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寺田政府参考人 今御
指摘のありました
自己信託、これは、
信託を設定する
方法といたしまして一番多く用いられるのは
当事者の合意、
契約によるものでありますけれども、そのほかに、遺言とこの
信託宣言が今回新たに認められるということで、従来の
二つに加えましてさらに
一つ、
三つ方法ができた。その
最後の
三つ目の
方法によるものであります。
これにつきましては、新しい
方法ではありますが、
信託の
先進国であります
英米法でもこういうものは認められておりますし、理念的にまず申し上げますと、
信託といいますと、私どもはどうしても
委託者が
受託者に
財産を譲渡するということを考えるわけでございますけれども、
信託全体の理念から申しますと、
委託者というものの比重というのは、
信託が行われた後はそれほど大きいものではない。つまり、どちらかといいますと、
委託者はもう
財産はそこで処分してしまうのに近い形になるわけで、後は
受託者と
受益者の
関係が非常に重要になるわけであります。そういう
意味では、この
自己信託というのも決して
信託の
制度として違和感のある
制度ではないということをまず申し上げたいと思います。
次に、ただ、これはどうしても、
財産隠し等に
利用されるのではないかという声が、この点について非常に、
利用しやすくなって結構な
信託法の
改正だけれども、ここはどうも問題があるのではないかという御
指摘が非常にこれまでも見られたわけであります。
ただ、
財産隠しというのも、なかなか考え方が難しいところでございます。まず、普通の
意味での
財産隠しということになりますと、これはいわば
委託者兼
受託者になるわけでありますけれども、その人の手元に
財産がそのまま、形式的にはその人の
所有のまま置かれるわけでありますから、別に、
財産を隠すのであればもっと巧妙な
方法というのは幾らでもあるわけであります。しかし、おっしゃる
趣旨は、今
大口委員がおっしゃったように、この場合の
財産隠しの
批判の
意味でございますが、これは多分、
債権者を害する、つまり、あたかも外形的には前と同じような
所有形態にありながら、行ってみたらそれはもう
受益者のための
拘束がかかっている、こういう状態になる、そのこと自体を御
批判になっておられるんだと思います。
これにつきましても、これを
審議いたしました
法制審議会での
法律専門家の御議論では
三つほど
意見がございまして、
一つは、これはやはり問題だ、同じように
債権者を害するおそれがあるという御
意見。しかし、これは、
第三者に譲渡される、
受益者の
拘束がかかるという
意味では普通の
財産譲渡とちっとも変わらない、したがって特に普通の
詐害行為の
取り消し以上に
債権者の
保護を考える必要はないのではないかという御
意見。
三つ目に、理屈の上ではそのとおりではあるけれども、ただ、現実問題として、やはり少し
気持ちが悪いと。特に、同じような
所有形態になっているわけですから、もとの
委託者の
債権者にとっては、もう少し何らかの
救済手段が与えられてしかるべきだ、こういう
三つの
意見があったわけでございまして、この
法案では、
三つ目の
意見に
最後収れんしたということになるわけでございます。
すなわち、
自己信託を設定する場合に、それを明らかにさせるために
公正証書によることを要求いたしておりますけれども、それだけでなく、
裁判所によって
詐害行為の
取り消しがされるという
一般原則に対しまして、
裁判所によって
詐害行為の
取り消しがされるという公式の
手続を踏まなくても、この場合には、すなわち
自己信託の設定の場合には、
委託者の
債権者が
信託財産に対して
詐害行為の
要件があれば直接
強制執行ができるという簡便な
権利の
救済策というのを設けているわけでございます。二十三条の第二項に当たるわけであります。
したがいまして、そのおそれというのは、事実上の問題といたしましては、確かに
気持ちが悪いというところはございますが、
救済策としては相当思い切ったものがとられているということは言えようと思います。
それからさらに、よほどよくない形で
財産譲渡が行われた、これはどうも許しがたい形で
自己信託が行われているといった場合には、
裁判所が
法務大臣あるいは
委託者の
債権者等の利害
関係人の申し立てによって
信託を終了させてしまうというような道もあるわけでございます。
このようなことから、
財産隠しに
利用されるというのも、基本的にはこの手当てはされていると私どもは考えて提出をさせていただいているわけでございます。
二番目に、
信託の
監督人の選任という手段がございます。
これは、先ほども出ましたが、
受益者が十分な決定ができるような
状況にない場合に、これにかわって
受益者の
権利を
行使する、こういう立場にある者として新たに設けたわけでございますけれども、この中には、
裁判所に対する
受託者の解任の申し立て権、それから、権限違反
行為を
受託者がした場合に、その
取り消しをする権限、日ごろから
信託事務の
処理についての報告を求める
権利、帳簿の閲覧権等、非常に広範な権限が認められているわけでございます。
最後は任務違反があれば差しとめをする
権利まであるわけでありまして、
監督人による
監督というのも
一つの大きな
保護の手段だということは言えようかと思います。
最後に、では、なぜ
自己信託については
施行を通常の
施行日よりさらに一年おくらせたのかと。
この点は、
信託法案の附則の第二項によるところでありますけれども、今申しましたようないろいろな御
批判もありますが、とりわけ
自己信託については、やはり税金がどういうふうにかかるのか、あるいは会計
原則の適用はどういうふうになるのかというようなことが、なかなか難しいところが確かにあるわけでございます。したがいまして、普通の
施行よりもさらにそれについてはより慎重な検討が必要だということで、一年をさらに延期しているわけでございます。
もちろん、新しい
制度でございますので、周知徹底を図る必要があるわけでございます。そういう、税金がどうなるのか、あるいは会計はどうなのかということを含めて、つけ加わりました一年の間に十分な
措置をとりたい、このように考えているところでございます。