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参考人(
宇津宮隆史君) それでは、手元に資料が行っておると思いますので、それに加えてプロジェクターで説明していきたいと思います。(資料映写)
本日は、国政を担当されている
先生方に
不妊治療についてお話しできる機会を与えられまして本当に心から感謝しております。
医者になって三十三年間、
不妊治療を
中心に
産婦人科医療を行ってきましたが、不妊診療に関しては、この疾患は他の病気とは異なる面があると思っておりました。それは、通常の疾患は原因が
一つ、二つで
治療して治れば良いのですが、不妊の
治療には三つの側面があると考えます。その第一は医学的、
技術的な側面でありますが、これはともかくといたしまして、二番目に心のケア、そこら辺のことと、第三番目に
社会的な問題、そういう側面の三つがあると思います。
心のケアに関していいますと、有名なフレーズで、嫁して三年、子なきは去るという言葉に象徴されていますように、不妊は
日本では恥という感覚がありまして、隠すべき、隠されるべき
状態でありました。その空気が現代でも存在し、不妊
患者さんはいわれのない苦しみ、悩みの中におります。この心の問題をケアするために私
たちは
生殖医療心理カウンセリング
学会を設立し、当院にも臨床心理士がカウンセリングを行っております。
第三の
社会的な側面についても重要と思います。
不妊治療はややもすると話題性の高い
根津先生の前のような
ケースがクローズアップされがちですが、現実では
全国で現在百二十万組くらいの不妊のカップルが様々な問題に取り組んでいるということが実態と思います。
不妊治療には
人工授精や
体外受精のように保険適用されてなく、不妊
患者さんは多額の
治療費を支払っております。この点について十年前から私は署名運動を行い、
日本産婦人科学会のお偉い
先生方に直接手紙を出したりいたしましたが、何も変わりませんでした。
ところが、二〇〇一年に現在の大分市長で当時は民主党衆議院議員でおられた釘宮磐先生が私
たちの署名活動にお手伝いしましょうと言ってくださって二〇〇二年に第一回の国会請願を果たすことができました。また、釘宮先生も厚生労働
委員会で質問を合計五回行ってくださり、現在の
不妊治療への助成金交付につながっております。その後三回私
たちは国会請願を行い、その際にお世話になった
先生方もここにいらっしゃると思いますが、本当にありがとうございました。
本日は、ここで国政で携わっておられる
先生方に
不妊治療の実態をお話しし、御理解いただき、今後の政策運営に役立たせていただければ有り難いと思います。
当院の概要です。
胚培養士というのは
精子や
卵子や胚を取り扱うテクニシャンです。また、すべてのデータは情報処理室でコンピューター処理され分析されております。カウンセラーとして臨床心理士もチームに加わっております。
全国で
生殖補助医療施設として六百
施設以上が
登録されておりますが、
治療実績から見ると、当院は上から二十番目ぐらいに当たるものと考えます。
ここで、定義ですけれ
ども、不妊という
状態というのは、結婚して
赤ちゃんが欲しくて正常な
夫婦生活をしていても二年以上
赤ちゃんができない場合のことを言っております。現在、
全国に百二十万組ぐらいがいると推定され、約三十万組が
治療中です。これは実に一五%の罹患率を示す病気と言っていいと思います。
妊娠するためには
ポイントが五つあります。関門と言ってもいいかと思います。これらの関門、
ポイントがすべて、
一つ一つがすべて完璧に行われた場合にのみ
妊娠が成立いたします。
不妊の原因は、これはうちのデータですけれ
ども、男の人は六割がWHOの基準に到達しておりません。ですから、男の人が悪いというのが六割。
女性のことに関していいますと、卵巣機能が悪い場合が五割、
子宮内膜症がある場合が五割、卵管の障害がある場合が四分の一などで、これらの原因が複合している場合がほとんどです。不妊はこれらの病気に基づく二次的な疾患と言っていいと思います。
治療の流れを示しております。当院ではステップアップ方式で行っております。それですので、
体外受精は最後の段階で、これでしか
妊娠が望めないという場合のみ行っております。
ここで、よく混同される
人工授精と
体外受精の違いを簡単に説明いたしたいと思います。
人工授精は、
精子を授けること、通常、夫の
精子を選別し、濃縮し、
子宮内に注入するというだけのことです。その
妊娠率をグラフに示しております。
人工授精の
妊娠率はそれほど高くはなくて、一〇%
程度で、それも半年以内に
妊娠することが多く、それ以後には増加することはありません。よって、次のステップ、
体外受精に進むことになります。
体外受精は、一九七八年、イギリスで第一号が生まれました。卵管内で起こることを体外で行う。要するに、図にありますように、
卵子を採取し、
精子と混ぜ合わせ、培養し、さらに三日ないし五日目に
子宮に移植するという非常に手間暇の掛かる
方法です。
その手順を具体的に示します。大きく二つに分けられます。たくさん卵を採るために多量の排卵誘発剤を用い、そして
採卵し、受精、培養、移植いたします。すべてが保険適用されておりませんので、
採卵までの排卵誘発剤
関係で大体十万円ぐらい、
採卵以後移植までに大体三十万円ぐらいと、最低三十万円から四十万円が私費になって支払われております。
精子が少なくて受精ができないことが予想される場合には、顕微鏡下に
卵子内に
精子を注入して受精させる顕微授精を行います。この
技術は非常にテクニックを要し、きちんとできるまでには約二年掛かります。
累積
妊娠率を見ます。大体五回から六回目ぐらいまでに八ないし九割となって、それ以後は頭打ちになってしまいます。
体外受精は一回で成功しないことが多いので、それで二回目、三回目とチャレンジいたしますけれ
ども、これはその回数別の
妊娠率を表しております。一回目、二回目ぐらいは
妊娠率が高く、その後は一定に推移しております。よって、十回目ぐらいまでは希望が持てると思います。それ以後は行う人は少なくなってしまいます。
そのように、
体外受精は
妊娠率は低い、非常に低いという印象がありますけれ
ども、今までのデータはすべての症例で、
高齢者も、卵が一個しか採れなかった例も、
精子が極端に少なかった例も、また何度も何度もチャレンジをした
人たちもすべて入っております。そこで、条件を三十五歳未満で初めてのチャレンジで、卵が四個以上採れた人と限定してみますと、一回で六割近くが
妊娠しております。
がんの
治療成績と同じで、進行
がんと初期
がんを一緒にして分析すれば治癒率は低く、初期
がんのみの治癒率が高いのと同じ理屈です。
これは年齢別
妊娠率です。
妊娠成功は、
患者さんの年齢によると言ってよいと思います。このグラフのように、
妊娠率は三十五歳を境に下降し、四十歳以上は奇跡的になります。ところが、昨年度の当院の初診時年齢は三十二歳になっております。三十四歳までに産み上げてしまうというのは非常に難しいことになります。また、
患者さんはこのグラフについての認識はほとんどありません。
ここでちょっと心のケアのことについて少しお話ししたいと思います。
患者さんに悩みを聞きますと、カウンセリング、コーディネーションが必要な場合、左側の方にあるバーですけれ
ども。それともう
一つ、右側の、真ん中辺にありますが、経済的な面があるということが分かります。
これは、悩んで体調を壊したことがありますかということを聞きました。一番左に示しますように、半数ぐらいの
人たちが悩んで体調を壊したと。一番右に書いてありますように、中には病院の
治療が必要なぐらいの人もおりました。
ここから経済面についてお話ししたいと思います。
これは、当院に支払った金額についてお聞きしました。
体外受精の段階に入りますと百万円以上になっているということが分かります。その支払を行った支出源は、お二人の収入からというのはまあよいと思いますけれ
ども、上の方にありますように、親や金融機関から借りているという例もありました。このグラフを見て、釘宮磐先生は、国民がひとしく健康な生活を送る権利が侵されていると言われて、非常に印象深い言葉と僕はいまだに思っております。
それでは、
体外受精はなぜそんなにお金が掛かるのでしょうか。
これは二〇〇三年に品川で
日本受精
着床学会が市民公開講座を開いたときの私の
調査をしたデータです。
体外受精ではいろいろな使い捨ての器具や試薬を用い、また無菌室
レベルの清潔な培養室が必要で、高度で繊細な
技術も要求されます。
採卵以後に掛かる原価だけで十万円前後掛かっております。これに更に建物の設備費、ビル診ならばその賃貸料などは、さらにこの表では、スタッフの時給が千円、医師は二千円で計算しております。よって、一回の
体外受精に四十万から五十万ぐらい掛かるというのは妥当とは思っております。
今回の発表に当たって再度
調査いたしました。これは
全国の
先生方にお聞きした結果ですけれ
ども、三十万円から四十万円ぐらいが最も多くなっております。クリニック
レベルで行う場合、二十万円と安いクリニックがありましたけれ
ども、それは、手術や分娩料で補完して安く設定しているというコメントが幾つも入っておりました。
当院で
体外受精を行って
妊娠しなかったにもかかわらず
治療に来なくなった人にアンケート
調査をしてみたところ、その理由は、経済的原因、経済的な問題であるということが一番でありました。
この表は、今私の後ろに出席してくれている松本さんを
中心にした、今現在
治療を行っている
患者さんの会、Fineの会のデータです。我々と同じように経済的な理由で
治療の中断を考えた人が六割、実際に中断した人もいらっしゃいました。
助成金の
内容についての満足度も聞いております。これで見てお分かりのように、不満であるという人が四分の三を超えております。恐らく、理由は、金額が安い、地方で差がある、収入制限が六百五十万円というのがある、申し込めば不妊と分かってしまうなどが理由と思います。もちろん、保険適用の希望は大部分の
患者さんが求めておりました。医師に対しても同様な設問を行いましたが、同じような傾向でした。その適用範囲とかいろいろ聞きましたけれ
ども、いろんな
意見がありました。
これはEUの諸国でどういうふうになっているかということを、製薬会社の資料から見ましたけれ
ども、ほとんど保険適用がされております。これは
最初にお話ししたことです。
不妊治療は、他の疾患と異なり、このようにいろいろなセクションの
人たちとのチームワークで成立していると思います。またその目的は、その子が生まれた後に生まれてきて良かったと思われるような医療を行うことと思っております。
これは、当院の全体の結果です。男の人の六割がWHOの基準に達していない。
女性の初診年齢が三十歳を越えている。
妊娠率は半分ぐらいある。ただし、ちゃんとうちで
治療をした人で見ますと、九〇%以上の人が
妊娠しています。
ちょっと心配になるんですけれ
ども、
赤ちゃんの異常はどうなのかということですが、これは通常の、普通の
妊娠で生まれた
赤ちゃんに比べれば不妊の
治療で生まれた
赤ちゃんの異常率は低いということは、これは世界的にも認められております。
これは、一般の疾患と不妊の違いを示しております。一般の疾患は分かりやすいし、理解しやすいけれ
ども、不妊であるということは、この悩みは、このようなスライドに示すような理由で他人に非常に理解しにくいと言えます。
これまで述べてきたように、罹患率一四、五%の疾患というのが不妊症です。これが他の疾患なら
世の中はパニックに陥っているはずです。最近やっと助成金が出るようになりましたが、まだまだ不十分だと思います。
不妊治療の保険適用に反対する
意見がここに書いてありますように三つあります。まず成功率が低いということでありますけれ
ども、先ほど言いましたように、条件をそろえればそうでもない、自然
妊娠に匹敵すると。特殊
技術ではないかという言い方がありますが、これはほかの心カテや人工腎臓などと同じような
技術であるということ。倫理問題についてはどうだということで、後でまた討議があると思いますけれ
ども、これは私が今日述べたように、通常の
不妊治療とは別次元の問題であり、これは
法律か国の
レベルで決めていくようなことであり、一般の我々がいろいろ討議するようなことでは、もう超えているんじゃないかと思っております。
一番下に書いてありますように、費用対効果。これは
根津先生も書かれていたようですが、年間予算五百億円、これは高いじゃないかと言われますけれ
ども、一人
赤ちゃんが生まれればこの人が一生働いてくれますので数億円の、一人だけで数億円の価値が生じると信じております。
これはデータにあります累積出生児数です。赤い字で書いてあります。今や生まれる
赤ちゃんの六十一人に一人は
体外受精で生まれているという時代に入っております。
これが最後のスライドですけれ
ども、今後の課題として、不妊症は増加するだろうと。しかし、
治療によって
赤ちゃんが生まれるけれ
ども、ハイ
リスク妊娠が増えるだろうということで、これは分かっていますので、是非ここについて早めに早めに手を打っていただきたい。そして、こちらの方としても、四番目にありますように専門的ないろんな体制を整備する。それと、最後に書いてありますように、この不妊の
治療の保険適用を是非していただきたい。
謝辞はスライドに代えさしていただきます。本当にありがとうございました。