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柏女参考人 それでは、座らせていただきます。
お手元にレジュメを用意させていただきました。既に三人の
参考人の
方々からお話がございますので、重複する
部分はできるだけ省略をさせていただきまして私の
意見を述べさせていただきます。特に、
虐待で
保護された
子供たちの受け皿の問題、それから
子供たちがまた
家庭に戻ったときの子育て
支援、見守りのネットワークの問題、そこに焦点を当ててお話をさせていただきたいと思います。
一番のところに、「
児童虐待防止
制度、援助の宿命と使命」というふうに書かせていただきました。私の住んでいる千葉県松戸市で二歳の女の子が内縁の夫によって身体的な
虐待を受けて命を失うという
事件がございました。担当者は、恐らく、この一番にあります親の
権利と
子供の命、
権利という谷の狭い尾根の上で呻吟されていたことではないかと思います。
虐待防止に携わる者というのは、親の
権利と
子供の命そして
権利という谷の間の狭い尾根を歩く登山家ということになるかと思います。
それは、政策担当者も同じだろうというふうに思います。その中で政策も援助者も揺れ動いていくというのは、これは日本だけではなく洋の東西を問わず共通したことではないかと思います。
この尾根をどう広げていくのか、整備していくのか。そしてこの尾根を歩く登山家をどうふやしていくのか。さらに登山家が登山技術を磨いていくのか、そしてそれを開発していくのか。それから世論がそれをどう納得するのか。この四つがとても大切なことではないかと思います。
さらにもう一点、もう皆さん御案内のことと思いますが、
社会全体の人と人とのつながりが弱体化してきております。そうした中で
虐待がふえているわけでありますけれども、それをどう
制度として補うのか、あるいは
制度を入れることによってどう新しい形のつながりをつくっていくのか。ここが
虐待防止の一番大切な点ではないかというふうに思っております。
虐待防止の
死亡事例の検証結果から、国の方の検証にもかかわっておりますが、その中から言えることはここにあります六点ということになるかと思います。
児童相談所の運営体制
強化、
市町村の
強化、そして
市町村と
児童相談所の連携
強化、それからその連携をするための共通の物差しを開発すること、この四つは既にお話がございました。さらに、子育て
支援サービスがないということ、それから
社会的養護サービスの質と量が非常に貧弱であるという、この二点になるかと思います。
特に、最後の二点でありますが、子育て
支援サービスの整備は
市町村の責任であります。交付金
制度のもとで、県は費用負担をいたしません、
市町村が負担をして整備していきます。逆に、
社会的養護、
児童養護施設や里親などの整備拡充は都道府県の責任であって、
市町村はお金を一銭も出していません。このように、両方のサービスにいわばそごが生じていて、ここに断絶が生じているわけであります。これが大きな構造的な原因になっている、つまり
子供家庭福祉の
システムというのは二元行政になっている。これが間に落ちてしまう
子供を生み出している一番大きな構造的な問題ではないかというふうに私は感じております。
そのことを踏まえた上で、三番に、「
検討すべき五つの大きな
課題」というふうに書きました。
介入、
保護の問題につきましては三人の
参考人の方からお話がございましたので、特に子育て
支援、
社会的養護の問題に限定をいたしますと、ここの五つの点が指摘できるかと思います。
一点は、子育てに対する在宅サービスが乏しい、しかもその担い手のほとんどがボランティアやNPOである。高齢者や障害者の在宅福祉サービスは介護福祉士といったプロが担っていますが、子育て
支援につきましてはほとんどがNPOやボランティアです。これが子育て
支援サービスが広がらない
一つの大きな原因になっているかと思います。
続きまして、子育ち、子育て
支援における
市町村と都道府県の分断です。これは今私が申し上げたところです。
それから三点目は、年金、医療、介護というふうによくマスコミで言われておりますが、実は育児をここに入れていかなければならないのではないか。実は、そうなっていなくて、年金、医療、介護は主として
社会保険で、支え合いの
システムで担われているのですが、それを下支えする少子化対策は、いわば税金で下支えする政策としてつくられています。つまり、年金、医療、介護という橋が壊れてしまわないための、それを下支えする陸橋のような役割を少子化対策がしていて、その橋の上に乗っかっていないということが大きな問題ではないかと私は感じています。
それから四番目が、
社会的養護の量と質の整備ということでございます。
それから、青年の自立に係る公平なスタートということで、フェアスタートというふうに私は呼んでおりますけれども、
社会的養護の
児童養護施設にいた
子供たちが
社会に巣立つときに、もう既に公平なスタートを切れない、つまりずっと後ろの方からスタートしなければいけない、この現実に目を向けていかなければならないのではないかと感じております。
四番目として、「
児童虐待防止
制度の近未来」ということで、三つの点で
考えてみました。
一つは法
改正をめぐる主たる論点ということですが、これにつきましては三人の
参考人の方からるるお話がございましたので、これは
意見陳述のところでは省略をさせていただきたいと思います。
次のページをおめくりいただきたいと思います。
二ページの真ん中よりちょっと下の五のところでございます。「
児童虐待防止
制度の近未来」ですが、ここのところで幾つか申し上げたいと思います。
一つは、「発見・
通告・
介入体制の
強化」のところですが、三つ目のポツをごらんいただきたいと思います。
先ほど
笹井さんの方からもお話がありましたが、充実すべきことは、
市町村の充実の方も急ぐべきではないだろうかというふうに私は思っています。
特に、
児童養護施設に入所した
子供たちが、例えば帰省をします。お盆とかお正月に帰ってきます。それは、
児童相談所はいつ幾日帰っているということは、
施設も知っておりますが、しかし、
市町村がそれを知らないわけです。ですから、
市町村は、
家庭に戻ったときに
訪問のしようがありません。
児童相談所から
市町村に伝えるという
仕組みができておりません。
市町村の人が、例えばそこに
子供が夏の帰省で帰ったときに、一学期の成績上がったんだってね、あるいは逆上がりができるようになったんだねというふうに、そうしたことを
施設から聞いていて、そして
訪問した保健師がそこで声かけをする、こうしたことを
積み重ねていくこと。あるいは、帰省したときに、
自分が前に通っていた学校に行き、そして学校の担任の
先生と会う。そうしたことが行われていくならば、
児童養護施設で他の市に入所している
子供たちもいるわけですが、その子たちのことを
自分の市は忘れないでいてくれたんだということが理解していただけるのではないかと思います。
そういう
意味では、
市町村がそういう体制をとり得ることを充実していくことが大事ではないかと思います。
それから、(二)の「子育て
支援体制の充実」というところです。
既に述べましたが、特に在宅福祉サービスを格段に充実していくことが必要です。
平成十五年に
児童福祉法に在宅福祉三本柱子育て版を法定化いたしましたが、それがふえておりません。ショートステイ、デイサービス、ホームヘルプサービスを格段にふやしていく、そしてそれをプロが担っていくということが必要になるかと思います。
二番目が、これは石川県でモデル事業として
実施をしていることですが、子育て
支援プランを作成していくということをもう進めてもいいのではないかと思っています。
石川県では、赤ちゃんの妊娠がわかりますと、いわばかかりつけ保育園ということで、
自分の近くの保育園に登録をいたします。そして、ここで、赤ちゃんが生まれたときの沐浴の仕方とか、幾つかのことを教えていただきます。そして、赤ちゃんが生まれますと、そこで一時保育切符が配られます。その一時保育切符を使いながら、
子供を保育園の方にお願いをして若干リフレッシュをしたり、あるいは体験保育で保育の仕方を学んだり、そうしたマイ保育園登録事業というのを
実施しておりますが、これに昨年の十月から子育て
支援プランを作成するということをつけさせていただきました。
そして、保育に欠ける
子供には保育所があり、そして保育士が
子供を保育してくれるわけですが、保育に欠けない
子供は
家庭で親がすべてを担わなければいけない。そうではなく、保育に欠けない
子供にも、例えば石川県では、零歳児の
子供は二週間に一回一時保育が使える、あるいは一歳児、二歳児は一週間に一回半日ずつ一時保育切符が配られるというような
仕組みをつくって、そしてすべての
子供たちに保育を保障していこう、私はこれを
基本保育というふうに申し上げておりますが、そうした
仕組みをつくって、そして、親とともに子育てをどのように行っていくかという計画をつくってみる、短期計画、長期計画を一緒に立てていく、そういうコーディネーターを養成するモデル事業を今
実施しております。こうしたことを少しずつ進めていく必要があるのではないかと思います。
それから、三番目の「構造的
課題」ということですが、これも先ほど来るる述べてきておりますが、都道府県と
市町村が分断されているということと同時に、
子供の問題は、成人の
仕組みと
児童の
仕組みが非常に分断されております。成人の
仕組みは、障害者もそれから高齢者の方もほとんど直接契約で、いわば個人給付の
仕組みになっているわけですけれども、
児童の分野については、事業主に、
施設に補助が行くという
仕組みになっています。また、措置
制度が残っております。それから、障害児とそれ以外の
児童でも違います。それから、首長部局と教育
委員会、公安
委員会、この断絶も起こっております。
子供家庭福祉はこうしたさまざまなところで分断が起こっており、この分断の
一つ一つの間に
子供が落ちてしまうということが起こっているわけです。これを是正していくことが大切だと思います。
最後に、
社会的養護の問題について申し上げたいと思います。
まず一番で、
社会的養護の需要予測と
整備計画を立てる必要がある。先ほど一時
保護所についての
整備計画の話がありましたが、
児童養護施設あるいは里親、乳児院といった
社会的養護を担う
社会資源の需要予測と
整備計画をぜひ立てていく必要があるだろうというふうに思っています。
ちなみに、イングランドですが、イングランドでは、たしか人口五千五百万だと思いますが、
社会的養護のもとにある
子供たちが約五万人です。そうしますと、日本に当てはめますと、五千五百万人で五万人ということは、それで
考えますと、日本は約一億二千数百万ということでいえば、十二万人ということになるかと思います。英国と同じくらいの
状況で
社会的養護が必要になるとすれば、日本の
社会的養護のキャパは十二万人必要。しかし、今は現状は四万人です。そうしますと、
あと三倍が必要になるということになります。
ぜひ、そうしたことも
考えながら、
社会的養護の需要予測を立て、そして
整備計画を立てていくことが大事だろうと思います。
(二)として、
家庭的養護、地域化、
施設の専門
機能の
強化ということを進めていくべきだろうと思います。
もう
一つ、三つ目のポツにありますが、
施設の再編成も
考えていく必要があるだろう。
どの
施設も今は、
虐待を受けて心の
ケアを必要としている
子供たちが入所をしています。しかしながら、
社会的養護のための
施設は、年齢によって分断されています。二歳になると乳児院から
児童養護施設に移ることになります。そういう年齢や、それから
子供の問題、アクトアウトすれば非行になるし、アクトインすれば情緒障害になったりするわけですが、それは行動のあらわれ方の違いでしかないのに、そうなりますと別の
施設に入らなければならない。
こんなふうに、
子供の問題や年齢によって区分けがなされていますが、そうではなく、
機能別に養護体系を転換していくことが大切なのではないかというふうに思っています。
それから三番目です。サービス間の格差是正が必要だと思います。
例えば、
社会的養護のサービスとしては、里親、
自立援助ホーム、それから乳児院や
児童養護施設などの
施設があります。ここに一体幾らぐらいのお金がかかっているのかということでありますが、私は今千葉県で
社会的養護のあり方についての
検討を進めておりますが、例えば里親については、
子供一人当たり年間百四十万から百五十万です。それから、
自立援助ホームは百十五万です。地域小規模
児童養護施設は三百四十万です。このように、同じようなことをしているにもかかわらず、財政投入の格差が見られています。これらを是正していくことが大事だと思います。
それから、(四)ですが、特に三つ目のポツです。
社会的養護を必要とされている
子供たち、その
子供たちが大学に、専門学校に、短大に行けるようにしていくことが必要だろうと思います。
専門学校を入れますと、あるいは予備校なども入れますと、今は高校を出た
子供たちの約七〇%近くがその上の学校に行っています。それなのに、
児童養護施設の
子供たちで大学に行ける
子供たちは、きのう伺った話では五十人
程度です。本当に少ない、数少ない
子供たちしか上の学校に行けないわけです。
上の学校に行けるという
希望が出てきますと、高校生活が変わります。
児童養護施設の
子供たちが高校進学ができるようになったときに、中学生活が変わりました。同じように、大学進学を保障していくべきだと思います。
それから、「(七)
家庭的養護の拡充」ですが、里親ファミリーホームというものがございますけれども、国の
制度として
制度化されておりません。プロ中のプロの里親が行っておりますが、これを
制度化していくことが大切なのではないかと思います。
それから、次のページ、最後で申しわけございませんが、(十)です。「専門職の再
検討」というふうに挙げさせていただきました。
保育士の
資格を再
検討しなければならない。保育士の
資格は、いわば幼稚園教諭と一緒に二年間で取得をしておりますので、就学前の集団保育の勉強しかほとんどしておりません。しかしながら、
児童養護施設の主力部隊は保育士です。
虐待で心の傷を受けた思春期の
子供たちが不満をぶつけてきます。それに
対応できる技術を学んでいないために、保育士がつぶれてしまうわけです。そのためには、保育士
資格を再編成し、例えば、その次にある養育福祉士といったような新たな専門職をつくっていくことも大事だろうと思います。
(十二)です。「
自立支援」です。
児童養護施設に入所している
子供たちの、そこにあります、フェアスタート、リスタート、デュアルスタートというふうに私は申し上げておりますけれども、ほかの
家庭の
子供たちと同じようなスタートができるように、それから、失敗してももう一度スタートができるように、それから、
社会訓練と学びの場が行ったり来たりできる、そんなことが大事なのではないかと思っております。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)