○
小野参考人 弁護士の
小野でございます。
ただいま
能見教授より
信託法全般にわたりまして御説明がありましたので、私からは
弁護士としての
実務家の
視点から、今般の
信託法改正についての
意見を述べたいと思います。
当然のことながら私
個人の
意見ではございますが、
発言中に、
弁護士会または
日弁連というふうに述べる場合があります。これにつきましては、基本的に、
日弁連の正式な
意見書等において述べられている
見解、並びに、今私が
信託法関連の
委員会に属しておりますので、そこでの
総意、また、
担当理事、
事務局長、
事務次長の
意見ということで御理解いただければと思います。
時間も限られておりますので、私からは五つの点について申し述べたいと思います。
まず、今般の
信託法改正に対する
日弁連の
見解、
評価。それから二番目に、この点が一番重要だし、本日強調したいところでありますけれども、
民事信託、よりわかりやすく申し上げれば、
福祉信託に対する
弁護士及び
弁護士会の
取り組み。三番目が、
中小企業の
資金調達その他
事業承継にとっての今般の
信託法改正の意義。四番目が、
受益者たる
投資家保護の
視点。
最後に、
信託法改正につきまして
濫用を懸念する声があるようでございますが、そのようなことはないということにつきましても明らかにしていきたいと思います。
日弁連の
取り組みについてですが、今回の
信託法改正につきまして、
法制審議会におきましては、私を含む
委員または
幹事ということで三名が参加しておりました。また、その三名の
弁護士委員を、または
幹事をサポートするということで、
バックアップチームと呼ばれる
委員会が結成されまして、会内での積極的な
意見が取り交わされ、なおかつ、現時点におきましても、
信託法、
信託業法改正チームという
委員会がありまして、この
信託法及び
信託業法改正について注意深く見守っている次第でございます。
日弁連の
意見は、本日
資料としてお渡ししておりますけれども、
中間試案、
改正要綱試案に対する
意見というところで明確に述べられておりまして、五点ございます。
まず第一点としましては、
民事基本法としての
信託法の
位置づけということをぜひ明確にしてほしい。二番目といたしましては、そうした法理論的な面だけではなく、法政策的にも
民事信託が重要であるということも認識してほしい。三番目には、
信託が基礎とするところの
法律関係、
社会関係は大変複雑かつ深刻であり、
専門家の
関与が必要不可欠であり、
民事信託の
担い手としては
弁護士の
積極的関与が必要であること、言いかえれば、
法律事務に関する処理として
弁護士が適切な
紛争解決の方法として
受託者となることについても当然認められること。四番目に、
信託の本質を損なわないという限度であれば、
任意規定化ということについては了承する。
最後になりますけれども、五番目としましても、多様な
信託の
ニーズということにこたえる
意味におきましても、
濫用防止措置がとられる限りにおきましては、そうした新しい
信託の設計についての
制度の
導入については反対をしないということでございました。
それで、今般の
信託法改正案そのものですけれども、私の
意見でも、また
日弁連の
総意といたしましても、基本的に賛成でございまして、
日弁連の示しました要請に対して十分こたえるものであるということでございます。
具体的に細かい点を申し上げても、ちょっと時間の
関係もありますけれども、
受託者責任が明確にされていること。また、
受託者の
補償請求権というものが、現在の
信託法と百八十度転換され、制限され、
受益者保護の
徹底が図られていること。三番目といたしましては、
後継ぎ遺贈型の
受益者連続信託、
遺言代用信託など、
高齢化社会を踏まえました新たな
信託制度の構築がなされていること。四番目といたしましては、
自己信託につきましても、後ほど詳しく述べさせていただきますが、
民事信託における利用というものも十分考えられますし、また、
中小企業等における
資金調達、
事業承継にも十分役立つものであるということ。五番目といたしましては、
目的信託につきましても、非
営利活動への
民間資金の
導入という、
民間の自律的な
活動による
社会インフラの
整備という
観点から十分役立つことが期待できること。この
論点についての
最後になりますけれども、
自己信託、
目的信託、
限定責任信託など、新しい
信託制度につきましても十分な
弊害防止措置がとられているというところでございます。
かような
意味におきまして、
日弁連といたしましても、今般の
信託法改正について十分
評価しております。
ところで、最大の
関心事というのがございまして、この点が今日私が強調したい、また
日弁連として強調したい点でございますが、先ほど申し述べましたように、
弁護士が
民事信託の
担い手として認められるか否かという点でございます。
この点につきまして多少詳しく述べさせていただきますと、
民事信託という
言葉自体、幅広い
意味で使われますので、ここでは
福祉信託という
言葉で理解していただいた方がよりわかりやすいかと思いますが、具体的な例として三点申し上げますと、まず、親亡き後の問題と言われる
論点でございまして、これは
身体障害や
知的障害を持つ子がいる場合の親が死んだ後の子の将来の
生活保障に対する不安、これを解決する手だてとして
信託の活用というものが考えられるということ。二番目としましては、
配偶者が病弱であったり、また
配偶者の
財産管理能力や
財産をめぐる親族間の争いに対して不安がある場合、この点につきましては伴侶亡き後の問題というふうに言われておりますが、この場合においても
信託が有効に活用できるのではないかということ。三番目といたしましては、以上のまとめのような形になるかもしれませんけれども、その他、高齢者や障害者の
財産管理または死後の事務処理などにおける
信託の活用というものでございます。これらについて、
福祉信託ということで御理解いただければと思います。
これらにつきましては、
財産をめぐる複雑な人間
関係に起因するところの争いというものが当然ございますし、数多くの法律問題を抱えております。したがいまして、
担い手ということが一番重要なポイントになるかと思いますが、
弁護士がその
担い手となるということがまさしく市民が期待しているところである、このように
弁護士会、
日弁連といたしても強く信ずるところでございます。
なお、付言いたしますと、その他
民事信託と言われるものにつきましては、少子
高齢化社会におきまして
財産承継を円滑にするということでの、今般法
改正に
規定されております
後継ぎ遺贈型の
信託、
後継ぎ遺贈型の
ニーズというのがございまして、これにつきましても新たな
制度が
導入されていることは既に御承知のことかと思います。
先ほどの、
弁護士は
福祉信託の
担い手となることができるかという点について、
制度上検討していただきたく、なおかつ、ぜひともそれが可能であるということを明らかにしていただきたい問題点というものがございます。
それは何かと申し上げますと、
信託業法の適用対象となる
信託業というものが、営利目的を持って反復継続するか否かということで判断されるということでございます。言いかえますと、収支相償うことということによって判断されるということでございまして、
弁護士が事案の妥当な解決といたしまして
福祉信託の
設定を考え、報酬を得まして
受託者となるということが、この収支相償うことに該当するということで、そういう行為は
信託業に該当するのではないかという懸念があるということでございます。
仮に、
信託業法の適用があるということになれば、参入資格は株式
会社に限られておりまして、
弁護士個人または
弁護士会ということで取り組むことはできませんし、なおかつ、
弁護士でございますから
弁護士自治というものが極めて重要ではありますけれども、金融庁の監督下に置かれるということになりまして、
弁護士会としても到底受け入れることはできません。
もちろん、
弁護士会といたしましては、
信託業法の適用があるという
見解を持っているわけではございませんが、あいまいであるということは確かでございまして、
弁護士が業法
違反を問われることなく
福祉信託の
担い手となるために、
信託業法の適用がないということをぜひとも明らかにしていただきたいと思います。
より具体的には、今般の
信託業法の
改正あるいは近い将来に行われます
信託業法の
改正におきまして、
弁護士が
福祉信託の
担い手となることにつきまして
制度上明確に許容していただきたい。そのためにも、
信託業法における営利目的という単一、抽象的な概念をそのまま
弁護士による
福祉信託に当てはめるということにつきましては、そのようなことがないようにしていただきたいということでございます。
なおかつ、それまでの間の時間というものがございますから、解釈論といたしましても、現行法におきましても、
弁護士が
福祉信託の
担い手となることは許容されているということをぜひとも明確にしていただければと思います。
このようなことが達成されますと、今般の
信託法改正の中で、国民生活に最も密接に関連する
福祉信託の積極的な活用というものに大変資するものであると強く考えるところでございます。
以上につきまして、何点か付言をさせていただきますと、今般の
信託法改正におきましては
限定責任信託が
導入されることになりますが、
弁護士が
福祉信託の
担い手となる場合を考えた場合でも、やはり
弁護士が
責任を無限に負うというような
制度は妥当ではなく、こうした
限定責任信託というのは重要な機能を果たすということ。また、今般の
信託法改正におきまして
自己信託が
導入されることになりますが、
委託者がみずから
受託者となることがふさわしい場合、例えば
財産管理能力に乏しい未成年の子女や障害児を抱える家庭におきまして、その親御さんが
自己信託を
設定するということを考える場合に、
福祉信託における
自己信託の利用というものも十分普及すべきであるというふうに考えます。
三番目の
論点に移らせていただきます。
この点は、先ほど申し上げましたように、今般の
信託法改正と
中小企業による
資金調達、
事業承継との関連でございます。新しい
信託制度というものが、みずからの信用力だけでは十分な
資金調達を賄うことができず、かといって、十分な不動産たる担保というものを提供できない
中小企業にとりまして、
資金調達におきまして大変新たな局面を開く可能性があるという点でございます。
まず第一点目でございますが、今般の
信託法改正におきまして、いわゆるセキュリティートラストというものの利用が明確にされます。シンジケートローンにおきまして担保を
設定するということが容易になります。言いかえれば、
中小企業の信用力だけではなく、担保の価値というものに応じたファイナンスというものが可能になります。
次に、この関連でございますが、
事業用
財産を
信託するということも可能になりまして、そうしますと、シンジケートローンにおきまして、
事業自体、言いかえますと、
事業からのキャッシュフローというものを担保とすることも可能でございます。また、
自己信託が認められることと限定
責任を併用することによりまして、
事業主体を変えることなく
事業信託が認められ、受益権をファイナンスのツールとして利用することによりまして、従来の金融とは異なる新たな
資金調達の道を開くということも可能です。
また、
事業承継につきましても、この
自己信託、新しい
信託制度というものが有用である点についてもちょっと述べたいのですけれども、時間に限りがありますので割愛させていただきます。
それから、四番目の
論点といたしまして、
投資家保護の点について述べようかと思った次第でございますが、時間も限られておりますので、
最後の
論点といいますか、
信託法改正の意義と、
信託法が
濫用にわたることもあり得るのではないかという懸念に対する反論ということで、
一言述べさせていただきます。
信託法の意義でございますが、繰り返し述べましたように、民事、商事両方の
信託法のプラットホームとして、単なるビークルとしての機能だけではなく、国民の生活、経済にわたって細やかな配慮をすることが可能でございます。
ところで、
自己信託につきまして、例えば
財産隠匿の可能性があるのではないかという御懸念もあるようでございますが、隠匿という
言葉そのものからして、自己名義のままで隠匿ということ自体、もともと観念しがたいことでございます。
また、
自己信託につきましては、いわゆる他益
信託型と
自己信託型、この二つが考えられると思いますけれども、他益
信託型というのはいわゆる贈与型ということでございますが、
債権者を害するような贈与がなされれば、当然詐害行為取り消しの対象になりますし、今般の
信託法は、詐害行為取り消し請求を待たず、より直接的に
債権者が強制執行等可能であるということで対応しております。もちろん、要式性も必要とされておりまして、この点何ら問題がないように
制度設計されていると思います。
また、
自己信託が商事目的で利用される場合、先ほどの
中小企業の
資金調達等がございますけれども、その場合には、受益権を相当な対価で必ず販売するわけですから、それに見合う金額、金銭が
固有財産として
中小企業に入ります。また、
自己信託の受益権を販売する前という状況にございましては、何ら
委託者兼
受託者の
財産状態には変わりはないということで、その点についても問題はありません。
この点につきましては、
信託の
設定行為が
契約か
信託宣言かによるというだけの違いでございまして、でき上がりの姿というものは、
受託者がいて
受益者がいるという姿でございます。
信託法というものは、
受益者が
受託者を監督する、またそれが十分できない場合には、例えば
信託監督人を置くとか、そういう
制度によって担保されているものでございまして、
信託設定行為が、
自己信託、
信託宣言によるのか
契約によるのかということは、本来重要なことではございません。
また、先ほど来申し上げておりますように、また
能見教授からの御
意見にもありましたように、今般の
信託法改正案におきましては、
受託者の
義務履行の確保のためにさまざまな
義務が明確化され、これに
違反した場合の
受託者の
責任ということも明確にされておりまして、
受益者の
保護に資するべく
制度設計がされております。
まとめということで、もう一度繰り返して申し上げますと、
信託制度というものは、国民生活の隅々にわたりまして細やかな目配りが可能な
制度でございまして、新
信託法がもたらしますさまざまな可能性や我が国の
社会経済に対する有用性を考えた場合、この新
信託法による
濫用の懸念をいたずらに強調することによりまして、長い間、学界、
実務界の検討の成果でありますところのこの
信託法の理念及び意義というものが見失われてはならないものと強く思う次第でございます。
以上です。(拍手)