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参考人(高田創君)
みずほ証券の高田でございます。本日は
財政金融委員会に
出席させていただきまして誠にありがとうございます。
これまで
参考人の方々からいろいろ細かい分析がなされておりますので、私は、どちらかといいますと、やや歴史的な
観点から現状認識を考えさせていただこうかなと思っておりまして、そういう
状況の中で、今回の世界的な危機と言うべきかどうかまだ分かりませんけれども、そういう中での
日本の
状況、また、今回の局面というものがどのような特徴があるのかという点を明らかにさせていただきたいなと思う次第でございます。
それでは、まず、私のレジュメの方でございますが、一ページ目のところから、まず
日本の
状況というものを概略的に考えさせていただきたいなと思います。
この絵は非常に単純な絵でございますけれども、私自身、
日本の九〇年代以降の
状況というものを構造と循環という意味で付けさせていただき、それをイメージ化したものでございます。すなわち、九〇年代以降の大きな調整、これはバランスシート調整というふうに言われますが、その出発点は
資産デフレというふうに言われております。こうした
状況の中で生じた
資産デフレからのバランスシート調整、こういうものがこの十何年に及ぶ極めてまれな調整というものを引き起こした。これが国内固有の構造問題であるというふうに考えることができようかと思います。
こうした点にかんがみますと、この点について言えば私は楽観視しておりまして、さすがに二〇〇六年ぐらいのところから一つの転換点を迎えたと、そういう意味では全般的な上昇基調にあるというふうに私は見ているわけであります。
一方で、海外を中心といたしました循環的
状況、こうした九〇年代以降にもそのような循環はあったわけでございまして、こうした局面はアメリカを中心とした流れというところにあるわけでございまして、こういう論点について考えますと、例えば今回、海外要因、中でもアメリカを中心とした
状況という点についていえば、昨年ぐらいのところからの調整に入ってきているのではないかと。そういう意味では、構造と循環という二つの軸の中、構造でいえば楽観的に見ながらも、循環的な外部環境というものに調整のリスクを抱えているのではないかという論点でございます。
こうした
状況を、次の二ページ目のところには、循環的
状況を表します例えば鉱工業生産みたいなものが表しておりますが、下のところに日経平均がございます。従来、こういうものは上と下と大体同じような動きをするものなんですけれども、ここで悲観バブルと書かせていただきました二〇〇二、三年の
状況、これは考えてまいりますと、上にあります循環的なものは回復局面にある。今回の景気回復も二〇〇二年からと言われているわけでございますが、しかしながら、大きな株価の下落、また世の中も悲観一色になったというのは、やはり構造的な調整の一番厳しかったところがこの辺になっていた。
また、こういうような底を越えながらようやく今二〇〇六年以降の回復過程にあるということではないかと思いますし、また次の三ページ目をごらんいただきたいわけでありますが、そうした構造問題の背景にあったもの、最初に申し上げましたように、
資産デフレから始まったと申し上げました。とりわけ、この右側のところに国富とございますけれども、こちらにございます国富、ちょうどピークの九〇年ぐらいのところから一千兆円近い調整が生じたということでございまして、この規模や、私もよく議論するんですけれども、第二次世界大戦で失った国富の規模、GDP対比で見たそれよりも大きかったのではないかと。そのぐらい大きな調整を九〇年代以降に、当然それは、左側のところにもございますように、
民間金融機関の正味
資産と申しましょうか、それが大変な
マイナスを受けたというところにあったわけですが、そうしたところからようやく改善、構造の問題にめどが付いた。また、そういう
状況の中で
日本銀行の方も利上げ、いわゆる正常化というところに足を踏み出してきたというところが二〇〇六年以降の
状況ではないかと思うわけであります。
そういう意味では、
日本銀行の利上げの姿勢、また中立、ノーマライゼーションの姿勢というものは非常に妥当な局面にあるということではございますが、ただ同時に、次の四ページ目以降で、私はよく五回目のジンクスということを申し上げてきたんですけれども、
日本の
金融政策の場合は、七〇年代以降極めて海外の影響を受けていたということではないかという点でございます。七〇年代というのは、今よく言われております市場化、グローバル化の私は出発点だと思います。それは、要は為替が動き出したからということでございまして、そういう
状況の中でのグローバルなシンクロナイゼーションが始まった局面であるということでございます。
そこの中での共通点ということ、ちょうどこの四ページ目のところにまとめさせていただいておりますが、
日本の利上げ、ちょうど今回、二〇〇六年以降、五回目という形になります。ちょうど一回目が七三年、二回目が七九年、三回目が八九年、四回目が二〇〇〇年、そして今回二〇〇六年ということになるわけでございますが、幾つかの共通点がございます。それは、
日本の利上げは常に日米欧の同時利上げ局面にあったと。そして、日銀の利上げは常に最後にあった。そして、日銀の利上げの翌年は世界的な減速になっていると。
そして、次の五ページ目のところでございますが、右から二番目のところにございますように、ちょうど日銀の利上げの翌年に
金融市場の変動が生じていると。たまたまこれが今回サブプライム問題に当たっているというふうに考えることもできるかもしれません。そして、この五局面でございますが、すべて原油価格の高騰期と符合しているということでございます。これは単なる偶然の一致という見方もあるかもしれません。しかしながら、私はそれなりの因果関係はあると思っておりました。それはどういうことかと申し上げれば、日米欧の中央
銀行がみんなそろって利上げをするということは、世界じゅう経済がいいということにほかならないわけであります。当然、そういう
状況の中で経済の拡大、また企業活動の拡大、また信用拡張が生じるわけでございます。そうした
状況の中で一斉に中央
銀行がみんながブレーキを踏むということになれば、当然のことながらどこかで減速が起きると。しかしながら、
日本の場合、それが最後であったものですから、その期間が短くなっているということに当たると。また、六ページ目のところにございますように、原油価格、五回目と申し上げましたが、七〇年代二回、九〇年、二〇〇〇年、そして今回も大変な高騰期でございまして、必ずこれまでは三、四倍の高騰でございます。ただし過去は、今回は分かりませんが、半値に落ちた歴史であるということもあるわけでございます。
こうした信用拡張とその反動というものが繰り返された、しかもそれが大規模で起きていたというのがこの五回目という形になるわけで、そういうわけでは今回の局面をどう考えるか、それはちょっと七ページ目のところでごらんいただきたいと思います。
過去の危機ということでございますが、七〇年代以降、左側は先ほどから申し上げております五回目のジンクスというバランスシート調整でございまして、これはかなりハードランディングに近い
状況が少なくとも従来は起きていたということでございます。
一方、最近よく言われておりますのが、例えば、ちょうど先月でございますがブラックマンデー二十周年と言われたように、これは右側のケースでございますが、一時的な危機事例と申しましょうか、今振り返れば一時的と言われた事例、八七年ブラックマンデー、また九四、五年のラ米メキシコ危機、また九八年のLTCM危機と言われたもの。こうしたものは、起こったときは大変なショックと言われたわけでございますが、振り返ってみれば一時的と言われ、こうした
状況というものは、実はFRBのアメリカの中央
銀行の政策でいえば〇・七五の引下げである程度の収拾が付き、また危機から一年以内のところでめどが付いているというくらいの
状況であったわけでございます。
そういう意味からいいますと、今回の
状況がこの一時的な
状況にとどまるのか、またこの左側のところにあるようなバランスシート調整的な、やや重さというものを抱えるものなのかというところが、私は今回の性格付けをどう考えるかというところであるのかと思うわけであります。
私は、この中でいえば、どちらかといえば右側の一時的な危機に近いとはいいながらも、しかしながら、やはりこうした左側のバランスシート調整的な意味合いもあるのではないかと。そういう意味では、この一時的な危機というような深度をもう超えてしまっているのではないか。もちろん、左側のところにありますような、従来そのままのハードランディングになるとは私は思っておりません。
しかしながら、こうした中間的な
状況というものをどういうふうに理解するのか。それは、次の八ページ目のところにありますような今回のリスク要因をどう考えるかという点になるわけであります。先ほど五回目のジンクスと申し上げましたが、そういう意味では、そうした問題の顕在化という部分もございます。というのは、今回の
状況というものを考えますと、信用拡張がどこで起きていたのかと。それは、考えてみれば、だれも口をそろえてアメリカの住宅セクターだということになるわけであります。
しかしながら、ここの問題だけであれば、そんなに大きなというところにあるわけでございますが、しかしながら自由
証券化等を通じたレバレッジの拡大、信用拡張というものが従来の企業というところではない中で意外と生じていたのではないかと。そういう
状況の中での資金調達、拡大していたものの反動というようなものが生じ、こうしたものが当初の市場の予想よりも重いリスクというものをもたらしているのではないか。場合によっては一部に、
金融システムのというところに不安が波及するリスクもあるのではないかというような不安が出てきている。
こうしたものは次の五ページ目のところでございますが、たまたま一番左側に今回のサブプライム問題、五回目のというところでいえば今回五回目になるわけでございます。四回目のところが真ん中のITバブル崩壊、そして三回目のというのが、これは言うまでもなく
日本も含めたバブル崩壊ということになるわけであります。
従来のこうした調整、バランスシート調整というのは、これまで一般的に言われております企業のバランスシート、また場合によっては国レベル、ラ米の問題等を含めたバランスシートで行われてきたわけであります。そういう面からいいますと、実は今回の場合は、こうした従来ながらの企業、国というところでいえば比較的健全であるという点でございます。だからこそ、実は今回の場合は国レベルではないので株価がそんなに落ちていないという部分にもなるわけであります。
しかしながら、この左側のところにもありますように、実はオフバランス化のビークル、SPV、SIVというふうに言われることもございますが、いわゆる投資ファンドと言われるようなオフバランス化されたものの中で生じた、そういう意味でいえば新たな
金融商品を通じた調整というようなものが起きていると。しかも、そうしたものが
金融システムに波及しやすいリスクというものを秘めているというふうに見る新しい局面と考えることができるのではないかと思うわけであります。
そういう点からいたしますと、先ほどデカップリング論という議論が出ましたけれども、いわゆる企業若しくは国というレベルで見ますと、それなりにみんな元気であるといったところ、そういうものがある面ではサポート要因としていずれ効いてくる局面もあるのではないかと私は思うわけでありますし、従来ながらの大きなハードランディングにはならないということでもあるわけであります。
しかしながら、次の十ページ目のところにございますように、バランスシート調整という典型的な従来の調整を抱えているというのも確かでございます。ある面でいえば、
日本は、この九〇年代以降の
状況を振り返れば、正にバランスシート調整の先進国でございます。いろいろな大きなものを体験してきたわけであります。その中で我々がこの十何年間学んだものというのは、バランスシート調整というのは、結局、バランスシートの中の良い悪いの峻別を行い、そしてそこで損失の確定を行うと。その過程の中では
資産圧縮なり、また信用収縮というものが一時的に生じる。また、そうしたものが
銀行システムを通じたところに波及がそれなりに及ぶと。また、そういうようなものをそれなりに
民間セクターだけで
対応できる局面と、場合によっては政策的なサポートも必要になるということがあるわけであります。
そうなってまいりますと、先ほど加藤さんの方からもございましたように、モラルハザード論との綱引きというものが必然的に行われてくる
状況であったと。こうした
状況というものは、
日本の例でもそうでございますが、同時に、今現在欧米で行われている
状況と、またそれに
対応したマクロ的な
対応というようなもの、とりわけアメリカを中心とした場合には、できるだけ為替に
対応する外需依存的な動向というものは、逆に
日本に振り替わりますと、円高リスクを呼ぶリスクというものもあるというのも過去の実例でございました。
そういう中で、十一ページ目のところ、
日本の例というものから今回の実例どんなものであるかということを振り返りますと、たまたま八月以降、ドイツの
銀行を中心とした救済、これは奉加帳というふうに言われたこともございました。また、十月以降、スーパーSIVと言われて、こうした
債権、
証券化
債権というものを買い取るべき機関がどうかと。また、そういうものに
対応したSIV投資ファンドというふうなものが、結局は
銀行とのリスクというものがつながっていたんではないかと、そうしたところが母体として
対応すると。
こうした
状況というものは、この十一ページ目のところの時間軸で申し上げれば、結局、スーパーSIV投資ファンドの買取りファンドというものは、九三年の共同
債権買取
機構によく似ているかなと。また、奉加帳的な
状況というものも九〇年代前半にあったわけでございますし、また母体行的なひも付きの
状況、
住専処理のところにも使われたということからいたしますと、今の状態は、欧米でいえば、九〇年代
日本でいう前半部分のところに当たっている局面なんではないかなと。
しかしながら、当然のことながら、本格的
処理ということになってまいりますと、言わばバランスシートから切り離して本格的な
処理というふうなことになってまいりますと、まだ欧米のところはその
段階までは行っていない。そこまでは行かないで済むということも当然あり得るわけでございますが、同時に、
日本の場合も、九〇年代後半は、先ほども議論がございましたように、単に
金融問題だけではなく、いわゆる実体経済の方に波及が行った局面でもございました。
そういう意味からいいますと、先ほどちょうど、一時的なものなのか、またある程度深度を含んだものなのかという分岐点にあるということで申し上げたわけでございますが、そうした
観点からいいましても、今の
状況というものはややそこのせめぎ合いのところにあるのではないかという論点でございます。当然のことながら、
日本の反省も踏まえていえば、欧米的な
対応は極めて早い
対応、時間軸が加速されているという部分はあろうかと思います。
こうした
状況の中で、十二ページ目のところでございますが、二〇〇〇年以降の日米欧の
金融政策というものを並べさせていただいている次第でございますが、ちょうど二〇〇〇年以降のITバブル崩壊以降、各中央
銀行はどんどん利下げをしてきたわけでございまして、そのピーク、ボトムが二〇〇三年であったわけでございます。そこから、アメリカは二〇〇四年から利上げを始め、そしてこのサイクル、連動の中でいえばちょうど九月から利下げに向かい出したというような流れで、先頭車両の方はやや下を向き出してしまったというような
状況にもなっているというのが今の局面ではないかと思います。もちろん、
日本の場合は大きな流れというものが上を向いているという中からいえば、今回の場合は
日本は
遮断されていると私は考えている次第でございます。
そういうような中で、今回、従来の二〇〇〇年以降の
状況とは全く異なっているという点ではございますが、ただ
日本の場合も国内要因のところから幾つかの留意点を考えさせていただいたのが十三ページのところでございます。
こちらは先ほど前の
参考人の方々から幾つか断片的に出た議論でございますけれども、ここにもございますような正常化というものをもたらすいろんな要因というものが出てきております。これ、どれを取りましても私は当然今後進めていくべき論点ではないかと思うわけでございますし、こうしたところを正常化の中でやっていくことがバブル崩壊からの道のりだというのは全く論をまたないわけでございます。
しかしながら、こうしたものが合成されたときに、しかも海外というようなものから不安定な要素が重なってきたときのリスク要因と申しましょうか、こういうものもマクロ的な中である程度考える必要もあるのではないかと。しかも、こうした十三ページ目のところにあるような要因というのは、どちらかといえば中堅、中小に効きやすい、どちらかといえば地方のところに効きやすい要因というようなものも多い論点でございます。
こうしたところが、次の十四ページのところにございますように、どうも昨今、倒産件数というものも一時から比べますとじわじわと増えてきているのではないかと言われるところにあるというような
状況でございまして、そういう点からいいますと、最後に
日本銀行の
金融政策等を議論するということでまとめさせていただければ、大きな流れというものは今の流れというところに全く私は異存ございません。ただ、こうした経済というものは生き物でございますし、また特に今回、
金融の問題というのはある面でいえば従来の外科的なものというよりも循環器系と申しましょうか、血の巡りに属するところでもございます。そういう意味からしますと、こうした経済の体温というようなものは極めて常に見詰めて、しかもグローバルな中での連動性というようなものも考える必要もあるのではないかというのが私のまとめということでございます。
以上でございます。