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小田川参考人 全国労働組合総連合の小田川と申します。
私は、昨年八月まで日本
国家公務員労働組合連合会、国公労連の書記長についておりまして、二〇〇一年一月の
公務員制度改革スタート時から一定のかかわりを持ってまいりました。その
立場から、
政府から提案されております
国家公務員法改正法案への
意見を、お手元にメモの配付をお願いいたしましたので、それに沿って申し上げたいと思います。
まず初めに、
公務員制度改革は、二〇〇一年の
中央省庁再編を契機にスタートしたというふうに思いますが、そのポイントは、官から民へ、国から地方への
行政改革との整合性を強調する点で、
幾つかの
意見は同じ位置にあると理解をしております。
しかし、御案内のように、この
改革論議は繰り返し頓挫をいたしておりますが、その
背景として私が考えますに、
政府案は、国の役割重点化という命題とかかわる政策の企画立案部門に焦点を置いた
国家公務員制度改革論議であって、一般職、非現業
国家公務員三十三万人中一割程度の本省勤務者の
職員のみを視野に入れた
改革だ、こういう批判を免れなかったのではないかと思います。
お手元には全労連の
見解も
参考までに配付をお願いいたしましたが、私
ども労働組合サイドの主張は、実施部門の
民間化や
民営化に当たって
労働条件改悪が一方的に行われる、こういう状況や、
能力、実績反映の
人事管理という
民間的な
労働条件決定
システムの導入、これが
改革論議の中心とされていることから、
公務員労働者の労働
基本権回復を位置づけた
制度改革を強く求めたところであります。だれを対象に、何を目的に
制度改革を行うのか、こういう点で
関係者の
意見の隔たりがあったと思いますが、今回の
法案でもその点は未
整備ではないかというふうに考えております。
その点で、労働
基本権を棚上げした
改正法案の
提出には、この間の
経緯に照らしても問題がある、こういうふうに思います。例えば、
行政改革推進本部における専門調査会において労働
基本権論議が開始をされているという経過からいたしましても、
法案提出には
幾つかの問題があり、個別の問題は後ほど申し上げますけれ
ども、私は、反対の
立場で
意見を表明させていただきたいと思います。
法案を概括いたしまして、その問題点について、大きく分けて三点について述べたいと思います。
一つは、
人事管理の
改革に偏った
法案、これでは
公務の中立性への悪影響を懸念せざるを得ないという点であります。
公務員制度は二面性を持っておりまして、
公務員の働くルールとしての
制度という側面と、
公務員の中立性の
維持、全体の奉仕者の担保、こういう
観点での
公務員制度と、二つの
観点から考えられることが必要だと思います。しかも、双方は一体の
関係と理解をしております。
例えば、
国家公務員の雇用
関係は、契約
関係とはされておりませんで、任用と位置づけられております。
公務という特殊性から労働基準法は適用されず、
職務への従属性が過度に強調されておりますが、同時に、全
公務員の労働者性が確認をされておりまして、八時間労働による賃金で生活を
維持する、こういう点での労働者性が確認されるという特異性を持っていると思います。このバランスが非常に重要だというふうに私は思います。
二つ目は、その点で
法案は、
公務の中立性よりも今日的な
人事管理課題が重視をされている、こういうふうに思います。
例えば、再
就職規制。第百三条で、
現行の第二項が削除されるということになっております。いわゆる官と民の仕切りを低くするということだと思いますけれ
ども、この
官民の
人事交流の拡大には官業癒着の懸念が絶えずつきまとっているわけでありまして、その点での議論が必要だと思います。あるいは、流動化前提の
人事管理では、とりわけ実施部門での安定的、専門的な
公務運営、例えば徴税
公務員というのは非常に長い研修、人材育成の必要性があると思いますが、こういうことへの支障を懸念したいと思います。
あるいは、
人事評価に基づく
職員の
処遇の決定は、ノルマ主義という問題を懸念せざるを得ません。
公務は、現状では個々人の業務範囲の特定が必ずしも十分行われていないわけでありまして、
能力を図る基準、成果指標をつくるというのは非常に難しいと思います。その結果、例えば社会保険庁における保険料免除問題や、あるいは、お手元の資料として
参考までにつけさせていただきましたけれ
ども、本省庁、霞が関を中心とする長時間過密労働、こういった
労働条件への悪影響を懸念するという状況にあります。
大きな
二つ目ですけれ
ども、
公務員制度の運用にかかわって、
内閣、各府省、
人事院、この相互の
関係について、とりわけ
人事院と
内閣との
関係について一定の変更が行われているように思います。これも、
公務員の中立性や専門性への影響を懸念したいと思います。
現在、
事前規制ではありますけれ
ども人事院の所掌とされております再
就職規制にかかわって、今回は
事後規制に変わったこともあって、再
就職等監視委員会を
内閣府に設置し、これに権限を移すことになると思いますが、同
委員会の
委員長などの
身分保障は行われておりますけれ
ども、
内閣からの独立性という点ではなお懸念が残るところであります。
あるいは、各府省との
関係で、
内閣総理大臣の
採用昇任等
基本方針と、
各省大臣、任命権者の調整についても、なお議論が必要だと思います。
職員の
採用、育成、
退職管理は、各府省の業務
管理と一体でありまして、例えば刑務官の
採用、昇任等について
内閣総理大臣はどこまで
責任を負うことができるのか、こういう議論は必要なのではないかと思います。
改正案二十七条の二を初めといたしまして、標準
職務遂行
能力を基準にした
人事管理が強調されておりますが、それは、ゼネラリスト優先となることへの懸念が残っておると思います。
例えば、本省課長相当職は二〇〇六年度の予算ベースで千八百八十一ありますけれ
ども、官房課長もあるいは業務担当課長も、また地方出先の相当職もポストとして存在をしているわけでありまして、そのすべてを網羅する課長の標準
職務遂行
能力、この策定というのは極めて困難性が伴うと思います。結局、課長らしい課長の
能力、こういうことになって、ゼネラリストが優先をされ、プロフェッショナル軽視の
人事管理を固定化する。それは結局、現状の1種
キャリア特権
制度を合法化するものにほかならないと私
どもは考えるわけであります。
三つ目に、労働
基本権の棚上げはこれ以上許されないというふうに思います。
人事管理の原則が述べられておりますが、
評価に基づく任用、給与などの決定が明記をされております。例えば、特定
独立行政法人等の労働
関係に関する
法律では、
団体交渉の範囲に、言葉は少し違いますけれ
ども、昇任あるいは任用にかかわる基準についての交渉事項としての事項を規定しております。
改正法第七十条の三、二項で、標準
職務評価にかかわる
人事院の
意見申し出の位置づけを行っておりますけれ
ども、これ自体は労働
基本権の代償機能とは異質なものと理解をしております。
人事評価を任用や給与という勤務条件に反映させる以上、最低限、
団体交渉権、
現行国家公務員法百八条の五の
整備を行うべきではないか、こういうふうに思います。
法案の個別的な問題点について何点か触れさせていただきたいと思います。
一つは、
公務員制度は
公務員法だけで論ずるべきではないというふうに思います。
公務員法上の
制度ではありませんけれ
ども、勧奨
退職は、
現行の総定員法や
行政組織法による
行政管理が行われるもとで、
組織の新陳代謝、
活性化を図るための運用でもあると思います。あるいは、
退職管理は
退職年金
制度と密接に関連をいたしておりまして、年金支給開始年齢の引き上げが決定をされるもとで、雇用と年金の連携というのは
公務員にとっても極めて深刻な問題であり、
職務に専念をする前提でもあると考えます。こういう点での議論が少し不足をしているのではないか、こう考えざるを得ません。
二つ目に、
行政改革が進むもとで
公務の
民間化が進行した、このことが
天下りの深刻化にも影響していると思います。
例えば、お手元には、
公益法人における
行政委託型法人の推移について
参考資料二としてつけさせていただきましたが、一九八〇年代、
臨調行革以降にこれが増加をしていることがうかがえると思います。こういう点での問題整理も必要ではないか、こういうふうに思います。
三つ目に、
現行法での私企業からの隔離は、
職員の
公務専念と
公務の中立性
維持という二つの目的を持っております。とりわけ、
職員が安んじて
公務に専念をするという
観点から、在職中に
就職活動を行うということの
弊害が強く意識をされているのが国公法百三条だというふうに考えておりますが、
改正法では、
職員について利害
関係企業等への在職中の求職の
規制にとどまっておりまして、この点での問題がなお残っているのではないか、是非の議論が必要ではないかと思います。
あるいは、再
就職者による依頼の
規制が百六条の四で規定をされておりますけれ
ども、それ自体は百六条の四第五項で広範な適用除外を規定しておりますので、
法案自体の
規制の緩さについても懸念を持つところであります。
大きな四つ目に、極めて細かい問題でありますけれ
ども、
法案の用語の定義のあいまいさや政令委任の事項が多く、また任用と給与
制度との
関係など
公務員制度間の
関係が不明確であります。その点では、各府省段階で運用する際の混乱を強く懸念するところであります。
例えば、
改正法第百六条の三に規定をされております利害
関係とはどういうことか、
職員の
職務とは現在ついている
職務か、過去を含むのか、こういう点は必ずしも明らかではありません。標準的な
職務の設定にかかわる政令策定に任命権者である
各省大臣はどうかかわっていくのか、明確ではないと思います。
採用試験の
内容、
改正法第四十五条を表面的に読みますと、1種、2種、3種の試験区分は不要、こういうふうにも考えられますけれ
ども、一方で、
改正法第二十七条の二の
人事管理の原則では、
採用試験の種類にとらわれてはならずというふうにしておりまして、結果的には、1種、2種、3種という試験区分を前提にしているようにも考えられます。この矛盾はどう整理をしていくのか、こういう問題も残っていると思います。
あるいは、
職員個々の
処遇決定の基準と考えられます標準
職務遂行
能力と、給与の決定基準、
改正法第六十三条でありますが、ここで言われています官職の
職務と
責任、すなわち、給与は官職の価値として支払われるということとの
関係はどう整理をするのか、この点も非常に不明確だと思います。
細かい点はさらにありますけれ
ども、全体として用語の定義などが極めてあいまいなのではないか、こういうふうに考えるところであります。
最後になりますが、
公務員制度は国民の皆さんに提供する
公務サービスの
内容にもかかわる
行政の
基本的な
制度の
一つであります。私
ども全労連は、仮に今国会の
法案提出を行うとしても、再
就職規制の
あり方について議論をし、その範囲で
法案を
提出すべきであって、議論が未成熟な
能力・
実績主義の部分については切り離すよう、
法案提出前に
政府に要望いたしました。その
立場は今も変わっておりません。本
委員会におかれましても、慎重な審議をお願いいたしまして、私の
意見の陳述にしたいと思います。
ありがとうございました。(
拍手)