもの労働組合が毎年春の時期に行っている基本的ないろいろなアンケートです。このアンケートを見ますと、例えば「今の仕事についてどう思いますか」という質問があるんですが、これに対して、「とてもやりがいがある」もしくは「やりがいがある」と答える人、これが合わせると九〇%以上、九二%ぐらいの人が今の
介護や福祉の仕事にやりがいがあるというふうに答えるわけです。ところが一方で、では「仕事をやめたいと思ったことはありますか」という設問もあるんですが、これを見ますと、「いつも思っている」「時々思う」、これを
二つ合わせると六三・八%あるわけですね。
福祉の仕事というのは、とてもやりがいがあるけれ
ども、同時に、常々やめたいとも思う、こういう非常に矛盾した仕事なんですね。
例えば大学とか専門学校で福祉の専門の勉強をして資格を取って、この仕事に少なくともそれぞれの夢というか希望を持って働き出した若い人が、実際に働いてみると、そこで失望をしてその職場を去っていく、今もこういう事態が続いています。
私
たちは、こういった状況をもうこれ以上繰り返さない、そのためにも、先ほど申しました
人材確保基本指針に書かれている中身を、財政的な裏打ちもしっかりと考えていただいて、実効性のある
制度改正をぜひ先生方にお願いしたいと思いまして、私の
意見とさせていただきたいと思います。
以上です。ありがとうございました。(拍手)