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参考人(
坂本福子君) ただいま御紹介にあずかりました、
弁護士をしております
坂本です。
私の方は、長年
弁護士として働く女性の問題に携わってまいりました。この観点から、本日、この
パート法の改正案について
意見を述べさせていただきたいと存じます。
パート法が一九九三年成立いたしました。それによって本当に
パートで働く女性たちが、いや、今は男性もかなり出ております。その
パート労働者たちが本当に権利が平等になっていっているんだろうか、それが私たちいろいろと相談を受ける中で、やっぱりこの
パートさんたちを何とか平等に取り扱われるようにしたいということの思いで、
パート法の改正ということに大きく期待を持ってきました。十四年たって今回
パート法の改正案が出されました。
しかし、私たちはこれを見ながら、私なんかでも本当にがっくりきたんですね。なぜというと、この禁止規定に係る
パート労働者と、それからそうでない
パート労働者を分け、しかも禁止規定に、要するに通常の
労働者と同様に取り扱わなければならないという
労働者はどういう者かという枠をはめております。
それは、問題になっておりますように
三つの要件を言われております。政府案は、
三つの要件というのは、まず
一つが業務
内容と責任程度が同一であること。それから、
雇用期間の定めがないこと。それから三番目に、全
雇用期間において
職務内容及び配置の変更の範囲が同一と見込まれること。この要件を満たす者は政府案見てもわずか
パートの中の四、五%と言われているにすぎません。
では、じゃ九五、六%の
パートは一体どうなんだろうか。なぜこの三要件が不当なのかというふうに、非常に今の
パートにとってはこれは満たしにくいものかということをごく簡単にまず説明さしていただきます。
業務
内容と責任範囲、これは
職務内容と言っておりますけれども、これはだれが決めるのか、責任の範囲はだれが決めるのか。これはまさしく
職場では事業主が決めます。事業主の全く恣意的な判断です。そして、それを争おうと思えば、これは公的機関あるいは裁判所、そういうところに申し出なければ争えません。
パート労働者というのは、御存じのように非常にわずかな
賃金と、そして家事
労働の補充というような形で、その合間に働いております。そのために、そんな公的機関まで申し出る、いや、その時間があったら私は百円でも稼ぎたいわと、百円、二百円でももらいたいわという方が非常に多いんですね。とすると、
弁護士のところに相談に来ても、いや、そこまではという二の足を踏むというのがほとんどです。とすれば、業務
内容と責任範囲、いや、私は通常の
労働者と同じようにやっているのよといっても、結局そこでの嘆きの止まりという形になってきています。これがどのような判断でどういうふうにそれをできるのか、これは全く不明です。
それから二番目に、
雇用期間の定めです。これも八割が今
雇用期間の定めがあるというふうに言われています。
雇用期間の定め、そこが来たらぽいよということであるんならば、一体八割の
労働者はほとんど救われないわけです。
パートというのは救われないわけです。もっとも、八条の二項ですか、そこの中で、やっぱり契約の繰り返し更新が行われた場合、これは有期であっても期間の更新がなかったものとみなすというふうに定めています。しかし、
社会通念上認められる契約の更新というのは一体何をいうのか。これは衆議院での議事録を拝見さしていただきましたけれども、全く政府答弁はあいまいになっております。私たち裁判所でもこれは幾つかの事例やって、その事例事例に伴って、いや、これは契約の更新があって通常の正規
労働者とみなすというような判決が出ております。しかし、そこまで持っていくのはこれまたなかなか大変でございます。
私は、やっぱり
一つ、既に東芝臨時工を廃止したあの最高裁の判決、これは臨時工の最初のはしりの事件です。
これは、東芝の場合で申し上げれば、期間は二か月。二か月、二か月、二か月の更新で、そして何年かたったときには契約の更新打ち止め。これが
不満ということで、
労働者たちが相談し、そして本当に乏しいわずかな財政の中から、一生懸命になってとにかく自分たちの権利をみんなで頑張ろうじゃないかということで立ち上がりました。これは、最初に立ち上がった原告の人たちが七名、そのうちの最も更新回数の短かった人は五回ですね、すなわち十か月。それから、最も長かった人が三年八か月、二十三回という形になります。裁判所はどう言ったかというと、いずれも数回ないし数十回の更新、要するに数回更新しても数十回更新しても、そこのところで打ち止めはできないよと。これは通常の
労働者とみなさなければならないんだということで、臨時工が高裁、最高裁と争って勝訴しました。
しかし、一審判決後、日本の場合の裁判所は、高裁に行き、そして最高裁、その間に何年掛かったことでしょう。それもやっと獲得して、しかしその後にやっぱり臨時工が廃止されたというのは非常に大きかったと思います。しかし、そんな
現場、
現場の問題じゃなくて、やっぱりきちっと、期間があってもやっぱりずっと通常の
労働者とみなされるんだということが
法律で規定されていればという思いでした。
契約更新の場合に打ち切られて、それで争える場合はいいんですけど、泣き寝入りということがほとんどです。しかも、元々
パートというのは、私たちがはっきり、
パート法、
パートタイマーが増えてきたころからよく言っていますが、
パートというのは、パーツということなんだから、要するに期間の定めがあるということじゃないんだよと、通常の
労働者よりも短い時間なんだと、だから契約を切るというのはそれは
パート臨時じゃないかと。今、臨時工というのは、労基法で三年以上
雇用された場合には通常の
労働者ということになりますけれども、当時は一年。やっぱりそれは
パート臨時、あんたは
パートじゃないよという話なんかをよくやったもんだというふうに思っています。やっぱり、ここのところの
契約期間の問題は、
パートタイム、短時間
雇用労働者法の
改善ということであれば、期間を問題にすること自身がおかしいんだというふうに思っています。
それから、三番目の、全
雇用期間にわたって配置変更範囲が同じと。これは、
先ほど期待可能性の問題も出ていました。しかし、日本の言う同一価値
労働同一
賃金は、ILOの百号条約を批准しております。ということならば、労基法四条においても、やはり同一価値
労働同一
賃金、同じ
仕事をやっていればその期間は同じ
賃金を払わねばならないよというのがこれは
法律上の解釈だと思います。それが将来の期待可能性でもって、同じ
仕事をしていながら半分以下というようなことがあって、それはしかるべきなんだろうか、本当に
合理性があるんだろうかということで、この点についても、このような
条件が非常に不合理であるというふうに私どもは考えております。
それからもう
一つ、やっぱり配転、転勤の問題は配転まで含むと言っているんですね。これは、配転については、元々通常の
労働者も私はひどいと思います。やっぱり、ILOの百五十六号条約を批准して、百六十五号勧告の中でははっきり、配転に当たっては配偶者の勤務地、子供の教育の考慮ということを規定しております。だとすれば、
パート労働者が何のために働いているの、何で
パートとして働くのといったときに、介護、それから子供の教育、そういうものと併せて、自分が働きたいから、短時間働きたいからという答えが非常に多く出ております。とするならば、ここに配転までも一緒にというようなことがなぜ行われなければ、入れられなければならないのか。
しかも、そうした三要件を満たさない
パートタイマーについては
均衡待遇、まあ
バランスということなんでしょうけれども、この
均衡待遇というのは、何で
均等待遇にして悪いんだろうかと。しかも、この
均衡待遇に当たるほとんどの、九五%ぐらいの
パート労働者は一体どうなるんだろう。ここについて見れば、
賃金について言うと、退職金、
通勤手当等を除くとありますけれども、まさしく退職金、
通勤手当、これは
賃金だと思います。それを除いて
均衡にという配慮義務。また、教育訓練についても、単に
職務内容とかそういうものについてのやっぱり教育をするようという、これも配慮義務。それだとすれば、
パートの、要するに自分の
能力を生かしたい、そこをまさしく伸ばすものではないと思っております。
それから三番目に、私はやっぱり最もひどいと思うのは
福利厚生施設の利用です。
福利厚生施設であれば、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして
厚生労働省が定めるものについては
パートにも利用の機会を与えるよう努めなければならないと、これは一体何だろう。
私たち、ちょっと
弁護士の中でも話していたんですけれども、一体これは
パートだから、少なくとも入口でシャットアウトです。何で食堂が
パートだから使えない。それは、あんたは女に生まれたから駄目だよと言われるのと、女人禁制と、そういうことと全く同じことなんです。少なくとも、こういうことでもって
福利厚生施設の利用について
パートタイマーに、要するに、
均衡に取り扱うよう努力しなければならないという規定は、これはやっぱり禁止規定にしていただかなければまさしく人権侵害ということだと思います。本当に
差別は人権侵害だし、
パートの人たちが、
正社員の方はあそこの食堂を使えるけれども、また食費の負担が違うけれどもと言われたときに、私たちも、それはひどいわねという相談、それは幾つもの相談であるんです、そういう中で出てくるのが。それがまたそれを認めるという
法律になってきます。
なぜ、私がやはりここでもう
一つ弁護士として言いたいのは、配慮義務規定と禁止規定、これは決定的に
法律的に違います。すべてそれを禁止しているその三要件を満たす
パート以外は、
均衡に
処遇するよう努力義務です。
実は均等法ができるときに、最初の均等法、八五年の均等法は、いわゆる募集、採用、配置、昇進、これについては努力義務規定でした。女性たちの間から努力義務規定では駄目だと、ちゃんとそういう
差別は禁止規定にしてくれということを何回も要請し、そして多くの当時の野党議員からはかなりな質問が出されております。ところが、政府はどう言ったかというと、それは、この均等法は
男女で
差別的取扱いをしないことの努力義務にとどめており、要するにそういうものだと言うんです。努力義務であってもこれは公序に反するものではないという答弁が、これは時の
坂本三十次
労働大臣及び赤松良子婦人
労働局長からかなり答弁が何回か繰り返されております。
しかし、
弁護士として私はこれは本当に苦い苦い汁を味わいました。
一つはやっぱりコース別
雇用の中で
男女差別が、要するに
総合職は男性、事務職あるいは
一般職というんですか、それは女性という振り分け方、これは均等法違反だということで訴えを提起した裁判で、その裁判所はどう言ったかというと、旧均等法が制定、施行された、八五年ですね、といっても努力義務規定にとどまっている、いわゆる配置、昇進が努力義務規定だというんですね、とどめており、旧均等法が制定、施行されたからといって被告会社の
男女のコース別
処遇が公序に反し無効と言うことはできないと、はっきりこう言われているんです。そして、九七年に改正された禁止の均等法で九九年から施行になったと。それからは、その後は違法という、はっきりこれは出ております。
今日たまたま私の
資料のところを見ましたら、岡谷鋼機の裁判のことがちょっと載って、今日配られて、これは全く知らなかったんですけれども、
雇用管理改善、
参考人の関連
資料、論文ということで書いております。
一つは、これは私がその苦い経験を味わったのは岡谷鋼機という、これは名古屋の商社の事件ですけれども、十年掛かっております。その
段階でこのような形の判決が出されました。一人は九七年前に辞めていた場合に、これは全く救済の余地がありませんでした。政府がそのように言いつつ、その国会答弁は見事裏切られたのです。やはりそれから有名なあの野村証券事件、これも同じく、これと同じ理論で九七年以前の
労働者たちには公序に反しないということで負けております。九九年以降が勝っているという
状況です。
本当にこのような
均衡な配慮義務という規定では、一体この
法律でどれだけ救われるんだろうか、
パート労働者が苦しんでいるときにどうなるんであろうかということが、ひとつどうしてもやっぱりここを改めていただきたいなというのが切なる希望です。
恐らく、
パートの需要は今後ますます増大していくことになると思います。日本は批准しておりませんが、ILOの百七十五号条約、既にここではフルタイム
労働者、いわゆる通常の
労働者と同じように扱わなければならない、単に時間が短いということだけで、それは全
労働条件においての要するに均等扱いということをうたっております。
さらに、判決でも、やはり
パート労働者について最も新しい判決、これは丸子警報器といって、正規女性と
パートの女性とが
賃金差別を争った事件です。
仕事内容は全く一緒。このうちの判決の中で言っているのは、要するに労基法三条、四条のような
差別禁止規定は直接的には身分や性による
差別を禁止したものである。要するに労基法四条というのは性
差別禁止ですから、要するに、男性と比較する場合は別として、女性同士の
パートと正規、この場合には適用にならないわけです。しかし、そういうものであるけれども、その根底には、およそ人はその
労働に対しひとしく報われなければならないという
均等待遇の理念が存在し、
労働に対してひとしく対価として報われなければならないんだと。その理念は、人格の価値を平等と見る市民法の原理と考えていいんだと。すなわち、人格の平等、価値、そしてそれを見るはそれは市民法の原理だということを言っております。これで、
パート労働者が
パートだからということで、満額とは言いませんですから八割、そして高裁に行って九割という形まで来ております。
本当に、そういう
意味ではやっぱり
差別ということは人権の侵害。
パートといえば単に
労働時間が短いだけだと。その働いている
労働時間に対する対価、それ以外は人間の価値としては同じなんだということを申し上げたいと思います。
最後に、私はやっぱり、くどいようですけれども、
弁護士としてつくづく感ずるのは、やっぱり
パートが裁判を起こすというのがどんなにか大変かということです。
先ほどの丸子警報器の事件でも、これは組合があったからこそそれは裁判まで行ったんです。しかし、今の
パートの組合組織率は実に四・三%。その中で、本当に私たちがやっぱり、
パートが取り組む、正規の通常の
労働者よりも余りにも
賃金が低いじゃないか、あるいはその他の
労働条件も悪いじゃないかということでどこまで取り組めるかということです。
法律として立法されることについては、私は以下のような
法律を望んでおります。
第一に、
均等待遇の明記です。
パートは
労働時間が短いということの合理的
取扱いを除き、
均等待遇であること。
二番目に、
賃金です。これはやっぱり同一の業務を行う正規と同一の
賃金率、昇給率で、
労働時間に比例して払うべきものだと。やっぱり諸手当とか退職金、これは明らかに
賃金規定に、
賃金の中にちゃんと含まれるものですから、これは
賃金として考えてもらいたい。
それから、
福利厚生施設、
先ほども言われましたように、まさしくこれは人権侵害だと思います。
福利厚生施設の利用ぐらいについては全部
差別的取扱いを禁止してほしいと。
それから四番目に、正規
労働者の希望の場合は、外部
労働者に優先して応募する権利があっていいんじゃないか。
最後に、私は、有期の場合に、有期については、やっぱり業務の
必要性から有期で、どうしてもこの
仕事はこの期間だけでいいんだよという場合に限っていただきたいということが希望です。
以上、私のこれらの希望を述べさせていただきました。
ありがとうございます。