○
参考人(
金井利之君)
東京大学の
金井と申します。
本日はこのような
意見を述べさせていただく
機会を与えていただきまして誠にありがとうございます。
私は、大学で
自治体行政学を教育及び研究している者でございます。そのような観点から、
分権改革というのは大変重要なテーマとしてこれまでも勉強してきたところでございますけれども、またこのような形で新たな
分権改革への動きがあるというのは大変興味深く、かつ期待を持ちながら見守っておるところでございます。
まず、お手元にお配りさせていただきました資料に基づきまして大まかな
意見を述べさせていただければというふうに思います。
まず第一といたしまして、「世紀転換期
地方分権改革」というふうに名付けたものでございますけれども、一九九〇年代、より正確に申せば、
国会の
決議から始まったいわゆる
分権改革でありますけれども、二〇〇〇年で終わったわけではありませんで、正に今日まで続いていく
改革の十年、十五年、二十年というようなものになっているわけでありまして、ある意味で二〇〇〇年を挟んで
改革が進んでいるということで、世紀転換期
地方分権改革というふうに名付けさせていただきました。
このような
改革においては、どこで
議論されるのかということと何が
議論されるのかという、場と何ということが大変重要なテーマになってまいるわけでありますが、それを整理して考えてまいりますと、いわゆる第一次
分権改革というのは、
地方分権推進委員会によって
機関委任事務制度の
廃止、すなわち
関与の
改革というものを行ったというふうに、非常に単純に言えば要約することができるのではないかというふうに思われます。
その次に行われました第二次
分権改革、あるいは
三位一体改革と呼ばれるものでありますが、これは当初
地方分権改革推進会議で
議論が行われていたわけでありますけれども、最終的には経済財政諮問
会議であるとか、あるいは国と
地方の
協議の場で
地方側の
意見を聞きながら、最終的には
政府・与党で決めていくという形になりました。そこで行われたことは、一方では
平成の大
合併というものでございますけれども、他方では
税源移譲プラス国庫支出金の
削減プラス
交付税の
削減というような
三位一体改革だったというふうに要約することができます。
そして、では今回この
法案で始まろうとしている
改革、これについてそもそもどのような名前で呼ぶか自体が決まっていないのではないかと思うわけでありますが、ここでは第三次
分権改革と呼ぶ言い方もあれば、第二期
三位一体改革と呼ぶ言い方もあれば、第二期
分権改革という呼び方もありまして、何と呼んでいいか分からないわけでありますが、それはどこでやろうとしているのかというのを決めようというのが今回の
法案ではないかというふうに思います。
当初、いわゆるビジョン懇では
地方制度調査会で、あるいは六
団体側の構想
委員会では
地方行財政会議というようなものでやったらどうではないかというようなアイデアが出てきたわけでありますが、
法案では
地方分権改革推進委員会という形で、
内閣府に設置する、ある意味で
地方分権推進委員会のアイデアを最も強く引き継ぐような形で場を設定したらどうかというアイデアではないかというふうに
理解しております。そして、そこで何を検討しようとしているのかといいますと、
基本的には
義務付け及び
関与の
改革というものが
法案の大きなターゲットになっているのではないかというふうに
理解しているところでございます。
続きまして、今回の
法案について、具体的に何を目指しているのかということで、表の二の方に移らさせていただければというふうに思いますけれども、これにつきましては新旧法、つまり
地方分権改革推進法案とかつての
地方分権推進法というものを対比することである程度それが見えてくるのではないかというふうに思われます。
両法及び両
法案は大変似ているわけでありますけれども、子細に眺めてまいりますと、このような異同と、同じ点と異なる点があるのではないかというふうに思われます。
端的に申しますと、
地方分権推進法ではなかった自己判断、自己
責任、
自治体の自己判断、自己
責任というものが今回の
法案には掲げられている。他方、
分権推進法、旧法ではあった総合的という概念が今回の
推進法案では消えているというところでございます。これに関しまして
法案所管省庁ではいろいろ御見解があろうかと思いますけれども、
基本的に
法案を虚心坦懐に眺めますと、このような違いが見えるということでございます。
そして、国と
自治体の
関係ではどのような違いがあるのかといいますと、新旧両法とも、簡素合理化という意味で、一種
行政改革の
流れの中にはあるということでは共通しておりますけれども、新
法案では密接な連絡ということが掲げられていると、これが新たな特徴でありまして、
三位一体改革における国と
地方の
協議の場、あるいは
自治体側が力を付けてきたということが今回の
法案に如実に反映されているのではないかというふうに
理解することができます。
そして、具体的によりどういう細かい
方向を目指すのか、
改革のターゲットは何なのかということが
分権改革の検討項目でございますけれども、新旧法とも
権限移譲と
関与の整理合理化という点では間違いがないわけでありますが、旧法ではなかった
義務付けの整理合理化ということが今回の
法案で出ているとともに、
政府提案での段階では、財政上の措置の検討というものが掲げられており、旧法における
地方税
財源の充実確保というところに大きな違いがあったということでございます。この点に関しましては衆議院で既に修正がなされまして、充実確保等の観点ということで若干旧法のような形に近づいてきたのではないかというふうな印象を持つところでございます。
こうして見ますと、非常に簡単に、今回の
政府当初案の思想を非常に単純に要約いたしますと、
自治体は自己判断と自己
責任によって必ずしも総合的である必要はないということの中で、国からの
義務付けを整理合理化するということによって、必ずしも
地方税
財源の充実確保はしなくてもよいということが虚心坦懐に
法案を見る限りにおいては書かれていたということでございます。
これはある意味で大変筋が通ったといいますか、緊縮財政という観点からいいますと、極めて理屈の通ったことであったわけでありまして、国、
地方を通じた財政緊縮のためには
地方財政を圧縮する必要があると。そのためには、これだけの
義務付けがあるから
財源を圧縮できないという論拠を与えてはならない、したがって
義務付けをなくすと。そのような
義務付けをなくした
自治体は
自立性に基づいて
地方税で自己
責任で賄っていくと。結果的には
自治体は自分の判断で仕事をしたりしなかったりするということで、総合的な
行政というよりは取捨
選択が行われていくと。しかし、そのような厳しい
改革をするためには国と
自治体側からの納得を得る必要があるので密接な連絡をしていく。それによって最終的には
地方財源の充実確保を必ずしもしなくてよくなるという、このような
法案には
一つの
考え方が反映されていたのではないかというふうに思われるわけであります。
ただ、この点は大変、
自治体側からいいますと非常な大きな問題になるというところでありまして、衆議院で既に修正が入りまして、明らかに
法案の当初描いていたビジョンというのは修正をされているというふうに
理解せざるを得ないのではないかというふうに思っております。簡単に言えば、
地方税
財源の充実確保をした上で、にもかかわらず、あるいはそれとは同時に
義務付けを整理合理化していくという
方向で
法案が既に修正されて参議院に回ってきているのではないかというふうに
理解することができます。
いずれにいたしましても、この
法案が
成立した後どのような第三次
分権改革になるのかということは大変重要なテーマかというふうに思います。
したがいまして、では将来を見通すためにどういうふうに見ることができるのかということで三に参りまして、戦後
改革と第三の
改革の対比ということで、歴史を振り返ることで今後の展望を見てみたいというふうに思います。
この第三の
改革というのは、正に二〇〇〇年を挟んで行われている
分権改革でございまして、この戦後
改革と言われるのは、狭い意味での戦後
改革を超えまして、戦後の日本の在り方を決めたという、こういう一連の
改革ということでございます。時間がございませんので詳しい説明は割愛せざるを得ませんけれども、このような両
改革を対比して項目を掲げてみますと、あるものは追体験しているというところがかなり多く見られるわけであります。
例えば、戦後
改革においては
機関委任事務制度と職務執行命令訴訟
制度というものが導入されたわけでありまして、これは今回、第一次
分権改革では集権的な
関与の
一つということで
改革の対象になり、法定受託
事務制度と国
地方係争処理
制度に変わった。あるいはシャウプ税制
改革と
地方財政平衡交付金というような形で財政上の
改革がなされたというものは、今次の世紀転換期あるいは第三の
改革の時期におきましては
三位一体改革と新型
交付税という形で進んでいるということでございます。その他、例えば
平成の大
合併と昭和の大
合併、あるいは現在における破綻再生法論と
地方財政再建措置法、あるいは
地方制案と道州制というような形で同じような項目が繰り返し起きているということでございますので、この戦後
改革を振り返るということは第三の
改革を見る上でも非常に有用なのではないかと思われるわけであります。
そして、右下のバーンでございますけれども、この第三次
分権改革になって
一体どういう
方向に進むのであろうかということでございますが、
法案は意図しているのは、
義務付け、
関与の縮小、それに伴う補助負担金の縮減、
地方行政の整理、小さな
政府ということが
一つ目指されているのではないかというふうに思われるわけであります。しかしながら、
先ほど、既に
地方税
財源の充実確保をするのだという修正があったように、この点が現在大きく
議論されている最大のポイントなのではないかというふうに思われるわけであります。
では
最後に、四といたしまして、この「第三次
分権改革の展望」ということでございますけれども、表四をごらんいただければ有り難いのでありますけれども。今回の第三次
分権改革の
一つの大きなポイントは、
先ほど申しましたように、国による
財源確保はどの程度になるのかという軸であります。それが多いあるいは強いものを
財源確保される状態、それが少ない、弱いというものが自立と言われる状態でございます。
他方、もう
一つのポイントは、
法案で非常に大きな
改革項目となっております国による
義務付けということでございます。この国による
義務付けが弱いあるいは少ないということになれば、この
改革、
分権改革は進むということでございますし、それが多いあるいは強いままであれば
分権改革は進まなかったということになります。
このような二つの軸で見ますと、
義務付けが強く
財源も確保してくれるというのが①の
体制ということになりまして、これが実は戦後の
体制であったというふうに言うことができます。これに対して、国による
義務付けを弱め、しかし国による
財源確保も弱めるというのがこの右下の欄、④の欄でありまして、ある意味で元々の
政府提出
法案の
基本的な
方向性はここにあったのではないかというふうに言うことができます。
しかしながら、国による
義務付けを弱めながらも、しかし
財源を十分充実させていくという
方向もある。これが②の自治を充実する
体制でありまして、
自治体側が期待していたものはこういうものでありますし、通常、
地方分権としてはこういうものが考えられているのではないか。それを受けまして衆議院もこのような修正案を議決されたのではないかというふうに
理解しております。
他方、国による
義務付けが残ったまま
財源の措置が弱くなっていくという、この③という
可能性もございます。これは実は戦前の
体制でございまして、戦前は集権的ということで、かなり国が
自治体にいろいろと統制を行っていたわけでありますが、それに見合う
財源の保障というのをしてこなかったということでございます。
このように見てまいりますと、この①、②、③、④のどのような
方向に進むのかということが今回の第三次
分権改革の大きな争点になるのではないかと。簡単に言えば、
義務付けがちゃんと緩和できるのか、できなければ①あるいは③のままになってしまう。あるいは、
財源が十分に確保できるのかそれとも確保できないのかということで、④になるかあるいは②になるのかというような違いが出てくるということでありまして、今後の
改革がどのように行われるのか、真の意味で
地方分権の充実につながるような
改革になっていただきたいというふうに思うところでございます。
以上で、簡単ではございますけれども、私の方から
地方分権改革推進法案及び第三次
分権改革の展望についてお話をさせていただきました。
どうもありがとうございました。