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参考人(
興梠一郎君) 御紹介にあずかりました興梠と申します。本日はお招きいただきまして、どうもありがとうございます。
余り時間もございませんので、早速、本題に入りたいと思います。
お手元のレジュメをごらんください。今日お話ししたいと思っていますのは四つございまして、まず中国の
外交戦略、対
日政策の変化、
胡錦濤政権の
外交戦略とは何か、そして台頭への
戦略的布石、
周辺外交の展開、最後に展望、流動化する
東アジア情勢、台頭への課題、日本の選択と、主に最後の展望のところをちょっと多めにお話ししようかと思います。
まず、今日の趣旨でございますけれども、日本の今
メディア報道であるとか一般の関心というのは、対日なら対日、対
北朝鮮なら
北朝鮮と、いわゆるバイ、二か国間の部分に非常に焦点が当たっているように私は感じます。
それで、今日ちょっとお話ししたいのは、むしろ
中国外交の全体像というか、全体的な
外交ステージの中で中国がそういった二か国間をどういうふうにとらえているかと、そこにちょっと重点を置いてまずお話ししたいと思います。
まず、最初の項目ですけれども、中国の
外交戦略と対
日政策の変化と。
明らかに変化があったと私は感じます。そこにございますように、対
日重視、中国の
外交戦略の変化から見るということで、対
日重視というのは、これは今に始まったことではなくて、
反日デモというのもございましたけれども、一つの流れとしてここ数年、認識できると思っております。
中国は積極的に対
日関係改善をしてきたというのは、特に昨年の
反日デモ辺りから向こうの
メディアとかいろんな情報を見ていますと、
メディアキャンペーンみたいなものが行われて、日本から学ぼうとか、日本にもいいところはあるんだとか、非常に肯定的な報道が増えておりました。また、靖国問題におきましても妥協点を探るような姿勢が見えてきて、国民といわゆる
軍国主義者を分けるとか、
A級戦犯に特定して議論を進めていくとか、いわゆる日中関係の
ソフトランディング化をねらうような姿勢が非常にはっきりしていたと。
その後、自民党の総裁選であるとか
ポスト小泉政権をにらんでますます積極的な
外交姿勢がはっきりなっていったと。いわゆる
野党外交とか
民間外交とかいわゆる
財界外交とか、中国のお得意の統一戦線的な発想で、周りから囲んでいくというふうな姿勢がはっきりと見られたと。そういった戦略的な部分というのは、実は背景には
外交戦略これ全体の重点的なシフトがあったんです。これが意外と余り議論されておりませんで、それをちょっとお話ししたいと思います。
まず、外交で
経済成長の
環境づくりというのは、これ改革・
開放政策を始めて
トウ小平時代からずっと続いておる
既定方針でありまして、中国の
外交関係者も
経済成長というのを念頭に据えて外交をやれというふうにずっと教えられてきたわけです。
ところが、
胡錦濤政権になりましてからこの政策に若干の重点の変化が見られると私は思います。
経済成長の
環境づくりという点では変わらないんですけれども、例えばその
経済成長の
環境づくりとしましては、対日に限りますと、貿易、投資、
技術導入とかそういったものでやはり重要な日本と、資金と技術と。日本を再認識しようと、これはまあ当然ずっとあったわけで、
反日デモで日本の中で嫌中ムード、中国を嫌うようなムードが国民にも広がっていったと非常に懸念していて、それがビジネスに影響するんじゃないかと
かなり懸念していたと。
中国国内でも、その
反日意識が高まると、御存じのようにこれは政情不安につながっていくと。反日はよく反政府に転換しやすいので、国内のいわゆる
調和社会づくりを
胡錦濤政権は目指しているわけですから、国内的な問題も出てくる。また、
日米同盟が強化されていくと中国は不利な地位に置かれると。例えば、台湾問題であるとか、そういった
安全保障面でも不利になる。台湾の独立派が勢い付くとか、統一に不利になる。いわゆる、国内のいろんな問題に跳ね返ってくるという懸念がありました。
しかし、これは従来から大部分あったわけですけれども、対
日関係の改善の背景に、先ほど申しましたように、大局的な
外交戦略があったと。それをちょっとお話ししたいんですが、まず
周辺外交という
コンセプトなんですけれども、これは日本でも紹介されていますが、これは、中国の内から見た
周辺外交というのはどういうニュアンスがあるかというと、まず中国の現在の政権の認識としましては、
アメリカによって中国の台頭が
封じ込められているという
空間意識を持っていると思うんですね。それが
東西南北から
封じ込めに遭っているというような意識を持っておりまして、すべての政策がそこから出てくると。台頭をしようと思うんだけれども、それを阻止されるのをどうやったら、打破したらいいのかと、そこが一番のポイントなんですね。その結果として対
日政策とか対
北朝鮮政策とか
ASEANとか、そういったものが出てくると。
最近、この周辺というのをちょっと
コンセプトを拡大して大周辺という言い方をしております。これは広く、
ラテンアメリカとか
アフリカとか、そういったものを視野に入れて、
アメリカの世界的な戦略の中で中国の
封じ込めに対してどうやって対応していくのかと。かつての第二世界、第三世界という
コンセプトの現代版なんですけれども、まあそういう認識があると。
そして、対
米重視というところはしかし変わっていなくて、
アメリカに嫌われたら台頭できないという
現実認識もあるわけです。しかし、
アメリカになめられたら駄目だと。ですから、周りに一杯仲間をつくって、理解者を増やしていって牽制していくと、非常に分かりやすい戦略。その
周辺地域というのがいわゆる
緩衝地帯、バッファーになるわけですよね。そこで理解を深めて対等な
足場づくりをすると。
対
日政策ももうその一環であるということだと思います。例えば、近年の全
方位外交と中国でも言っておりますが、ベトナム、
北朝鮮、韓国、
ASEAN、
アフリカ、
ラテンアメリカ、EU、ロシアとか、まあ目まぐるしい
外交活動をやっております。これは多極化の推進と、
アメリカの一極に対する多極で対応すると。できるだけ仲間を増やして、台頭するための
環境づくりをしていく。最終的には
中国脅威論を払拭して、取り払って、そういったいろんな抵抗を少なくしていくと。
対日というのは実はその中でも一番難しい部分だったわけですね。周辺は割かしうまくいっていたと、
ASEANであれ韓国であれ、うまくいっていたと。ところが、恐らく今一番難しいと思っているのは対日と対
北朝鮮だと中国は認識しているんじゃないかと思います。これは、日本の場合は特に台湾が絡むと見ていますし、日米の
同盟強化によって台湾の
独立勢力が強まるとか、そういった懸念も持っておりました。過激な
ナショナリズムが双方で強まれば、これが悪循環になって、先ほど申しましたように、中国は現在、国内いろんな問題を抱えております。格差もありますし、
集団抗議活動というのも頻発しておりますし、反日というものがそういった
ナショナリズムが利用される形で政治的な変動をもたらすこともあると、そういった見方があったわけです。
次に、そういった前提がございまして、
胡錦濤政権の
外交戦略というのはどういったものになっているかというと、そこにちょっと、鳴りを潜め、これは中国語でタオグアンヤンフエイと、
韜光養晦、ヨウスオズオウエイ、やることはやる、
有所作為と、こういったのが元々
トウ小平時代からあったんですね。これは、
天安門事件の後に
孤立状態に追い込まれたときに、鳴りを潜めて黙々とやりましょうということだったんですけれども、最近この
胡錦濤体制になってから後ろの方に、やることはやるというところを非常に重視し始めておりまして、国内のいろんなそういった国際問題の専門家であるとかそういった世論の方も、もう黙っていないで権益を主張するところはしようと、これが今日の日本との摩擦なんかにも出てきていると。日本側がそれを認識しているかどうかということが今後の問題にもなってくると思いますね。
当時、
天安門事件の後は、ソ連が崩壊した結果、やっぱり
社会主義イデオロギーに対する見方とかそういったものが
中国国内でかなり衰えて、
イデオロギー色からの脱却ということで、韓国と
国交正常化をしたりして全
方位外交を進めていくと。つまり、中国は
天安門事件以後、実は
イデオロギーから脱却して国益を前面に据えた
現実外交という世界に入っていったわけです。逆に言えば、
北朝鮮はそこで取り残された形になって、自分の
安全認識といいますか、不安定な心理といいますか、そういったものが非常に高まっていったということも過去を振り返ってみると言えるわけです。
この
胡錦濤時代というのは、先ほど申しましたように、できることはやるという重点にシフトしましたけれども、それが二〇〇三年ごろから
平和的台頭外交戦略という形にはっきりとなって出てきたわけです。これは、WTOに加盟を果たして
経済成長も加速し、かなり自信を強めてきたと。鳴りを潜めるじゃもう駄目じゃないかと、何かやっぱり
国際ルールを自分からつくっていくような気概がないと逆に
封じ込められてしまうと、
経済至上主義でやってしまうと駄目なんだと、そういった意識もあったわけです。
それから、今世紀の最初の二十年というのは戦略的な
チャンスだと。恐らく大きな戦争もないだろうし、中国にとっては台頭の
チャンスだという見方もありましたので、この二十年はしっかりつかもうと。それが二〇〇二年の第十六回党大会なんかでもはっきり提起されたということですね。そして、平和的な環境を活用して
経済成長、それから
中国脅威論を周りとの
協調関係によって払拭して台頭の障害を減らすと。つまり、手段は平和、目的は台頭ということだと思いますね。
その台頭への
戦略布石という次の項目なんですけれども、これは
周辺外交というのが一番の柱になっています。これは
中国国内ではっきり言われておりますけれども、周辺が主要なんだと、大国はかぎなんだと、
発展途上国は基礎なんだと、
多国間外交は舞台なんだと、これ繰り返し繰り返し出てくる
戦略論なんですね。これはどういうふうに解釈するかというと、従来は対
米重視だったわけですね、
江沢民時代なんかもそうですけれども。そういう対
米重視にした結果何にも得られなかったじゃないかと、逆に
アメリカから結構いろんな注文付けられて不利な状況に置かれてしまったと。ですから、周辺を固めて
アメリカといろいろやり合っていこうと。ですから、
大国外交というのを非常に重視するようになりました。
同時に、大国ばかりに目をやっておりますと、台湾問題なんかでやはり
アフリカとか
ラテンアメリカとか、こういうところを押さえておきませんと
独立勢力へ一票入るということになってしまうということで、やっぱり多国間は基礎なんだと、これは国家の利益において基礎なんだと、あっ、ごめんなさい、
発展途上国は基礎なんだということになるわけです。
多国間というのは何かというと、多国間といろんな関係を結んで、そこで自分の力を、力量を見せて、例えば六か国協議なんかも典型ですよね。あれで中国が問題を解決できるんだと、平和的にやれるんだと、
東アジアの
秩序形成者なんだということを世界じゅうに見せることによって、ああ、中国は怖くないんだと、こういった平和的な
問題解決をやれる力量があるんだと。これが敵をなくして台頭へのサポートを増やしていくと、こういった戦略になるわけです。
多極化は、先ほど申しましたように、
アメリカの
封じ込めというのはやっぱり意識しておりまして、
緩衝地帯の拡大であると。これは伝統的な中国の戦略で、
毛沢東時代からあった第二世界、第三世界論というやつになるわけですけれども、その結果、
積極外交というのを非常に展開しておるということになります。
この重点のシフトの理由というのは、先ほど申しました、やはり対
米重視によるデメリットが大き過ぎるんだというところからまず始まったということです。逆に言えば、その対
米交渉力をどんどん強化するためには自分の戦略的な価値を上げなきゃいけないと。要するに、中国がいないと
北朝鮮問題は解決しないんだとか、中国がいないと
アメリカは困るんだというふうな意識を持たせることによって自分の空間を増やしていくと、そういった認識があるんだと思います。
ですから、一方で
アメリカの
封じ込めを嫌に思いながらも
アメリカとは
パートナーであると。
アメリカから例えば
ステークホルダーと言われたということで、ああそうなんだ、
アメリカは私たちを
利害関係者と見ているんだということを前面に押し出して、
アメリカとは一緒にやっていくんだということを見据えていくと。ですから、これは全く矛盾しておりませんで、先ほど言ったような戦略的な配置があって、こういった計算の下でなされていると。
次にちょっと御紹介申し上げたいのは、この「台頭への
戦略的布石」の中の二つ目ですけど、四つの
外交環境。これは直接に
胡錦濤国家主席が指示したと、二〇〇四年に指示したと言われているんですね。平和で安定した
国際環境、親睦・友好の
周辺環境、
平等互恵の
協力環境、客観的かつ友好的な
世論環境。これちょっと説明しますと、つまり、中国のこれからの
国家建設のためには安定した
国際環境は必要である。そのためには周辺を固めなさいと、周辺と仲よくしよう、これは日本も入るわけです。お互いにいろいろ利益を分かち合っていこうと。最後がなかなか面白くて、これは友好的な
世論環境、世界から中国の
イメージはどうなっているか、世界が中国をどう見ているか、中国を好意的に見てくれるようなことをやりましょうというのが入っているわけです。ですから、先ほど言いました大局的な
戦略論というのは、やっぱりこういった
国家指導者の指示にもはっきりと見て取れると言えると思います。
次に、米国の
封じ込め突破、
周辺国家と関係を緊密化、これは先ほど申しました。
具体的にはどういうふうな意識を持っているかといいますと、
アメリカは、
日米同盟で
封じ込め、台湾問題でもいわゆるいろいろ言ってくると。又は西の方から、
中央アジアからもかなり戦略的な配備をやってきていると。あとはモンゴルとかインドとか、いわゆる中国を取り囲む形で
関係強化を図っているじゃないかと。まあこれが実際にそうかどうかは別として、こういった認識を持っているということは非常に大事だと思うんですね。そういった認識を持っていて、それからいろんなことが行われるということですから、こういった
自己イメージというのをちょっとはっきりと知っておく必要があるんではないかと私は思います。
周辺国家との
関係緊密化では、ここに睦隣、安隣、富隣というのがある。まあ周りと仲よくして、これは主に
アジアですけれども、
アジアを安定さして、最終的には
アジア全体が豊かになるんだという、こういった地域に視点を置いた戦略を打ち出してきていると。ですから、これは、ロシアとか
中央アジアとか韓国とか
北朝鮮とか
ASEANとか、そして日本とか、こういった国に対して積極的に手を差し伸べて仲よくしましょうと、
アジアのためなんだといったような姿勢を見せてきているというところでも分かるわけです。
最後の「展望」でございますが、そういったいろんな
戦略的配備がありまして、じゃ、現状ではどういった問題があるかということにちょっとお話ししたいと思うんですけれども、まず流動化する
東アジア情勢という、これは私がちょっと今感じていることでございまして、台頭の課題というのも実はあるんだと、中国の
平和的台頭戦略というのがあるにしても課題もあるんだと。これもちょっとお話ししたいと思います。そして、最後には日本の選択と。じゃ、日本はこういった中でどういったふうなことをやるべきなのかとか、それをちょっとお話ししてみたいと思います。
まず、
平和的台頭のための
周辺調和、対日方針、
日米同盟強化へのくさびというふうにちょっと書いたんですけれども、これはもう先ほど若干お話ししました。
胡錦濤政権の一番のスローガンというのは、国内の
調和社会、それから派生する外における
調和社会、つまりこういった調和というのを、ハーモニーですね、これを前面に置いたいわゆる路線なわけです。これが実はリンクしていてうまくいくんだと、
国際環境をうまくできれば国内にも圧力は減るだろうと、逆に国内もしっかりやれば外交的ないろんな空間も増えると、そういったふうな見方なわけです。
まず、
平和的台頭の
外交空間という面では、やっぱり、何度も申しましたけれども、対
米関係なんだ、対
米関係がかぎなんだと。主要は周辺だけれども、やっぱり
アメリカに嫌われてしまったら中国は台頭できない、それが第一の認識。次に、それに対抗する形で、周辺であるとか大周辺で仲間を増やして多極化で対
米牽制力を強化すると。
アメリカと協力できるところは協力していって、自分の
存在価値を高めて、戦略的な
パートナーとして力を付けていくと。そういった台頭をするためのいろんな手段を考えていると。
対
日関係改善の中では、実はこれは
日中米関係で、
アメリカが主導権を握っていることを非常に中国は懸念していたという部分がありまして、
日中米と比べたときに
アメリカが一番いいポジションにいるんじゃないかというふうなことを感じていますね。
それはどういったところに出てくるかというと、例えば
アメリカが、今回、
北朝鮮問題なんかでも、例えば中国に全面的に表に出ていろいろ調停をやってもらっているというような認識が中国側にどうもあるようですし、例えばそれで中国が失敗したら、やっぱり中国は下手くそじゃないかとか、余り力がないじゃないかということになってしまうけれども、成功したら、結局、
アメリカの方にメリットがあるというようなことも言っていますし、この
北朝鮮問題で日本とか中国とか韓国とかが矛盾が目立つことも、実は日本、中国にとっても余りいいことではないんじゃないかと。つまり、そういった
アメリカに対しての
かなり懸念みたいなものが前提にありまして、やっぱり
日中米のこの三か国の中で
アメリカが主導権を握っているのはどうも良くないと。
それが台湾問題なんかにも出てきていると見ているわけですね。中国が日本をどんどんあちら側に追いやると、
アメリカ側に追いやると、結局、
アメリカと日本の関係が強くなって、台湾問題なんかでもかなり介入されてくると。じゃ、やっぱり日本との関係を強めることによって
アメリカからも一目置かれるような立場に置かなければいけないということで、かなり日本との関係というのは、そういった対台湾問題であるとか、今、
東アジア全体のそういった
周辺環境という立場から緻密にはじき出してきているような印象を私は受けます。
また、この対
日関係でいえば、これはもう技術と資本というのは、先ほど申しました中国の
経済成長にとっては、これはもう日本の技術、環境問題でも何でもそうですけれども、やっぱり日本の技術と資本というのは絶対に必要であるという認識は、これは経済面では当然あると。
次に、
北朝鮮をめぐる中国の思惑という、一番これ今注目されている部分ですけれども、私のちょっと見方というか、中国側もどう見ているかというのもちょっと紹介したいと思うんですけれども。
アメリカの
中間選挙もありましたし、かなり変わってきてはいるんですけれども、まず
北朝鮮の崩壊を絶対避けたいというのはもう最終的な
ボトムラインというか、それは絶対に譲れないラインだという感じですね。これはもう御存じのように、難民が出てくるとかいろんな問題があると。中国の
東北地方というのは元々失業率も高いですし、そこへのインパクトも考えられます。また、朝鮮族の人たちもいますし、そこで何らかのそういった
独立運動のようなものに火が付くのも怖いでしょうし、とにかく何にも崩壊したらいいことはないと思っていると思います。
かつて、
朝鮮戦争で
アメリカと敵対して、その後長いその
経済成長の
チャンスを失ったわけですから、やはり
経済成長を前面に置けば置くほど対
米関係というのが悪化するのが怖いと。ですから、戦争にも絶対持ち込みたくない、これはもう中国の
公式見解の中に繰り返し繰り返し出てくることで、本音だと思います。
そしてまた、これは
東アジアの核ドミノ、これはもう言い尽くされた感じがありますけれども、これは
アメリカとは利益が中国は一致しているわけですよね、既得権益者としての、戦後秩序の。ほかの国には絶対核は持たせたくないという面では、これは一致しているわけですから、ここは
アメリカとかなり話が合うところで、
東アジアの秩序形成という面でその辺を前面に出していく可能性があるわけです。
あとは同時に、しかしやっぱり制裁に関しましても何にもやらないという姿勢もまずいと。これは
平和的台頭にマイナスである。先ほど申しました胡錦濤主席の言う友好的な国際世論、つまり中国って何なんだと思われるのは困るわけですよね。やっぱり何かおかしいものにははっきりとおかしいと言う、そういうものを見せなきゃいけないわけですから、これはやっぱり制裁はしなきゃいけないと。
しかし一方では、やはり
北朝鮮というのは最終的なカードとしては取っておきたいと。これは対日・対米不信というのは中国はなくなっていないわけですから。これは、例えば
アメリカが中国の台頭を
封じ込めるならば、日本もそれでワンセットだと見てますんで、
北朝鮮を相手側に追いやってしまったら、中国の戦略カードは何もなくなってしまう。例えば、
北朝鮮問題があるからこそ中国のプレゼンスがあるわけで、それを解決していくことによってまた非常に大きな利益も得られるということですから、ここがジレンマかなと思います。
北朝鮮にまた圧力を加え過ぎれば、当然、
北朝鮮は
アメリカ側に行ってしまうという懸念も持っているんですね。これは、
東アジアの情勢が非常に流動化しておりまして、実はもう中国が韓国と国交を正常化した時点で冷戦は終わっているという感じですね、中国側から見れば。しかし、そこから後は、もう
イデオロギーとかそういったものではなくて、国益を前面に出した外交をやってきておりますので、分かりやすく言えば
経済成長ということですよね。そうしたらば、
北朝鮮とのずれがどんどんどんどん目立っていくということになるので、逆に言えば、じゃ制裁に一緒に加わってがんがん締め付けましょうということになると、ここから後はこれは新しい国益の問題になってくる。なぜかというと、冷戦が終わったと中国が認識している一方で、まだ終わってないとも認識している。それはやっぱり
アメリカが中国を
封じ込めているという認識を持っておりますから、
北朝鮮を、じゃ国益重視でがんがん相手に追いやるようなことをやると、逆にこれは新しい国益、つまり
北朝鮮が核を持った親米国家になるという悪夢もあるわけですよね。
これはもう、恐らく核を持っちゃったということは中国はある程度もうあきらめざるを得ないような状況になっておりまして、だったらもう核を持った後どうなるんだろうと。最近よく中国で出てくる議論が、インドみたいになったらどうしようと。インドは
アメリカがいわゆる中国を牽制するために核開発の面で協力しているというふうに中国は見てますから、
アメリカのその核の不拡散というのは限定的なものだと中国は見ているんですね。要するに、自分にとってメリットのある国には寛容に対応するじゃないかという議論が最近、中国でかなり出てきていると。それを考えると、
北朝鮮の核というのは必ずしも
アメリカに向いたものではなくて、最終的に自分に向いてくる可能性もあるということで、ますますこれは制裁というものが取りにくい環境になっていると、こういったジレンマがあるんじゃないかと思います。
最終的にはこの六か国協議というのは自分が主導権を握る形でまとめたいと思うんですけれども、最近の情勢を見てますと、米朝の接近もある可能性も出てきますし、できるだけ
アメリカ主導の朝鮮半島になるということを避けたいという、むしろ受け身の対応にこれからかなりなってくるんじゃないかなと。ただ、最終的に相手に追いやることだけは絶対したくない、このカードは取っておきたい、一定の影響力は残しておきたいというのがあるんではないかと思います。
次に、この台頭への内なる課題というんです。これは割と余り外交で議論されないんですが、実はもう御存じのように、台頭が成功するかどうかという議論もしないといけないですね。台頭の前提というのは
経済成長の持続ですから、中国の経済が持続的に成長するかどうかという問題が実は大きな議論なわけです。
今日これをやってしまうと随分時間掛かりますから、二つだけポイントですけれども、一つはやっぱり格差の拡大と民衆の不満の増大と。過去十年ぐらいでもう十倍ぐらいに抗議活動が増えていると、七万件、八万件に達していると。突発性の抗議活動なんかかなり増えてきている。これは
経済成長のパターンそのものに問題がある。例えば、強硬な地上げをやって、民衆の利益を無視する形で
経済成長が進んでいるとか、あとは、経済構造の面で見ますと、外資に非常に依存していて、例えば貿易の六割は外資系企業がやっているとか、技術力はやっぱり海外に依存しているとか、あと財政赤字の問題、公共サービスの欠如、銀行の不良債権とか、いろんな問題があります。
ですから、中国は今後、グローバル化と市場化に乗り切れるか、その波に乗り切れるかという問題も実は議論しないといけない。中国の
経済成長が停滞しますと資源外交も変化してくるわけですよね、資源への需要が減りますから。今はむしろ、
アフリカとか
ラテンアメリカとかに、資源を買うから逆に私のものも買ってくださいよと、中国製品を買ってくださいよと、こういったバーター的な感覚でやっていますけれども、資源への需要が減ったときに、資源というものはカードでなくなってくる可能性もあると。
ですから、これはもうこれ以上お話ししますと本題からそれますのでやめますけれども、やはり中国の台頭は可能なのかということが大前提にあってでの中国の
外交戦略なんだと、これはまだある程度クエスチョンの部分も実はあると。
最終的に、じゃ
東アジアはどうするのか。一体化への流れというのはこれは事実なわけで、しかし
安全保障の枠組みが後れているということなわけです。
例えば、
アメリカと
北朝鮮が和解したというようなことになった場合、これは
東アジアの情勢は一挙に流動化する可能性もあると。今まで我々が見ていた世界とは変わってくる可能性が出てくると。朝鮮半島の統一という問題は私はまだ何とも言えませんけれども、例えば統一された場合にどういった朝鮮半島になるのかと。親米、親日なのか、それともそうではないのか。そういった問題も出てきますし、核を持っているという問題も、そのときには違ったニュアンスになってくるんではないかと。
東アジアにおけるそういった本当の意味でのポスト冷戦というのが起きた場合に、EU的なニュアンスに転換していくのか、それともお互いに軍拡競争に走って緊張が激化するのかと。恐らく、そういった非常に大きなテーマが目の前にぱかっとこう出てくるんじゃないかと思うんですね。
で、
東アジアというのは、これはそういった
安全保障とは別に、貿易の相互依存関係というのが急速に高まっておりまして、域内貿易も非常に増えておりますし、EUに迫る勢いで域内貿易が、域内のこの経済依存が強まっていると。しかし、政治、外交、
安全保障の枠組みというのは非常に流動的で、例えば東シナ海の問題なんかもそうですけれども、ちょっと間違えば大変な問題になりかねないような緊張をはらんだ地域であると。
日本は、ではどうしたらいいのかという問題なんですけれども、非常に大きな問題ですが、やっぱりこれからお互いに食い合ってばらばらになっていく
東アジアなのか、まあ月並みですけれども、一つのシステムをつくって共存共栄でやるのかと。これは日本と中国というのは非常に大きな要因になってくるわけですね。
ですから、こういった中国の近隣外交というのをずっと紹介してきたわけですけれども、中国は、先ほど申しましたように、
アジアが豊かになるということ、富隣というのを先ほど、富める近隣という政策を出してきておるわけですから、例えばガス田の問題なんかでも、日本と中国というのは、ただ対立し合うだけではなくてお互いに利益を分かち合う、痛みも分けるという方針でいかないと、こういった経済の一体化の状況にはどうも合わないんじゃないか。じゃ、日本は今後どうするのかという問題を、
北朝鮮の核実験の問題を契機に、流動化する
東アジアということからもう一度考え直す必要があるんではないかと思います。
以上で私の話を終わらせていただきます。