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参考人(
宮川憲一君)
全国保護司連盟副
会長の
宮川でございます。
このたびは
更生保護法案の審議に当たり、私ども現場の
意見をお聞き取りいただける
機会をつくっていただきましたことを大変感謝いたしております。誠にありがとうございます。
私事で恐縮でございますが、私は
保護司を拝命いたしまして本年で三十四年になります。この間、数多くの
対象者の方々と
保護観察を通じてお付き合いをさせていただきました。また、組織では、様々な方面の方と連携し、
更生保護を通じて
犯罪予防の活動に従事させていただいております。
御案内のとおり、このところ続発しました重大
再犯事件によりまして、
更生保護とりわけ
保護観察が最近の激しい
社会環境や
犯罪情勢の変化に十分
対応できていないのではないかという厳しい世論の批判を受けて以来、私どもは戦後再出発して六十年になろうとするこの
制度と実態を官民一体となって真摯に総括をし、
制度疲労や組織疲労を是正して
更生保護の再出発のための
改革に取り組もうとしているところでございます。
御存じのこととは存じますが、
我が国の
更生保護は、明治以来、金原明善のような実業家や池上雪枝のような宗教家、さらには多くの矯正や
保護のOBの方々の人道主義的あるいは宗教的情操に基づいた慈善事業として出発をいたしました。後に国の近代化に伴って
刑事政策の
一環、しかも
社会復帰という最後の仕上げの仕事として組み込まれ、官民が力を合わせて維持、発展させてきたものであります。
したがいまして、その歴史的経緯から官と民のすみ分け、
役割分担が、当初以来、若干あいまいで、相互に甘えがあったかもしれませんが、またそのことが
我が国更生保護の大きな優れた特徴でもあり、有効であった時期もあったと私は思っております。しかしながら、ここ数年、減少傾向にあるとはいうものの、相変わらず高い水準で推移している
我が国の
犯罪情勢にあって、少しずつ現実にかみ合わない大きなほころびが見えてまいりました。
折しもこのたび
法務省で
更生保護を考える
有識者会議を立ち上げ、今日の
更生保護全般に対する御検討をいただき、その
提言を受けて、このたびの
更生保護法案の上程の運びとなったわけであります。
私どもは今日までよりどころとしてまいりました
犯罪者予防更生法と
執行猶予者保護観察法、これらは戦後間もない昭和二十四年と二十九年に各々当時の事情があって別々に施行されたと聞き及んでおりますが、相互に同じ
目的を持った似たような
法律であり、私どもも常々この二法の整理統合を期待いたしておりましたので、このたびの一本化によりまして
更生保護はより分かりやすくなったものと喜んでおります。
また、第一条の
目的において、従来私どもは
保護観察の完成が
再犯防止、
犯罪予防に資するものであると認識しておりましたが、この
法案で
改善更生と
再犯防止が不即不離、表裏一体のものとして明示されたことは
更生保護の更なる正確な理解に役立つものと考えております。
次に、さきの
提言でも
更生保護がいまだ十分な
国民の認知を受けていないということが
更生保護を脆弱なものにしているとの
指摘がございました。このたびの
法案では、第二条に国の責務としての支援や啓蒙が、また二項では地方公共団体の協力が明示されております。第三項には、
国民が地位と能力に応じて寄与するよう努めなければならないと明示されております。私ども民間人
保護司の仕事は、間違いなくこの
国民の責務の一端を担うことであり、この位置付けを自覚して更に一層啓蒙、宣伝に努めなければならないと思っております。
犯罪が起きるのも私どもの住むこの
社会であり、また彼らが帰ってくるのも私たちの住むこの
社会をおいてはありません。
更生保護、わけても
保護観察が
社会内処遇である限り一定のリスクはありますが、これを共有してそのリスクを限りなく少なくするために今何がなされなければならないかを
社会に問い掛けて、学校、協力雇用主、また
更生保護施設の方々に定住、
就労、就学を始め具体的な提案をしながら、ともに生きる再チャレンジを支援する、温かい大きな受皿をつくっていかなければならないと思っております。
私たちは、このような運動の呼び掛けとして、本年五十七回を迎えます
法務省主唱の
社会を明るくする運動を続けてまいりました。
お手元に運動のパンフレットを差し上げておりますが、今年のキャッチコピーは「おかえり。」、メッセージは「あなたに信じてもらう。それだけで、歩き出せる人がいます。あやまちから立ち直ろうとする決意を、どうかまっすぐに受け入れてください。
更生への道のりには、あなたの温かい支えが必要です。」としました。今までと違って、真っすぐに
更生保護を
社会に訴えたいと思っております。
さて、このたびの
法案の大きな
改革の一つに、
保護観察における
遵守事項の整理及び
充実があります。
今日、私どもがかかわる
対象者には実に様々なタイプがあります。一般的には、自己
中心的で規範
意識の乏しい
社会性に欠ける者が多く、その原因には、
本人の資質によるものも若干ありますが、おおむね身近な環境、特に幼少時の生育歴に問題のある場合が多く、今日のように地域共同体が崩壊し、核家族化が進み、家庭や学校の教育力の低下が著しい
社会にあっては実に是正が難しい状況にあります。かつて、地域
社会や家庭、学校が担っていた人格形成の大きな役目が失われ、問題が大きく顕在化した後に
保護観察という形でずしりと私ども
更生保護関係者の肩に掛かってくるというのが実情でございます。
しかも、彼らの
生活する
社会では、相変わらず過剰な
情報や悪質な射幸心をそそる様々な勧誘が横行し、テレビを始めマスメディアの影響で、若者の
意識の中では虚構と現実が混乱し、メールに象徴される無機質な
人間関係に慣らされて、彼らは非常に危険な環境にさらされております。それらが今日の不条理で凄惨な凶悪
犯罪や性
犯罪の大きな原因になっていると思われます。
最近の
対象者の若者は、おしなべて無口でせつな的、投げやりで希望がない疲労感を漂わせて私どもの前に現れます。これらの深く傷付いている
対象者に対して、従来の、私たち
保護司が寄り添って激励を専らにしてきた
指導だけでは十分に
対応できない現実があります。
かつて私は、先輩の僧職にある
保護司に、
保護観察の要諦の一つは諸行無常だと教わりました。それは、この世の中に変わらないものは絶対に存在しないという真理であり、
対象者とて良くも悪くも絶対に変わる、問題は良好に変わるために何が必要かが問われているだけで、それが
更生保護の
可能性であり希望だと説かれました。そして、
処遇に当たっては、
保護司は鬼面仏心、鬼の顔に仏の心、甘えることなく、相手にゆめゆめおもねてはいけない、それは相手を駄目にする失礼な行いであると言われましたが、長い
保護司生活の中で、最近やっとその言葉の重みを感じております。
このたびの
遵守事項の見直しとそれに基づく
処遇については、正にこの鬼面仏心の
処遇でなければならないというふうに思っております。
一般遵守事項の厳密な履行や、
対象者に合わせた
特別遵守事項の柔軟な設定と
運用や専門的な
処遇は、観察官と
保護司の
役割分担を明確にすることで、
対象者に対しても親切できめ細やかな
処遇ができ、
処遇に当たる観察官や私ども
保護司にとっても具体的で明快な指針となり、力強い支えとなるものと期待をいたしております。
めり張りのある
保護観察が今後は必要だと思いますので、
対象者の
面接義務、
生活報告義務、誠実に
指導監督を受ける
義務、加えて、決められた
遵守事項に
違反した場合の
不良措置についても時宜を得た判断だと思っております。
保護観察の実践は、
対象者がまだ施設に
収容されている折から始められますが、観察官の依頼で
対象者が身元引受人の下に帰住する環境が十分であるかを調査し、
対象者とも
面接して調整して
仮釈放に備えますが、さきに述べましたように、
社会、家庭環境の崩壊によりまして、今日、この環境調整の仕事は追って難しくなっております。しっかりした身元引受人があり、
生活、とりわけ就学、
就労に希望が持てれば、そこそこ
保護観察は成功いたします。
保護観察は、
基本的には
仮釈放後の
対象者との定期的な往来訪を軸に進めます。
保護観察の基準評価は普通の
生活を継続することでありまして、取り立てて立派なことや人一倍頑張ることを期待しておりませんが、そのことが実は大変難しく、
対象者本人の自覚もさることながら、支援する身元引受人や
保護者の
責任の自覚も当然必要であり、先日の
少年法改正で盛り込まれたところでありますが、このたびの
法案にもこのことが明示されたことを是と考えております。
次に、このたびの
法案の大きな課題に
犯罪被害者の方々に対する
更生保護からのアプローチがあります。
私どもは、従来から、
対象者に対して自らの犯した罪が
社会や
被害者にどれほどの迷惑や苦痛を与えたかについて話し、反省をさせて
本人の
更生に役立ててまいりました。特に、
恩赦の完成という点では、御遺族の方々にも
本人の改悛の状を伝達して慰謝に努めてまいりましたが、今後は、可能な限り
被害者の視点を取り入れた、より
効果的で
社会性のある贖罪
指導を進めなければならないと志を新たにいたしまして、既に研修を始めております。
いつの日にか、加害者が許しを請い、許しを得て、
被害者と和解することを期待し、修復的司法とも言うべきものとして成功させることこそ、私ども
更生保護の理想であり仕事ではないかと思っております。
私も、長い
保護司生活で様々な経験をさせていただきました。いまだに、担当する一件一件がそれぞれ今日の
社会を象徴する新鮮な課題を背負っておりまして、私を刺激してくれ、おかげさまで元気をもらっており、つくづくと
保護司になって良かったと思っております。
最近のことでいえば、おれおれ詐欺の手先になった青年が売れない怪しげなホストになり、全く来訪がありません。再三往訪しましたが留守で、やっと駐車場で寝起きをしている車を発見しまして、窓越しに話をしているうちに急発進をしてミラーで胸を強打し転倒してしまいましたが、その場にうずくまっていましたら、五分もしないうちに引き返してきて、心配そうに横に立っていました。何度も夜半にサラ金の取立てが来て、そのたびに呼び出されたりもしましたが、それを
契機に、以来欠かすことなく往来訪が続き、やっと
保護観察を終えることができ、
保護者と一緒にお礼に参りました。今も時々町で顔を合わせますが、苦笑いをして目であいさつをし、照れております。
また、このお正月には、ギャンブルによる家庭崩壊で中国人ピッキングの手先になった成人
対象者が、やっと他県で料理人として立ち直り、わざわざ来訪をしてくれたり、四月には、
対象者と両親のたっての要望で結婚式に招待されまして、突然媒酌人にされて困ってしまったというような体験もいたしました。
もちろん、失敗もたくさんありました。しかし、圧倒的多数の立派に
更生した人々を一番よく知っているのも私たち
更生保護関係者であります。
このたびの
更生保護法案は、今後の
更生保護の屋台骨であり、強靱な
保護観察を実現する大黒柱であります。強靱という言葉には、強いという
意味としなやかで粘りのあることという
意味がありますが、私たち
保護司が伝統的に
対象者との
信頼関係を軸にして実践してきた、諦めないしなやかな活動を更に強めて、官のハードな
対応にソフトな味付けをして、
更生保護を完成させたいというふうに思っております。
いずれにしても、問うべきは、
法律によって何が変わるかではなくて、
法律を使って何をどう変えていけるかだというふうに私は考えております。全国五万の
保護司並びに二十万の
更生保護女性会会員を始め、
更生保護関係者がこぞってこのたびの
更生保護法案の一日も早い成立を待望いたしておりますので、何とぞ、本院においてもよろしくお運びくださいますようにお願いを申し上げます。
最後になりましたが、私どもが今一番懸念していることは、これからの様々な
改革の前衛であり私どもの良きパートナーであるべき第一線の観察官が余りにも少な過ぎるということであります。
有識者会議の
報告にもありましたように、今後
官民協働の実を上げるためにも、是非相当の増員をお願いいたしたいと思います。御配慮をよろしくお願いいたします。
以上、意を尽くせませんが、私の
陳述とさせていただきます。ありがとうございました。