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参考人(
大江京子君) 本日のような貴重な
機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。
私は、一九九六年の
東京大気汚染公害裁判提訴以来今日まで、
被害者原告の代理人として
東京を
中心とする
自動車排ガス問題に関与してまいりました
弁護士でございます。この立場から、本日は
意見を申し述べたいと思います。
自動車排ガス公害問題は、既に一九六〇年代後半以降から
東京などの大
都市において社会問題となっておりました。種々の曲折を経てようやく一九七〇年代後半、いわゆる昭和五十三年
規制と言われているものですが、ガソリン乗用車の排ガス
規制が本格的に開始されました。ところが、
ディーゼル車の排ガス
規制は遅々として進まず、極めて緩やかな
規制の中で、
自動車メーカーが一九七三年末のオイルショックによる新車販売台数の低下打開策として、燃費の安さ、経済性を売り物にして一斉に従来の中小型トラックを、商用車でございますが、トラック、バスを
ディーゼル車に転換して大量に
ディーゼル車が市場に出たと。それが今日の深刻な
大気汚染の
実態と
被害者の増加を招く結果となりました。
国は、一九八三年に
浮遊粒子状物質の健康
影響に関する文献
調査という形でPM
大気汚染の健康
影響に関連する知見の集約を図っており、一九七〇年代末から八〇年代初頭のディーゼル化の時期には、PMの
危険性にとどまらず、ディーゼル排気微粒子、いわゆるDEPと言われている固有の
危険性、がんや呼吸器疾患などの
危険性が存在することを具体的に認識されていた、そのことは明らかだと思います。にもかかわらず、残念ながら国は、ディーゼル排ガスによる健康
被害の拡大防止のための適切な時期に適切な
措置をとってきたかと申しますと、それについては必ずしもそうではなかったと申し述べざるを得ない、それが私
どもの立場であります。
例えば、
東京都内で走行する車両総重量八トン以下の貨物車あるいはバスなどがすべて仮にガソリン車であった場合、つまり
ディーゼル車の転換ではなくガソリン車のままであった場合、
東京都内における
自動車走行による
粒子状物質、PMの
排出量は、一九八〇年では五四%、九〇年では七四%、実に四分の三以上が削減されていたという学者のシミュレーション研究
報告、これも
大気汚染裁判の中で裁判所の中に
提出されております。
深刻な
環境被害、健康
被害の現実がある以上、国は、
ディーゼル車に代替することが技術的に不可能なクラスを除いて、代替が可能なクラス、それについては
ディーゼル車の排ガス
規制をガソリン車と同等にする、あるいは軽油税を見直すなどして
ディーゼル車の拡大を防ぐ
措置を講じることができたはずですが、残念ながら、例えばPM
規制に関しても、国は遅くとも一九八〇年代初頭ころには
規制権限を行使してPM
規制を行うことは可能であった、しかしながら現実にPM
規制が行われたのは一九九三年から、米国などと比較しても十年も後ということです。これは、国の公害に対する
規制対策の怠慢であると言わざるを得ないと思います。このような国の怠慢によって、
東京都内を始め全国で大勢の
被害者が生まれ、命を奪われていったこと、国の責任は極めて大きいと、そのことをまずもって最初に、国の責任という観点で最初に申し述べたいと思います。
改正案の中身について一言
意見を述べたいと思います。
参考人の
皆様もおっしゃっておられました。今回の
改正について、
流入車対策ということが極めて注目されていた。しかしながら、
法案を見ますと、残念ながら腰砕けの感、適切な言葉ではないかもしれませんが、残念ながら腰砕けの感をぬぐい切れない。
十九年二月、中
環審の出されました
意見具申では、
対策地域外の
自動車所有者に
車種規制のような重い
規制を強いることは適切ではないということで、流入車を直接
規制するような
対策を否定された。この点は大変残念であると言わざるを得ません。
また、
局地対策、
汚染についても、
荷主や
自動車集中施設の設置管理者についての義務付けがやはり中間
報告であるとか、そこのトーンと比べて非常に後退した。わずかに
荷主の
努力義務と
特定建物の新設者に対する届出義務が規定されるにとどまってしまった。この点も我々大変期待しただけに、もうちょっと
規制を掛けることができなかったかということを感じざるを得ません。
また、是非ともこの点については申し述べたいんですが、PM二・五の
環境基準設定についてでございます。
粒子状物質の中でもその粒径が二・五マイクロメートル以下の微小粒子の総称であるPM二・五は、その小ささゆえに肺に付着しやすく、がんや気管支ぜんそくなどとの強い関連性を指摘されております。そのことは御存じのとおりでございます。
問題なのは、ディーゼル
自動車から排出されるディーゼル排気微粒子はPM二・五の代表物質であるということでございます。現在、このPM二・五について我が国においてはいまだに
環境基準が設定されていません。米国では一九九七年、十年前からPM二・五の
環境基準が定められ、昨年一月に基準の大幅な強化が提案されております。また、EUでも二〇〇五年にWHOのレポートを採用し、
環境基準が設定されております。
平成十三年五月三十一日、参議院で行われました本法についての
附帯決議においても、特に健康
影響が懸念されているPM二・五については、
調査研究を急ぐとともに、できるだけ早期に
環境基準を設定することとうたわれております。このときから数えても既に六年近くが経過されている。余りにも遅い対応と言わざるを得ません。
多くの薬害、公害事案、私、全国の公害の弁護団の連絡
会議の事務
局長もやっておりますが、多くの薬害、公害事案がそうであったように、国の
対策が遅れたがために病気にならなくてもよかった方が病気になるといった悲劇を絶対繰り返してはならない。その観点からも、直ちにPM二・五についてせめて欧米並みの
環境基準を設定し、基準遵守のための実効ある
措置を講じていただきたい。本法の
改正案、
検討する際にその点を是非御考慮いただきたいというのが私の
意見でございます。
最後に、昨年九月二十八日、
東京大気汚染公害裁判においては、
東京高等裁判所が
自動車排ガスによる公害
被害に苦しむ
患者を一日も早く救済すべきであるという立場から、裁判所としてはできる限り早く抜本的、最終的な解決を図りたいとして、国を始めとする関係当事者に対して、英知を集めて協力していただきたいという異例の解決勧告を行いました。これにこたえて被告である
東京都は、被告らが、これは国と
自動車メーカー、そして
東京都ですが、費用を
負担して
東京都内全域の気管支ぜんそく
患者に対し、
医療費の自己
負担なしの全面助成を行う
制度の創設案を提案いたしました。これは
東京高裁に
提出されております。また、トヨタを始めとするディーゼルの製造販売メーカー、
自動車メーカー七社も基本的に
東京都案に協力すると、応じるという、そういう前向きな回答を
東京高等裁判所に寄せております。
これに対してと申し上げざるを得ませんが、国は、
東京都案については
費用負担に関しては非常に後ろ向きな回答、端的に申し上げますと協力できないという、そういう御回答となっております。非常に残念と言わざるを得ません。
そもそも
自動車排ガスによるぜんそくなどの呼吸器疾患との因果関係というのは裁判においては繰り返し認定されております。もう十年以上前から、九五年のときから認定されております。また、国の
道路管理者としての公害責任も五度にわたって司法判断としてはもう明確に断罪されていると。
是非、国は、一刻も早く自らの責任、重大な責任、
国民の命と健康を守る、未然に防ぐと、健康
被害については未然に防ぐべきであるという国の重い責任、それを自覚されまして、
医療費助成制度創設のために
東京都案について前向きな回答、安倍首相の言われる最大限の
努力、真摯な
努力を是非していただきたいと、そのことを最後に申し述べて、私の
意見としたいと思います。
以上です。