○
海渡参考人 本日は、
意見陳述の機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。日本
弁護士連合会を代表して、
更生保護法案について
意見を述べさせていただきます。
更生保護法は、刑事実体法である刑法、手続法である刑事訴訟法と並んで、刑事被収容者
処遇法とセットで刑事司法の執行法ともいうべき基本法であります。従来の
犯罪者予防更生法及び
執行猶予者保護観察法を整理統合した総合的な
法律でもあります。
本日は野党の先生方が
出席されていないという
状況なわけですが、本
法案の
審議については、当連合会としては、十分時間をかけ、また、以下に述べさせていただきます幾つかの点について思い切った修正をお願いしたいというふうに考えております。
第一点は、
更生保護の目的に関してでございます。
更生保護の本質は、罪を犯した者に対して、
社会内で指導、援護を行い、その更生を実現していくことであります。こうした
更生保護の目的が達成されることによって、結果的に
再犯防止がもたらされ、より安全な
社会の実現につながることが期待されております。
法案の第一条においては、目的として再犯の防止を第一に掲げておりますが、
制度の結果として期待すべきものを目的の冒頭に持ってくることは、
更生保護の本質を誤らせる危険性があります。確かに、刑余者の再犯を防止するということは大切ですが、
仮釈放者の再犯率が満期釈放者の再犯率よりも低ければ、
仮釈放とその後の
保護観察は再犯率を下げるために役立っているというふうに考えることができます。
法案の目的規定においては、
更生保護の
対象者が仮にわずかな人数であっても再犯を犯した場合には、
制度そのものが失敗しているととらえるような近視眼的な運用を生み出しかねないというふうに考えます。
最初から
再犯防止を至上命題とし、
治安維持的な
立場で
対象者に接すれば、
先ほど森本さんから感動的な
お話がありましたが、
対象者と
保護司さんとの信頼関係をつくり
改善更生を助けるということもできず、結果として再犯を減らすこともできないという結果になりかねません。
したがって、
法案の第一条の目的規定は、「目的」の「又は」以下は、これらの者が善良な
社会の一員として自立し、
改善更生することを助け、もって、これらの者が再び
犯罪をすることを防ぎ、またはその非行をなくし、
社会を
保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とするというぐあいに修正するべきであるというふうに考えます。
第二点は、国の責務に関してでございます。
法案第二条第一項は、
更生保護に関する国の責務について規定しています。
更生保護は、施設内
処遇と
社会内処遇の双方にまたがる分野であり、組織の壁を越えて、
法務省内の矯正、
保護両部門が十分連携を図って行うべきであります。また、定住
支援、
就労支援などの問題に関しては、
法務省と厚生労働省が組織の壁を乗り越えて連携すべきであると考えます。
第三点は、地方
更生保護委員会の
委員の任命についてでございます。
法案には、地方
更生保護委員会の
委員の任命について規定がございません。現状は、
委員の大半が
保護関係の機関の行政官のOBで占められているという実情にあるわけですが、これは、第三者たる審査機関には不適当と考えられます。
瀬川先生たちがつくられました
有識者会議の
報告書におきましては、
仮釈放審理が内輪で行われているとの批判にこたえるとともに、審理の公平性、的確性、透明性等を高めるため、地方
更生保護委員会の
委員に
民間出身者等
更生保護官署出身者以外の者も積極的に登用すべきである、精神医学、臨床心理学の専門家、
社会福祉関係者、
法律家等の多様な専門的知見を審理に活用すべきであるとされております。
このような点を
法案の中に具体化する、例えば、刑事施設視察
委員会などに倣いまして、人格識見が高く、罪を犯した者の
更生保護に熱意を有する者のうちから
法務大臣が任命するといったような規定を
法案に盛り込んでいただきたいと考えます。
第四点は、
仮釈放審理事務を行う人的資源についてでございます。
先ほどの
森本さんの
お話にもありましたが、
保護観察官が圧倒的に足りない。
平成十九年度、全体で四十三名増員されたというふうに伺っておりますが、まだまだ焼け石に水というのが実態でございます。
保護観察官の抜本的な増員、事務局を担う人的資源の拡大、これは急務であると考えられます。
第五点は、
仮釈放の積極化についてでございます。
仮釈放は、
保護観察を通じ、
対象者の円滑な
社会復帰と
改善更生に極めて有益なものでございます。したがって、適性のある者に対してはできるだけ早い段階で実施されるべきです。また、いわゆる
処遇困難とされる者についても、施設内
処遇から満期釈放によって突然、何らの指導、援助もないまま
社会に出ることは、受刑者本人にとっても、また
社会にとっても、極めて再犯リスクが高い状態を生み出すというふうに考えられます。
きょう、
法務省の方でつくられたたくさんの資料を私のプレゼンの後ろにつけておきましたが、これを見ていただきますと、
仮釈放になっている者とそうでない者との間で再犯率が二〇%ぐらい違うわけです。二〇%も違うということは、
仮釈放するということ、そして
保護観察をしているということが再犯リスクを下げているという端的な証明になっていると考えます。
したがって、
仮釈放は釈放に至るまでの基本的なステップである、原則としてすべての受刑者について
仮釈放の可否の検討がなされるべきである、審査の機会が与えられるべきだと考えます。
法案の三十四条一項は、
仮釈放の基準については、すべて許可基準を
法務省令にゆだねてしまっておりますけれども、
有識者会議の提言においても、許可基準を改めて、運用準則を策定すべきだという
意見が述べられております。
仮釈放制度の
刑事政策的意義、
先ほど瀬川先生からも
お話がありましたが、これを踏まえて、
仮釈放の運用をいたずらに萎縮させない、めり張りをつけた運用をすべきである。提言の中には、犯情軽微な覚せい剤事犯者については、簡易尿検査を含む
処遇プログラムを受けることを条件に、相当早期に
仮釈放を認めることが検討されるべきである、これは非常に正しい指摘だと思いますが、そういう提言がなされております。
このような提言を具体化できるような規定、例えば
法案の三十四条一項に、
法務省令で定める基準が、
仮釈放制度の意義を踏まえ、適切かつ積極的な運用を促進するものであることを明確に書くべきであるというふうに考えます。また、
法務省令で定める基準の中には、言い渡した刑期の三分の二の期間が
経過したときといった具体的な規定を設けるべきではないかというふうに考えます。
第六点は、
仮釈放審理への受刑者本人の関与を認めるべきだという点でございます。
可能な限り多くの者に
仮釈放の機会を与えるために、受刑者本人から審理開始の申し出があった場合に職権によって審理を開始できること、
仮釈放申請を棄却する場合には理由を告知すること、こういった点が提言の中ではっきりうたわれております。これは、
法案に盛り込むことが予定されていた
事項ではないかというふうに考えられます。ところが、現実にはこの点が
法案に盛り込まれておりません。
この点は、
法案の三十五条一項において、地方
委員会は、前条の申し出がない場合であっても、被収容者から申し出があった場合その他必要があると認めるときは、審理を開始することができるといったような修正が可能ではないかと考えられます。さらに、
法案三十四条一項の後に二項を設け、刑事施設の長または少年院の長が前条の期間が
経過しても前項の申し出をしないときは、被収容者が直接地方
更生保護委員会にみずからの
仮釈放を許すべき旨の申し出をすることができるといったような、本人の申請権を認める規定を置くべきことも今後検討されるべきだと考えます。
第七点目は、
仮釈放に当たっての
犯罪被害者等からの
意見聴取手続についてでございます。
法案の三十八条、四十二条では、
仮釈放等の審理において、
被害者等から申し出があった場合には、被害に関する心情その他の審理
対象者の
仮釈放等に関する
意見を聴取することとされました。ただし、
仮釈放等の審理というのは、
事件そのものからは相当時間が
経過して行われるものでございます。審理
対象者の
状況、
生活状況、心理
状況などにはかなりの変化があると考えられます。また、
被害者等の
意見のみによって、真に
仮釈放にふさわしい
対象者の
社会復帰が妨げられ、
改善更生の妨げとなるような事態は避けなければなりません。
被害者等から
仮釈放等に関して
意見を聴取するに当たっては、審理
対象者が同意する場合には、
被害者等に異議がない限り、
被害者等に対して、審理
対象者の
改善更生の
経過、どのように施設内
処遇において
改善更生の実が上がっているかということ、事後の事情等を知らせるべきであると考えます。
被害者等と審理
対象者の双方の
意見、利益が適切に代弁され、
改善更生の妨げにならないようにするためには、それぞれの対応に当たる
保護司は明確に分け、かつ、必要な研修を行うなどの仕組みも不可欠であると考えます。
第八点目は、
遵守事項についてでございます。
遵守事項違反は不良措置に結びつき得るものであります。
遵守事項の内容は簡潔で実践的であること、すなわち
対象者が努力すれば現実に遵守可能なものであるということが必要でございます。このことは、
社会内処遇について定めました国連の最低基準規則、実はこれは東京で採択されているものなんですが、東京ルールズというふうに国連等で呼ばれていますが、この十二項の二において同様に定めております。さらに、
遵守事項の違反が直ちに不良措置に結びつくのではなく、あくまで他に適切な
社会内処遇措置をとり得ない場合に限って取り消し等の不良措置に結びつく、この点は東京ルールズの十四項の四にございます。このような点、国連の基準に従ったきめ細かな配慮というものが必要であると考えます。
遵守事項の違反があった場合にも、まず警告を発するなどの手段を講ずるなど、弾力的な運用がなされるべきことが法に明確に規定されるべきだと考えます。
法案の六十七条は、
保護観察処分少年に対して、
遵守事項違反に対する警告及び少年法二十六条の四第一項の決定の申請の規定を新設しようとしております。
この点は、本通常国会において
審議継続中の少年法等の一部を改正する
法律案を前提とするものですが、
法務省は、法制
審議会少年法部会において、
程度の重い
遵守事項違反、本人の
改善更生を図ることができないこと、これを要
保護性の変化に対応させ、新たな審判事由として審判を行うのだという説明をされています。しかし、
保護観察中の少年について、
犯罪行為や触法行為、虞犯行為もないにもかかわらず、少年に対して施設収容の
保護処分を行うことは、
仮釈放の取り消し、本来施設収容の判決を受けていた者に対する
仮釈放の取り消しとは法的性質が異なる行為であると考えられます。ここでは、もとの非行行為を後の処分において考慮に入れているというふうに判断せざるを得ません。このような処分は、少年を二重の危険にさらすおそれがあり、
保護観察中の少年を極めて不安定な地位に置くことになります。
法案六十七条については、ぜひ削除をしていただきたいというふうに考えます。
第九点目は、
仮釈放を取り消す措置についてでございます。
仮釈放の取り消しは、実質的には新たな拘禁措置を命ずる不利益性の高い処分であることは間違いありません。そのためには、適正な手続的な保障が不可欠でございます。
仮釈放の取り消しには、行政手続法十三条の趣旨に基づき、聴聞の機会が保障されるべきです。さらに、取り消しの重大性にかんがみ、事前に
遵守事項違反の事実を書面で告知を受けることができるようにすること、
弁護士が本人を補佐する
立場で立ち会うことができること、疎明資料などを提出することができること、必要なときは証人調べなどもできること、こういった手続的な保障を法に明記するべきだと考えます。
最後に、結論でございます。
当連合会は、
更生保護法案について、基本的にこのような法改正の
方向性そのものについては異論があるわけではございませんが、今申し述べましたような
意見に沿って
法案の原案が修正されることを強く希望して、私の
意見陳述を終わります。
御清聴ありがとうございました。(拍手)