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参考人(岸
康彦君) 本日は、こういう場で
発言をする機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。
私は、現在、民間の研究機関に籍を置いておりますけれども、元々はジャーナリストでございます。今はもう廃止になってしまいましたけれども、旧
農業基本法ができる直前、昭和三十四年でございますけれども、その年から新聞記者をしておりました。その
検討が始まったころからずっと
農業を見てきた者としまして、
農業政策というものの難しさというのも痛感しております。
そういう
意味で、日ごろから当
委員会の皆様方が
農林水産業を何とか元気付けようと御尽力いただいておりますことに心から敬意を表する次第でございます。
さて、私は、本日の案件である
農業者戸別所得補償法案になるべく絞ってお話をしてみたいと思うのであります。必要に応じて品目横断などにも触れたいと思っておりますけれども、なるべく絞りたいと思っております。
この
法案につきまして、既に当
委員会で
質疑が行われておりますし、またジャーナリズムも今回は結構関心を持ちまして取り上げております。その過程で、例えば一兆円の積算根拠はどうなんだろうかとか、あるいは、米の生産調整を廃止と言っていたはずなのが、いつの間にやら
数量目標を
設定するというようなことになっているんだけれども、これは一体どういうことなのかとか、さらに、
戸別所得補償ということで
WTOの
農業交渉に耐えられるのかというような、いろんな議論が出ていることはもう御承知のとおりでございます。また、
民主党の方の
提案者からの御説明がこの場でもあったと思います。
これらについての私の
意見は後ほど機会がありましたら申し述べたいと思いますけれども、今は時間の関係もありますから、少し別の視点から、これまで余り議論されていないのではないかと思われることを中心に所見を申し述べてみたいと思うのでございます。
まず第一点は、これは
法案とは直接には関係のないことでありますけれども、
民主党がマニフェストの中に三つの
約束の
一つとして
農業を入れられたこと、これは正直言いましてやや意外でございましたけれども、これは大変うれしいことでございました。
率直に申しまして、従来、
民主党は
農業政策には弱いという
印象がありました。失礼ですけれども、これは多分、
民主党の
皆さん方もそこは自覚なさっているんじゃないかという気がいたしますけれども、その
民主党が……(
発言する者あり)不適切だったらここを削除しても結構でございますけれども。その
民主党が何と三本柱の
一つに
農業を掲げられた。もちろん、これも
選挙戦略ということはあったに違いないんでありますけれども、それにしましても、ともかく
民主党がこういう姿勢を打ち出されたこと、そのこと自体が私どもにとっては大いに歓迎できることでございます。
マニフェストの具体的な表れとして、今回、
戸別所得補償法案を提出されました。もちろん、以前にも、農林漁業再生プランでしたか、あるいは、大変長い名前の
基本法案をお出しになりました、昨年でしたね、お出しになりましたですね。それなりのことはしてこられたのでありますけれども、大変失礼ながら、
政府・
与党の進めるいわゆる
農政改革に隠れまして、影が薄かったと言わなくてはならないと思うのであります。
その点、今回は、この今日の
民主党の
提案された
法案が、それだけが言わば案件になっているわけでございまして、ようやく
政府・
与党の
政策に対する対案の体を成してきたなという感じを持っております。そのことは、
農政の前進と、そういう
意味で大変喜ばしいことだというふうに私は思っております。
たまたま、一昨日でございますけれども、私も会員になっておりますある
農政ジャーナリストの
組織があるのでございますけれども、その会が、本当に久しぶりに自民党、
民主党、両方からお一人ずつお迎えをいたしまして、この
戸別所得補償法案を中心に研究会を開きました。ずっと昔は、時々、各党から代表をお呼びしまして、例えば与野党の
農業政策をただすと、そんなようなテーマでもって我々議論をしたことがあったんでございますけれども、絶えて久しくそういう機会を持つことができなくなってしまっていたんですね。
もう今日はずけずけ申しますけれども、私どもから見ますと、野党側が
農政ということに弱過ぎたと思うんですね。それがようやく今度復活をいたしました。もちろん、ジャーナリストのことでありますから、どの党の味方をするとか、いや、しないんだとか、そういうことではなくて、
農政について我々が比較
検討をしながら議論ができる、そのこと自体が大変にこれは喜ばしいことだし、これは
農政の発展にとって非常にいいことだというふうに思っております。
少々、今私どもの会のことで脱線をいたしましたけれども、ともかくこの
法案が出されたことによりまして既に自民党の側に強い反応が起きているということは、ここ数日間の大変慌ただしい動きからも明らかでございます。その
意味でも、
民主党が対案を出されたことの効果と申しましょうか、それは決して小さいものではなかったというふうに私は評価をしております。
自民党の反応からもうかがえますように、この
法案が多くの
農業者に喜ばれるというのは何だろうかと。それは、小さな
農業者も排除しないということだろうと思うんです。もちろん、大きい
農家あるいは法人の育成ということが必要なことは私も十分に承知をしておりますし、また
民主党もそのことに反対しておられるわけではないと思いますが、だからといって、今の日本の
農政は、私は排除の論理だと言っておるんですが、小さいものをはじき出しておるということを排除の論理というふうに言っておるんでありますが、排除の論理でもって大小の
農家を仕分をすると、そういうことができるほどぜいたくな
状況にはないというふうに思います。一人でも多くの
担い手が我々は欲しいわけですよね。
担い手、まあ
担い手候補も含めてでいいんでありますけれども、必ずしも
規模だけで決まるものではないわけであります。
例えば、私は大学に実は四年半いたんでありますけれども、私の教え子が二人、ふるさとへ帰って
農業をやっております。彼らは本当に小さな
規模なんですね。でも、実に生き生きと力強くやっているわけですね。彼らはじゃ
担い手でないのかといったら、私はやっぱり
担い手、少なくとも候補ではあると思うんですね。国際競争力ということからしたら問題にならないような
農家であっても、しっかり
農業やっているんだと。そういうのであれば、そのような
農家を
農政の
対象から排除するのはもちろん得策じゃないと。こういう点で、これは別に自民党が排除しているということを今申し上げているんじゃないんですね、やっぱり
農政全体として多少ともそういう排除するというふうな雰囲気をつくってしまってはいけないと、そういう
意味でこの
法案の意義を認めたいというふうに思っております。
ただし、すぐ付け加えなきゃいけないんですけれども、小
規模な
農家を支持する方法につきましては別途の方策がないかどうかということもあります。つまり、先ほど
生源寺さんは
現状の固定じゃないかというふうな言い方もされておりましたけれども、別途の方策についても
検討の余地がやはりあると思うんですね。その点については、後ほど私、産業
政策と
地域振興
政策と、この関係のところでこの問題と絡めて少しお話をしてみたいと思うんでありますが。
次は、この
法案はこれでいいのかという点でございます。
まず第一点は、
法案の題名そのものでございます。題名そのものでございます。
民主党は以前、直接
支払という言葉をずっと使ってこられたと思うんですね。それが
戸別所得補償法案になったのは一体何なのかと、なぜなのかということでございます。
随分下世話な情報も伝わってきておりますけれども、
所得補償というふうに言いますと
農家には確かに喜ばれると思うんですね。非常に耳当たりいいんですよね。しかし、
農家以外の
国民にとってはどうか。そうか、
農家というのは赤字になったら全部国が面倒見てくれるんだなというような誤解をされましたら、これはお互いにとって不幸なことだと思うんであります。
こんな言葉遣いの問題にこだわって申し上げますのは、今この日本の
農政にとって極めて重要なことは、
価格支持型の
農業支援、
消費者負担型というふうに言ってもいいわけでありますけれども、そこから財政負担型の
農業支援、すなわち直接
支払へと
転換をしていくんだと、そういうことを何としても
国民全体の納得、支持を得て進めなくてはならないという思いがあるからでございます。今こそこの直接
支払、そういう言葉の意義を大いにPRしなくてはならない、そういうときになぜ呼び方を変えられたのかということを言いたいわけであります。
それから、同じく直接
支払について、この
法案では現行の中
山間地域等直接
支払制度をそっくり
法案の中に取り込んでおられるわけであります。法律の中にきちんと位置付けるという
意味では一歩前進かなというふうにも思いますけれども、それならば直接
支払のもう
一つの形態、
手法であるところの
環境支払をなぜ何らかの形でこの
法案に位置付けることができなかったのかということを思うのでございます。
この場にいらっしゃる
方々にはお釈迦様に説教するようなことになりますけれども、今、
世界の
農政の潮流というものは、
一つは直接
支払への移行ですよね。もう
一つは
環境への
配慮ということであります。この両方にかかわってくるのが
環境支払なんですね。日本でいえば、例えば新しく始まった
農地・水・
環境保全向上対策の二階部分ですね、営農支援活動と呼ばれておりますが、あれは
環境支払と呼ぶべきものだというふうに私は理解をしておるわけでございます。
環境支払につきましては、例えば滋賀県とかあるいは福岡県とか、そういうような自治体が非常に先駆的な試みをしてこられまして、私から見ますと国はむしろ跡を追っ掛けているような
状況でありますけれども、私は、今後最も重視すべき
農政の課題の
一つはこの
環境支払であるというふうに思っております。それだけに、中山間直接
支払制度をこの中に入れたんだったら、どこかにもう
一つ環境支払について言及があってもよかったんじゃないかと。私、法律家じゃございませんから、そういうことがうまくできるのかどうか分かりません。もしかしたら別々の法律にしなきゃいけないのかもしれませんけれども、何らかの位置付けというものをしなきゃいけないということではないかと思うんであります。
最後の問題であります。産業
政策と
地域振興
政策の関係について申し上げたいんでありますが、現在行われております
品目横断的経営安定対策、これは産業
政策であって、それは産業として言わば自立できる
農業経営を増やす、こういうことをねらいとすると。その一方で、
農地・水・
環境保全向上対策は
地域振興
政策であって、だからこそ
農家だけじゃなくて、いわんや大きい
農家だけではなくてすべての
農家、さらに非
農家を含む、あるいはNPOなんかまで含む多様な主体が
地域振興と
環境を守るために共同活動をするんだと、これに対して支援をするんだという、こういうことになっているわけですね。こういうふうに私は理解をしておるんでありますが。
一方、
民主党の方では、この
法案の
対象に
規模の小さい
農家も全部含めることで
農家全体の底上げを図っていくんだと、それによって
地域の振興につなげていこうという
立場をお取りのようであります。つまり、言わば、私の理解が間違っていたら教えていただきたいんでありますが、産業
政策と
地域政策を一緒に進めようとしておられるのかなという
印象を受けるわけでございます。それはそれで
一つの考え方かなと。
私、一〇〇%の結論を持っているわけじゃございませんけれども、ただ問題は、そのことが結果として意欲を持って
規模拡大に取り組む
農業者を逆に排除しかねないようなことが起こるんだとしたら、これはかえって
地域農業が活力を失うおそれがあるということが気になるのでございます。小さい
農家は
地域政策としてもっと支援する方法はないかどうかということだと言っていいと思うんですね。ここは大変実は悩ましいところでございまして、この産業
政策と
地域振興
政策をどう仕分するかということについて、今、私に百点満点の解答があるわけではもちろんありませんが、そういう問題もこの
法案は今度提起をしているんじゃないかなということを感じたわけでございます。
いずれにしろ、言えますことは、
地域が活力を取り戻すには従来型の
農政だけでは足りないということでございます。その点で、先ほども取り上げました
農地・水・
環境保全向上対策が非
農家あるいはNPOとか、そういうものとの共同活動を目指しているということは、これ実際にやってみますとなかなか難しいんですよね。そうではありますけれども、もしこれが本当にうまくいくんだったら
地域の将来に向けて
一つの大きな可能性を持ち得る、そういう
対策ではないかというふうに私は思っているわけです。是非、
民主党の
皆さん方もこの点について御一考いただければというふうに思います。
同様に、行政においても省庁の壁を乗り越えた施策、そういう施策の展開がますます重要になってきております。
昨日の新聞にもたまたま
地域活性化のために
農林水産省と経済産業省が一緒になって新しい
法案を提出するというふうなニュースが出ておりましたけれども、しかし、現実にはまだまだ国の機関の間の壁は大変厚いような気がしております。国の機関は
農林水産省とか国土交通省とか厚生労働省とかいろいろありまして、分かれておりますけれども、現場の役場へ行きますとこれは
一つなんですね。この
地域振興というものは決して
農政の枠内だけで考えていても実現できないと。そこにこそ本当は政治の出番があるんではないかということを申し上げて、とりあえず私の
意見陳述を終わりたいと思います。
どうもありがとうございました。