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参考人(
池本美香君)
日本総合研究所の
池本と申します。
私の方からは、
皆さんにお配りしております二枚の
レジュメに沿って話をさせていただきたいと思います。
まず、本日の
テーマは
ワーク・
ライフ・
バランスということで、
仕事と
生活全般の
調和ということでございますが、私が
研究テーマとしておりますのは
少子化にかかわる
政策ということですので、本日は
子育てと
仕事の
両立、
調和という
部分に限ってお話をまずさせていただきたいと思っております。
それから、
研究の
視点としましては、
少子化に関しましては、
出生率が上がったか下がったかですとか、また
少子化が
経済成長にどういうインパクトをもたらすのかといった、そういう
マクロの話が多いかと思うんですけれども、私はむしろ、この
少子化の問題を引き起こしている当事者の
世代の一人として、今の
出産、
子育てをするべきなのにしていない
世代が置かれている
状況、また余り
視点に入ってこない
子供が置かれている
状況というものから
いろいろ物を考えておりまして、今日もその辺りから
政策を見ていきたいというふうに思っております。
それでは、早速
レジュメに沿ってお話しさせていただきますが、まず
最初に、
出産・
子育て世代から見た
少子化対策ということでして、
少子化対策の
流れについては
皆さん既に
御存じのことかと思うんですが、大ざっぱに
流れをさらっておきますと、
少子化が問題になってきましたのは、一九八六年の
男女雇用機会均等法が施行され、そのすぐ後の九〇年に八九年の
出生率が過去最低になったという
出生率一・五七ショックが起こり、その辺りから
子育てが問題になってきたわけです。そして、その後、
女性が男性並みに働くために
子育てを何とかしなければいけないという発想の下に、この九四年のエンゼルプランですとか九九年の新エンゼルプランなどでは、保育サービスの充実が中心になって進められてきたと言えると思います。二〇〇一年には、さらに保育所の待機児童ゼロ作戦という新たな対策も打ち出されまして、
女性がとにかく男性並みに働く権利を保障するという考え方から、保育サービスの量的な拡充が目指されてきたということだと思います。
しかし、
御存じのとおり、
出生率はその後も低下を続けまして、そのために政府も、二〇〇二年になりまして、このままの対策では効果がないということから、
少子化対策プラスワンを出しまして、そこでは、
女性が男性並みにということではなくて、男性の働き方そのものを見直すということ、また、働くという方向から議論するばかりではなく、
子育てが行われている現場、
地域で
子育てがうまくいっていない
子育ての現状からも問題を解決していこうという、その二点が打ち出されまして、二〇〇三年にはそれが具体化した次
世代育成支援対策推進法が施行されたところでございます。ここでは、
企業に対して
子育て支援のための行動計画の策定を義務付けたということと、自治体に対して
地域のそういう
子育て支援の
状況などについての行動計画の策定を義務付けたということです。
そういった
流れの中で、
出産、
子育てをしている
世代はどういった
状況にあったのかということなんですけれども、まず
一つには、この時期は
労働環境の悪化があったと考えています。
一つは、先ほどもお話あったかと思うんですが、やはりパートタイマーなどの非正規職員が増えてきているということでして、これは、
企業の経営環境は厳しいために、
正社員を減らしてそういった形でパートなどで補っていこうということが九〇年代進められてきまして、そのために、今、
正社員は過重な
労働になって
労働時間が増え、また非正規の職員につきましても収入が多く得られないために長時間働かなければならないということで、ともに長時間
労働が促進されていったという時期にあり、そしてそのことがストレスの増大につながっていったと思います。
一方、親ではなく、その親に育てられる
子供の環境はどうだったのかということなんですけれども、ここでは保育環境も悪化しているということがあったかと思います。これは、親が長時間
労働になれば
子供が預けられる時間も増えていくということで、保育時間が長くなったということ、そしてまた、その長く預けられる保育の環境なんですけれども、ここにやはり
企業同様自治体ですとか国も財政難の時期にありましたので、保育に関して十分な予算を投じることがなされてこなかったということで、保育の質が低下し、例えば園庭がなくても済む保育園ですとか人数を超過して預かれるようにするですとか、そういった形で保育の質がこの時期低下したことがあると思います。そしてまた、
家庭においても親がそういったことでストレスを抱えているといったことも背景にあって、児童虐待の増加というものも今
社会問題となっているところです。
ですので、こうして見ますと、
少子化対策は九〇年代からいろいろと保育サービス中心に行われてきたわけですが、それがむしろ長時間
労働をサポートするような形で保育サービスが使われてしまい、
子供も、またその
出産・
子育て世代にとってもその
少子化対策が幸せになる方向には作用しなかったということが言えると思っておりまして、このために私は、
女性が働く権利ということだけを
重視するのではなくて、あわせて、
男女ともに
子育てをする権利を保障していくという考え方が必要ではないかと考えています。
子育てをする権利というと非常に堅苦しい言葉なんですけれども、要は
男女ともに
子育ての時間をきちんと
確保でき、かつその
子育ての時間が人生を豊かにするというものであるという環境をつくっていく必要があるかと思います。そして、そういった観点から、私はいろいろ諸外国の
政策でどのようなものがあるのかということで、
子育てをする権利を保障する
政策という観点から様々な
政策を拾ってまいりました。
次に、二のところでその紹介をさせていただいておりますけれども、まず
労働政策の分野では、代表的なものには
育児休業制度があります。
日本でも
育児休業制度が最近では一歳六か月まで延長できることになりましたし、休業中の所得保障も四〇%ということで、
それなりに充実されてきているわけですけれども、それでも中小
企業などに行って話を聞きますと、四〇%の補てん率ではとてもじゃないけど休めないということで、制度はあってもそれが必ずしも利用されていないという現状があります。これに対して、
スウェーデンやノルウェーなどでは所得保障が八〇%から一〇〇%ということでして、このために
経済的な理由から
育児休業が取れないというような
状況が解消されておりまして、その結果ゼロ歳児保育もほとんど必要ないという
状況になっています。
それから、全体的に所得保障の割合を高めるという国以外に、
ドイツやフィンランドなどでは、むしろ休みにくいのは低所得の人であるわけでして、低所得者に手厚くなるような所得保障のやり方を考えているところもあります。
ドイツなどでは定額の手当となっていまして、そしてむしろ高所得者にはその手当は支給されないというふうな仕組みにもなっているわけです。
そのほか、父親専用の
育児休業期間を設けることで男性の
子育てにかかわる権利を保障しようという考え方もあります。これは
スウェーデンで六十日、ノルウェーで四週間ということで、この期間は母親にその期間を譲ることができないわけでして、その期間は父親が休んでも八〇%から一〇〇%の給付があるわけでして、むしろ休まない方が損だというような感覚もあって、男性の
育児休業取得率が急速にこの制度導入で高まったということがあります。
それから、短時間、休みではなくて短時間勤務の保障ということも
子育てをする上で重要なわけですが、
日本の場合も
育児休業制度の中に
企業に対して短時間勤務等の措置を講じるということを義務付けているわけですが、等となっていますので、
企業に短時間勤務をやらなければいけない義務はなく、このために、実際に
労働者の側が時間を短縮したいと思ってもできない場合も存在するということです。
これに対して、
スウェーデン、ノルウェーでは
育児休業の期間をまず、全日というか、一日単位で取るんではなくて、半日ずつ
育児休暇を取っていくというような形で時短に利用することもできますし、またその
育児休業の期間以外に
子供がいる人には
労働時間短縮の権利を保障し、もちろんこの場合にはその減らした分賃金も減るということにはなっていますけれども、そういった権利も保障されているということです。
また、有名なところではオランダがフルタイムとパートタイムという、まあ
日本でいえば
正社員と非正規職員の格差を解消していくという
政策を取っていまして、そのために
労働時間を短くしやすくなっており、それが
子育てにもプラスになっているということです。
それから、
子供が病気のときの看護休暇について、
日本でもようやく
育児休業制度によって
労働者一人当たり年五日というものが保障されたわけですけれども、極端な例で言えば、
スウェーデンなどでは
子供一人につき六十日の看護休暇を認めるというような国もありまして、それだけ諸外国では、この
労働政策の中で
子供と親が一緒に過ごす時間を保障しようという考え方が
政策にも反映されているということです。
次に、二番目に
経済的支援策なんですが、この辺りは余りこの
ワーク・
ライフ・
バランスの中では言われていないことだと思うんですが、そもそも親が働くのはお金が足りないから働くということもあるわけでして、もしも教育費に、
日本などはお金が掛かっていて、それにお金が掛からなくて済むならば親が
労働時間を短くでき、その分
子供と一緒に過ごすということも可能になってくるわけですが、その点で
日本の教育費については諸外国と比べても親の負担感が強いことが言われています。
例ですと、この
スウェーデンやオランダなどでは、私立学校を選んだとしても、そこには公立並みの公的補助があるために親は授業料負担をする必要がないという国もありまして、そこまでしますと、教育費のために
子供が多い人は長く親が働かなければいけないというような
状況も緩和されるのではないかと思っています。
それから、二つ目の在宅
育児手当ですけれども、これはノルウェーで九八年に導入された比較的新しい制度ですが、これは
育児休業が終わった一、二歳児の親に対して、保育所を利用しないで
自分で育てている人に対しては、保育所へ出している公的な補助金を現金で親に給付するというようなことが行われ、そしてこの制度が導入されたのは、親がもっと
子供と一緒に過ごせるようにしようということを掲げて、そういった
政策を掲げた政党が政権を獲得してこの制度が導入され、現在に至っているという
状況があります。
ですから、手当は、児童手当などもそういう時間との関連では余り議論されていないわけですが、
子供と親が一緒に過ごす時間を増やすという目的で
経済的支援を行うという考え方も諸外国ではあるということです。
それから、三つ目の保育
政策ですけれども、保育
政策で、私も海外に行って、
日本のように延長保育があるのかとか、病気のときの保育はどうやっているかというようなことをいろいろ聞いて回ったんですけれども、むしろそういったことを進めるというよりは、親が保育活動に参加できることに力を入れていることに気付きました。
極端というか、非常にユニークな例ではニュージーランドのプレイセンターというものがありまして、これは保育所と幼稚園と対等な公的な認可と補助を受けた幼児教育施設なんですが、その施設はすべてその参加する親によって運営されていて、そしてその親たちが、そのネット
ワークを築きながら、また
自分たちで、そのプレイセンターの
場所で親も
学習をしながら、親子で成長していくというようなことを理念に掲げて活動していく場です。
また、
スウェーデンの親組合保育所というのは、親が組合をつくって保育士を雇い、
自分たちの運営のやり方で保育所を運営していくということで、ここにも公的な補助金が投入されています。また、イギリスのアーリー・エクセレンス・センターというのは、モデル事業なんですけれども、これも保育
政策を単に保育サービスを増やしていくということではなくて、そこに親ですとか
地域住民の
学習の場を設け、そのことによって親や
地域をレベルアップすることで保育をより良いものにしていこうという考え方がなされているわけです。
そのような諸外国の事例を見ながら、
日本の
少子化対策への期待ということなんですけれども、まずそういった諸外国の
子育てをする権利を保障する
政策を
日本に入れる必要があると考えているわけですが、その効果についても
意識する必要があるだろうと思います。
日本ですと、
子育てに親をかかわらせると、まず
子供がよく育たないのではないかということを言われたりですとか、親にとっては
キャリアの形成にマイナスになるということから保育サービスの整備が進められてきたところがあるわけですが、逆に親子が一緒に過ごす時間を保障することによって親も子もより良い成長ということで、それは健康といったメンタルなヘルスのこともありますし、また
子供も親が見ている環境の方が
能力が引き出されるですとか、親も
子育てを通じてコミュニケーション
能力や忍耐力が身に付くといったようなこともあって、そのこと自体は、親子の福祉向上に加え
企業の
生産性の向上、また
経済成長にもつながると言えます。
また、ソーシャルキャピタル、
社会関係資本の蓄積ということで、今、親が雇用の側に時間を割いているために、先ほどもありました
地域のつながりがなくなってしまっているわけで、そこをつないでいくことによって治安ですとか教育にプラスの効果があり、そのことは公的
投資の節約にもつながると言えると思います。
それから、
子育てに親がかかわれるようにするということはその分新たな雇用
機会が創出できるということで、それを若者の就労支援などにも充てることによって全体として雇用をいい形で配分するということにもつながると思います。なかなか目に見えにくいところですが、それでトータルで持続可能な
社会づくりにつながるのではないかということです。
そういった観点から、
労働政策、
経済的支援策、保育
政策については先ほどの諸外国の例に倣って
日本も改正していく必要があるだろうということで、
育児休業ですと、もっと取得の柔軟性を高めるですとか所得保障をどうしていくかという議論。また、正規職員と非正規職員の格差というものも見直す必要があります。また、
労働時間の短縮を請求する権利というものが今後非常に重要になってくるのではないかと思っています。
それから、
経済的支援策については、先ほども申し上げました、親子が一緒に過ごすための
経済的支援という発想も今後いろいろな議論の中で必要になってくるのではないかということで、中でも重要だと考えておりますのが、その図表にも挙げましたけれども、
日本では教育への公的
投資が少なく、その分、親の負担も増えているということで、私立学校への助成の
在り方、また、あるいは公立学校の質をどうしていくかというようなことについても議論が必要なんではないかと思っています。
それから、保育
政策につきましては、これまで量的な拡大ばっかりが議論されていたわけですが、そこに置かれている
子供の福祉ということを考え、保育の質の向上をするということと、あとは、その保育
政策の中で親を取り込み、親の
育児不安を解消する学びと集いの場などを増やしていく必要があり、十月から認定こども園という新しい制度もスタートしましたけれども、そういったところでは正に親をもっと育てていく、また親同士をつないでいくということも保育
政策の中でやっていく必要があるだろうと思っています。
最後に、もう時間もなくなってきておりますけれども、以上が
政策的なことなんですが、こういった
政策が、逆になぜ
日本ではこういう
政策が導入されないのかということですとか、あるいはこういった
政策が導入されても本当に
労働時間を短くして人々は
子育てをするようになるのかということを考えた場合に、やはりこの(1)、(2)、(3)と挙げました三つぐらいがもっと根本的な問題としてあるのではないかなということを感じておりますので、そこも若干付け加えさせていただきたいと思います。
一つは、
仕事をするといった場合に賃金を得る
仕事だけが重要だというような感覚が広がってしまっていて、そのために
子育てというものがなかなか人々を引き付けなくなっているのではないかということです。
女性は昔は
子育て自体に
価値があると思って
子育てをやっていたわけですけれども、均等法後、やはり外で働くとお金がもらえるという世界が広がったことで、それと比べて
子育ては損だというような感覚がこの
世代には広がっていて、そしてまた働いている人が何か立派なように見えてしまって、
専業主婦たちは
子育てという大切な
仕事をしているにもかかわらず居心地の悪さというものがあるように思っており、
仕事の質というものを、その賃金があるかないかではなく、
仕事の質をきちんと考えていくという、そういう議論も必要ではないかと思っています。
それからもう
一つは、この
世代の特徴として競争だとか効率だとかスピードというものが非常になじみがあって、逆に協力だとか効率的でないものに対する抵抗感が強いために、
子育てだとか
地域だとかそういうものが苦手だということもあると思います。私も現在一歳三か月の
子供を育てているんですけれども、周りのお母さん仲間の話を聞きますと、そういう
子育ての何かこう、うまく効率的にいかないことに耐えられないので
仕事をしたいというような人も多くおりまして、その辺の協力の大切さ、非効率の
重要性というようなものも少し考えていく必要があるだろうということです。
それから、最後ですけれども、もう
一つは、なぜみんなが
仕事の方に向かってしまうのかといったときに、やはり
職場がむしろ
地域や
家庭よりも居心地がいい
場所になってしまっているんではないかということで、ある男性の方で、なぜ会社にそんなに長く働くのかと聞くと、会社以外に行く
場所がない、居
場所がないということをやはり率直におっしゃっていて、
子育てをしていても、やはり
子育てをしながら行きたくなるような魅力的な
場所がなかなかないために会社に行きたいというようなことも起こってきている中で、
職場以外の居心地の良い空間というものを
家庭、まあ住環境も含め町づくりから考えていく必要があり、そうしたことが進めば自然とそういった
ライフの方に人々が向かい、
仕事の方を減らしていこうという
政策なども動きが出てくるのではないかというふうに思っています。
済みません、時間を超過しましたが、以上です。