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飯田参考人 ただいま御紹介にあずかりました
環境エネルギー政策研究所所長の
飯田哲也と申します。
本日、
参考人として
意見陳述の
機会をいただきましたので、これより
意見陳述させていただきます。お手元に
資料が行っておるかと思いますので、それに沿って
意見陳述いたします。
まず、下の図のところにありますように、今回の法案の中身そのものだけを逐条的に見ていっても、今、
我が国政府あるいは
日本全体が置かれている状況というものに対処する法案になっていないのではないかというふうに思っておりまして、まず、大枠として、この法案そのものがとらえていない基本的な問題点を
最初に述べまして、なおかつ、この法案が射程に入れている
京都議定書の
達成の上での問題点がある、その上で、この法案の
改正の中身というふうに三段階で
報告いたします。
一枚目の裏に行きまして、ことし七月にG8サミットを
日本は主催するわけですが、これは、来年十二月にコペンハーゲンで開かれる
COP15でいわゆる
京都議定書の次の
目標値を
議論する重要なマイルストーンであるということで、まさにそのG8を主催するという時期に
改正される法案がいかにも近視眼的に
京都議定書だけをターゲットにしているというのは、非常に視野が狭いのではないか。ここに述べておりますように、もう主要国は中長期
削減目標を既に提示している。福田総理もことしのダボス
会議で
削減目標は提示されるというふうに断言されておられるわけですので、ここで
数字を掲げないまでも、中長期の
目標、これは論点六に挙がっておりますが、これを掲げるということを法案の枠組みにやはり入れるべきではないか。
具体的な
数字の提案としては、こちらに気候ネットワークのシナリオの図を入れておりますが、国際水準を眺めるならば、二〇二〇年までに三〇%、二〇五〇年で八〇%といった水準のそういった数値が必要かと思います。これを出すのはG8もしくはコペンハーゲンでいいのかもしれませんが、この法案の枠組みの中に入れておくということがまず必要ではないかというふうに思っております。
その下に行きまして、第二点目ですが、この法案の中には、自然エネルギー、いわゆる再生可能エネルギーに関する
目標値も一切触れられていない。
そもそも昨年の二月にEU、ヨーロッパの閣僚
理事会で、最終的には三月に決定された気候変動の
政策、ことしアクションプランが出て、再生可能エネルギーと気候変動の
各国割り当てまで出ておりますが、これはまず、EUは、再生可能エネルギーに関して二〇二〇年までに一次エネルギーで二〇%導入をした上、それを踏まえて、二〇二〇年で、今度は二酸化炭素、
温室効果ガスで二〇%
削減。再生可能エネルギーと気候変動
政策は両輪と申しますか、あるいは、たい焼きに例えると、再生可能エネルギーがたい焼きのあんこであって、気候変動の総量
削減がたい焼きの皮である。その再生可能エネルギーの
目標値を持たないままに総量
削減をこれから出していく。この総量
削減も
法律の中にはないんですが、ここが非常に大きな第二のポイントではないか。
若干小さな図になりますが、下側の左側の図、これは、ことし一月二十三日に欧州
委員会が
各国に提示をしている再生可能エネルギーの一次エネルギーに対する二〇二〇年までの導入の
義務づけです。下の濃いところが今、現状二〇〇五年の
数字で、上の薄いところに掲げてある
数字が二〇二〇年の
目標値ですね。おおむね一〇ポイント以上の増大になっております。
しかるに
日本は、三月十九日に出た長期エネルギー需給見通し、これも気候変動
政策といわば無
関係に近い形で出ているわけですが、これは五・九%から八・二%ということで、再生可能エネルギーに関して非常に消極的な政府の
数字になっている。しかも、これは気候変動
政策とは直接
関係のない形で出ているということが問題かと思います。このあたりも気候変動
政策の中に織り込んでいくということが必要かと思います。
次の四ページ目に参りまして、再生可能エネルギー、自然エネルギーに代表されるわけですが、エネルギー
政策全般が
地球温暖化
政策と非常にばらばらになって提示をされている。
しかも、ことし、先ほど申し上げたG8
洞爺湖サミットを目前に控えて、三月十九日に長期エネルギー需給見通し、今ちょうどパブリックコメントもかかっておりますが、この中に、福田総理も、あるいは昨年のハイリゲンダム・サミットでも
日本が提示をした低炭素社会であるとかクールアースとか、そういうものではなく、新・国家エネルギー戦略という若干古いものの
達成が
目標となっている。しかも、
目標値の水準が非常に低い。二〇二〇年で非常に頑張ってマイナス一三%である、なおかつ、その中に五十二兆円のお金がかかるんだ、しかもこれ以上は強権的な措置が必要だという、これに関しては鴨下
環境大臣も異議を唱えられたというふうに聞いておりますけれども、こういった
数字がばらばらの省庁から出てくるということは、政府の一体性、統合性から見ていかがなものかというふうに考えております。
やはりこういった長期エネルギー需給見通しは、低炭素中長期戦略の中に織り込んできちんと統合していくということが必要ではないかと思います。
それの幾つか具体的な問題点がさらにありますが、まず、下のページですね。これは、今回の
法改正のベースとなる
環境省と経産省の合同部会、私も
委員として三十回
出席をしてきましたが、この中で、ひたすら上流側、つまり発電あるいは産業側を後ろ手に隠して、下流、いわゆる民生、
業務が
伸びているのでこれが問題だ、ひたすらこういう論点に押し込められてきたのが合同部会の実態ですね。
ところが、これは私は現代の竹やり戦争というふうに言っていまして、実際に、
日本の
産業界が効率的だというのはフィクションです。これは日経新聞も指摘しておりますが、この下の図を見ていただいたらわかりますが、
二つのマジックがありまして、
一つは、よく政府が出す
数字は、直接為替換算で比較をしている、しかも内訳がない、この
二つのマジックですね。これを購買力平価で、なおかつ
産業界の内訳で見ると、一番下の濃いところ、右側の図の一番濃いところですが、
日本は決してヨーロッパと比べて効率的とは言えず、下手をするとアメリカとそれほど変わらない程度になってしまう。
なぜこういうことになっているか。これは昨年の十一月に世界銀行がいみじくも指摘していますが、一九九〇年以降、
日本はバブルの崩壊もあってほとんど経済成長していないにもかかわらず、石炭火力で一・三億トンも二酸化炭素をふやしている。世界銀行のランキングでは、気候変動
対策の評価は
先進国の中では最低です。世界七十カ国の中で六十一位というランキングがついているわけですね。これは結局、上流側の、まさしく石炭火力及び
産業界の問題です。これにきちんと焦点を当てた問題が必要です。
それを次のページ、六ページで見ていただきますと、まず第一に石炭火力の問題です。真ん中の図のところで、我々マイナス六%を
目標としながら、二〇〇六年
速報値で六・四%、恐らく二〇〇七年数値が出れば柏崎刈羽がとまっている
影響で著しくふえていると思いますが、この内訳を分析すると、電事連の未
達成分が圧倒的に多いんです。これは先ほどの石炭火力が一・三億トンふえたことによります。その他、鉄鋼連盟の未
達成分、あとは残りということで、ここに手を入れずして、もちろん民生、家庭も頑張りますが、民生、家庭だけ頑張っても、いわば上流で毒を垂れ流しながら下流でその水を飲むなと言っても、この国の経済は成り立たないわけですね。
さらに、表を見ていただきますと、これもつい先日、三十一日に経済産業省が取りまとめた各電力会社の石炭火力の増設
計画です。今後、既にその
計画にあるだけで三百五十万キロワットの石炭火力が
計画に乗っかっている。
京都議定書の
義務履行期間だけでも、関西電力と電源開発で合わせて百五十万キロワットがもう既に
計画に入っている。東京電力の二〇一三年度もほとんどそれに入ってきます。一方でこれだけふやしながら、しかも石炭火力が問題だと言いながらふやしていく
政策というのは、右手と左手が全くばらばらに動いているのではないかと。
その下側、七ページ目ですね。
では、この
京都議定書というのは、本当にこの法案
改正で
達成できるのか。これは合同部会を通じてもう毎回のように私自身も指摘をしてきましたが、全く
達成する担保がない
法律である、ざる法です。というのは、もともと法案提出の理由に「
京都議定書における
温室効果ガスの
排出量を
削減する
約束を確実に履行するため、」と書いてあるんですが、確実に履行するという担保措置が一切ない。例えば、この後で見ますが、いわゆるキャップ・アンド・トレードのような総量
削減、これがまずない。自主行動
計画も、きちんと中身を精査するという協定、ここもない。炭素税も、いまだに
日本は導入をしていない。再生可能エネルギーも、極めて数値
目標の小さいRPSがあるのみ。そういったものが一切ない中で、気分というか
国民運動だけで減らすということは、およそ当てにならない。
より深刻なことは、これがこのままいくと、そもそも一・六%、五年間で一億トン、これはそもそも織り込んでいた不足分ですが、さらに数億トン
規模が、
一つは税金によって、もしくは電力会社が調達をするCDMが電気料金を通じて、下手をすると最終的には
国民負担として数兆円という
規模がはね返ってくることになります。しかも、そこで終わりであればいいんですが、二〇二〇年、さらには二〇五〇年という形でポスト
京都の
義務がさらに続いていくと、根本的な
削減体制をつくらないままにひたすら
国民的負担がふえていく、そういう構造にこのままゴーサインをかけるということになるんだと思います。
八ページ、ここもちょっと小さいのでごらんいただけないと思いますが、経団連自主行動
計画、こちらは昨年合同部会で精査をして、国の方は三割上積みしたということになっていますが、実際にはすべてほとんど
達成している
数字をもう一回上書きしただけで、ほとんど自主行動
計画の上積みはないというのが私どもの評価になっています。
さらに、最大の問題点、九ページのところですが、やはり先ほどの電力の問題です。
昨年、柏崎刈羽原発を地震が襲ったわけですが、これによって年間三千万トン以上の二酸化炭素がふえるというふうに言われております。これに対しては、実は合同部会は一切タッチをしておりません。もう既にとまって二酸化炭素がふえていることが厳然として明らかでありながらそれに対処をしていない法案というものは、非常に大きな抜け穴があいている。これはもちろん、電力会社に、では電気料金に上乗せする形でCDMですべて調達してこいといっても、年間数千万トンというのは、膨大な調達リスクもあり、なおかつ電気料金を通じて
国民経済にまたしわ寄せをするということで、ここを織り込んだ形で改めて
計画の
つくり直しということが必要かと思います。
時間がありませんので急ぎます。次のページ、十ページ目です。
ことしに入って、
環境省、官邸、そして経産省ともキャップ・アンド・トレードの導入を織り込みながら検討が始まっておりますが、かなり
日本はおくれておる。マイケル・ポーターというハーバード大学の教授がおりますが、彼はイノベーションオフセットという理論を言っておりまして、世界百六十カ国以上、より厳しい
環境政策をより早く導入した国はより競争力を持って、その競争力で、当初の規制によるコストをまさにイノベーションによって回避できる。これはまさに
日本の自動車業界がかつて排ガス規制を
達成したことで如実に体験したことですが、この
排出量取引規制に関しては、
日本は著しくおくれている。
その下の十一ページ目、これは石炭火力の抑制の強力な手段として、安いから使うということが今現状としてありまして、やはりここに強力な石炭課税、石油石炭税は二〇〇三年から二年置きに昨年三度目の増税が行われておりますが、まだまだコスト差を埋めるには至っておりません。やはり石油石炭税をあのまま暫定で三回の増税のままで放置するのではなく、ここで強化するということが必要かと思います。
そして、次のページ、十二ページ目ですが、再生可能エネルギー。これは
法律が成案したのは二〇〇二年当時で、私もその当時ここで
参考人で
意見陳述した記憶がありますが、RPS法、その当時から、十分に機能しない、
目標値が小さく、なおかつメカニズムとして不十分であると。しかも、導入した結果、電力会社にとっても自然エネルギー
事業者にとっても、はたまた経済産業省にとってもユーザーにとっても、だれにとっても実は望ましくない
法律に今なっています。
これは、思い切って
法律を改廃して、ドイツで大成功している固定価格制にかじを切り直すべきときではないか。これは、欧州
委員会で、固定価格制の方が、普及
効果で
効果があるだけでなく、コストを
削減する
効果においてもRPSにまさっているということがもう既にEUの十五カ国の経験で実証されておりますので、このRPS法が成立したときの成立理由が既に失われているというふうに判断すべきかと思います。
最後の逐条のところは、最後のページ、取り急ぎいきます。
特に今回のポイントは、
算定・
報告・
公表制度が
一つかと思いますが、
算定、
報告の中でやはり電力と鉄鋼が非常に大きいということが十八年度の
報告結果で明らかになりました。しかも、その中で柏崎刈羽原発の
影響というのが今後大きく見込まれる。
そういった中で、個別
事業所の開示
規定というのが今後大きな障害になるのではないか。多分、大きな排出の鉄鋼会社がトップから消えてしまうという非常に不思議な現象が起きます。PRTR法でも国がみずから開示をするということが成立していますので、この
京都議定書、二酸化炭素に関しても同様に対処すべきではないかというふうに思います。
あと、ちょっと細かい点ですが、
排出量の認証
制度、これを今は
事業者が自主
報告をしているので、若干不確かというか、ずれがあります。東京電力、新日鉄、三井化学という三つの事例を挙げましたが、
算定、
報告で出ている
数字と
環境報告書で出ている
数字に相当な乖離があります。
このあたりは、やはり第三者認証という形できちんと検証が入る仕組みをつくらないと、これは最終的に国の原簿になっていくわけですから、海外から買ってくるCDMとまじってしまうとだんだん不確かになってしまいますので、こういったところも正確性が必要かと思います。
そして一番最後の下の段ですが、
算定、
報告の続きで、排出係数。ここは
二つ課題があって、今現在は二〇〇六年度数値ですので若干よい排出係数で、東京電力さんも非常にいいんですが、二〇〇七年度数値を使う来年になって今度は一気に悪化することになります。そこら辺、今、
日本は配分後の形で使う形になっていますので、ユーザーサイドが
混乱をするという状況がありますので、このあたりはもう少し即応性を持てないかというところであります。
それから、今のルールですと、〇・五五五キログラム・パー・キロワットアワーということで上限値になっていますが、一部の電力会社はこれをはるかに超えておりますので、やはり実態に合わせた排出係数が使える形に
改正すべきではないか。
それから、今はCDMに関しては今回の法
制度で優先的に
制度手当てができるんですが、これは
京都議定書にも書いてありますが、海外のクレジットを買うよりも国内の
施策の方を優先すべきですので、国内のいわゆる
排出削減事業、あるいはまさに再生可能エネルギー、省エネ
事業、これに国内で取り組んだところからクレジットが発生してきちんと取引できるという仕組みを最優先して整備すべきではないかというふうに思います。これは中小
企業の活性化にも非常に役立つと思います。
それから、省エネ法の遵守、これも、実際に遵守をしていけば二〇五〇年までに四〇%ぐらい
削減できるんですが、実際にはこれがほとんど遵守をされていません。これも温暖化とあわせてきちんと遵守をしていくということが必要かと思います。
今回民主党から提案されている、一般消費者にエネルギー供給
事業者の
情報を
提供する、これは、実はアメリカ、ヨーロッパで既に
実現をしておりまして、ヨーロッパはすべての国で、ギャランティー・オブ・オリジン、発電源証明というのが電気の取引に伴って必ずやりとりをされて、最終的にはユーザーが、この電気はどれだけの二酸化炭素を持っている、あるいはどれだけの自然エネルギーを使っているということが非常に見える化されています。こういった仕組みが今回民主党から提案されていますが、こういった
制度はぜひ早急に整備すべきではないかというふうに考えております。
以上です。どうもありがとうございました。(拍手)