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杉浦参考人 航空アナリストの
杉浦一機でございます。
私の専門分野としましては、輸送、サービス、安全性等を主にやっておりますが、利用者の
立場に立った論評を心がけております。
きょうの
発言内容につきましては、
事故の
背景、
対応の
問題点、今後の
対応について
発言をさせていただきたいと
思います。
まず、
事故原因ですが、まだ十分な
情報がそろっているわけではございませんが、私は、
製造過程におけるミスという可能性が強いのではないかというふうに推察をいたします。
まず一点は、先ほどからいろいろ時期については議論も出ているところでありますが、初期不良の時期としてはかなり長いのではないか。といいますのは、
ダッシュ300が八七年に就航いたしまして、
ダッシュ400の就航が二〇〇〇年、JAL、ANAが導入いたしましたのが〇三年ということからしますと、かなり、この時期は既に経過をしているのではないかというふうに
思います。それから、導入の決定時点で、
世界的に
事故とか
トラブルの多発など悪い評というのは特になかったように
思います。四番目に、不良の発生
箇所はこの時点での
点検の対象外であるというようなことを考え合わせますと、かなり
製造過程における問題があったのではないかというふうに
思います。
まず、今回の
事故後の
国内の
対応についてですが、一点は、国交省の
対応は大変に早かったというふうに評価をしております。それは、
事故調の現地
調査入りが早かったというだけではなくて、途中結果をすぐに公表されたという点はよかったのではないかというふうに
思います。
ただ、
運航再開時期というのはやはり問題が残ったのではないかというふうに
思います。当初は
部品が開閉装置にひっかかったという場所の特定だけで終わっていたわけですが、翌日になって
ボルトが脱落をしていたという症状が判明をしたということを考えますと、やはりこの時点で
運航再開を決定すべきだったのではないかというふうに
思いますので、今後の検討
課題としては、重大
トラブル後の
運航再開への
手順を明確化すべきではないか、こういうふうに申し上げたいと
思います。
三番目に、
ボンバルディア社についてですが、
歴史的には、今まで御紹介があったとおりではありますが、一九三七年にスノーモービル等を主とした輸送機器メーカーとして創業をしております。
航空機に乗り出しましたのは、八六年にカナディア社という
カナダの法人を買収いたしまして
航空機の
製造に乗り出しております。その後、八九年にイギリスのショート・ブラザースを買収、九〇年にリアジェットを買収、九二年に
デハビランド・カナダを買収というような形で
航空機部門の概要をつくってまいりました。同時に、営業スタッフもほかのメーカーで大変優秀なスタッフをまとめてスカウトするというような形で展開をしてきたというふうに聞いております。
その結果、大変優秀な
機体を開発、販売するに至っているわけですが、やはりこの企業としての特徴も
幾つか目立っているところがあるのではないかと
思います。
まず第一点は、外部リソースの活用とかMアンドAを多用するなどベンチャー企業的な体質を持っているということ。二つ目には、経営面では、スカウトしたキーパーソンを大変重用いたしまして、マネジメント力の強化に非常に積極的な企業である。
製造面では、ジャスト・イン・タイムを導入したり、エンジニアの製品に対する責任強化等新しい手法をかなり積極的に導入しております。その結果、かなり独創的な
機体を開発するという結果が出ているということは御承知のとおりです。
一方、この
小型機部門は大変経営的に厳しい
状況が続いておりまして、
歴史のあるフォッカー、ドルニエ、サーブなどの競合メーカーが経営破綻をしております。そういう点では、この
ボンバルディア社が非常に重要なメーカーになってきております。近年の商戦では、ジェット機のCRJシリーズというものをかなり中心に売っておりますが、この
機体はエンブラエルに比べまして
機体が少々重いという評価がありまして、エンブラエルが一時的に優勢を占めているということのようでございます。
今回注目される点は、この
事故機が
製造された前後にかなりこの
ボンバルディア社自体の経営が芳しくない時期があったようでございます。その経営を改善するためにかなり大規模な改革を実施しております。
まず、事実としましては、〇三年から〇五年に経営不振で赤字決算がかさんでいる。具体的には、これは米ドルですが、〇三年に三億九千三百万ドルの赤字、〇四年に八千五百万ドル、〇五年に同じく八千五百万ドルの赤字を出しております。〇六年は回復になりまして、二千三百万ドルの黒字ということになっております。
いろいろ現場から伝わってくる
情報によりますと、〇三年当時は
製造現場の士気がかなり下がっていた、それから〇四年、〇五年の大幅な合理化で現場が多少混乱していたという
情報があります。ちなみに、今回の
事故機は〇五年の六月に納入されたものであります。
かつ、注目すべきは、この再建のために大変大胆な合理化を導入している。生産力を三倍にすると同時に、検査員の数を、従業員の比率ですが、一五%から七%に削減をしている。こういう
思い切った手法をとりながら生産性を高め、同社ではQCも、品質管理も改善したというふうには言っておりますが、この辺に少し無理があったのではないかということも推察できるかと
思います。
問題としましては、残念ながら、今まで日本は
カナダの工業界との関連が非常に薄かったということがあるのではないかというふうに
思います。日本での
トラブル多発について、消費者から見ますと、やはり真剣に
対応してこなかったという印象が強いのも事実であります。先ほど
国土交通省の方から御紹介がありましたように、
カナダの運輸当局と
ボンバルディア社と協議をしたということなのではありますが、残念ながら
トラブルを根絶するには至っておりません。
この
ボンバルディア社の
対応で推測できますのは、やはり日本への販売数がまだ少ない、最初から二十機、三十機まとめて買っていれば別だったかもしれませんが、数機ずつ購入をしてきたということで、日本のユーザーへの力の入れ方が薄いということが問題ではないか。それから、
トラブルへの認識が薄い。具体的に言えば、安全に対する考え方が大きく違うのではないか、安全文化が違うことが大きく作用しているのではないか、こういうふうに
思います。
ここで
課題は、開発、
製造段階のふぐあいの究明と具体的な
対策を
カナダ側に実行させるということだと
思います。
四番目に、今回の
DHC—Q400について少々コメントをさせていただきたいと
思います。
一つは、このクラスの
機種として利点が多いということは事実であります。
具体的には、
エンジンのパワーが大変大きく、二つの
エンジン、双発ながら七十二席の人員を収容できるという経済性、低燃費である、それから、
機体内外とも静かであるという静粛性がある、さらに、
プロペラが六枚で非常に高速で
飛行できる、
飛行時間一時間
程度の距離ではジェット機とほとんど変わらない所要時間で到達することができるというようなことから、性能面で
エアラインに大変好評であるということは事実であります。
同時に、
乗客からもこの乗り心地、静粛性はかなり評価されております。競合する
機種が現在
世界にはほとんど存在をしないということも事実であります。九〇年代には、
世界的に、
世界の
エアラインでジェット化の流れが進みましたけれ
ども、二〇〇〇年代に再び受注がこの
プロペラ機にも増加をしております。
五番目に、この
機体の日本への導入の問題です。
九〇年代の日本では、
プロペラ機は離島路線用で都市間はジェット機というふうに考えておりました。ところが、
航空自由化で都市間コミューター路線がふえ、
プロペラ機が多く就航しております。特に、
飛行時間の短い路線では、
プロペラ機の方が
運航コストが安いということでありまして、特にこのQ400は、同レベルのジェット機の約半額、三十億円で購入できるということも魅力になっております。
国内では、離島路線で
ダッシュ100、200が使われておりました。
400が
国内で大幅にふえたのは、伊丹空港の
プロペラ枠の厳守ということが〇四年にありまして、ここから急激にふえたわけであります。具体的に言いますと、それまで仮措置としてジェット機に認められていた五十枠を
プロペラ枠に戻したことによりまして、日本の大手
エアラインはここにこのQ400を多用して、近距離にたくさん導入をしたということがこの
機体の増加につながっております。
最後に、今後の
対応ですが、
一つは、この
機体は日本の耐空証明を取得はしておりますけれ
ども、他国の基準あるいは物づくりの哲学で
製造される輸入機である、これを前提に
対応策を検討しなければならないのではないかというふうに
思います。
二つ目には、日本の利用者の安全意識、これは必ずしも
世界共通ではなくて、欧米に比べますと、やはり安全プラス
安心感を日本の消費者は非常に要望している、この意識に合致させるにはどうしたらいいかということが検討
課題にあるというふうに考えます。
具体的には、時間的に考えますと、短期的な部分、中期的な部分、長期的な部分、三つの
対応があるかと
思います。
まず、短期的な部分ですが、これは既に業界、
国土交通省でやられておりますように、
点検サイクルの短縮化ということは申すまでもありません。
さらに、
ボンバルディア社と協力して、
事故、
トラブルを根絶する。今回の重大
トラブルといいますか
事故によりまして、
ボンバルディア社はようやく真剣になったような印象があります。
さらに三番目には、
ボンバルディア社と
カナダの行政当局を含めまして交流を深める必要がある。これまでの薄い
関係をこれを機に深めて、両者で真剣な話し合いをする中で経過を確実にフォローする必要があるのではないか、こういうふうに
思います。
それから四番目には、
国内では、先ほ
ども御指摘がありましたけれ
ども、各メーカーの壁を越えて、この緊急事態に
対応する体制を早く構築していただきたい。具体的には、YSのときには
運航各社によります
航空技術安全協力
委員会というものが設立されたようでありますけれ
ども、それの例も踏まえながら、やはり各社の協力が必要だ、こういうふうに
思います。
二つ目の中期的な
対応ですが、現在この
機体に対する利用者の不安というものがかなり強いものがあることは事実であります。事実、
高知県議会、南国市などが別
機種の就航を要請しております。ただ、使用
機種の変更ということは大変難しい問題をはらんでおります。
一つには、コストの増加をどのように吸収するかという問題もあります。同じ
プロペラ機で代替するにいたしましても、輸送力の減少をどうカバーするのか、運賃の増加をどういうふうに考えるかということがあります。
これまでの
トラブル等を見ましても、
事故直後には安全意識が高まりますが、やはり日本では運賃と利便性というものが選択の重要な要素になっております。そういう点で、安全が確立をされているからといって、ここの部分だけ特別高い運賃ということでは、利用者としては納得がいかないということになるかと
思います。
一つの考え方としては、既に退役いたしましたYSをもう一度買い戻すという案もあるようでありますけれ
ども、これは既に各地に散っておりますし、いろいろな
エアラインの手に渡っておりますので、十分な信頼性が保証されないという問題があると
思います。
現実的には、やはり現在使っているジェット機の中からここへ切りかえるという案が現実案だとは
思いますが、これには先ほど申し上げました伊丹空港の
プロペラ枠の変更という問題があります。これは国が進めております空港政策のかなり大きな問題にも影響いたしますので、この部分はかなり大きな問題になるのではないかと
思います。
同時に、空港
周辺の
方々にも、かなりジェット機に対する誤解がございまして、一九六〇年代に導入した初期のジェット機と同じような印象で、ジェット化に対して敬遠をされている方がまだたくさんおりますので、その辺の誤解を解く必要もあるのではないかというふうに
思います。
さらに、中型のジェット機を導入するということになりますと、採算がとれない可能性があって、路線の存続にかかわるのではないか。今回の
高知—
大阪線も、
プロペラ機にかえて便数がふえたことによってやはり
乗客がふえておりますので、ジェット機を入れて便数を減らすことが地元の方にとっての利便性を損なうということにもなりかねないと
思います。
そして
最後に、長期的な部分ですが、これはやはり日本独自の安全文化に基づく国産機の開発ということがよいのではないかというふうに私は
思います。
具体的には、日本と欧米との間で安全文化というものが明確に違っております。
欧米においては、機械物に
トラブルはつきものだ、あるいは確率の問題だというような形で、
対応をすぐにとらないというケースもたくさんあります。あるいは、
原因のわかっている
トラブルはそれほど重視しないということがございまして、この辺は、前回、NHKのテレビ番組でもかなり具体的に取り上げておりました。
一方、日本では、
事故だけではなくて
トラブルさえ根絶しようとするということで、欧米から見ますと、少し神経質だというふうに見られておりますが、やはり安全プラス
安心という部分を日本の消費者が重視しているということでございます。
現在、国産
ジェット旅客機は
設計がほぼ完了して、事業化判断の手前にありますが、ビジネス上のリスクを恐れて停留しているというのが実態であります。
一方、近いところでは、中国が国家主導型で開発を進め、来年に初
飛行、〇九年に
エアラインに就航予定ということになっておりますが、中国がこの事業化に成功すれば、
世界で日本の参入余地はないという見方が強いわけでございます。
できることならば、国産
ジェット旅客機で、日本人の安全文化を満たした
飛行機を使うということが日本人としては望ましいなという気がいたします。
以上でございます。(拍手)