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参考人(末
吉竹二郎君) 今日はどうもこの
調査会にお招きいただきましてありがとうございました。
私は、この数年来、環境問題につきまして金融という窓口から見ております。特に海外の金融機関を中心に、金融の
世界が
地球温暖化を中心とする
世界的な環境問題にどう取り組んでいるのか、それを直接、間接、見てまいりましたので、今日はその全体的な動きについて御
報告をさせていただきます。
元々、金融機関はあるいは金融業界は環境に余り関心がありませんでした。というのは、実は我々は何も悪いことをしていないんだという自覚が非常に強かったわけであります。外部もそういうような見方をしておりました。ところが、これは実は大間違いであります。金融こそ環境に大きく取り組むべきであると。そういったことで、
世界の流れが今非常に変わり始めております。
更に申し上げれば、この
地球温暖化問題は、百年後に真夏日が何日来るとかという話では受け止めておりません。今そこにあるリスクなんだというのが金融機関の受け止め方であります。様々な分野で動きが起きておりますけれども、今それがメーンストリームの中に入ってき始めているということが大きな変化でありまして、これは恐らく、これからお金のパワーで社会を、経済を、国の在り方を変えていくということでは非常に大きな働きをするのではないかと期待しております。
まず初めに、国連環境
計画の金
融イニシアティブでありますけれども、これが始まったのは一九九二年であります。そのきっかけは、あのリオ・サミットであります。国連環境
計画が始まりましたのが一九七二年でありますけれども、九二年までの二十年間に地球
規模の環境問題に取り組んできたのは、プライベートセクターからは
産業界の人たちだけであったと。つまり、工場で環境を破壊している、悪いことをしているという自覚のある人が参画をしていた。ところが金融機関は、自分たちはきれいな仕事をしているんだというようなことで参画していなかったわけです。でも、社会の、
世界のお金の流れに関与する金融機関が、金融がこの問題に取り組まなければこの問題は解決できないんだと、金融こそ取り組むべきであるという国連サイドの呼び掛けに応じて始まったのがこの金
融イニシアティブであります。
今現在、百八十ほどの
世界的な金融機関、
日本からは十九の金融機関が入っておりますけれども、この金融機関と国連環境
計画がパートナーシップを組んで、環境に役に立つ金融はどうあるべきか、何をすべきか、何をするのが期待されているのかということを議論をし、研究をし、そのベストプラクティスを探し出して、それをみんなでシェアしていこうというのがこの金
融イニシアティブのミッションであります。
その金
融イニシアティブが、この
気候変動問題ですね、
温暖化というよりは
気候変動問題について
意見を最初に出しましたのがもう二〇〇二年であります。この時点にUNEP・FIの
気候変動ワーキンググループが出しましたオピニオンペーパーが次のようなことを言いました。
気候変動、気候リスクは、今や
世界経済の波乱
要因になったんだと。だから、金融機関は早くこれに
対応すべきである。さもなければ、中には、金融機関の中に業務が非常に難しくなる、あるいは倒産するところも出るだろうというようなウオーニングまで出しました。現実には、御存じのとおり、
アメリカのハリケーンの
被害を受けて幾つかの金融機関、なかんずく保険会社ですね、これが倒産しているのはよく御存じのとおりだと思います。
そういったような動きがもう長く始まっておりますけれども、一番の着眼点は、まず金融機関にとってリスクである、そのリスクに対して金融がどう
対応すべきなのか、そのリスクの軽減とリスクを解決するためのソリューションを金融機関として何ができるかというのが基本的な問題意識であります。
それから、レジュメに沿って申し上げますと、二番目に責任投資原則と書いてありますけれども、今投資の
世界、株式を買う投資の
世界に新しい風が吹き始めました。その新しい風を
一言で申し上げますと責任投資ということであります。
責任投資とは何かと申し上げますと、もうかるから株を買うんだというのが今まででありました。でも、もうかるからだけで株を買っていいんでしょうか。もっともっと大事なものがあるんじゃないか。例えば環境問題であります。あるいは企業の社会的責任であります。あるいは企業のガバナンスであります。あるいは
世界の視点から見ると、人権問題であります。つまり、お金では換算できない、お金では計れない、けれども非常に重要な価値を持ったものも投資判断に組み込むべきじゃないかという、これが責任投資の概念でありますけれども、今そのことを広めようという運動が非常に進んでおります。
その代表例が責任投資原則でありますが、これは去年の四月に始まりました。わずか六つの原則であります。
一つだけ申し上げますと、これからお金を投資するときに、お金だけじゃない、環境も社会的責任もガバナンスも人権も考慮した上で投資判断をしていきますよ、そういう原則を打ち立ててみんなで守っていこうじゃないかという運動であります。
これは去年始まりましたときに、わずか六十五機関、彼らの大きさを運用資産の大きさで表しますと二兆ドルでありました。今これが、今朝調べてまいりました、二百六十二の機関が入っております。
日本から十一機関入っておりますけれども、彼らの持っております運用資産の総額が十兆ドルを超えました。非常に大きな金額であります。
これからこの責任投資原則あるいは責任投資の概念が、原則が投資の
世界のバイブルになっていくと、そういう具合に私は期待しております。
それから、サステーナブル・エネルギー金
融イニシアティブであります。もう少しスペシフィックに申し上げますと、金融が
地球温暖化問題の中で何ができるかということの
一つの分野がサステーナブルエナジーの開発、
推進の支援であります。サステーナブルエナジーはリニューアブルエナジーとも呼ばれますし、自然エネルギーと呼んでもいいと思いますけれども、この
推進のために金融が何ができるかというのでファイナンスイニシアティブという組織がつくられました。
今私はその
日本の立ち上げを準備しておりますけれども、例えばSEFIが
調査しました結果で
一つだけ数字を申し上げます。
世界でサステーナブルエナジーの開発、
推進のためにどれだけお金が新規に投資されたかという数字であります。これ、昨年一年間で七百九億ドルという数字が出ております、七百億ドル。百二十円で換算しますと八兆円を超えます。一年前が四百九十六億ドル、二〇〇四年が二百七十五億ドルであります。今、急速な勢いで新しいお金がこの分野に新規投資として入っております。昨年はこれにMアンドA、企業の合併と吸収等も入れますと、何と千億ドルを超えるお金が動いております。これが今
世界の現実であります。新しいお金の流れが始まったということであります。
それから四番目が、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクトでありますけど、これは何かといいますと、投資をする立場から見ますと企業が、投資対象企業が
温暖化問題なかんずく
CO2の管理にどれだけ取り組んでいるのかが極めて重要な投資判断になってきたという認識を強く持ったわけであります。しかしながら、金融機関がそれだけそういう意識を持っても、企業サイドが
CO2に関連する情報を出してくれません、くれなかったのであります。
じゃ、どうしたら情報が出るのかということで、
世界の金融機関が集まって連名で質問状を
世界の企業に送って、その回答の
状況を世間に公表しようというプロジェクトを始めました。これが今年で五回目を迎えました。実は、昨日の午後、
日本におきますCDPジャパンの今年の
調査結果の発表をいたしました。
世界では二千四百の企業に質問状を送って回答をいただいております。その回答率が、最初のときは四七%でありましたけど、今年は七七%に高まっております。
こういったことで、金融機関と企業が
CO2をテーマに対話が始まったということであります、投資をするしないという手段を使いながら。そういう現象も始まっております。
それから、
気候変動インデックス、ちょっと分かりにくい言葉でありますけれども、今投資をするときに、何を基準に投資先を選んだらいいのか、様々な情報がありますけれども、
一つは、様々な機関が、こういうグループに投資するとよく株価が上がりますよというようなグループ分けをして、それを指数化して出すんですね。一年前は一〇〇でしたと、今年は一一〇になります、来年は一二〇になります、とすると、買うと一〇もうかるという話であります。その指数の中に
気候変動が新しい指数として入ってきます。今まではSRIと称しまして一般的な環境であります、土壌汚染等の一般的な環境問題、それから企業の社会的責任といった問題にとどまっておりました。ところが、ここへ来まして、
気候変動に対する
対応をどう取っているのかを中心に指数をつくろうという話であります。このことを逆に申し上げますと、
CO2管理を含め
気候変動に
対応を取っていない企業への投資がネガティブになっていくという
世界がこれから生まれてくるのであります。こういった意味で、投資の
世界にインフラとしてインデックスを持ち込んで多くの人がそのインデックスを見て投資先企業を選んでいこうと、そういうことが始まっているのであります。
それから、欧米の銀行の取組でありますけれども、基本的なことを申し上げますと、従来はお金もうけのために融資をすればよかったという
世界に、先ほどの責任投資と同じであります、環境破壊はもうやめようじゃないか、環境破壊につながる融資は許さないといったような流れが出てきております。
もちろんその中には、
CO2問題をどうするのか、銀行自身が
CO2の排出量を減らす、中立化を図ると同時に、銀行のお客さんにも金融を通じて、金融サービスを通じて
CO2を減らすことを求めていくと、そういったような動きが出ておりますし、環境破壊につながる大きなプロジェクトファイナンスはもうしませんと、そういう拒否の宣言をする動きも出てきております。これは市民社会のプレッシャーを受けて金融機関が大きくかじを切り替え始めたということであります。
それから、最近、
地球温暖化問題、なかんずく
気候変動をテーマに金融投資がどうあるべきかについて
世界の大手金融機関が盛んにレポートを出し始めました。自分たちはこう考えるんだと、こういうところに投資することがいいことなんだと、それが実はもうかりますよという話であります。
こういう
温暖化に関する金融機関のレポートの共通テーマは、まず
一つは、空気はもうただじゃないんだということであります。先ほどもパチャウリさんの
お話の中に、カーボンプライスをどうするのか、カーボンプライスシグナルをどう見ていくのかということであります。明らかにもう
世界は
CO2がコストになる、プライスになる、だからそれを経済のプライシングメカニズムにどう組み込んでいくのかという動きが始まったのであります。これは非常に大きな重要な変化でありまして、このことが
温暖化対応を非常に、お金を集める上で非常に進んでいくと思います。もちろん経済にも非常に大きい
影響が出ます。
それからもう
一つ重要なのは、金融は先を読みます。今行われていることでは基本的に判断をしません。一年後、二年後、五年後、十年後どうなるんだろうかという先を読みます。明らかに今我々金融が読んでいる先は、規制が入り、
CO2がプライスになり、様々な意味で
CO2を出すことは悪いことだ、
CO2を減らすのはいいことだという新しい価値判断が入る、その中で社会のプレーヤーがそれに向かって動き始める、その変化を読んで投資をどこにしようかの判断をし始めているのであります。ある意味では金融にとってリスク管理の中に、非常に中心部にこの問題が入り込んだということであります。
それから、もちろん
日本の金融機関もこの問題に関心を示しておりまして、十年前とは言わず、五年前に比べますと非常に大きな関心を払うようになりました。
ただ、残念ながら、あえて申し上げますと、
日本の金融機関の
対応は、何かいいことをしているところに金利を安くしますよといったような個別商品を出すということであります。でも本来的には、金融機関がこの問題に自分たちがどういう理解をし、判断をし、だから自分たちの持っている金融インフラをどう使ってやるんだといったような根本的な
対応が私非常に重要だと思っております。個別商品ではなくて、金融そのものの在り方の根本的な見直しであります。
それから、
最後になりますけれども、これは私の全く個人的な観察でありますけれども、
世界の流れが大きく変わり始めていると思います。科学者の手を離れて既に政策決定者、ここにおられる皆様方もその重要なメンバーでいらっしゃいますけれども、政策決定者の方に移ったと。これはもう
世界の大きな流れでありますけれども、今そのことが、さらに経済や金融、お金の
世界に非常に大きな比重を持って移り始めたということであります。さらに、そのことは間違いなく国の財政の在り方にも非常に大きな
影響を与えます。
CO2管理のコストがGDPの何%、何%ということが語られるということを
一言で申し上げればそういうようなことでありますし、社会の非常に重要なインフラであります金融インフラをどう活用してこの非常に難しい
地球温暖化問題あるいは
世界的な
課題の解決に取り組むのかと、これが
世界の新しい流れではないかと思っております。
日本自身の国の競争力を強める上でも、是非、この
日本の持つ金融のパワーをもっともっとビジョンの下に活用していくということが今求められているのではないでしょうか。
どうもありがとうございました。