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待鳥参考人 タクシー運転者の
労働組合の
全国組織で役員をしております
待鳥です。
法案に触れます前に、現状について若干述べさせていただきたいと思います。
タクシー事業が
規制緩和されてちょうど五年三カ月がたちました。この五年間に
タクシー業界にもたらされた状況を一言で言えば、まともな
経営、良識的な
経営は立ち行かない、働いている私たちの仲間は最低限の
生活の維持さえもままならない、そしてまた一番大事な
交通事故の件数については十年前と比べて六割もふえた、こういう現実であります。
タクシー運転者の年収は、
規制緩和以降に、前と比べますとちょうど百万円
低下をいたしておりまして、現在、
全国平均で約三百万円という現実でありますけれども、
全国的に見れば二百五十万円前後という
地域が多数存在をしております。まさに
タクシー運転者の状況というのは格差社会の象徴的なものだというふうに指摘をされるまでになってしまったわけでありまして、こうした実情を直視すれば、
タクシーの
規制緩和のあり方ということについては、間違っていた、
失敗であったと断言せざるを得ないだろうというふうに私たちは
考えております。
そうした中で、しかし、今回の特別措置法の
改正による
運転者登録制度の
導入、拡大については、本来は
規制緩和する前にこうした措置を講じておくべきであったというふうに思っていますし、遅きに失しているという感は否めませんけれども、しかしながら、十分ではないにしても、今述べましたような事態を
改善する方策の
一つとして、私たちも積極的にこれは
評価をしたいというふうに
考えているわけであります。
さて、
規制緩和から五年間のうちに、
タクシー台数は、先ほども出ておりましたが、法人だけで約二万台ふえました。
輸送人員が年々
減少している中での
増加でありますから、
供給過剰が大変深刻化しておりまして、過当
競争が一段と熾烈化いたしております。行き場のなくなった
タクシーが町にあふれて、交通の妨げになったり、
環境問題として批判を受けているということについては、御
承知のとおりであります。
需要が減っている、
利用者が減っている中で、なぜ
タクシーの台数が一方的にふえていくのかということについて、これは
業界外の
方々には非常に
理解できにくいところではないかなというふうに思います。
タクシーについては、コストの七五%が人件費という典型的な
労働集約
産業でありまして、しかも、
運転者の
賃金が歩合給で構成をされています。したがって、
経営側からいえば、
供給過剰や価格
競争に陥って台当たりの
営業収入が落ち込んだ場合には、その分を台数をふやして補おうとする。それでもまた台当たり営収が落ち込んでいくと、さらにまた
増車をする。こういう悪循環に陥って、一方的にふえているのが今の現状なわけであります。ですが、台当たりあるいは
運転者一人当たりの
営業収入が落ち込んだ分については、その大部分が歩合給によって、
賃金の減額として
運転者にしわ寄せをされていますし、
賃金が減額をされますから、
経営者についてはほとんどリスクを負わない、こういう仕組みが今、雇用関係の中であるということであります。
こういう構造をそのままにして
規制緩和してしまったところに今噴き出している
タクシー問題の根幹があるんだということをぜひ御
理解いただいておきたいというふうに思っているわけであります。
今回の特別措置法の
改正による
運転者登録制の拡充については、
タクシー産業が疲弊して、
輸送の安全が脅かされている現状をこれ以上ひどくさせないという
意味において、私たちはその果たす役割について期待をしているところであります。
そういいますのは、
規制緩和以降の
事業者の姿勢を見ていますと、
事業者の
方々の中には、一部ではありますけれども、人の命を預かる
公共交通を営んでいるんだという自覚と社会的な責任を全く欠落したと言わざるを得ないような
方々もふえているわけであります。そういう
事業者の
方々は、とにかく台数をふやしたい、規模を拡大したいがために、
運転者としての質を問わずに雇い入れている、雇っているという実情が存在をいたします。
失業率が
高どまりをしている状況にあっても、
タクシーにはなかなか若い人たちが入ってまいりません。
運転者の平均年齢は五十五歳に達しています。大変な高齢職場になっています。年齢構成を見ますと、五十歳代が四九・三%、六十歳代が三〇・三%、実に五十歳以上で八割を占める、そういう構成になっているわけであります。年収も、先ほど申し上げましたが、三百万そこそこ、それも年間二千五百時間もの深夜を含む長時間
労働によってやっと得られている収入だということであります。
つまり、きつい割に報われないがために人が来ない、それでも台数をふやす、そして稼働率を維持するためにだれでもいいから雇い入れる
方向に走っているというのが現状であるわけであります。したがって、私たちは、この
法律について、そういった過剰状態を抑制していく
一つの方策として受けとめたいというふうに思っています。
次に、
法律が予定している
制度について述べさせていただきたいと思います。
一点目には、
タクシー運転者の
登録の
要件についてであります。
今申し上げましたような状況については、良質な
タクシーサービスの提供や
輸送の安全
確保という観点から見逃せないというふうに思います。
サービスも安全もひとえに
運転者の状態と
資質にかかっているということでありまして、したがって、
運転者の
登録制度が
タクシーサービスの
向上や
輸送の安全
確保、そして働いている
運転者の社会的な地位の
向上につながるものとして、実効ある
制度として具体化されることを私たちは望んでいるところです。
登録の
要件として、法令、接遇、地理、安全等に関する一定の講習を修了していることというふうに
法律案ではなっていますけれども、この講習のレベルについては、相当に高度なものにしなければ
利用者の要請にはこたえられないのではないかというふうに思っているところであります。
現在、
東京と
大阪の
タクシーセンターにおいて地理試験が実施をされて、
登録制度が既に実施をされておりますが、その地理試験をくぐってきた人たちが地理に不案内であるという不評を買っている現実があるわけであります。やはり十分に機能をしていないという側面があります。
したがって、講習の修了ということについては、何をもって修了と見きわめるのか。居眠りをしていても講習の時間さえ過ごせば修了になるようではいけないのじゃないか、やはり実質的なテスト的な方法を取り入れることが不可欠ではないかというふうに
考えているところです。
また、講習についても自社研修の道が開かれておりますが、これではせっかくの
制度がざるになるおそれが強いのではないかと思います。何の実績もない企業が、ただ自社研修のプログラムを整えたからといって、本当にそれが実際に実行されるというふうに信用できるでしょうか。私たちは大いに疑問を持っているところです。台数をふやしたい
事業者に任せるということについては、
制度の空洞化を招くのではないだろうかというふうに思います。
二点目には、
登録の
水準についてであります。
重大事故や重大違反行為など問題があった
運転者に対しては、
登録の取り消しで臨む、つまり排除をする仕組みがとられるわけでありますけれども、人の命を預かっている
タクシーにとって、
交通事故などの問題が起こってからでは遅い。やはり入り口を広げて、だれでも通すような、そういう緩やかな
制度で不適切な
運転者を採用しておいて、後から問題があったら罰則で排除をするということについては、これはやはり万全ではないのじゃないかなというふうに思っています。入り口で、
登録の時点で絞り込んで、高い質を
確保できる
制度とすることがやはり肝要ではないかなというふうに
考えるところです。
三点目に、
登録の取り消しに当たっての
問題点を指摘しておきたいと思っています。
登録の実施機関としては、恐らく
地域の
タクシー協会等、
事業者団体でありますけれども、それが想定をされているようでありますが、この
制度の公正さと公平さを
確保するためには、やはりそこに
運転者の
労働組合代表が
制度運営に参画することが不可欠だというふうに思いますし、
登録諮問
委員会において
制度の運営が適正かどうかチェックすることも当然でありますし、また、
登録の取り消しになれば
運転者は
生活の道を奪われるわけでありますから、運輸局による
登録の取り消し処分の前に
運転者の代表も入った公正な審査の手続を踏む、そういう手続を踏むことが必要ではないかというふうに思っています。そして、何よりも、
登録の取り消しに関する客観的な基準が設定されて、公表されておくことが必要ではないかというふうに思っています。
四点目に、この
登録制度では、
運転者の側にだけ責任をとらせる偏ったものであるというふうな感じが否めないと思います。
問題のある
運転者を雇用した側の責任、雇用責任、あるいはそうした
運転者を日常指導する指導責任がもっと厳しく問われてしかるべきではないだろうかというふうに思うところです。それがこの
制度ではすっぽりと抜け落ちているということを指摘しなければいけないだろうと思っています。やはり問題のある
運転者を多く雇用してしまったそうした
事業者については、
道路運送法上でのペナルティーを与えるべきではないでしょうかというふうに私たちは思っているわけであります。
以上、何点か申し上げましたけれども、この
登録制度が
タクシー規制緩和の弊害を取り除いていく
一つの方策として、特に
供給過剰の状態を抑制する方策として期待をしたいというふうに思っています。また将来的には、実際にハンドルを握って、そしてお客さんと接する
運転者が主役となる、
運転者資格の創設につながるものとして期待をしまして、
意見表明としたいと思います。
ありがとうございました。(拍手)