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参考人(
平野茂夫君) ただいま御紹介をいただきましたマイスター60の社長をしております
平野でございます。よろしくお願い申し上げます。
年齢は背番号、
人生に定年なしと、こういうふうな語り掛けをいたしまして、社員の方が創業時二十名より現在は六百名になりまして、累計十七年で三千名の雇用を創出をしております。
以下、レジュメに従って話をさせていただきます。
平成二年の二月につくりましたこの会社、十七年になるんですけれども、親会社のマイスターエンジニアリングから六割の出資を得て、それから中小企業投資育成株式会社法に基づく設備投資を四割受けまして、この資本の構成をしております。
社員が初め二十名だったんですけれども、現在は六百名と。そして、
平均年齢が六十三歳で、最高の年齢の方は七十五歳の方でございます。
事業の内容は、建築設備のメンテナンス、プラントのメンテナンスの技術で始まりまして、最近では営業や総務やホワイトカラーの部門に事業を展開をしておると。
売上高が去年の三月期で十七億一千七百万円上げているんですけれども、税金を払う前の経常利益が千八十九万ということで、極めて、利益としては随分低い会社であります。大体、十七億上げて一千万の税引き前利益しか出ないということは、会社はまあ会社じゃないんですね。これでは資金繰りも付きませんし、それは後で申し上げますけれども、そういう状況でございます。
大阪で実は出ました後に、名古屋、そして東京というふうに事業展開を進めております。
次に、よくお尋ねをいただくわけですけれども、このマイスター60という事業会社をどうして創業したのかということをお尋ねいただくわけですけれども、私が四十七歳の折に、平成元年九月の十五日、敬老の日にNHKが敬老の日特集というトーク番組をやっておったんですね。それを聞いていたところ、「サラリーマン、会社辞めればただの人」と、こういう川柳が流れた途端、ああ、そうかと、知識も経験も体力も働く気もある方が定年の日を迎えた途端ただの人になってしまうという、これはおかしいなと思ったんですね。
私は、親が中支で戦死をしておりまして、生まれて一週間目で親は中国へ行きましたから、母一人子一人で育ったもんですから、頭の白い方とか、薄い方とか、そういう方が
自分の父親のような親近感を持ちまして、常々御年配の方と話しておった折には、
平野君、おれは働きたいんだということを、酒を飲んで飲んで飲みまくったいうふうなときに思わず、
平野君、おれの不満は
仕事をしたいんだと、こういうことが相当聞いておったんですね。それから、その当時も、大学や総理府やシンクタンク等がいろいろ
高齢者の方の定年退職者の方の就労意識を
調査しますと、六割以上の方がやっぱり働きたいというふうに言うているということを聞いておったんですね、見ておったんです。
ですから、この川柳を聞いた途端、それが私をしてぱちんとはじいたんですね。四人に一人が先々
高齢者になるという、十七年前の状況から、そういう状況からしますと、ああそうだなと、定年という制度が既に陳腐化を迎えたんだなと。だったら、働く人を堂々とぴかぴかの新入生として迎える会社を起こしたらどうかと、こういうふうに私は思ったわけです。ですから、そこに、会社定年制に風穴を空けるビジネス
モデルができないかと、新しい仕組みの発明が変わる
環境に新しい価値を生むのかというふうなことでの思いが創業のきっかけでありました。
次に、退職者の皆さんの就業意識というものをお尋ねしてみますと、最近は特に年金の受給が、私が始めたころには満額六十歳からいただけたわけですね。大体二百五十万ぐらい、働かなければ二百五十万ぐらいもらえたというものが、だんだんだんだんこういうふうな財政の問題からしまして先送りになるというふうなことからしまして、やっぱり退職金はあるんだけれども、それは使わないで、何か事があったらいかぬから、いろいろこれから何があるか分からぬから取りあえずためておこうと。で、日常的に
生活するその
生活費は働いて
自分の
生活を
しようじゃないかと、資産の目減りをできるだけ防止
しようじゃないかというふうなことで働こうという方も随分出てきていますよね。
しかしながら、これまで、最近はこういう傾向もありますけれども、皆さん、私にお会いしてお話をいただくことは、おれは働きたいんだと、働くことが生きがいだというふうなことなんですね。
で、こういう変わった会社ですから、テレビの取材や新聞の皆さんがよく来られますから、私は最初話はいたしましたけれども、私はいいことしか場合によっては話はしないと、どうぞどうぞ社員さんに話をして聞いていただきたいということを言うて社員さんにインタビューをしていただきますと、社員さんは、僕は若い人に技術を教えたいと言うんですね、おれは元気だから世の中の役に立ちたいとか。何とこの皆さん、どうでしょうか。
自分のことじゃなくて、
自分が働いてきたこの実績というものを
社会の中に役に立てたい、立っていきたいという、こういうお気持ちなんでしょうかね。
先生からの話も今ありましたように、だんだん年を取ることによって心の豊かさがそういうふうにこう進展するんでしょうか。あのマズロー博士が言うていますように、初めは、若いうちは安全の欲求、生存の欲求、それから偉くなりたいとか、家を持ちたいとか、当然の欲求でもあるわけですけど、それがだんだん六十も過ぎるころから、
社会とか他人のためとか、そういう物の見えない
世界の中に
自分の生きがいを持とうとするんですかね。精神が昇華過程に入って仏心になるんでしょうかね。そういうふうなことが結局、僕は、賃金の多寡より働くことが生きがいであるし、家庭の健全性もそれによって堅持できるということですね。
お父さんが、おお、帰ってきたぞ、夜七時八時に帰ってくれば、
奥さんが、お父さん、初ガツオ今日はあるよ、買っておいたよ、こういうふうなリズミカルな
生活が続くわけですね。ところが、うちでごろごろしておるとそういうことじゃ全くなくなるわけですから、これは
女性がいいとか
男性がいい悪いとかいう話、そういうことじゃなくて、やはり元気な限りは家庭も、おやじは、これまでの我々の世代はおやじが働いて
奥さんが守ると、こういう状況の延長線上からすれば、やはり健全な家庭というふうなもののありようは、男が働いて大黒柱だと、
奥さんがそれを支えるというふうなことが近ごろ定年を迎える方々の一つの家庭の風景なのかなという感じがいたします。
それから、社員、今六百名、約、おられますけども、その中で六十五歳以上の方が百九十四名、三〇%を超える社員が働いておるわけですね。
高齢者雇用安定法改正法も、だんだんだんだん六十五歳まで雇用を企業は継続しなさいと、こういうことを求める法律ができておるわけですけども、それも年金が支給されるまでの間、政府としては働いてほしいと、あとは国家財政で面倒を見ますよというふうなことでもありますよね。年金受給までのことをどうするかということですよね。
しかし、ここを見ますと、六百名中、二百名近い方が働いておるということは、働くということは何も経済的な問題だけじゃないんですね。勤勉、実直、克己、それがおれの
生き方なんだというふうな、そういう精神といいますか、そういう中に満足感を求める方がいるということは、我々としても、どうでしょうか、私は、一人の、一つの会社の経営者ですけども、皆さんにお考えいただきたいことは、働くということの保障といいますか、働くということをどう担保していくかということですね。称賛をする、表彰をする、顕彰をするというふうなことも含めて、お金の
世界を超えた人
たちをどう国家として働くことへの担保をしていくかという、かなり精神的になるんですけども、この精神というものを皆さん求めておるし、その中で大いに生きようという方が多いんですね。是非この点を、六十五歳以上の方が三割以上いるということに御注目をいただきたいと思います。
次に、マイスター60の経営コンセプトでありますけども、年齢は背番号、
人生に定年なし、六十歳でぴかぴかの一年生、そして七十歳選択定年と。選択定年というのは、
自分で定年を決めなさいという、決めてくださいということですね。おれは働けるのか働けないのか。耳が遠いから辞めようと、うちのかみさんが、
奥さんがどうも腰の調子が悪いから僕が面倒を見ようということで辞めるのか。
自分でまず主体的に判断をしてほしいと。もちろん会社も、その方が働きたい気持ちがあっても、働きに堪えない健康
状態であるし能力の具合であれば、お辞めになったらいかがですか、お辞めくださいという話はしますけども、まずは
自分が七十歳でどうするかということですね。そして、それ以上働くということをお客さんも会社もいいんであれば、今現在いるように、七十五歳の方が働いておりますから、事実上無定年で大いに働いてもらおうという考え方です。
それで、この会社は
高齢者の会社ゆえに、今はやりの時価総額とか利益の極大化の経営じゃなくて、それで
社会への貢献ではなくて、この
社会的責任のうちの中で雇用というのがありますね。利益を上げてそれを国に貢献をする、社員に月給をたくさん上げるということのほかに雇用の確保、このマイスター60はたくさん月給を上げることができない会社ですから、雇用の創出をもって少なくとも企業の
社会的な責任というものを果たしていきたいと、こういうふうに考えております。
それから、
高齢者の方が働きたい、僕は働くことがもう楽しいんだという方に対して、その方が働くことの正当性というものを、何かうらぶれて、陰に隠れてとか惨めに働くというふうな、そういうふうなことじゃなくて、働くことの正当性というものをきちんと位置付けを会社としてしていきたいと。会社の組織の中で働くことによって、マイスター60をしてそういう位置付けを訴えていきたい、あるいはその認識を作っていきたいと思っておりまして、ですから、
高齢者のニーズに適応した経営
モデルの実現ということを考えております。あとは、技術立国を下支えするための熟練技能とか技術、そういうふうなものを大いに備えた方のダム造りと、こういうふうに考えております。
それから、具体的なマイスター60の雇用制度と諸条件は、特に申し上げることは、身分はアルバイトとかパートとか、何か名刺がないんではなくて、全員がシニアマネージャーという肩書、いわゆる称号ですね、私の気持ちからすると、六十歳を超えてなお働こうという方々をたたえるということで、称号ということで正社員として名刺をお出ししています。営業部門の方はすべて部長。課長はいません。現場の方はすべてシニアマネージャー。何か珍奇な雰囲気かもしれませんけれども、これが非常にその方のモチベーションを高めるということですね。こういうことをしてやっております。
それから、給料は、日給月給ということもありますけれども、これも場合によっては誇りを失ってもらっては困りますから、大企業、上場企業と同じように完全月給制で、風邪でお休みになっても月給は引きません、日給月給じゃないですから。完全月給制とか、そういうふうなことをしております。
それから次に、六ページ目、マイスター60の経営をして私がつかんだものといいますか、教えていただいたものは、
高齢者は国の宝、随分昔からこういう話があったようですけれども、現在はこういうことになるのかなと。活用とか活性化は国家の安定に結び付くのかなというふうに思います。
高齢者雇用で出現する老壮青の職場
環境、三世代同居の疑似家族的組織編成がもたらす経営秩序、人の情緒、情操教育、企業風土の醸成と、これが私は気が付かなかった、やってみて発見したことです。技術の伝承、技能の伝承、
仕事の伝承は初めから想定していました。しかし、想定外だったことが、この第一項目ですけれども、今マイスターエンジニアリンググループ、千五百名ほどの社員がおられるわけですけれども、その中で六百名の方が
平均年齢六十三、四歳の
高齢者ということになりますと、二十歳と四十五と七十、こういう三世代が、僕とお父さんとおじいちゃん、三世代が同じ
仕事をするわけです。十人の、ある
仕事をするとすれば、六人が若者、四人が
高齢者ということになると、そういう組合せですね。
かつて
日本の国は、
高齢者がおるし、じいちゃん、ばあちゃん、父ちゃん、母ちゃん、僕みたいな孫がおるといって、三世代ないし四世代の同居をする大家族だったんですね。これがどういうことを生んできたかというと、封建的な堅苦しさや非常にぎすぎすした家族関係もたまには出たと思うんですけれども、それが、じいちゃんの働く姿や、じいちゃんのこぼす姿やじいちゃんが文句言うことを見ながら、僕
たちはああなってはいけないなとか、若い夫婦がけんかしておれば、何でおまえ、いつまでけんかしているんだというふうなことを、場合によってはじいちゃん、ばあちゃんが注意をし、孫にと。そういうふうな一見抑圧された堅苦しい家族の状況も一面はあったんでしょうけれども、それがやはり三世代の中に、きちんとした
人間の情操とかしつけとか、失敗と成功なんというふうな
人生劇場がこの中にできておったかなと思うんです。
ですから、私は、各職場に
高齢者を大いに積極的に入れてもらうことによって、六十で打ち切るんではなくて、七十のおじいちゃんがおることによって、若者、それから中年、
高齢者で、そこで改めて
人間としての一つの完成された
人生を目指す、そういう
環境ができるのかなというふうに私は特に感じました。感じております。
それから、目先の経済
社会の話ですけれども、
人口これだけ減ってくるわけですから、これから中長期的、少なくとも十年スパンで考えたときには、人手不足が急速に進んでいます。各企業とも若者にまだ注目していますけれども、団塊世代どんどん表へ出ますから、この
高齢者を起用しなければ企業業績は落ちます。場合によっては人が採れませんから企業の存亡にかかわるということまで、間もなくこれはきちんとした議論に出てくるのかというふうな感じがいたします。
それから三つ目は、経済大国、理念国家づくりに期待できる
高齢者の
人生経験と精神基盤、喜怒哀楽を踏み越えたゆえの次代に対するあるべき王道の提唱者、オピニオンリーダーになっていただけるのかなと、またなってほしいというのが私の考え方でございまして、それで、御年配の方に私は職場でお願いしていることは、技術を教えていただく傍ら、落語の師匠の師、師に畳表の表、働き方、技術のこと、
人生のこと、働き方の師表になってほしいと、是非これだけは譲ってほしくないと。技術が場合によっては若者よりも劣っても、
仕事に立ち向かう姿勢、経営姿勢、
人生姿勢、これこそ皆さんに師表になっていただいてあるべき姿を正してほしいと、こういうことをお願いをしております。
企業コンプライアンスの問題なんかも、是非御年長の方に大いに引っ張ってほしいと。御年長の方だからこそ、いろいろ御苦労して失敗もして過ちも、場合によっては失敗したなということが経験していますから、
日本の国の立て直しといいますか、やや経済
社会の中に論点が移っているこの
日本の
社会を、大いに年長の方は立て直すといいますか、大いににしきの御旗を掲げていただきたいというのが私のお願いでもあります。
それから、一番
最後、マイスター60からの
高齢者雇用にかかる
政策提言という、生意気なことを書いてありますけれども、一番目に、現在、年金の問題では、六十歳以上六十五歳未満の在職老齢年金が働くとカットされますよね。二十八万円を、月額二十八万円以上いただくと年金は一切出ないというようなことでの、二十八万円上限、年間三百三十万を超えると年金がもう出なくなるというようなことからいたしますと、やっぱり六十から六十五というふうなこの方々は、この目先の経済
社会の中に大いに取り込んで企業戦力にする価値がある方ですから、この方々に大いにやっぱり働いてもらうということについては、やはりここで削るんではなくて再び企業戦士として送り出すと。うちでぶらぶらされたら困るわけです、やっぱり労働力足らぬわけですから。
ですから、若いこの方
たちをぐんとやっぱり押し出していくためには、私は、年金はカットせずにきちんと出していくといいますか、六十五歳を超えると四十八万までそのカットのあれが延びますけれども、四十八万まで月例の給与を出す、年金を出さなくても、財政のことを考えたら、まあ三十万ぐらいまで出していったらいいかなと思うんです。そうすると、大体年間四百万ですね。四百万を超えて手取りがありますと、夫婦二人の
生活は適度にやれます。まあまあやれます。四百万を、とにかく六十以上の方が働いて、あるいはプラス年金で確保するということが、私は意欲を相当高める、労働市場に
高齢者を引っ張り出す大きな力になるのかなという感じがいたします。
それから、あと四番目について一つだけ申し上げますけど、私は、
高齢者の方を大いに起用するということを法律でいろいろ決めて、そういうふうなことで企業にお願いするということ以上に、それを超えて働きたいという方が出てくるわけですから、その方
たちを六十五を過ぎて、場合によっては七十まで働いてもらおうというそういう
政策で決めた後も、七十からでも働きたいという
人生がおるわけですから、その方
たちを大いに採用して活躍の場を与えているという企業や団体や組織に、大いに
高齢者の方を使っていただいて、雇用していて大変立派だなというような、そういうふうな顕彰をするということを国の
政策として、消防のマル適マークじゃありませんけれども、こういうことというのは結構経営者は、おれの会社は
社会のために役に立っているんだなということの誇りになりますから、社員さんもそれによって、うちの会社は大いに世間に胸張れるなと、こういうふうなことで、この四番目の
高齢者雇用優良企業マークなんということもいかがかと思います。
あと
最後、我々マイスター60、時々フォーラムを開いておりまして、我々の、六十を過ぎた後もこんなに働いているよということを求めに応じてフォーラムで出て言っているんですけれども、千葉ロータリークラブでやっていただいた我々社員さんのフォーラムの状況、それから、私のところに先週金曜日にロイターから送ってきました、ヘラルド・トリビューンにロイターから発信した記事、マイスター60出ましたからと送ってきたものを付けております。
これで取りあえず説明を終わります。ありがとうございました。