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参考人(
村上美奈子君) それでは、
計画工房を主宰しております
村上美奈子と申します。
私は、ちょっと肩書からしてもなかなか分かりにくい人物像だと思いますが、
日本建築士会連合会が言っております
まちづくり専攻建築士というか、イギリス流に言うとコミュニティーアーキテクトという
言葉がございますが、
地域に入り込んで建築や
地域計画を作っているという職業でございます。
最初に提出しております三枚紙の説明で、これでやっていきたいと思いますが、二枚目のところの
最後の
部分に、これまで三十年間にわたり私がやってきました仕事のプロジェクト名を御紹介しつつ、経験の中から今回の密集法の
改正に対する希望等を述べてみたいと思っております。
二
ページ目の
最後の
部分をまず見ていただきますと、最初に出ております、現在までかかわった
密集市街地の
住宅というところの
最後の五行でございます。
杉並区蚕糸試験場
跡地周辺まちづくりというのは、これは筑波学園に移転いたしました町を防災公園とし、
周辺を防火
地域にして密集を掛けた
まちづくりでございまして、この
二つは、
昭和五十八年当時、都内では一番最初に
地区計画を掛けたところでございまして、密集
事業と不燃化促進
事業とを併せた
事業展開をいたしました。
その次に、新宿区の若葉町というところ、これは四谷の東宮御所の近くの場所でございますが、江戸
時代から続いておりまして、当時は鮫洲橋とかそういう呼び名で知られておりますが、そこでは
平成六年に再
開発地区計画というのを既成
市街地で日影規制の緩和等をやりながら小規模連鎖型の
まちづくり計画を確立いたしました。
これは、一番
最後の
ページに少し
写真が載っておりますが、ちょっと見ていただいても分かると思うんですが、これまでの
道路が全くないような、昔の長屋の連続だったところですが、そこに南北軸に二棟の建物を小規模連鎖型しながら建てていくというもので、これは住民参加でつくったものでございまして、これを
都市計画決定したのが阪神・淡路大震災前の
平成六年でございまして、それ以後、町並み誘導型
地区計画という緩和型の
地区計画がこれを機会に作っていただくようになりました。この再
開発地区計画というのは、現在では
地区計画の中に統合されておりまして、旧再
開発地区計画を使っております。
現在では、世田谷区の上馬野沢三軒茶屋
地区で
地区計画を作りつつあったり、それから墨田区の京島
地区で、これは
密集市街地としては大変有名なものでございますが、
都市再生の
モデル調査を行いながら、本年、先般報告書を完成したばかりでございますが、
密集市街地における協調的な耐震・室内安全化モデルの検討というのを行いました。これは、個々の建物の耐震化はなかなか進みませんので、面的に取り組んで簡易耐火をしつつ、それで命の安全とかそれから
周辺道路の閉塞を防いでいくという、
道路が機能しなくなったら
都市火災になっていきますので、そういったことに取り組む、完全な耐火でなくて
まちづくりとしての協調的な耐震、耐火という試みがどのぐらい
効果があるかというのを試みて、先般終了したところでございます。
こういったところを通して御
意見を申し上げたいと思います。
最初に戻っていただければと思います。
事業がスタートいたしました三十年前の杉並区で取り組みましたころは、密集の整備というのは、修復型
まちづくりという
言葉を誕生させたように居住者の居住
改善という色が濃かったと思います。町の
部分を修復することで全体の町の質、機能等を上げることを目的としました。しかし、木造賃貸
住宅をターゲットとしていたがゆえに、採算が合わないとか敷地規模が小さいなど、耐火建築への建て替えは進まないということで
事業が進まないような状況があったと思います。これは規模や工事費、あるいは償却年数といったことで採算に合わなかったと思います。固定資産税等も影響していたと思います。
しかし、先ほど申し上げた杉並区の事例で、個人
住宅の建て替えに不燃化促進
事業の助成金を出して、区画街路、
道路の
部分は密集
事業を使って
道路確保をしていくという合わせ技をしたところではかなり
効果が上がりまして、十年で不燃化促進
事業の助成金を終了、十五年で密集
事業を終了して、
事業入った当初はほとんどが消防活動困難区域で、それから不燃化率も六%しかなかったんですが、ただいまでは、不燃領域率という計算の仕方になっておりますが、それも四〇%を超え、やや五〇%近い数字になっておりますし、区画街路三本も六五%以上の拡幅を完了しております。こういった個人
住宅への助成というところがかなりキーポイントになっているのではないかという感想を持っております。
それから、現在では
成果が上がらないということで、次の二番目の丸ですが、次第に面整備や
道路事業が重視されてきたというのが今日の密集
事業の方向ではないかと思います。
つまり、居住者の更新ということですね。更新
事業というか建て替え
事業というか、居住
事業を念頭に入れた
事業ではなくて、ディベロッパーの面
開発事業になっていったと思います。かなり種地のあったりするようなやりやすいところで
事業化していっていると思います。
都市再生の
観点からいうと、それは経済上も優れているのかもしれませんが、
地域の居住者の居住継続とか生活実態という点ではかなり問題があるということで、
地域性とか
地域力の欠ける町になりつつあるという問題点があるように思います。
今日、高齢化社会、それから子供の
地域での教育などの問題解決には
地域力が非常に大事だと、
地域力を高めることが
効果的ということがあちらこちらで言えていたり、例えばNHKのテレビ見ても「ご近所の底力」などという番組がございますが、そういった中、逆に密集
事業は、今日、
地域力がだんだんダウンしていくところに更にダメージを与えているのではないかという印象を持ちます。といいますのは、面
開発をしますと全く居住者が変わってしまいまして、元々住んでいた方はなかなか高い家賃、固定資産税を払ってそこに住み続けることができないということなので、
地域の文化が壊れていくようなところがございます。
まちづくりとそれから面整備とは担い手が違うということで、私の仕事の領域のお話をしますと、
まちづくりコンサルタントとディベロッパーの違いは、阪神・淡路大震災でもこれは非常に如実に出た傾向でございますが、
まちづくりコンサルタントとかコミュニティーアーキテクトといった立場には公的な地位がないもんですから、なかなか報酬に結び付く仕事ができません。後者の方の面整備の方は、再
開発ということで法的に担保された
事業でございますので、きちっとした報酬がもらえるという傾向がございます。
それで、やはりなかなか修復型の
まちづくりが進まないという傾向がございました。今回、市町村
都市再生協議会というのを自治体で創設しまして、
都市再生整備推進法人等を、法人を設置することで、
地域性を踏まえた、一律でない
まちづくり事業の位置付けがされております。こうした中で、
地域特性を生かした
まちづくりコンサルタントの活動が位置付けを得て展開できることを期待しております。
それからその次に、今回の
密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律の中で特に
お願いしたいことが一点ございまして、
独立行政法人都市再生機構及び
地方住宅供給公社の行う受託業務の中に従前居住者用賃貸
住宅の建設というのがございます。
これにつきまして、今日では、自治体は財政負担が大きくまた長く続くということでややこれには後退ぎみであるところですし、人材不足という点からもこういった方向は歓迎なことなんですが、なかなかこれが進まない点がございます。というのは、これは団地を造ったりするということではないという認識を持っていただきたいということなんでございます。
それで、これで一番の問題は、これまで、先ほど申し上げたように、
地域の人たちの住まい方ということで、一番下の丸のところをちょっと申し上げますが、
密集市街地の高齢者の居住形態というところへちょっと書いてあります。負の資産として位置付けられているが、
都市居住としては学ぶべきことが多いということでございます。
これは、
密集市街地では家族単位ということでなくてむしろ独り暮らしの人が多いということで、助け合いの生活というのがございます。これは安否確認といったことで、例えば朝起きたらラジオを掛けるとか夜寝るときは電気を消すということでお互いに安否確認をし合っているとか、ごみ出し、買物、そういったことで非常に一緒の生活というのがそれぞれにございます。そういったことが分解されてしまう、破壊されてしまうということで、先般の阪神・淡路大震災のときに、災害者
住宅にどんと入れてしまうと、隣同士の付き合いとか、そういったものが希薄になって孤独死がたくさん出たような状況がございましたが、こういったことに対する対策が今の従前居住者用
住宅の居住水準の維持ではできないような形になっております。
といいますのは、ここに福祉
事業との連携というのが非常に密集
事業の中では容易でないと思うんですが、これがなかなか、福祉
事業としてのグループホームとかコレクティブハウジングのような建物、施設型の建物を建設するということがなかなか補助
対象になっておりません。したがって、
密集市街地では福祉との連携ということが非常に重要だと思います。
補助金等にかかわりまして
まちづくり用地を取得しております。それを転がし、ネタ用地として造って、そこに高齢者を入れていったらどうだという声はあるんですが、補助金等に係る予算の執行の適正化にかかわる法律目的外使用となりまして、福祉施設をここに建てるということができないという欠点がございます。したがって、今回の
法改正に伴って、是非ともそういった福祉との連係プレーができるような政令等での配慮を
お願いしたいというふうに思っております。
もうすぐ時間ですが、例えば今、京島の長屋で木造の長屋を改装、耐震化しまして、元の姿のとおりなんですが、特別養護老人ホームのはなみずきというところが逆デイサービスというのをやっております。デイサービスというのは普通、
地域の人が特養にデイ、短時間預けに行くところなんですが、これは逆に特別養護老人ホームの人が
地域に出てきて、来るということで逆デイサービスと言うんですね。
それはなぜかというと、施設に入っていると認知症がどんどん進行していく、しかし、
地域に戻って長屋で生活したりすると認知症の進行が少し抑制できる、それから表情がすごく良くなるというようなことがございましたり、あるいはその長屋を基点にさらにその
周辺の高齢者の
方々の介護やそれから福祉の手助けができるといったような、
地域の福祉の拠点になるというような状況もございまして、非常にそういったものの利用
価値もあります。逆に、福祉の関係の方が
空間力があるという言い方をされております。
地域に溶け合うような、そういった住まいの形というのがこれまでの
地域が一体になって生活してきた状況を表しておりまして、そういった
地域との関係で住まいを考えるという視点と災害に強い防災
まちづくりとの関係で、できる限り居住継続という視点で、居住という、人が生活するという視点からこの
密集市街地の
再生に取り組むということが今欠けているので、その辺を是非とも
お願いしたいと思っているところでございます。
以上です。