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村上参考人 御紹介いただきました
慶應義塾大学の
村上でございます。現在、
日本建築学会の
会長を務めております。きょうは
発言の
機会を与えていただきましてありがとうございました。
私は、現在、
国土交通省の
社会資本整備審議会の
建築分科会の
会長として、また、その下の
基本制度部会の
部会長として、耐震偽装問題でいろいろ明らかになりました
課題に対応するため、
審議会の
答申を取りまとめる作業に参加する
機会を得ました。そのときの
経験や
建築学会の活動を踏まえまして御
意見を申し述べます。
まず、問題の
緊急性と
審議の経過ということでございます。
昨年の今ごろを思い出しますと、
状況は非常に厳しかったわけでございます。
建築界に対する
国民の
信頼は失墜しておりまして、
問題解決の
必要性、
緊急性は非常に高かったということでございまして、
審議会でもたびたび
委員会を開催しまして、
早目に
答申をまとめることに鋭意
努力したわけでございます。
また、そういう
状況を受けて、昨年の三月の
中間報告、それから八月の
答申が出されまして、その
内容はいずれも
緊急性の高い
政策課題だったわけでございます。
その
内容を反映する形で、昨年の
通常国会と
臨時国会で
建築基準法やその
士法などの改革がなされまして、また現在、
瑕疵担保責任に関するこの
法律の
審議がなされているということでございまして、こういう
状況は、
一連の
不祥事で失墜した
建築界に対する
信頼あるいは
建築の
法律に対する
信頼、そういうものを回復する上で大変大切なことであると思います。
これは、当初、昨年の
審議会の
段階では予想していないスピードでございまして、この点に関しましては、
国会の
皆様あるいは行政府の
皆様の、
関係者の御尽力に感謝と敬意を表するものでございます。
この
法律が完成しますと、当初の
一連の
緊急課題は一段落するわけでございます。そうしますと、
不祥事の
再発防止とかあるいは
被害者の
救済という意味で、
国民の
皆様に
安心していただける
システムが提供できるものと期待しております。
次に、
安心、安全な
建築を
国民にいかにして提供するか、そういうことに関して一言申し上げます。これは
建築学会でさんざん議論してきた
内容でございます。
原則は
三つございます。
第一の
原則は、まず、
建築関係者がよい
建築をつくるために
自助努力をする。第二は、
不良建築を排除するための法令の規制でございます。第三が、それでもやはり
不良建築が発生する
可能性はある、だから
消費者保護と
被害者の
救済。その
三つが機能して初めて、
国民に
安心して
建築を利用していただける
社会システムが構築できる、そういうふうに考えております。
それで、問題は、この
三つは独立しておりませんで、互いに
関係して、連携して進めなければならないというふうに思います。
まず第一の、よい
建築をつくるための
建築関係者の
自助努力、これは民間が当然主になって進めるべきものでございます。二番目の法令規制、これは官が中心になって進めるべきものでございます。三番目の
被害者の
救済、これは官が枠組みをつくって官と民とが協力して進める、そういうものであろうと思います。
先ほど、三者の連携が大事だと申し上げましたけれ
ども、なぜかと申しますと、第一
原則で、
建築関係者がまずよい
建築をつくるための
自助努力、第二
原則で、法令規制で
不良建築を排除する、そういう
前提があって初めて第三の
瑕疵担保
システムが円滑に
運用されるからでございます。
不良建築が頻発するようでは、先ほど
和田参考人の
発言にもございましたけれ
ども、
保険制度を構築する
前提が存在しないということになります。こういう
状況のもとでは、
被害査定のコストとか手間が膨大となりまして、
保険料が上昇して健全な
保険制度の運営は困難であると考えられます。
ということでございまして、昨年来の
一連の
建築基準法や
建築士法の改正、あるいは業界
団体や学術
団体が行ってきたよい
建築をつくるための自主的な
取り組み、こういうものは今回の
瑕疵担保責任にかかわる
法律の基盤をつくったものと言えます。したがって、昨年来の
法律の改正や制定の順番は妥当なものと考えております。
次に、
審議会における
意見集約に関して申し上げます。
昨年の
審議会は大変活発でございまして、さまざまな
意見が提供されました。いろいろ私、
審議会に出させていただいておりますけれ
ども、極めて活発な
審議会であったと思います。
例えば一例を申し上げますと、当初、
建築基準法や
建築士法による規制強化の全体像がはっきりしない中で、
保険の一律
義務化というようなイメージというかうわさが流れたわけでございます。そういう
段階では、当初、
住宅業界からは慎重な
検討を求める
意見が出されました。また損保業界からは、
保険の引き受けに当たっては、検査の充実というものが非常に大事なんだ、そういう
意見も出されました。
当時、
部会長の気持ちとしては、これは
関係者で全員が合意できる
内容をまとめるのは大変なことだ、容易ではないという印象を強く抱いたのが率直な感想でございます。
しかしながら、この
国民の間に広まっています
建築に対する非常な不信感、こういうものを回復するにはどうするかということで、大いに
審議を重ねまして、最終的に、
保険、
供託とか、あるいは
故意、
重過失への対応とかを含めて、その
資力確保を
住宅の売り主に義務づけるということで、
委員全員の合意を得てその
答申を取りまとめたわけでございます。
これを踏まえて、現在、その具体的な
制度のあり方が
検討されて
法案が提案されましたことに対して、
関係者皆様の御
努力に
部会長として感謝申し上げたいと思います。
現在の
法案に対する見解を二、三申し上げます。
日本の
住宅の供給市場は、
年間数千、数万戸を提供する
業者から一人棟梁のような工務店まで、大変多様でございます。そういう中では、今回の
法案は、そういう大変複雑な供給形態に対応し得る実効性のある
内容で、全体として大変バランスがとれた
法案であると思います。私、昨年度の
審議会の経緯で、こういう全員が合意できる枠組みをつくるのは大変だなという印象を持っておりましたけれ
ども、こういう案をつくっていただきましたことは、第一にこの面での成果を評価してよいと考えます。
二つ目は、この
法案のユニークさでございます。
供託と
保険を二本柱にするということは、これは私の聞いているところでは海外でも例がないということでございます。これは、先ほどから申しています多様な供給形態に対応できるということで、
業者の方には選択肢がふえて結構なことであると思います。
それから、先ほど
金子参考人からも御
発言がございましたが、
故意、
重過失、これに関しましても、非常に困難な問題に対応できるようにしていただけるということを聞いておりまして、これは
国民の
皆様に大変大きな
安心を与えるものでございますので、これも高く評価すべきでございます。
最後に、今後に対する
要望について
幾つか申し上げます。
まず、これからの
制度設計に対する
要望でございますけれ
ども、今回の
法案の
内容は、私の感じでは大枠だけを決めたものだ、そういうふうに理解しております。今後の
検討にゆだねる部分が非常に多いと思います。特に
供託にかかわる部分に関しましては、今まで余り前例がないものでございますから、
関係方面の
意見を十分に酌み上げて、実効性の高いものにしていただきたいとお願いしたいと思います。
次は、優遇措置でございます。
先ほど、
和田参考人からもございましたけれ
ども、
住宅供給業者はよい
建築を提供するために鋭意
努力しているわけでございます。ですから、その
努力が報われるような
保険の
運用システムを構築していただきたい。これは、いわゆる優良ドライバーに対する
保険料率の優遇
システムと同じような仕組みだと思います。これは、裏を返せば不良
業者を排除する仕組みにつながります。でございますから、今回の
法律の
運用が、結果として優良
建築業者の育成につながることになれば、
法律制定の意義は一層大きいものになると言えます。このことは、
供託においても同じように優遇措置はぜひ御
検討いただきたいと思います。
それから、
モラルハザードの問題でございます。
これは必ず出てくる問題でございますけれ
ども、今申し上げましたこういう
保険料率の優遇措置をうまく
運用すれば、ある
程度解決されることになると私は信じております。ただ、いずれにしても、この
モラルハザード防止は大変厄介でございますから、これが十分に防げるように優遇措置を実施して、それが実施されれば、それが優良
業者のラベリングになるわけでございます。ですから、
モラルハザード防止が十分に機能するような、よい
品質に向けての
努力を引き出すような仕組みづくりをぜひつくっていただきたいとお願いしたいと思います。
それから、
瑕疵の
内容でございます。
現在、これは、いわゆる
品確法で規定をしております構造耐力にかかわる部分と雨漏りにかかわるその二つでございます。
瑕疵はいっぱいあるわけでございまして、これにどこまで官が、国がかかわるかというのは別途大きな問題がございますけれ
ども、今度新たに
保険法人が創設されましたら、そういう枠組みの中でいろいろな
瑕疵へ対応し得る
保険商品を開発することをぜひ
検討していただきたいと思います。
それから、十年保証の問題でございます。
これも十年たつといろいろ、
瑕疵は十年経過後もいろいろ出てくるわけでございます。これも
保険法人の
発足とともに商品設計を御
検討いただきたいと思います。
最後に、規制強化の問題で一言お話しして、これで終わらせていただきます。
この耐震偽装
事件を受けて進められた
一連の
法律改正といいますものは、例えば昨年の
建築基準法における確認検査の厳格化などを初めとして、いずれも規制強化の方向にございます。これは、昨今の規制緩和の風潮から見ると大変異例なことでございます。これは、
一連の
不祥事が大変大きな不安と混乱を
国民に与えたということで、ある
程度の規制強化はやむを得ないということで、社会的な合意は得られていると思います。
しかし、これを実行に移す
段階では、当然、官民のさまざまな分野で新たな
費用負担が発生します。その
費用は結果的に建物を
建てる
国民の負担につながってくることになります。でございますから、この
法律が成立いたしましたら、その後の
政省令の具体的な設計に入るものと思われますけれ
ども、その際、なるべく簡素にして用が足りるような
制度設計をしていただいて、
国民の負担がなるべく少なくなるよう
配慮していただければありがたいと考える次第であります。
どうもありがとうございました。(拍手)