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参考人(津田
武寛君)
日興シティグループ証券の津田でございます。平素は
貸金業の分析を行っている証券アナリストです。
私は、今回の
貸金業法改正におきまして、主な
改正点の
一つである
上限金利の
引下げはクレジットクランチを引き起こすと同時に、貧しい人たちが
お金を借りることのできない
状況に陥るばかりか、
多重債務問題の根本的な
解決にはならないと考えております。その
理由は、
多重債務発生の
原因は高
金利ではなく、第一に消費の誘惑にかてない無計画性の存在、どう見ても返済不能と思われるまで膨らんだ借入残高や
借入件数、そして第二に
貸金業界や社会が
多重債務に歯止めを掛けなかったということです。
個人においても国家においても、過剰
債務問題というのは同じであります。ゼロ
金利に近い状態で
政府は国債を発行できるのですが、財政は依然として悪化しています。その
原因は、調達
金利とは関係なく、歳出を削減できないために起きたことは今や一般常識です。
地方公共団体においても、調達
金利が
原因で財政が悪化しているのではありません。個人におきましても家庭においても、
地方公共団体においても国家においても、およそ経済主体の過剰
債務は調達
金利とは関係なく、支出を抑えられないから発生するというのが経済学的なアプローチからくる論理的な仮説です。
しかし、個人の過剰
債務だけは調達
金利、すなわち
貸金業者の貸付
金利が高いのが
原因であるというムードが支配しています。個人の過剰
債務が高
金利を
原因としているという学術論文は何
一つ存在しません。反対に、個人の過剰
債務が
金利以外の要素で起きていることを実証した学術論文は多数存在しています。
金融庁の
貸金業制度等に関する懇談会に
日本弁護士連合会消費者問題
対策委員会の弁護士の先生たちが提出した資料の中に、「「まわし」現象に見る負債額シミュレーション」というグラフがありますので、本日、当
委員会に提出いたします。(資料提示)
このグラフですが、このグラフは
多重債務は高
金利が
原因と主張する人たちがよく活用していますので、内容を吟味してみたいと
思います。図表一がそのグラフです。注が付いておりまして、ちょっと読みますと、百万円又は二百万円の
借金の利息を毎月カードでキャッシングをしたり、サラ金から借り入れて支払うことを
繰り返した場合、年利二九・二%として計算してあるのですが、要するに、元本を一切返済せず毎月の
金利を他の
貸金業者から借りて支払に充当する、他社からの
借入れは
債務者にとって新しい元本になりますので、翌月更に別の
貸金業者から借り入れて
金利を支払うというパターンを繰り返すと、
借金の総額は幾らまで増加するかというシミュレーションです。グラフにありますとおり、八年間で百万円の
借金は一千万円以上になり、二百万円の
借金は二千万円にまで膨れ上がることを示しており、確かに
多重債務に陥ります。しかし、図表一のグラフは、社会科学的な
観点から見ますと、高
金利によって
多重債務が発生することを表したグラフではなく、返済しなければ
借金が
雪だるま式に増加することを示していると見れば、その
ようにも見えるのです。
そこで、分かりやすくするために裏に図表二というのを持ってまいりました。これをごらんください。
金利を五%とし、同じ
ように毎月の
金利を他社から借りていったケースをグラフにして、二九・二%の
金利で借りたグラフと二つ併せて添付してみました。結局、期間は違いますが、全く同じ模様をしていることが分かります。
したがいまして、社会科学的な方法論では、二つのグラフに共通している普遍的妥当性は、返済をしなければ
金利とは関係なく
借金はいずれ
雪だるま式に増加するという結論になります。「「まわし」現象に見る負債額シミュレーション」といった作為的なグラフによって、高
金利が
多重債務の
原因であるということが喧伝されています。しかし、これは虚構の論理であり、こうした虚構の論理を基に法律
改正を行っても何ら国民の経済的公正を高めることにならないばかりか、かえって、多くの経済学者が
指摘します
ように、年収の低い人たちが貸金市場から排除され、暮らしのやりくりに重大な支障を来す
可能性が大きいのです。中には非合法な
やみ金融に資金を求める人も出てくるため、
やみ金融市場の需要増加を助長する
可能性が高いと思われます。二〇〇〇年の
上限金利引下げでは一兆円程度の資金が
やみ金融に流れたと推測されています。今回の
法改正では、その数倍規模の資金が
やみ金融組織に流出すると推定できます。こうした
やみ金融組織は資金洗浄を行うことが想定できますので、マネーロンダリングに対する監視体制の強化も必要となります。
さらに、今回の
貸金業法改正はマクロ経済面にもマイナスに作用する
可能性が高いと
思います。
上限金利が引き下がりますと、リスクの高い人に信用供与できないのですから、当然クレジットクランチが起きる
可能性が高まります。また、総額規制によって健全に貸金市場を利用している人も貸しはがしや貸し渋りに遭うことが予想され、個人消費に悪い影響が出てきます。
東京情報大学の推定によりますと、今回の
上限金利引下げと総額規制によって、消費者
金融業界だけで八兆円の信用収縮が起きる見通しです。また、信販・クレジット業界のカードキャッシングでも同様の動きが予想できるので、信用収縮額は更に増加する
可能性があります。これが消費やGDPに与えるマイナス面での影響は大きく、せっかくデフレ経済から立ち直った日本経済を再びデフレ状態にしてしまう懸念すらあります。
この
ように、今回の
貸金業改正案はマイナスの副作用が大きいばかりか、肝心の
多重債務解決を実効あるものにできないのではないかと
思います。その
理由は、
多重債務が高
金利によって起きているのではなく、別の
原因で起きているからと考えます。
それでは、過剰
債務の
原因はどこにあるのかということですが、関西学院大学の甲斐良隆教授が
貸金業者から提供された一万九百二十一人のデータを分析した結果では、三種類の破綻プロセスが存在しています。
第一の種類は、年収二百万円前後の低中所得の中高年、しかも労務者や
女性といった社会的弱者のグループです。教育や医療への出費、失業、転職による
収入減少によってやむを得ず
債務が発生し破綻していくケースです。この人たちは
上限金利の低下によって真っ先に貸しはがしに遭う
可能性がありますので、セーフティーネットの強化が必要と
思います。
第二の種類は、交際費やギャンブルといった継続的で嗜好性の強い消費のために
借入れを増加して破綻するケースで、男性の高所得者に際立って多いという特徴があります。このケースでは、個人破産をしても
借金癖が直らず、友人や家族から
借金を続けるという
事例が多い
ようです。こうした
多重債務には
カウンセリングが必要であり、
上限金利を引き下げますとますます
借金を増加する
可能性すらあります。
多重債務者をマスコミは被害者と報道しますが、このケースの
多重債務者を被害者扱いし擁護しますと、自分の行動
責任を社会的に
認識することを妨げるおそれすらあります。
第三が二十代を中心とする若者のグループで、旅行や自動車の購入を目的に無計画に
借入れし、挙げ句の果てに破綻するケースです。こちらも自己破産しても直らない人たちで、
カウンセリングが必要です。
以上をまとめてみますと、年収二百万前後の低中所得者や
女性といった社会的弱者のグループ以外は、消費の誘惑にかてない無計画性の存在が
多重債務の主な
原因と考えられますので、
カウンセリングによる
解決が最善の方法と
思います。
一方、
貸金業者の方にもこうした無計画性を放置した
責任があると
思います。さらに、返済させるのではなく、逆に返済をさせない
ようなシステム、促さない
ようなシステムが商品性に組み込まれていると
思います。
具体的に言いますと、リボルビングという
金融商品の商品性の問題です。リボルビングはクレジットライン、いわゆる借入限度額を
債務者に与えるのですが、返済を行った分だけ借入限度額が増加するシステムでありまして、
債務者にとって、借入残高を自覚するよりも、あと幾ら借りれるかといった
借金可能額をアピールする商品になっています。
貸金業者は信用できる顧客のクレジットラインをすぐに引き上げるのですが、リボ商品におけるクレジットラインの引上げは
債務者にとっては信用力の向上という錯覚を引き起こさせ、中には
借金可能枠を預金残高と勘違いする人もいるそうです。住宅ローンの
ように返済の償還表も配られません。
リボルビング商品は自己管理できる人にとっては確かに便利でありますが、便利さは
借金の誘惑と裏腹でありますので、リボに対する見直しが効果的であろうと
思います。例えば、リボの上限を五十万円に設定し、それ以上の金額はすべて均等返済のみで、すなわちリファイナンスしない商品にするといった
ように、借入元本が確実に減少し、
借金返済に喜びを感じさせる
ような商品に作り替えてあげれば
多重債務問題を好転するのではないかと
思います。
最後に、今回の
改正案における総額規制は貸金市場を健全に利用している顧客にも
多重債務者にも一律に適用されるのであり、かなりのハードランディングが予想されます。したがって、セーフティーネットの強化はもちろんですが、そのコストとして税金を使うのが問題がありますので、そこで
政府系
金融機関によって
上限金利ぎりぎりで小口融資をし、リスクの高い人たちが
お金を借りることができる
ような仕組みを政策として考えるべきであるというふうに
思います。
これで私の意見陳述を終わります。