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桜田参考人 おはようございます。阪南大学流通学部の
桜田と申します。
本日は、この
委員会におきまして
意見を述べさせていただく機会をちょうだいし、まことにありがとうございます。早速ですが、私の
意見を述べさせていただきます。
時間の制約もございますので、私は、この
二つの
法案について、主として
中小企業向け、中でも小規模商工業者向け
融資という
観点から
意見を述べさせていただきたいと思います。
また、この
法案は、
国民生活
金融公庫など四つの
組織を解散して
政策金融公庫に
統合することとされておりますので、
国民生活
金融公庫が従前果たしてきた
役割を顧みながら
意見を申し述べたいと思います。
御承知のように、従前の
国民生活
金融公庫法や
中小金融公庫法は、それらの第一条において設立
目的を明らかにしており、そこでは、必要とする
資金について、「一般の
金融機関からその融通を受けることを困難とする
国民大衆」あるいは「一般の
金融機関が供給することを困難とするもの」を対象に
事業が営まれてきました。
法案では、
政策金融機能の限定が
民業補完とともに設立
目的にうたわれておりますが、そうした
市場の原理や原則にのってこない困難を抱えた業者が排除されることがあってはならないと考えます。
ところで、小規模商工業者は、一面では
企業でありつつも、同時に、
事業活動そのものがなりわいであって、生活そのものです。こうした地域に根差した
事業を営む人々が地域
経済を下支えし、この生活者たる
事業者という二面性が、小規模商工業者の特徴を示しております。したがって、その対策においては、技術的なあるいは
経営的な基盤をつくっていくための施策とともに、なりわいとして
事業を営む以上、安定ということに十分配慮した施策が必要であろうと考えます。
国民生活
金融公庫は、幾つかの問題を含みつつも、全体として見れば、こうした小規模商工業者の安定に寄与してきたと思います。
かつては、
全国にあまねく広がった二万六千もの郵便局というネットワークを活用して集められた零細な
資金が、
財政投融資という
仕組みを通じて、
国民生活
金融公庫法第一条に言う一般の
金融機関から
資金の融通を受けることを困難とする
国民大衆に貸し付けられてきました。
国民生活
金融公庫の貸付実績を見れば、
従業員数二十人未満の
貸出先が全体の九五%を占めており、小口
融資を通じて小規模な商工業者の
経営等に寄与してきたことは事実であります。こうしたいわば民から民への
金融ネットワークは
国民共通の財産であったし、小規模商工業者にとっての
国民生活
金融公庫は
最後のとりでともいうべき
役割を果たしてきたと言ってよいと思います。
今般の
政府系金融機関の再編に見られた議論を振り返ってみますと、おおむね以下のような四つの理由から再編案がまとめられてきたように思います。
一つは、
国民の貯蓄を原資としている以上、
事業収入によって元利返済を行うのが原則であるから、
政府系金融機関は黒字
経営でなければならないし、一般会計から収支差補給金を受けなければならない、
事業を継続できないような
金融機関は、もはや
金融機関とは言えないという考えがあります。
第二は、
政府は
政府系金融機関に出資を行っているが、この出
資金の見返りに
政府が配当、すなわち国庫納付金を受け取ったケースがまれだったこと。つまり、出
資金とはいうものの返済期限の定めのない無利子
融資と同じであるという考え。
第三は、赤字になれば収支差補給金で穴埋めされるという
経営構造では
経営規律を欠くことになり、
政府系金融機関はその歴史的な
役割を終えたのだという考え。
第四は、
政府系金融機関が低利で相当規模に直接貸し出しを行うことが、場合によっては、
民間金融機関が
リスクに見合った適正な金利を設定できず、結果として
市場における自由な金利形成を阻害する要因の
一つとなっている可能性があるという考え。
これら四つの考えは、いずれもそれぞれに一定の根拠を備えたものであるとはいえ、
国民生活
金融公庫を例にとれば、一九九〇年度から二〇〇四年度までの十五年間の一般会計から
公庫への収支差補給金の合計額は約六千億円であります。一年間に引き直せば四百億円という数字になります。地域
経済や小口
融資への貢献という
観点に照らして、こうした規模の補給金を今日の
日本社会が、不合理なもの、不
効率なもの、歴史的
役割を終えたものとして処理しなければならないのだろうかという疑問が私にはあります。
リスクに見合った適正な金利をという考え方についても、そこでの
リスクというのは、貸し出しの個別的で具体的な諸条件、つまり、
リスクの算定には担保
評価額や回収可能額の算定が不可欠ですが、これらの算定に当たっては、個別的で具体的な諸条件が絡み合い、さきの
銀行決算で業績が急回復した
銀行の実態を見ると、引当金の過剰
部分の戻り益が大きく利益を押し上げたケースが都銀大手行でも見られました。この事実は、いまだ
日本の
銀行が、
リスクの算定や
リスクの管理に習熟しなければならない
部分を残していることの証左だと考えます。したがって、
市場規律を過大に
評価してはならないと思います。
現場の貸し出し担当者のところで、
リスクという定量的な計数に依存した貸し出し判断力が形成されていくことは、なるほど
業務の
効率化や
コストの削減には役立つかもしれません。ですが、懸念すべき点があるようにも思います。
それは、かつての
銀行マンが備えていた、みずからが担当した貸し出しを最も確実に返済してもらう最大の保証は
貸出先にきちんとした収益を上げてもらうことであって、そのために自分
自身が培ってきた知識や経験をフルに活用し、
貸出先をサポートしていくという、そうしたきめ細やかな営業活動を担う
銀行マンの
能力が損なわれはしないだろうかという懸念であります。
今、
日本のあちこちの地域で
経済的な衰退が取りざたされています。地域
経済を
活性化させる上で、
金融機関が果たす
役割は極めて重要です。地域
経済を
活性化するには、地域内での付加価値額が増大するように
産業の連関をつくり上げ、そこで生み出された社会的余剰を地域内に還元する
仕組みが必要になります。
その際、重要な
役割を果たすであろう、生活者たる
事業者との性格を備えた小規模商工業者を、
金融面だけでなく、
経営ノウハウの
提供など
経営面からもサポートする
仕組みが必要だと考えたとき、この
二つの
法案が、従前の
資金の融通ないしは供給という
目的から
資金調達の支援へと
目的を変更したこと、並びに、
法案化の過程で前提となった
市場規律や
民業補完という考え方が強調されればされるほど、そうした小規模商工業者が排除される懸念が払拭できないこと、また、小規模商工業者にはやはり独自の施策が必要との考え方から、私は、この
法案に対して反対の
意見表明をさせていただきます。
以上で私の
意見陳述を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(
拍手)