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伊勢崎参考人 皆さん、きょうはこういう場に招かれまして、私、大変個人的に光栄に思っております。どうもありがとうございました。
私の説明は、お手元のレジュメに沿って行いたいと思います。カラーの図が入っているものでございます。
私伊勢崎は、二〇〇三年から二〇〇四年まで、
日本政府の一応武装解除の方の代表といたしまして、国の一員として
アフガンに駐在しておりました。武装解除のことは、これからまた説明いたします。
それ以来
アフガンには足を踏み入れていないんですけれども、いろいろと国際
会議その他で呼ばれることがありまして、ついこの九月、先月であります、冒頭にありますアワー・エンゲージメント・イン・
アフガニスタン・インターナショナル・パーラメンタリー・ラウンドテーブル・イン・ベルリンという、これはドイツ
政府とカナダ
政府が協賛で、
アフガンに出兵しているNATOもしくは
部分的に非NATO加盟国の国
会議員、つまり
与党側の国
会議員です。反対
勢力ではなくて、
アフガンの出兵をそのまま維持したい、それぞれの世論と
闘いながら
アフガンへの貢献を維持したいという国
会議員の集まりでありました。それに加えて、
アフガニスタンより、内務大臣を中心とした議員団も一緒に参加いたしまして、
日本からはなぜか僕だけが招待されて行ったわけであります。
そのときに、これはクローズド
会議でございまして、とにかく密室で言いたいことを言おう、
アフガン政策に対して本音をぶつけ合おう、そういう
会議だったのでございます。ですから、これはミニッツその他は全然公開されておりません。
それで、その要点であります。この
アフガンにおける最重要課題、特にNATO加盟国がどう考えているかということが以下の三点であります。
一つが、まず治安問題。これは当たり前でございます。でも、ただの治安問題じゃなくて、土台からの再
構築というふうにこれは書いてあります。土台とは何か。これが後で言うSSRもしくはルール・オブ・ロー、法の支配ということなんですけれども。
特に今、国際部隊の
作戦は、大きくOEFとISAF、これは
部分的にプラスPRT。
ISAFというのは、つい最近までカブールだけだったんですけれども、
国際社会の要請に応じてカブールの外に出る。これは、PRT、
地域復興チームという形で出ていったわけでありますけれども、このマンデートの混乱ということが大変重要な懸念事項になっております。
OEFというのは、御存じのように、NATOの
集団的自衛権から発した、
テロリストをせん滅するという
戦争でございます。ISAFというのは、どちらかというとブルーヘルメットに近い。
国連が指揮権を持っているものではありません、NATOの指揮下でありますからブルーヘルメットではありませんが、一応、
国連憲章第七章に準じて
国連の承認を得ているということで、これはブルーヘルメットに近いものであります。これはマンデートの混乱ということなんです。
つまり、NATOの加盟国の中には、この両方の
作戦に同時に出している国もあるんですね。これが法的根拠も持っていく武器も全然違う
作戦でありまして、目的が違いますので。このマンデートの混乱が特にISAFの方で起こっている。つまり、平和維持目的で行っているのに
戦争をやらされている、そういうことですね。それで、議員たちは世論からの突き上げに大変苦労しているわけであります。それをどうするかという話でありますね。
この
象徴的なのは、次に言うコラテラルダメージです。これはISAFもあるんですけれども、ほとんどがOEFです。
つまり、
テロリストのせん滅のためにピンポイント爆撃を行う、その周りの、戦闘員には絶対に
なり得ない女子、子供が巻き添えになるという、これは今大変な数に上っております。これが、いわゆる国際部隊
作戦に対する
アフガン世論の反感を買っているわけであります。特に南東部での反感を買うと一般の農民がタリバンの方に寝返ってしまう、そういうジレンマを抱えながらこの国際部隊の
作戦は続いているのでございます。コラテラルダメージでございます。
次に、これも
アフガンの今の問題を
象徴する問題として、麻薬問題です。
去年までは約八割の生産高、つまり
世界で流通する天然ケシの八割が
アフガン産、ことしになってから九三%、九割以上に
なりました。史上最凶の麻薬
国家、これが今、
アフガニスタンの現状でございます。
なぜ、不法である、特にイギリスを初めとしてその取り締まりに力を入れている麻薬
対策が失敗して、どんどんこれがふえているのか、これは政治が腐敗しているからでございます。内部の問題でございます。
その
象徴が次のGOLIAGという、これは現地で使われている言葉ですけれども、ガバメント・リンクド・イリーガル・アームド・グループ、これが一番問題なわけであります。
これに腐敗した警察が加担して、
国家レベルで、つまり、どういうことかというと、我々が武装解除として免罪符を与えた元軍閥たち、そのほとんどが今閣僚もしくは政治家になっているわけでございます。これがその
地域地域で、不法に武装させた若い者たちを使わせて農民を指導し、脅迫し、麻薬生産に邁進している、これが今の状況なわけであります。
つまり、国際部隊の
作戦というのは、いかに表面的に
外国人部隊が戦ってもしようがない、ここの土台の
部分が崩れている。やはり、
アフガン政府が独自の力、法の支配、ルール・オブ・ローをしっかりしないと国際部隊の
作戦までもうまくいかない、そういう状況なわけであります。
実は、この
考え方というのは、二〇〇三年当時、武装解除を始めたときから、
アメリカの
軍事作戦の一角、これは
アメリカの方針です。それが次に言うSSRという
アフガンの治安分野改革、つまり、健全な軍、国軍、健全な警察、健全な司法システムを
アフガン社会にどうつくるか。このアイデアを出したのは
アメリカです。これは
アメリカの
軍事作戦の一部なんです。
アメリカは、当時からSSRをOEFの土台として考えてきたんです。
そこに、不可避的に非常に貴重な貢献をしたのが
日本です。
日本が成功させたDDRというのは、これは職業訓練みたいなことに考えがちですけれども、
アメリカにとっては軍事的な貢献なんです。極めて必要不可欠な軍事的な貢献なわけであります。
しかし、このSSRが今崩壊しております。これが二番目の、
支援国・コーディネーションの再
構築。
つまり、SSRというのは、
アフガンにおいては五つの柱がありまして、その根幹が当時は武装解除だったわけでありますけれども、武装解除だけが成功しちゃったんです。ほかの、国軍もまだまだ、警察は腐敗の温床であります。警察がうまくいかなければ、司法がうまくいくわけがありません。麻薬は元軍閥たちの
資金源に
なります。これもうまくいっていない。そうすると、武装解除だけが成功しちゃったわけであります。
これは、武装解除としては失敗であります。
日本が百億円の血税を投じてやった武装解除は完了しましたが、SSRという中身では失敗です。なぜかというと、力の空白を生んでしまったわけであります。
武装解除というのは必ず力の空白を生みます。どんな邪悪な
武装勢力があろうと、それがある期間、
一定、その地方にあることによって、ある程度のパワーバランスが生まれます。そのパワーバランスを崩すんです、武装解除というのは。当時から僕はそれを警告していて、武装解除というのは必ず単独では成功させてはいけないという、それが今できていないわけであります。
その力の空白の問題というのはどこに向かうか、タリバンなんです。つまり、我々が武装解除したのは、九・一一後の報復攻撃後、タリバン、アルカイダ掃討
作戦のために
米軍と一緒に
地上戦を戦った北部同盟なんです。彼らを武装解除したんです、我々は。ですから、この力の空白が埋まらなければ何が起こるかというと、タリバンは復活します。それが今の状況であります。
その後で、
日本はDIAGというDDRの後継プロジェクトを今やっておりますけれども、これは非常に評判が悪いです。うまくいくわけがないのでございます。なぜかというと、これは内務省、警察を通じてやっていますので、それが腐敗の権化なわけです。うまくいくわけがないわけです。とにかく、今このコーディネーションの中で一番問題となっているのは、警察、内務省改革、これをどうするかという問題です。
三番目でございます。これがちょっとショッキングだと思うんですけれども、タリバンとの政治的な和解。このクローズドミーティングでは、か
なり重要な議題として、けんけんがくがくの
議論がありました。
テロリストとの和解でございます。
これは
日本では全く報道されませんでしたが、ことしの三月、いわゆる恩赦法、アムネスティーローが
アフガン国会を通過いたしました。これはどういうものかというと、すべての
戦争犯罪、タリバンを含めてです、すべての
戦争犯罪、一般兵からトップリーダーまで、あのオマル師まで含めて、すべてを許すということです。
戦争犯罪を問わないということであります。これは、大変に欧米社会にショックを与えました。つまり、あのカルザイ政権が
テロリストとの和解のために法的な枠組みをつくってしまったということであります。
これは、もちろん、今の閣僚の中にはタリバン以上の
戦争犯罪をした人間がいますので、彼らの免罪符のためだという側面もあります。と同時に、これはやはり
戦争犯罪を扱うものですから、
国連を中心にした人権団体が大変警戒感を示しています。でもしかし、不可避的なもの、こういうふうになるだろうという
一つのあきらめを伴った、もうこれしかないのではないかということになっております。
事実、ことしになってから、イギリスは、
アフガン戦においては、これは長期戦になる、長期戦と言うというのは、多分十年や二十年では終わらないということですね。新任の防衛大臣が労働党の大会で、これも報道されましたけれども、タリバンとの政治的な和解というのは考えなきゃいけないと言い始めております。
アメリカの最重要同盟国のイギリスでさえです。
もちろん、タリバンが潜伏しているのは、歴史的にトライバルエリアと言われる
パキスタンとの国境です。今、反米、反ムシャラフ、反カルザイがタリバンになっちゃっているわけであります。だから、このタリバンとの政治的な和解ということは、対
パキスタン政策の側からも同時に考えなきゃいけないという問題であります。
この三点であります。
こういう現実の中で
日本が何を果たすべきか、これが以下に書いてあるものであります。
今、
小川先生から、対
テロ戦を
日本独自に主体性を持って考えることが必要であるというのは、これは本当にそのとおりでございます。
僕は、対米
協力という
意味でも、
日本が主体的に
アフガンにおける対
テロ戦にかかわるには、やはり、一時期
日本がヒーローであったSSRの復活、今は崩れてしまいましたけれども、それを再建、再
構築するのが、一番
日本が独自性を発揮できて、なおかつ、
アメリカが喜び、もちろん、
アメリカのだれが喜ぶかということが問題ですよ、ブッシュさんではないと思いますけれども。
カウンターパートナーだった
アメリカ軍の首脳部、彼らは僕らには頭が上がりません。なぜかというと、僕らのおかげで、
アメリカが担当している新しい国軍が、今、
地上のOEFの
作戦で戦っているんです。彼らの死亡者の方が、国際部隊の死亡者よりも多いんです。
とにかく、再
構築をするためには
日本の独自性、これは当時、美しい誤解、ビューティフルミスアンダースタンディングとか言われていたんです。これは、
日本が言った言葉ではなくて、そういうふうに自然に言われてきたんです。
最難関プロジェクトであった武装解除が、つまり、みんな武装解除したくないのに、そういうやつらを説得して
日本がなぜできたのか。
最初はみんな失敗すると思っていたんです。僕らは非武装で、
ODAを使ってやりました。それも、口だけです。非武装で、特に北部の方ではまだ巨大軍閥の二つが重火器を使って
戦争しているときなんですね。そこに入っていって、停戦させて、それで重火器を中心とした武器回収を我々が行ったわけであります。
これをなぜ
日本ができたか。これは、美しい誤解、つまり、武力を背景にしてごり押しをしない、大変力のある中立な国だというふうに
アフガンでは見られているんです。これは、ナイーブかもしれませんけれども、本当です。軍事的にも本当です。あの軍閥たちもそうでした。
日本人に対して大変な信頼を向けております。
この美しい誤解が今、崩れつつあります。なぜかというと、例の
テロ特措法による
インド洋の貢献というのは、つい最近まで
アフガン社会では全く認知されていませんでした。あのカルザイ大統領でさえ、こちらが言うまで知りませんでした。つまり、僕は、当時はうそをついていたわけです。美しい誤解を利用した。つまり、
日本は
アメリカと軍事的に貢献していますが、それを伏せて、僕らは美しい誤解を使って武装解除をやったわけであります。
この美しい誤解は、今、崩れつつあります。本当は、
テロ特措法はあのまま静かに終えんするのが一番よかったんです。でも、今回、
日本が目立たせてしまいまして、今、全員が知ることになっております。これは大変危険なことだと思います。
とにかく、この美しい誤解を
日本の特質と考えて、
アメリカの
軍事作戦においても
日本しかできない貢献の分野と考えて、GOLIAGをターゲットに政治浄化、特に内務省改革、こういうところで現地での政治手腕を発揮するのが僕は一番重要な貢献だと思います。
それと、タリバンです。これもやはり
日本の美しい誤解。タリバンとの交渉というのは、大変にこれから難航をきわめると思います。だけれども、それしか出口がないというのが、今、共通認識なわけでございます。そこに
日本が決定的な役割をできると僕は信じております。
最後ですけれども、人道援助は代替案になるか。代替案というのは、
自衛隊を出すかわりに代替案になるか。これは、僕はならないと思います。
なぜかというと、今、同じ
会議に
出席したバーネット・ルービンという
アメリカの大変高名な
アフガン専門家がいるんですけれども、彼の言葉です。
最初僕が言った、今
アフガニスタンは史上最凶の麻薬
国家になっているわけです。彼は、北朝鮮と
アフガニスタンを比べました。つまり、世の中に害を及ぼしている国という
意味で、北朝鮮と比べたんですね。北朝鮮の方がひどいと言っているわけです。
どういうことかというと、北朝鮮は閉鎖しております。
アフガニスタンは、これだけ国際部隊が入って、国際
支援が入って、なおかつ麻薬
対策ができないんです。これは多分、人類史上極めてまれな、もしくは経験したことのない政治腐敗が進んでいると考えた方がよろしい。こういう国に対して人道援助というのは一筋縄ではいきません。なぜかというと、北朝鮮に今どんなに飢えた人がいても、素直に人道援助とならないでしょう。それと同じ理屈なんです。
だからといって、
アフガニスタンに今援助をとめるということじゃないですよ。しなきゃいけないんです。でも、やるんだったら、それだけの覚悟をしなきゃいけないということです。それができるのはだれかということであります。やはり中立に見られる第三者が必要であります。
最後です。補足です。
今、
自衛隊を、
インド洋の
活動を継続する、もしくは、
地上部隊としてISAFもしくはPRTの一環として
アフガンに出す、この
考え方は
日本国の
国益にはならないと私は断言いたします。
なぜかというと、まず
最初は、
日本が本当に主体的に対
テロ戦のために貢献できる美しい誤解を崩す、これが一番大きな理由。もう
一つが、一番下に書いてあります、民間邦人、NGOへの保安の影響、これが大であります。
皆さん覚えていらっしゃいますでしょうか。鈴木宗男さんのあの事件があった、恫喝事件、ちょっと言葉は選ばなきゃいけませんけれども、二〇〇二年の例の第一回の東京
アフガン復興
会議ですね。あのときからすべてが始まったわけであります。あのとき以来、
日本政府は在外公館も開けない、JICAも危なくて、JICAの職員も送れない、ましてや
自衛隊も送れないときに、
日本が外交的な顔をつくらなきゃならないといったときに何をしたかというと、公的
資金をNGOに託して、NGOを送ったわけです、
アフガニスタンに。今NGOとして働いている若者は、自己責任で行ったわけではありません。日の丸を背負って
アフガンに行ったわけであります。
今、私がもし
テロリストだったら、戦略的にこう考えます。次のターゲットは
日本人です。
日本人はソフトターゲットです。
アフガニスタンでは、今までだれも犠牲者は出ていません。これは非常にまれなことです。これはすべてが美しい誤解のためだったとは言いません。それはちょっと暴論です。でも、結果として出ていないんです。
我々は、危機管理という文化がありません。自己を管理するという文化がありません。ソフトターゲットです。今
テロリストがソフトターゲットである
日本人をねらえば、一番政治的な効果が上がると思います。それはつまり、
日本がみずから目立たせてしまったこの
テロ特措法の問題であります。今、
日本人をねらえば、最大のブローを、打撃を
アメリカに与えられる、僕が
テロリストだったらこう考えます。
最後にもう一度強調したいんですけれども、
日本の若者たちは自己責任で行ったわけではありません。
ありがとうございました。(拍手)