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長勢国務大臣 信託は、今おっしゃったような形で発展をしてきておるわけでございますが、
自己信託、昨今の情勢の中でいろいろなそういうニーズがふえておるということで導入しようとするものでございます。
一つは、商事的な分野におきましては、債権を初めとする資産の流動化により資金を調達するための利用とか、あるいは企業の特定の
事業部門からの収益を引き当てにした資金調達をするための利用というニーズがふえておるわけであります。また、民事的な分野でも、障害者等のための利用というニーズがあるというふうに認識をいたしております。
資産の流動化に関しては、現在は
信託銀行等で行われているわけですが、
自己信託を入れることによって、
一つは、貸付債権を流動化しようとする場合には、どうしても債務者が債権者の変更に難色を示すということがあるために、この障害を取り除くためには、
自己信託によって債権者の変更がないということになりますので、非常に流動化がやりやすくなる。また、
信託銀行等を利用すればコストがかかることになりますので、そういう
意味では、
自己信託であればコストが節約できる。また、リース債権などの小口かつ多数の債権を流動化しようとする場合には、
信託銀行等を
受託者とする場合には
権利を移転するための手間がかかるというようなことでありますので、こういう障害を取り除く上で
自己信託は大変いいのではないかということが言われておるわけであります。
また、企業の持つ特定の
事業からの収益を引き当てにした資金調達のための
信託ということに利用するという場合には、もちろん会社分割とか
事業譲渡等の手段によって資金調達を行うことも可能なわけでございますが、その場合には、従業員の問題ですとかあるいは機密の問題ですとか、会社の設立、維持のための費用の発生といったようないろいろな問題も生じますので、こういう場合も、
自己信託ではこういう問題は出ないというメリットがあるというふうに考えております。
さらに、障害者等のための
自己信託の利用がふえると言われておるわけでありますが、御存じのように、身体障害や知的障害を抱える人の生活を経済的にサポートしようとするために、みずからの有する
財産の一部を
自己信託するということが想定をされております。
障害を抱える人のためには、贈与という形でもできるわけでありますが、その場合には、障害者御自身が
財産を
管理するということが困難である場合もありますので、
委託者自身が
管理を行いながら、障害を抱える人のために必要に応じて給付を行うということが可能になるというメリットがあるというふうに考えております。
今御
指摘のように、この
自己信託には、いろいろ弊害といいますか、問題もあるのではないかということも一方で言われておるわけでございます。
まず心配されておるのは、資産
状態の悪化した債務者が債権者からの強制執行を逃れるために
自己信託を利用するという
懸念があるのではないかということでありますので、
信託法案においては、
自己信託は
一定の様式に従った公正証書等の書面によってすることを要求し、これにより
自己信託の
内容等を客観的に明確にするとともに、債権者を害する
目的で事後的に
自己信託がされた時期をさかのぼらせることができないように手当てをいたしております。
また、
自己信託以外の
信託では、裁判所によって詐害
信託の取り消しがされて初めて
委託者の債権者は
信託財産に対して強制執行することができるのに対しまして、
自己信託では、
委託者の債権者は、詐害
信託取り消し訴訟を提起することなく、直ちに
信託財産に対して強制執行等ができることとしておるわけであります。
さらに、不動産のような登記、
登録制度のある
財産については、その
財産が
信託財産である旨を登記、
登録しなければ、
自己信託の
信託財産であることを
第三者に対抗できないということにもいたしております。
また、執行逃れの
目的を含めて何らかの不法な
目的によって
信託を利用した場合には、
公益を確保するという見地から、裁判所が、
法務大臣または
委託者の債権者等の利害
関係人の申し立てにより、
信託の終了を命ずることができることといたしておりますので、一般的に、不法な
目的による
信託の利用への対策は講じておるものと思っております。
さらに、会社がその
事業の全部または重要な一部を
自己信託することもあり得るわけでありますが、会社の株主の意思決定を経ないままこのような
自己信託を行うこととなりますと、会社の株主の
利益を著しく害するということも
懸念されます。そこで、会社の
事業の全部または重要な一部の譲渡について株主総会の承認が必要であるとした会社法の
規定が
自己信託の場合にも適用されることを明確化しておりますので、このような態様での
自己信託にも株主総会の承認を要するということになっておるわけでございます。
以上のように、
信託法案のもとでは、
自己信託の濫用防止のための各種の
措置を講じておるものと考えております。