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参考人(
石村英二郎君) 日本
放送協会の石村です。
報道担当の理事を務めております。
憲法改正に関する
国民投票制度について、主として
メディアとのかかわりの観点から
意見を述べさせていただきたいと思います。
この
テーマに関しましてはこれまでに私自身
衆議院の
特別委員会で二度ほど
参考人として
意見を述べていまして、重複する部分もあると思いますけれ
ども、御了承願いたいと思います。
憲法九十六条に
規定されている
憲法改正の
手続のための
法律がこれまで整備されておらず、法整備を
議論すること自体は大変意義のあることと考えております。ただ、どのような
内容で、どのようなタイミングで仕上げていくか、これはもう当然のことながら立法府である
国会で十分
議論して決めていただければと思っております。
まず、NHKの
基本姿勢なんですが、NHKとしては、公共
放送として、また
報道機関として、自主自律の
立場で公平公正に様々な
情報を的確に分かりやすく
放送しております。また、
番組の編集に当たりましては、
放送法に示された
基本的な
考え方やNHKの国内
番組基準と新
放送ガイドラインに基づいて質、量ともに多角的な
放送に取り組んで
国民視聴者の要望にこたえていると考えております。こうした
基本的な姿勢を踏まえて幾つか考えを述べさせていただきたいと思います。
まず、
国民投票運動とテレビの影響力についてですが、現代社会の中でマス
メディアの影響力、とりわけテレビの影響力が大きいことは我々
放送事業者としては十分に認識しております。とりわけNHKに対するこうした問題に対する期待が強いことも感じております。
それらのことを十分踏まえつつ、仮に
憲法改正が発議されて
国民投票運動が行われる場合には、事前の段階はもとより、運動期間中でも
報道は原則として自由であるということをやっぱりきちんとするということが望ましいと考えております。
NHKを含めました
放送事業者に関しては、
放送法に様々な
規定が設けられてあります。先ほど
渡辺さんからもありましたけれど、
放送法の三条二の一項では、国内
放送の
放送番組の編集に当たって四つの
基本的な準則を示しております。一つ、公安及び善良な風俗を害しないこと、二つ、政治的に公平であること、三つ、
報道は事実を曲げないですること、四つ、
意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から
論点を明らかにすること、以上四点です。NHKはこれまでもこれら四つの
規定を遵守して
取材、制作、
放送に当たっております。今後とも堅持してまいる考えでございます。
また、
放送法の
規定を受けて、国内
番組基準を定めて公表しております。この中では、全
国民の基盤に立つ公共
放送の
機関として、何人からも干渉されず、不偏不党の
立場を守って、
放送による
言論と
表現の自由を確保し、豊かで良い
放送を行うことによって公共の福祉の増進と文化の向上に最善を尽くすことを表明しております。その上で、政治上の諸問題は公正に扱うこと、
意見が対立している公共の問題についてはできるだけ多くの角度から
論点を明らかにして公平に取り扱うことなどを定めて日々
放送に取り組んでおります。
それから、投票運動の百四条関連について、私の方からも一言申し上げたいと思います。
放送法の三条二の第一項の
規定の
趣旨に留意するという条文が与党の修正案に盛り込まれております。参議院のこの
特別委員会の議事録を読みますと、この
規定を追加したことについて与党の
発議者の答弁では、マスコミ
規制は
国民投票活動を活発に行うためにはなるべくない方が望ましい。しかし、一部の
報道において
番組内容が捏造される事態も起きている。事実と違う
内容を伝えたり
意見が分かれているときに一方的なコメントをしたりすることは良くない。新たな
規制ということでなく念のための措置として設けた。
放送事業者があくまで自主的に
対応してほしいという
趣旨である。おおむねこのような
発言をされております。
もちろん、事実の捏造などということがあってはならないことは言うまでもないことです。こうした問題が発生した際には、まず当該
放送局自らが問題の全貌を早急に把握して公表し、併せて再発防止に向けた対策も発表することが第一だと考えております。自浄能力を発揮できないようであれば、視聴者の信頼を失うことは明らかだと思います。NHKは、こうしたことはないよう常に緊張感を持って日々の
報道に当たっております。
国民投票法案の中に
放送事業者だけを取り上げて
報道に関する
規定を置く必要性があるのかどうか。
放送法の
規定で十分足りているのではないかと私は思っております。
次に、有料の広告
放送の
規制についてです。
まず、テレビとラジオの
メディアにおける
意見広告、有料の広告
放送をどの程度認めるかという点です。
我々は、
報道機関として
表現の自由、
報道の自由を守るべきであると申し上げております。
報道は原則自由であるとの
立場からいえば、一般論として有料の広告
放送も原則自由であると思います。ただ、NHKの場合は公共
放送で、
放送法四十六条で他人の営業に関する広告
放送は禁止されています。この点、
民間放送とは全く違う
立場です。
その一方で、資金量によって
放送される賛否の量が著しく偏るようなことがあれば、これまた好ましくない状態になろうと思います。こうした点も踏まえて、
衆議院の
特別委員会で民主党が出された修正案では、
憲法改正の発議の後の有料広告は全面禁止という
規定になっていたと承知しております。
諸外国の例を見ますと、広告等を
放送できる期間に一定の歯止めを掛けている例もあるようですが、賛否の
放送量がなるべく同じくらいになるよう工夫することも含めて、民間事業者を交えた形で自主的な
取組として更に検討すべき点があるんじゃないかと思っております。
それから、投票日の十四日前から広告
放送を制限することについてですが、十四日前とした理由について、与党の説明では、期日前投票が始まる期日に合わせる形で
規定したと述べられています。この制限
規定は、一般の
放送事業者、つまりNHK以外の
民間放送に関する
規定であると理解していますので、余り主体的に申し上げることはないかと思いますけれ
ども。
ただ、常識的に考えて、これは
取材するマスコミの記者の一人として考えてみますと、投票二週間前というのは投票日に向けて盛り上がってくる時期に当たると思います。その時期に一切の広告
放送が禁止されることが本当に
国民にとって適切なことなのかどうか。
国民の知る権利にこたえることになれるのかどうか。あくまで
報道機関として一般論として述べれば、原則に返って、
報道は原則自由であるとの
法案の
趣旨を踏まえて、
放送事業者の自主的、自律的な
判断と
対応を是非尊重していただけるよう審議の中で
議論していただきたいと思います。
それから、政党と政党が指名する団体に無料
放送を認めることについて一言申し上げます。
与党の修正案では、政党等は、両議院の議長が協議して定めるところにより、
憲法改正案に対する賛成又は
反対の
意見を無料で
放送することができる、NHKや一般
放送事業者は、政党等が録音、録画した
意見をそのまま
放送しなければならないとの
趣旨が
規定されています。あわせて、政党等は、両議院の議長が協議して定めるところにより、当該
放送の一部を、指名する団体に行わせることができると
規定しております。
衆議院の
特別委員会では、
国会に議席を有する政党だけが無料で
放送を使うことが適当なのかどうか、更に
議論していただきたいと私は述べました。その上で、政党以外に認めない場合の合理的な理由、政党以外に認める場合の
判断基準について更に具体的な検討が必要であるとも述べました。
指名する団体が追加されたということは、賛否を含めた
意見表明の幅が広がるという
意味では一歩前進という側面があるかと思います。ただ、両議院の議長が協議して定めるところはどういう
規定になるのかはっきりしていません。また、政党が指名する団体が、政党と同じような主張をするのであれば幅が広がるとは言えないというふうに感じております。
最後に、折しももう来月は
憲法施行六十年目の節目に当たります。NHKは、
国民的な
議論、
判断の材料になるニュースや
番組をなるべく丁寧に多角的に伝えて、幅広く
情報を提供していきたいと考えております。
御清聴ありがとうございます。