○
井上参考人 御
紹介いただきました
井上郁美と申します。
一九九九年十一月二十八日、今から七年半前になりますが、
東名高速で
酒酔い運転のトラックに追突されて、私
たち夫婦の目の前で、三歳と一歳の娘二人が焼死するという
事件に遭いました。
当時は、
業務上
過失致死傷罪と
道路交通法違反、
酒酔い運転という
罪名でしか起訴されませんでした。
刑事裁判が行われ、求刑五年という当時の
業務上
過失致死傷罪の
最高刑が求刑されましたが、
判決は
懲役四年でした。異例の控訴をしていただきましたが、その
判決は覆りませんでした。
裁判を傍聴しながら、なぜ常習的に
飲酒運転を繰り返していた人に対してでも、不
注意による
事故、不
注意によって人を死傷させてしまったという
業務上
過失致死傷罪という
罪名でしか裁けないのかということが大きな疑問になり、同じように、悪質な
被害、
飲酒運転、危険な
運転によって
家族を亡くされた
被害者遺族らとともに
全国的に
署名活動を展開し、そして国が私
たちの声を受けとめてくださって、二〇〇一年の十一月二十八日には
刑法が
改正され、
危険運転致死傷罪が成立しました。
これによって、
懲役十五年という、それまでの
上限を大幅に超えるような
厳罰化が進み、そして、
故意に危険、悪質な
運転をした場合には、もはや
過失犯ではない、
傷害罪に準ずる
故意犯であるという位置づけをしていただくことができました。
そして、その翌年に
施行されました
道路交通法の
改正と相まって、
飲酒運転、悪質、危険な
運転というのは、数字にもよくあらわれましたように、ぐんぐん減っていきました。私
たちは、この二つの大きな
法律の
改正が悪質、危険な
運転を抑止する
効果につながっているという確かな手ごたえを感じておりました。
私、地元が千葉なのですが、千葉では松戸というところ、そして松尾町というところで、不名誉なことなのですが、これまで
危険運転致死傷罪の
裁判としては、その当時、その都度
最高刑である
懲役十五年、
懲役二十年といった
判決も出されております。それぐらい悪質な
事故というのはその後もやはり発生しました。
また、先日の
委員会質疑でも
先生方がおっしゃっていましたように、一杯三十万円といったような、非常に人の
関心を引く、目を引くようなコマーシャルなども
効果を奏して、もはや軽い
気持ちで
飲酒運転をしている
人たちというのは、三十万円はちょっと勘弁してほしいという
意味で、
違反を犯したら一回で懲りてしまう人がふえたこともあって、
飲酒運転の
検挙数も検挙される人も減っていきました。
ところが、二〇〇二年、二〇〇三年、二〇〇四年になるにつれて、私
たちの方にも
被害者遺族から悲痛な声が聞こえてきました。それはどのような
事件の
被害者遺族かといいますと、明らかに大量のお酒を飲んで
事故を起こしたのにもかかわらず、
事故現場から逃走して何時間もたってから出頭する、あるいはひどい人は五日もたってから逮捕される、そういった
加害者、あるいは、お酒を飲んで、
現場を逃走してコンビニに駆け込んで、その場で
ワンカップを買って店員の目の前で
ワンカップを飲み干し、
飲酒事故前に飲酒していたわけではない、
事故後に気が動転して飲酒してしまったのだ、だから酒による影響はなかった、酒のための
事故ではないというふうに
飲酒運転の事実をごまかしたり、
アルコール濃度をごまかすといったような卑劣な
行為をする
加害者が急激にふえてきました。
残念なことに、
危険運転致死傷罪が
施行される前の二〇〇〇年の
件数から、二〇〇四年に比べて
ひき逃げの
件数は四二%もふえてしまった、明らかに逃げる人がふえてしまったということを知り、また、そのような
被害に遭って最愛の
家族を亡くされた
方々から、
井上さん、何とかしてください、これは
危険運転致死傷罪や
道路交通法が厳しくなったために新たに出てきた課題です、さらなる
法改正を求めているのですが、
現場の
人たちに訴えて、検事さんがどんなに同情してくれても、
警察官がどんなに私
たちの
気持ちを思いはかってくださっても、今のこの
法律のもとでは
アルコール検知もされていない
加害者に対して
危険運転致死傷罪の
適用はなかなかできない、残念ながら、
業務上
過失致死傷罪と
救護義務違反の
併合罪でも
最高で七年六カ月という刑を求刑することしかできませんというふうに言われました。
そして私
たちは、約三年前から、そのような
被害者遺族らの
方々とともにさらなる
法改正を求めて、この
社会問題化している逃げる
人たちがふえる現象、逃げ得ということを何とか
法律の中でも、逃げたら得ではなくて逃げたら損になるということがわかるような
法律にしてもらいたいということを訴えて、法務省、
警察庁に要望を出してきました。
署名活動を
全国で展開しましたが、特に昨年の八月二十五日に、私
たちがまさにその翌朝から札幌で
街頭署名活動をしようとしている直前に起きてしまった
福岡での四歳、三歳、一歳の
お子さんたちがやはり両親の目の前で水死してしまうといった
飲酒ひき逃げ事故、これが起きてから、私
たちの
署名活動の勢いも急速に伸びていきました。それまでは、二日間で三千名、四千名の
署名数しか集まらない、しかではないんです、非常に多くの方に署名していただいていて、本当にたくさんの声を受けとめているのですが、その後、あの
事故の後、約一カ月後に
福岡でやった
署名活動、そしてことしの一月に行いました上野公園前での
署名活動、そして先月行いました仙台での
署名活動では、一万六千、一万三千、一万、一万を超える
署名数が毎回毎回集まるというぐらい世の中の
人たちはこの問題に対して本当に大きな
関心を持っていらっしゃいます。
今回の
道路交通法の
改正によって、思い切った
改正だと私
たちは本当にありがたく、大変ありがたく、感謝しておりますし、まさかまさか、本音を申しますと、
救護義務違反が
業務上
過失致死傷罪の
最高刑を超えて
懲役五年から一挙に
懲役十年まで引き上げられるということは、私
たちは夢にも思っていませんでしたので、うれしい誤算でした。
そして、
ひき逃げだけではなくて、
飲酒運転の
罰則、
酒酔い運転も酒気帯び
運転もそれぞれ引き上げられる。そして、非常にいいところに目をつけられたなというふうに思っておりますが、もはや
飲酒運転をした
本人だけではない、必ず
飲酒運転による
事故には、その背景にそれを助長していた人、それを容認していた人、それを見て見ぬふりをしていた
人たちが何人もいる。その
人たちが、何もしなかった、あるいはとめなかったことの罪というのは
本人と同じぐらい重たいということを、今回の
法律の
改正では、いわゆる
飲酒運転、
加害者の
周辺者の
人たちに対しても厳しい
罰則が
適用されるような
法律の
改正の内容になっていることについては、本当に高く評価し、私
たちも本当にありがたく感じております。
ただ、残念ながら、まだそれでも逃げる人、果たして
酒酔い運転をしてまともな
運転ができないような状況で
事故を起こし、人をはねたのにもかかわらず、
厳罰を恐れて
現場を逃走して、何とかとにかく二十四時間以上逃げればいいんだという
気持ちで
現場を逃走した人、
アルコール検知ももちろん
意味がないことなので今はされていないのですが、そのような
人たちが、仮に今回
改正される
道路交通法の新しい刑、そして昨日
施行されました
改正刑法の
自動車運転過失致死傷罪の
上限、それをもってしても、
併合罪をもってしてもまだ
懲役十五年にとどまってしまいます。
もし
危険運転致死傷罪が
適用されるような
現行犯で逮捕できていたら
懲役二十年といった刑もあり得たはずなのに、逃げた人の方がまだ理論的には
最高刑がどうしても五年短い。この差をどうしても私
たちは埋めてほしい、むしろ逃げた人の方が二十五年、三十年といった厳しい罰が
適用される、だから絶対に逃げちゃいけないのだ、絶対に
飲酒運転の事実をごまかしてはいけないのだということがわかるような
法律にしていただきたいという思いで、まだまだ私
たちは
活動を続けていきたいというふうに思っています。
昨日も、
福岡で三児
死亡事件の初
公判があり、私
たち夫婦も、そしてこちらにおります私
たちの
仲間たちも七人ほど
傍聴席を求めて、幸いみんな入れまして、初
公判をすべて傍聴させていただきました。まさに非常に悪質な
事件、逃げてしまって、でも被告は水を大量にがぶ飲みしたというふうなことによって
アルコール濃度も〇・二五しか検知されなかったことにより、
弁護側は全面的に
危険運転致死傷罪の
適用について争っています。
でも、私がきょう最後に言いたいのは、そもそもお酒を飲んで
運転するというふうな
行為が、どうしてすべての
飲酒運転の
事故に対して
故意犯という言葉が使えないのか。どうして、
過失か
故意犯なのか、あるいは業過なのか
危険運転なのか、殺人なのか
事故なのかという、そういう使い分け、そんなところが議論されないといけないのか。私
たちには議論の余地はないと思っています。
いろいろな
対策、
厳罰化以外にも
飲酒運転を撲滅していくための
対策というのは、本当に私
たち、日々考えております。
まだまだ本日は述べたいところですが、きょうは時間が限られておりますので、以上とさせていただきます。
どうもありがとうございました。(
拍手)