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参考人(
尾木直樹君) おはようございます。
教育評論家で法政大学の
尾木直樹です。よろしくお願いします。
僕はいつも立って話すものですから、立っても座っても余り変わりないんですけど、立って
お話しさせていただきます。
僕の基本的な立場というので、レジュメとそれから
資料を準備しておりますので、その
両方を使わせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
僕の基本的な立場についてですけれども、今大学の専門は臨床
教育学です。これまでの経歴でいいますと、中学、高校の
教師を二十二年やってきました。そして、臨床
教育研究所「虹」というのを立ち上げて十五年になります。その間、全国の
現場の
先生方のところとかPTAなんかはもう二千回を超えて講演とか視察活動を進めています。ちょうど現在は
教育実習生を十六人大学で預かっていまして、実習先にお願いしていまして、今日なんかも早く終わればすぐ駆け付けて
指導に行こうと思っているんですが、そういう進行形の
現場からの
報告ということで、レジュメは三つの
法律に対して
自分の考えをそれぞれまとめたんですが、中心的には
教育職員免許法のところにかなり特化して
お話ししていきたいというふうに思います。よろしくお願いします。
それで、その
教育職員免許法の
改正のことで随分いろんな報道もされています。今日も
審議されているわけですけれども。基本的には、僕、三つのことを大事にしてほしいなというのがお願いであります。
一つは、
指導力不足教員というのが五百六人というふうに言われていますけれども、そういう一部の
指導力不足教員だとか、あるいはセクハラ教員の問題というのは大変なひどい報道がありますけれども、そういう教員にだけ目を奪われてはならないんじゃないかと。そういう問題が発生する背景的な分析だとかしっかりして、丁寧に、そして総合的な対策を立てていくというところを重視すべきだというふうに思います。
それから、僕も元
教師のせいか分かりませんけれども、教員政策というと、
社会的な風潮が物すごくバッシングしているみたいに思えるんですね。
教師というともう敵みたいな感じで、
先生方も非常につらい思いをされています。で、出てくる政策が何かきついんですよね。それで、北風の政策みたいに見えますので、やっぱり今、これから
お話ししますけれども、もっと太陽的な温かい政策こそ僕は
現場を活気付けさせて勇気付けて、いろんなことで挑戦していただけるんじゃないかなというふうに思っています。
それから、
教師論でいえば、そんなに僕、難しくはないと思うんですね。
子供から愛され信頼される素朴な
先生づくりの政策、そこでいいんじゃないかと、昔からそんな変わらないんじゃないかなというふうに思っています。
今日の
資料の一番を見てほしいんですけれども、
子供たちの状況がどうなっているかということで、さっき
品川委員の方から
セルフエスティームの我が国の
子供たちの異常な低さということは随分おっしゃっていただきましたので、それに加えてですけれども、実は、
資料の一番のところで、これは今年の二月十四日に発表されたユニセフのデータなんですけれども、
日本の十五歳の
子供たち、孤独を感じるというのが、
資料の一番ですね、孤独を感じるというのを、
日本のところ、ごらんいただきたいんですよ。この突出ぶりですね。ほとんどOECD傘下の国は五%から一〇%以内で収まっているのに、我が国は三〇%です。突出しているわけですよね。これは先ほど
品川委員のおっしゃられた
セルフエスティームの低さの問題と連動しているというふうに、イコールだと思いますけれども。
それで、一番低い国はオランダで二・五%しかありません。それから、
日本より二番目、第二位に孤独を感じている国はアイスランドになりますけれども、そこは一〇%ですよね。第二位の国に比べて三倍も多いような実態があるわけですね。こういう
子供たちのやっぱり現実をしっかりとらえなきゃいけないだろうと。
そうすると、多分反論として、じゃ、一番孤独を感じていない国ですね、それから
学校ストレスの
調査なんかもWHOでやっておられるんですけれども、オランダは調べてみると、北欧とかロシアなんかのヨーロッパ三十五か国の中で三十五位と極めて
子供たちのストレスは少ないと。
ところが、
学力がじゃ低いんじゃないかと、そんなに圧力を加えなければ、
子供たちの言いなりにしておいたら、付け上がってしまって
学力が落ちるんじゃないか、モラルも落ちるんじゃないかという私たちの
大人の不安というのは当然あるわけですよね。
ところが、ごらんいただきたいんですけれども、オランダの方は、PISA
調査、二〇〇三年の、あのずっと騒がれている
調査ですけれども、あれで、例えば読解リテラシーは、我が国は十四位に落ちてしまったと衝撃を受けているわけですけれども、オランダ九位なんですね。
日本よりも高いです。それから、数学的リテラシーは、
日本は一位から六位に落ちましたよね、
学力低下と言われていますけれども、何とオランダは四位です。
日本より高いんですよ。一見、手抜きのルーズなような体制を取りながら、高いです。フィンランドだって、世界一と言われていますけれども、
日本よりも授業時間は全部少ないですよね。
私たちは焦り過ぎじゃないかと思うんです。何かうまくいかないとぎゅっと締めればいいんじゃ、それは企業論理だろうと思うんです。
教育は違うんですよ。逆のようなところがたくさんありますので、焦ってはいけないというふうに僕は思います。そのことですね。
それで、これは五月に発表されましたけれども、厚生労働省が静岡県で
調査されたデータが出ました。
中学生の四人に一人がうつ状態だというデータが出ましたよね。僕はショック受けました。ここまで来ています。二年前に、十二月に発表されましたけれども、北海道で、これは文科省の系列で
調査されたのでは、中学三年生の三〇%が抑うつ症状にあって、そのうちの二割から二五%がうつ病であるというふうに出ているわけですね。小学生でも七・八%が抑うつ傾向にあると出てきました。大規模な
調査です。政府関係の筋のデータでも、
子供たちの精神的なストレスは
セルフエスティームが低いなんという段階をはるかに超えてしまって、病理的なところに来ていると。
ここのところをケアしてくださる、毎日向かい合っておられるのが
先生なわけですよね。そこへの政策として僕は考えていただきたいというふうに思います。それが大前提です。
それから、そうしますと、今度はレジュメに従って、一番の教員の採用試験をめぐる問題、つまり教員になろうとしている、入口に入ろうとしている状況のところの
危機的な状況と現在の
教師たちの
危機的な状況、二つに分けてちょっと御
報告したいと思うんですけれども。
一つは、新採教員の参入が
危機に瀕しているという問題なんです。
資料の一番目の読売新聞の五月八日付けなんかにも書かれていますけれども、優秀な
先生、争奪戦というので、地方で採用の説明会が行われていると。
東京なんか岩手まで出掛けて教員を一生懸命集めようとしています。
それで、そこのところをもうちょっと詳しく言いますと、いわゆる二〇〇七年問題というのは
教育界でも非常に深刻な問題なんですね。それで、団塊の世代が大量に退職をします。その後、マンパワー不足が完全に起きるわけです。ですから、今、
東京都の
教育委員会だって焦っておられて、再任用制度というのを取り入れようかということを今
現場には提示されています。つまり、六十五歳まで、月当たり十六日間働いていただこうと。給料はもちろん安いですよ。結構安い労働政策だと僕は思いますけれども、そこまで追い詰められておられる状況なわけですよね。
それから、教員採用試験倍率が急低下したんですよ。実は、そこにも書きましたけれども、小
学校でいいますと、
東京都は去年の夏、試験おやりになりましたけれども、二・三倍です、わずか。それから千葉県は二・二倍です。大阪市に至っては何と一・七倍なんですよ。これもう皆さん御承知だと思いますけれども、教員採用でまともな質を
確保できるのは、失礼な言い方になりますけれども、三倍はなければ質は
確保できないわけですよ。もう既にデッドラインを割っているわけですね。
そういう
危機的な状況で、全国平均はじゃどうかといいますと、二〇〇〇年は十二・五倍もあったんですよ。
教師になるのは大変な時代だったんです、ついこの間まで、二〇〇〇年。それが二〇〇六年は何倍かというと、全国平均でも四・二倍しかありません。もう確実に三倍を切ります、全国平均も。ここまで来ているんですよ。その中での教員政策なんだということを是非考えていただきたいということですね。
それからもう
一つは、応募倍率をじゃアップさせないと教員の質が
確保できないというので、各
教育委員会は一生懸命今取り組んでおられるわけですね。その中でいいますと、例えば試験科目の受験生の負担を軽減させて人数を増やそうという作戦も今考えられています。だから、あるいは受験年齢の制限、取っ払ってしまって、六十未満まで採用、試験受けていいよというところが何と自治体が十もあります。ここまで追い詰められているんですよ。
例えば、一次で教養試験を廃止してしまったり、小
学校の二次試験を、例えば
東京の話ですけれども、小
学校で二次試験で水泳だとかピアノの鍵盤実技というのがありましたけれども、これは今年の七月からはありません。今度の、七月七日、八日、九日ですか、ありますよね、それからカットされました。で、応募者を増やそうとするわけですよ。その意図はすごい痛いほど分かりますけれども、質が落ちるんじゃないでしょうか。それから、大阪市は二次の試験の論文は廃止しました。それから他県への募集活動、大阪は
東京に来られますし、
東京も大阪に行くし、限られたところで取りっこしているわけですよね。こういうふうな事態に陥っているというようなことですね。
それから二番目、二枚目ですけれども、今度は教員養成大学の志願者倍率がこれも急低下したということです。教員になろうと思ったら養成大学ありますね。そこが急低下していて、二〇〇五年は四・九倍ありましたけれども、今年は四・四倍に落ちています。
それから、ついこの間発表されて僕は悲しくなったんですけれども、財務省試算によると、国立大学の
運営交付金予想配分表というのが出ました。これでごらんいただきたいんですけれども、国立大学八十七校のうち下位十校ですね、
東京芸大を除いて九校が教員養成関係なわけですよね。一生懸命いい教員を養成しようと思って頑張れば頑張るほど、こういうところの数値は低くなるわけですよね。これは大変な矛盾だと思います。僕はこういう大学に対して失礼だと思いますよね。
それから三番目の問題で言いますと、教職課程そのものを受けるのをやめようかどうかという迷いの学生が大量に出てきたと。もうこんなことは僕、十数年大学
教育にかかわっていますけれども初めての現象です。今年の四月も、たまっちゃうわけですね、講義終わったら。何だろうと思ったら、
先生、教職課程の受講をどうしようかと、登録しようか迷っていますと言うんですよ。
つまり、そこの入口のところまで
子供たちは逃げ始めているわけです。逃げていますよ、はっきり言いまして、優秀な
子供たちは。これはどうしてって聞いたら、だって免許十年しかもたないんでしょうと言うんですよ。これは、じゃ厳しいかと言ったら、厳しいと言うわけですよ。だって就職活動だとかも大変だし、教員の免許を取るだけでも、これは履修歴で取れるわけですけれども、免許取るだけでも私たちの時代とは今すっかり変わっているんです。
委員の
先生方の時代とは激変していまして、ここにも書きましたけれども、
教育実習は四年生で、今やっている最中ですよね、三週間やります。私たちのころは二週間でした。三週間やりますし、介護体験も、この六月にお世話になって皆が行くわけですけれども、二日間、施設にそれぞれ、介護体験もやらなきゃいけません。
それから、教職の単位も今増えてしまっています。五十九単位プラス語学、プラス法学を取らなきゃいけないんですよ。今、いろんな資格も学生たちはダブルスクールして取っているわけですよね。その中で教員の資格まで取っていくというのは大変なことになっていて、そうしたら、今は就職戦線が回復してきましたから、やめちゃおうという学生が出てくるのは当然です。昨日もゼミをやったんですけれども、学生が来年の
教育実習先に面接に行ったら、
先生が、今
教師は本当に大変だと、あんた本当にやる気あるのかと何回も念を押されたというんですよ。
実は、僕、今お世話になっている十六人の学生、その中で本気で教員になろうと思っているのは三人しかいません。一応免許を取っておこうと。それでも大変なんですけれども、たった三人ですね。僕なんかは去年十四人卒業させましたけれども、ゼミ生、
教師になったの一人です。
先生、もうちょっと様子を見てみますというわけですね、もうちょっと安定するまで。こんなところへ飛び込んでいけないというわけですよね。なってほしい子がぞろぞろいるのになってくれない。で、民間企業に勤めてしまうわけですね。もうもったいないと思います。だから、そういう子を励ますような、わあ、
社会も応援してくれているんだというふうな僕は政策が必要だろうと。
それで、調整手当とかいろんなことで一般行政職よりも教員の給料は二・六七%ですか、高いと言われていますけれども、それも今度はフラットにされるわけですよね。僕、お金が欲しくて
教師になる人、見たことありません。だけれども、それは
社会がそうやって応援でしているんですよというメッセージ性なわけです。そこにプライドを持つわけです。お金じゃありません。僕もちょうど人確法が通った辺りのときに教員になったんですが、教頭から、
尾木さん、僕たちは、教員はたくさん給料もらっているんだから
社会的
責任果たさなきゃいけないよと言われて、本気でそうだと思いました。そういうメッセージ性が大事なんであって、何か痛め付けるような政策、もちろん
先生方そういうふうに思っておられると思いませんけれども、そればっかりのような感じで学生は受け止めるわけですね。
それから、
現場の
教師はどうなのかといいますと、見てください、現職教員をめぐる問題では
四つあります。もう長時間労働のこの広がり、拡大と、それから心の病が急増してしまっているという問題ですね。
これもこの間、文科省のデータとか労働科学研究所とか幾つかの貴重なデータが出てきました。四十年ぶりで
調査が行われたというようなことも報道されていますけれども、大変な事態ですよね。公立小中
学校の勤務時間は、夏休みを除いて五か月平均でいいますと約十一時間です。そこら辺は
資料の三の朝日新聞にありますけれども、「
先生ヘトヘト どう解消」するかと。こういうようなのが新聞でも大きな特集になるような状況ですね。休憩時間、いつも取れなかった、ほとんど取れないことが多いというのは八六%おられます。それから、休日出勤をしている方が中
学校では八五%です。お休みの日も
学校へ行っています。それから、じゃ代休を取れたのかといえば、代休が取れないという方が八〇%いるわけですね。これは本当に過酷な労働になっているわけです。こういう中で、精神的な疾患になる
先生が文科省のデータでも二〇〇五年度、四千百七十八人に達しています。何と十年前の三倍になっているわけですね。
ですから、
東京都の
教育委員会なんかついにたまらずにどういうことをされているかと。これ、見てください。「こころの窓を開けてみませんか」というパンフレットなんです。「こころの窓を開けてみませんか」と。明日をさわやかな気持ちで迎えたい、そのために覚えておいていただきたい心の健康管理について御案内します。心の窓を開けて風を入れてみませんかというふうに、いろんな
専門家がお書きになっているパンフレット、リーフレットと言うんですか、あるわけです。そして、念入りにこんな小さなコーティングしてあって、お茶をこぼしてもぬれないようになっているこれがありまして、「こころにも休み時間を」という、これみんなに配られているんですよ。そして、このカードをお手元に置き、たまには心の窓を開けましょうというので七つ書いてあります。
一番、何でしょう。まず、深呼吸、好きな風景、写真を見詰めて一分間。二番目、何事も、結論を急がずいい加減。三番目、次のこと、明日のことを考え過ぎずに今は楽しく。四番目、職員室、出てみて少し居場所変え。五番目、一人悩まずだれかに話し、一休み。六番目、自信がなければ相談窓口へ連絡を。七番目、早めに受診、上手に処方薬といって、裏に相談先の電話番号がずらっと書いているんです。
ここまで今実態がなっている中で、僕は
先生方が一生懸命考えてくださって、十年で免許を変えたらどうか。
社会的な支持も親の方は結構あると思います、確かに不満が一杯ありますから。だけれども、追い詰めるだけでは僕は駄目だということを申し上げたいなというふうに思います。
それから、時間が来てしまいましたので、あとのほかの二つの法案についても
意見はレジュメに一応まとめてありますので、よろしくお願いします。
ありがとうございました。