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参考人(
手塚裕之君)
日本弁護士連合会国際私法現代化関係及び
国際裁判管轄制度に関する
検討会議委員の
弁護士の
手塚裕之でございます。
本日はこのような場で
意見を申し述べさせていただく
機会をお与えいただきましたこと、大変光栄に存じます。
私は、
法制審議会の
国際私法(現代
化関係)部会というところで幹事として、この
法案の
前提となる要綱案についての審議に参加してまいりました。
日本弁護士連合会では、
国際私法の
現代化に関する
要綱中間試案について、
平成十七年五月二十三日に
日本弁護士連合会としての
意見を
意見書として提出させていただいております。以下、日弁連
意見書といいますが、この日弁連
意見書における
基本的
考え方について、まず簡潔に御説明申し上げます。
第一に、
法例は百年以上前に制定された古い
法律でございまして、
多様化、
複雑化、
国際化した現代
社会における渉外的
法律関係、事実
関係を対象とする
国際私法、
法選択に関する
一般準則にふさわしいものとするためには、
法例の全般的な
現代化を検討するということは有意義であったというふうに考えます。
他方、
国際私法は、それ自体として何らかの特定の法益の実現、紛争解決や
社会規律の実現を
目的とするものではなく、かかる
目的実現のため
適用されるべき実体法を
選択するための法でありまして、実体法
適用の
前提問題でございます。したがって、その
前提問題についていたずらに
争いを生じさせ、紛争予防あるいは紛争の迅速、適切な解決を阻害するということは避けるべきであるというふうに考えております。
したがいまして、
実務上、
現行法例の各
規定について加除修正を要するだけの
現実的
必要性が生じているのかということをまず考えるべきであり、加除修正を要する箇所についても、新たな
規定内容が簡潔かつ客観的に明快で、解釈運用上の論争の余地をできる限り排除し得るものとなっているかという観点からの検討が必要だと。要するに、
前提問題のところで余り複雑にし、
訴訟遅延を招くというようなことは避けるべきだという
考え方でございます。
ただし、日弁連の内部でも、
国際私法についても一定の
保護法益に向けた機能を積極的に果たすべきであるという立場から、進歩的あるいはその個別法益実現に向けたより詳細な一歩踏み込んだ
規定を置くべきだという
意見もございました。したがって、日弁連
意見書としては、異例のことかと存じますが、そのような
意見については日弁連
意見書に併記させていただくということにいたしておりました。
今回の
法案、以下本
法案といいますが、と日弁連
意見書との整合する点について、まず御説明したいと存じます。
要綱中間試案段階で、
法制審議会国際私法(現代
化関係)部会の内部あるいは
パブリックコメントで提出された
意見が分かれていた項目が相当数ございました。しかし、その多くについて、日弁連
意見書における
意見は本
法案においても採用されており、そのことは日弁連として積極的に評価いたしております。そのうち特に重要なものについて、以下御説明申し上げます。
第一に、
法律行為の
準拠法の
原則的連結。
原則的連結というのは、
法律行為の
準拠法を決める場合にどこの地の法にするのかということについての
一般的、
原則的な
ルールでございますけれども、
現行法例七条一項は、
法律行為の
準拠法については
当事者の合意によって
選択された
準拠法によるとしつつ、第二項において、そのような
当事者の合意、
選択がない場合には
行為地法を
準拠法とするとしております。
しかしながら、現代
社会における
多様化した
国際取引における
契約の
内容と行為地、具体的には
契約書にサインをしたような地が典型ですが、これとの関連性は希釈化しておりますし、またインターネット、電子メールその他各者間の通信というものが発達しておりますので、
行為地法というものが
一般的、
原則的な
準拠法を定める地としての適格性を欠くに至っているということでございまして、
櫻田参考人からも御指摘がございましたが、
実務では
行為地法ではまずかろうということで、
裁判所が、
当事者の黙示の意思をかなり技術的に推定するような形で、行為地とは異なる地の
準拠法が
当事者の合意
内容だというようなことで具体的な解決を図ってくるということがございましたが、それは
法的安定性という点からは必ずしも好ましいことではないということで、今回、
当事者の合意がない場合については最密接関連地法という形で明確化をし、かつその最密接関連地法については、諸
外国の例に倣いまして、
特徴的給付についてはかかる
特徴的給付の給付者の
常居所地法、不動産については不動産
所在地法を最密接関連地法と推定するという
規定を入れたと。これについては合理的なものと考えております。本
法案で言いますと、八条ということになります。
次に、消費者
契約の特例でございますが、消費者
契約については、事業者と消費者との力
関係あるいは約款の使用ということで、消費者に一方的に不利益な
準拠法選択が行われる
可能性がございます。消費者
契約の
準拠法について一定の消費者
保護規定を置く立
法例も諸
外国に見られます。消費者
保護法はいわゆる絶対的強行法規として
当事者の合意により
選択した
準拠法にかかわらず
適用されるという理論もございますし、そのような
可能性もありますが、絶対的強行法規の
適用範囲というのは必ずしも明らかではございません。したがって、消費者
契約のように、消費者
保護法の
適用の有無が類型的に問題となり得るものについては、あらかじめその
範囲、
適用条件を明確にしておくべきだというふうに考えます。
他方で、一方で消費者
保護という観点から有力に
主張されておりますいわゆる優遇性
原則、すなわち、
裁判所が
当事者の法的
主張を待たずに、合意された
準拠法と消費者の
常居所地法との間でそれぞれの争点ごとに消費者に有利な方を
適用するという
考え方については、
日本の
裁判実務、これは非常にまじめな法
適用をするという
日本の
裁判実務を
前提とした場合に、あらゆる争点についてそれぞれの
準拠法における要件効果を
裁判所が比較するということになりまして、
裁判所にとっても、また消費者にとっても過重な負担となりかねず、手続の遅延、
複雑化を招きかねない。したがって、かえって消費者に不利益となりかねないというふうに考えまして、消費者が
適用を
主張した特定の法的争点についての消費者の
常居所地法における強行
規定についてのみその
適用を認めるのが妥当だというふうに日弁連としては
意見を申し上げ、本
法案十一条一項はかかる
考え方と整合をいたしております。
なお、自らの意思で
外国へ赴き、その地で
契約を締結し、あるいは履行の全部を受けたという、いわゆる能動的消費者については、そのような消費者
保護規定適用の例外とするということは合理的でありまして、この点でも本
法案の十一条六項は日弁連
意見書の
考え方と整合しております。ただし、その消費者が事業者から海外で消費者
契約を締結することについて勧誘を受けたときについては、そのような例外の更なる例外とするということも合理的と考えます。
なお、日弁連消費者問題対策
委員会からは、消費者
保護の観点から、優遇比較を行うべきだという
意見が提出され、その
意見は日弁連
意見書に併記されているところでございます。
次に、労働
契約の特例でございますが、労働
契約については、労働者
保護の観点から、
準拠法の
選択がない場合、労務提供地法を最密接関連地法と推定すべきであり、
準拠法の合意による
選択がある場合であっても、労働者が最密接関連地法、
基本的には労務提供地法でございますが、これの特定の強行
規定の
適用を
主張するときには、当該強行
規定をも
適用すべきだというふうに
意見を申し上げ、これについては本
法案の十二条と整合していると考えます。
次に、
不法行為の
原則的連結でございますが、
現行法例十一条一項は、
不法行為等の
契約によらない
法定債権の
準拠法を一律に原因事実
発生地の法としておりますが、隔地的
不法行為、すなわち原因行為と損害の発生とが離れている
不法行為においては、加害行為地、結果
発生地のいずれを原因事実
発生地と見るかという
争いがしばしば生じております。
不法行為制度というのは加害行為地における行動規範を定める公益維持
規定的な側面よりも、
当事者間の利益調整
制度としての側面、それから
被害者保護という機能、これを重視する
考え方が近時有力となっておりますので、侵害結果の
発生地を
原則的
連結点とすべきであるというふうに考えます。他方で、加害者にとっての
予測可能性、行為規範としての側面ということもございますので、その種の結果のその地における発生を通常予想し得ない場合には例外的に加害行為地を
連結点とすることが合理的であると考えます。
ただし、かかる例外の要件として、法制審の部会における議論では過失という概念を入れるのはどうかという議論もございましたが、日弁連としては、そのことについては問題があるという
意見でございまして、過失というのはそれ自体としていろいろな解釈の余地がある概念でございますから、そういう概念を入れてしまいますと、それが
訴訟遅延あるいは手続の
複雑化を招きかねず、
前提問題としての
国際私法の性格からは問題だというようなことで、詳細な証拠調べをしなくても、客観的類型的に通常予見不可能と明らかに言える場合だけ例外を認めれば足りるというふうに考えまして、本
法案十七条はそのような日弁連の
考え方と整合をいたしております。
次に、
債権譲渡でございますが、
債権譲渡の債務者その他の第三者に対する効力の
準拠法については、
現行法例十二条は、債務者住所地法によるとしておりますが、
債権譲渡の債務者に対する効力は譲渡対象債権の
準拠法によるべきものだという
考え方が強く、日弁連もそのように考えております。債務者以外の第三者に対する効力の
準拠法、まあ具体的には二重譲渡の場合の後から譲渡を受けた人等との
関係の対抗要件ですけれども、これの
準拠法についても、債務者に対する効力の
準拠法と同様に譲渡対象債権の
準拠法によるのが簡明であり、
実務上の処理にも整合するというふうに考えます。
これに対して、部会の審議の段階では、債権の大量譲渡、流動化の便宜の観点から、債務者以外の第三者に対する効力の
準拠法については債権の譲渡人の
常居所地法あるいは主たる住所地法にすべきだという見解も有力に
主張されておりましたが、
法例は一定の
取引促進を
目的とする
法律ではなく、他方で、
実務的には、いずれにせよ対債務者との
関係では譲渡対象債権の
準拠法を見る必要がございますので、かかる見解によって直ちに債権流通が図られるとも言えないというふうに考えておりました。本
法案の二十三条は日弁連の
意見と整合するものでございます。
次に、日弁連の
意見書と本
法案が整合しない点が幾つかございましたので、そのうち重要なものについて申し述べます。
一番大きなものは
特別留保条項でございまして、これは、
現行法例十一条二項、三項でございますけれども、
外国法を
準拠法とする
不法行為についても
日本法上不法でないものについては
不法行為の成立を認めないということと、それから
日本で
不法行為に対して与えられる被害救済、そういうもの以外は認めないという二項、三項でございますけれども、これについては、学説上は過度に内国法を優先するものだとして批判が強くて、諸
外国においても、
不法行為全般について法定地法を
累積適用するという立
法例はほとんどございません。
名誉毀損等についてごく例外的に認めるというような例はございますが。
したがって、その
現行法例十一条二項、三項双方を維持、存続するという
考え方は時代後れであり、
国際的批判に堪えないであろうというふうに
弁護士会では考えております。
被害者保護の観点からも、双方を維持するという
考え方、問題がございます。ただ、
実務的には過剰な
加害者保護となりやすいのは成立についての十一条二項の方でございます。侵害結果の
発生地法や加害
行為地法では無過失
責任であっても、
日本で
裁判をする以上は必ず
日本法による過失
責任だというような結果は違和感がございます。特に、今回の
改正によって
不法行為の
原則的
連結点が明確化され、
原則として
被害者保護を図りつつ、加害者側との
バランスも取るという形で合理化されたにもかかわらず、
特別留保条項により一方的に
加害者保護を図ると。これは
日本法を
選択するのではなく、
外国法でも
日本法でも二重に
不法行為が成立しない限りは
不法行為の成立を認めないということになりますので、これは
加害者保護で
バランスを欠くもので、かえって従来よりも
不法行為の成立要件が狭くなりかねずに、まあ過剰な
加害者保護だというふうに考えております。
産業界からは、自らが加害者として
外国当事者に
日本で訴えられる場合を念頭に
特別留保条項の存続論が
主張されましたけれども、実際には
日本企業が
被害者となるケースも多数、まあ
弁護士をやっておりますと見掛けます。さらに、
法例は
日本で
裁判を行う場合にのみ
適用があり、今回のような
加害者保護規定が維持されることで、例えば
米国で
訴訟を起こされた場合に、
日本で
裁判をするべきだというような
主張をしても、
日本で
裁判したのでは
特別留保条項があるために十分な
被害者保護、原告
保護が与えられないではないかという理由でアメリカの
国際裁判管轄がより広く認められてしまうというリスクも否定できないのであります。
他方、
損害賠償の
方法、
範囲については、懲罰的
損害賠償等について公序という
規定で排除することも不可能ではないわけですが、
国際私法における公序の利用は限定的、例外的であるべきだという
原則論からも、また
現行法例十一条三項については
改正を要する需要が必ずしも強くないということからも、十一条三項のみを維持し、二項を削除すべきということを日弁連としては
意見を申し述べておりましたけれども、本
法案の二十二条一項は、
現行法例十一条三項のみならず二項も維持することとしておりまして、この点については私どもとしては問題があるというふうに考えております。
生産物責任の特例については、その特質から侵害結果の
発生地よりも
生産物の取得地、市場に置かれた地を重視すべきであって、
不法行為の
原則的
連結点の例外として取得地、市場地を
原則的
連結点とすべきだということと、通常その地における取得を予見できないときには、例外として生産業者等の主たる事業所
所在地を
連結点とすべきだというふうに日弁連は考えておりまして、本
法案の十八条は
基本的にはこれと整合いたしますけれども、
連結点について、
被害者が
生産物の引渡しを受けた地という言い方に整理したことから、市場に置かれた地という本来の意味とどこが違うのかというような解釈上の問題が生じないかと、あるいは飛行機事故の
被害者の場合はどうなのかという若干の解釈上の問題があるのではないかと懸念しております。
なお、消費者問題対策
委員会からは、
被害者保護の観点から、
被害者の
常居所地法、結果
発生地法、
生産物取得地法のうち
被害者が
選択する法を
適用するという
意見が提出されておりまして、これは日弁連
意見書に併記されております。
最後に、名誉・
信用毀損の特例ですが、名誉・
信用毀損については日弁連としては特段の
規定を置く必要がないという
意見でございました。これは、
各国ごとに名誉・
信用毀損が成立するといういわゆるモザイク理論はインターネット時代においては余りにも
現実離れしておりますので、統一した
準拠法が望ましいという点では一致するのでございますが、
被害者保護とは別に報道の自由という観点も考える必要がございまして、
特別留保条項が削除されても公序によって報道の自由の
保護が考えられるところであるという中でどのような
連結点にすべきかということでございますが、日弁連としては、
被害者の常居所地が侵害結果
発生地と重なることも多いと思われますけれども、例外として予見不能な場合もあり得るわけでございますし、
被害者の名誉・信用侵害の中心地を
一つに確定するという作業によって具体的、妥当な結果は図られたのではないかというふうに考えておりまして、この点については
意見の異なるところでございます。
以上、御清聴ありがとうございました。