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2006-04-13 第164回国会 参議院 法務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十八年四月十三日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  四月十一日     辞任         補欠選任      家西  悟君     前川 清成君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         弘友 和夫君     理 事                 荒井 正吾君                 谷川 秀善君                 簗瀬  進君                 木庭健太郎君     委 員                 青木 幹雄君                 山東 昭子君                 陣内 孝雄君                 関谷 勝嗣君                 南野知惠子君                 江田 五月君                 千葉 景子君                 前川 清成君                 松岡  徹君                 浜四津敏子君                 仁比 聡平君                 亀井 郁夫君    事務局側        常任委員会専門        員        田中 英明君    参考人        京都大学大学院        法学研究科教授  櫻田 嘉章君        三菱商事株式会        社理事      大村 多聞君        日本弁護士連合        会国際私法現代        化関係及び国際        裁判管轄制度に        関する検討会議        委員       手塚 裕之君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○法の適用に関する通則法案内閣提出)     ─────────────
  2. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る十一日、家西悟君が委員を辞任され、その補欠として前川清成君が選任されました。     ─────────────
  3. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) 法の適用に関する通則法案を議題といたします。  本日は、本案の審査のため、三名の参考人から御意見を伺います。  御出席いただいております参考人は、京都大学大学院法学研究科教授櫻田嘉章君、三菱商事株式会社理事大村多聞君及び日本弁護士連合会国際私法現代化関係及び国際裁判管轄制度に関する検討会議委員手塚裕之君でございます。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。  参考人皆様方から忌憚のない御意見をお述べいただきまして、今後の審査参考にしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方について申し上げます。まず、櫻田参考人大村参考人手塚参考人の順に、お一人十五分程度で順次御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、各委員質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。  また、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございます。  それでは、櫻田参考人からお願いいたします。櫻田参考人
  4. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) ただいま御紹介いただきました京都大学法学研究科櫻田嘉章でございます。  本日は、法の適用に関する通則法案につきまして意見を申し述べる機会をお与えいただきまして、ありがとうございます。  時間の方もございますので、早速お話をさせていただきたいと存じますが、配付しております資料がございます。そこで、まず説例一というのが挙がっておりまして、これをもちまして、日本国際私法あるいは準拠法を定める法律必要性、その仕組みについて御説明申し上げたいというふうに考えております。  この説例によりますと、日本企業ドイツ企業製品につきまして、そのドイツ会社日本への輸入独占販売契約を締結したといたします。その場合に、契約書を作成したわけですが、これは一年契約でございまして、その後は更新できるというふうになっていたわけですが、現実には取引を継続しながら、一年を経過しても何ら更新手続をしない、そういう状態で続いておりました。  その後、数年がたちましたときに、ドイツ側といたしましては、日本営業所を設けたり販売活動を独自に始めたいということもございましたので、ほかによりよい取引相手もあったということで、契約を打ち切りたいというふうに考えたわけでございます。そこで、契約条項に従いまして、六か月の解約通知期間を置きまして解約通知をいたしました。  日本側は、これは突然のことでございますので、もちろん承知しないということで交渉したわけでございますが、うまくいきませんで、したがって何を考えたかと申しますと、大量の製品の、何年分にもわたるような大量の製品を注文したわけであります、まだ契約は存続しているという前提の下に。ところが、これはドイツ側としては、そんな大量の製品を供給することは困難であるということ、それから、それだけの製品を供給してしまいますと日本に相当のストックができてしまいますので、新しいパートナーとの関係でもまずいだろうということで、それを拒否いたしました。  そうしますと、日本側としては、これは契約違反であると、まだ契約はあるわけだから契約に従って製品を供給してほしいということを申しているわけでありますから、その契約違反ということで損害賠償請求をするということで、日本損害賠償請求をいたしました。  この裁判が認められるかどうかというのは管轄の問題もございますので、これはまあちょっとおいておきまして、そういう裁判が係属したという前提に立ちましたときに、ドイツ側としては、これはドイツ法に従って、このような場合には損害賠償義務がないと、不当な要求であるのでこういうものに応ずる義務はないということを主張いたしました。それに対して日本側は、日本法によって損害賠償義務があるのではないかということを言ったわけであります。この場合に、これは実際の契約法について本当にどうなっているのかというのは私はつまびらかにしておりませんけれども、一応当事者主張によればそういうことになると。  そうすると、ドイツ法日本法内容が違っている、どちらの法律によるかによって結果も違ってくる可能性があるということで、どちらの法律適用するかということがこの損害賠償請求の解決について重要な論点になるわけでございます。このような場合にどういうふうにしてこの適用すべき法律を決めればいいのか、こういうのが国際私法の問題であるということでございます。  一般的にこういう事案が出てまいりました場合にどのような法律適用して問題を解決するかということについては、この後に(1)、(2)、(3)というふうに書いてございますように、まず第一に、これは国際的な動産売買といいますか、そういう問題でございますので、そういう問題について日本が批准した統一法条約がございましたら、まずそれを適用すべきであろうと。裁判官としては、憲法の七十六条三項によりまして憲法及び法律にのみ拘束されるということでございますから、何らかの法律適用しなければいけない。ですから、こういう条約を批准しているのであれば、まずそれを適用しなければいけない。しかし、現実にはこの契約について、このような問題を解決するような条約日本は批准をしておりません。したがいまして、この可能性はないということになります。  それじゃ、次に何を適用すればいいのか。日本裁判でございますので常に日本法適用する、裁判官はそういうふうにお考えになるわけだろうと思いますが、まず日本法適用する。つまり、憲法七十六条三項に言う法律というのは日本立法機関が作った法律だけであるというような考え方もないわけではございません。  そうしますと、日本法適用するということになるわけでございますが、常にこういう態度を取りますとどういうことが起こるかということでございます。これは当事者、これは明らかにドイツ側としては全く期待を裏切られるということになるわけですし、こういうことが続きますと、ドイツ側としては、これは日本でやっても仕方がないのでドイツ訴訟をやろうということが起こってくる。  そうなりますと、同じ契約がある国では有効とされるのに別の国では無効となるような、いわゆる偏面的法律関係ということをここで書いておりますけれども、従来は跛行的法律関係というふうに呼ばれておりました。ただ、余り名称がよろしくないということで偏面的法律関係というふうに呼び替えております。そういうものが発生すると、これは国際的な取引において法的安定性を害することになるのであろうと思われる。しかも、この法廷地あさり、つまり自分に都合のいい法律があるところに行って訴訟をするということが起こるわけでありまして、これは公正な取扱いとは言えないということになろうかと思います。  そこで考えられますのは、適用できる法律といたしましては各国法律しかないわけでございます。これを、その適用すべき法律を決める法律がしたがって必要になってくるわけでありますが、これが国際私法と言われるものでございます。  国際私法は、こういう形を取ることによりまして、ここに国際的私法交通の円滑と安全ということを書いてございますが、要するに法が各国でおいて違っていても円滑に国際交流ができる、国際取引ができる、そういうことを保障する、そういう目的で作られているものでございます。  その準拠法を決定する際に、幾つかの前提がございます。一つ内外法の平等。先ほど申しましたように日本では常に日本法適用するということになりますと日本法が常に優先するということになりますが、そのようなことは考えないということでありまして、外国法律も自国の法律ももう平等なものとして取り扱って、その中から適当な客観的な基準によりまして適用すべき法律を決めると、こういう方法を取るべきであるというふうに考えられている。  それから、そういう、まあ準拠法と私たちは申しておりますが、適用すべき法律を決める際には、どこの国で訴訟が起こっても同じ法が適用されるようにその準拠法を決めるべきである。そういたしますと、どこで訴訟が起こりましても、各国法律が違っていても、適用される法律各国で同じであるということでございますので、それぞれの裁判の結果がそごすることがない。これが国際的な判決調和と言われるものでありまして、これ、国際私法立法一つ理想ということになろうかと思います。  そういうことを前提にいたしまして、現在の国際私法ではどういう基準によって準拠法を決めるかということでございますが、これは問題となっております法律関係と最も密接に関係している場所の法律適用するという方法論を取っております。これはどうしてかと申しますと、要するに現実には国際私法というのは各国が独自に決めているわけでございますけれども、その法律関係と最も密接な関係のある地ということにいたしますと、これはかなり普遍性があるわけでございますから、どこにおいてもその最も密接な関係があるとされる法律が一致する可能性がございます。したがいまして、まあそういう方法を取って現在、もちろんこれは理想でございまして、そうなっているかというと、そうではないわけでございますけれども、そういうことを目的として準拠法を決定していると、こういうことでございます。  ただ、この下に書いてございますように、単位法律関係連結点準拠法と書いてございますが、これはどういうことかと申しますと、現実には問題が生じたときの法律関係ごと準拠法を決定するということになりますと、これは裁判をやってみないと最密接関係地というのが決まらないということでございますので、裁判官の主観によっても異なってくる可能性がございますし、これは当事者期待が裏切られるというようなこともございます。  そこで、大陸法、まあヨーロッパ大陸考え方といたしましては、あらかじめ一定の類型的な包括的法律関係を設定いたしまして、そのそれぞれに客観的基準を設定して準拠法が何かを予測することのできるルールを採用すると、こういう方法を取っております。当院で御審議いただいております法の適用に関する通則法案はそのようなルールを定めた法律であり、国民の生活が急速に国際化している現在、不可欠の法であるということを申し上げておきたいと存じます。  さて、次に内容でございますが、このたびの法案では、特に問題となりますのは、平成元年法例の一部改正改正されなかった部分ということになりました。これは、婚姻、親子を除いた、言わば取引関係一般でございます。大きく分けますと、主として、人に関する部分、それから法律行為に関する部分、それから契約債権及び法定債権に関する部分債権譲渡に関する部分について内容的な改正が施されまして、物権、相続、遺言などについては、おおむね現行法基本的に維持するという態度を取っております。したがいまして、主として変更された部分につきまして意見を述べたいと存じます。  ここに掲げておりますように、まず人に関する規定でございますが、人の権利能力行為能力に関する諸問題のうち、法例に既に規定がございました行為能力後見開始審判失踪宣告について、これまでの不備を補う形で規定を新たにしております。  第一点といたしまして、権利能力につきましてはこれまでも規定がないというのが通説でございまして、実務上のそういう規定を設けるという必要性もそれほど大きくないということでございますので、今回は行為能力のみを対象とすることを明らかにしております。それから、従来もございました内国取引保護という考え方でございますが、これは、内国取引保護というのでは、内外法平等ということを考えますと日本の利益だけを偏重するということになりますので、行為地取引保護一般に改めると。これは立法論として従来の多通説が唱えていたところでございます。これが能力に関する問題。  第二点は、後見開始審判についてでございますが、従来、外国人についての日本での後見開始審判ができるという場合だけを取り上げて法例では定めておりました。しかし、在外日本人保護ということを考えますと、これも必要ではないかということで、これまで争いがありました国籍に基づく管轄を定めております。ですから、居住地管轄と並べて、国籍に基づく管轄もこのたび新たに認めたと。これは、特に定年後の海外移住が盛んになりますと、このような規定重要性が増してくるのではないかというふうに考えられます。  財産所在地管轄は、このたびは認めておりません。草案段階ではそういう意見もございましたけれども、認めておりません。これは、財産所在ということ、所在地ということになりますと、少ししか財産がない場合でも日本管轄が認められる。しかも、日本人でもない、日本に住所もないような外国人について財産だけが日本にあるというときに、そういう者について後見開始審判をどの程度すべきかということが問題になりますので、これは今回は規定を置かないということにいたしました。ただ、これも柔軟に考えまして、やむを得ない場合にはいわゆる緊急管轄と、そういう者の保護がどうしても必要であるような特別の場合には、裁判所緊急管轄として認める可能性はあるということでございます。  それから、失踪宣告につきましては、これは従来管轄範囲が狭過ぎるという批判がございましたので、管轄の及ぶ範囲を広げて規定を新たにしたと、こういうことでございます。  次に、法律行為でございますが、法律行為一般といたしましては、方式に関する規定通説に従い改められております。これは、従来、現行法例の二十二条におきまして既に認められているところをそのまま一般法律行為方式についても定めたというだけのことでございます。  それから、七条でございますが、これは契約単独行為を含むものとして法律行為という規定が置かれております。これは現行法例七条の規定を踏襲するものでございます。ただ、契約債権について準拠法選択を認めるといたしましても、選択がなかった場合の処理について、法例七条二項の行為地法が必ずしも妥当でないということで、黙示による法選択の合意の存否について実務上争われるケースが続出しております経緯にかんがみまして、法案契約と最密接関係地法準拠法とするに至りました。ただし、この最密接関係地を個別に探求するのは困難でございますので、ローマ条約ローマ条約でございますが、に倣いまして、特徴的給付の理論というものを、これは推定規定として採用して準拠法の決定を容易にしているということでございます。  それ以外の点については、ここに書いてございますので申し上げません。  それから、もう一つ論点であります法定債権債権譲渡につきましては、特にまあ不法行為については従来争いのありました点をはっきりさせたということでございまして、不法行為制度損害てん補に重点を置くものとして結果発生地法主義を採用した。その結果、とんでもないところで結果が発生して責任を問われるのは困るということで、通常予見できるかどうかということを加害者保護の観点から認めているということでございます。  それ以外につきまして、生産物責任名誉毀損についてはここに書いておりますようなことでございますし、債権譲渡についてもこういうことでございますので、ここでお話しするのは時間の方もございますので、この程度にさせていただきます。  どうもありがとうございました。
  5. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) ありがとうございました。  次に、大村参考人にお願いいたします。大村参考人
  6. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 三菱商事大村でございます。  私は、法制審議会国際私法部会委員として参加してまいりました。昨年五月、国際私法現代化に関する要綱中間試案に対するパブリックコメントが実施された際、日本経団連経済法規委員会企画部会委員としてコメント取りまとめにもかかわっております。本日は、このような場にて発言の機会をちょうだいいたしまして、誠に有り難く存じます。  まず初めに、今回の法例改正に対する経済界としての基本的な考え方につきまして申し上げます。  国際私法抵触法基本法である法例は、明治三十一年に制定されて以来、本格的な見直しは行われずにまいりました。法例の制定時から百年以上もたち、その間我が国を取り巻く環境は、社会経済グローバル化の進展、人、物、情報の国際的移動の増加、国際取引複雑化多様化など大きく変化するとともに、国境を越えた民事紛争も増大しています。このような状況を踏まえ、法の適用に関する通則法案取りまとめられ国会に提出されましたことは御同慶の至りであり、私としてもまた経済界といたしましても基本的に評価いたしております。  法例抵触法は国家の基本法ではありますが、大企業実務、特に契約実務におきましては、法例抵触法を意識するという局面基本的にありません。私どもが諸外国企業との間で国際取引を行うときには、どこの国の法を適用するかといういわゆる準拠法、ガバニングローにつきましてあらかじめ合意し契約書規定することは基本であります。そのため、法例による解釈は不要となります。  また、準拠法があらかじめ合意されない不法行為訴訟、例えば製造物責任懲罰的賠償請求訴訟や独禁法の三倍賠償請求訴訟などは、外国側、特に過剰訴訟過剰管轄私法制度運用が行われている米国におきまして日本企業が一方的に訴えられ、米国法による陪審員制度の下で判決が出され、米国で一方的に執行されることが通常でありますので、日本法例抵触法が登場する余地はほとんどございません。むしろ日本法例抵触法が問題となりますのは、関係する外国におきまして恒常的に活動することがなく、したがって資産が当該国に存在しないために外国企業日本企業に対し日本裁判所において訴訟を開始する場合や、外国での勝訴判決に基づき日本企業に対して日本裁判所から執行判決を得ようとする局面であろうかと思います。したがいまして、日本法例抵触法は、日本企業準拠法をあらかじめ決めることを徹底していないか又は徹底できない場合、あるいは外国で恒常的に活動していない中小企業個人企業者にとりましては大変意味のあることになります。  また、今回の法案は、あくまで日本国内法として日本裁判所における準拠法についての基準を定めるものであり、米国過剰訴訟過剰管轄過剰域外適用の問題を直接解決するものではございませんが、かかる米国過剰訴訟過剰管轄過剰域外適用前提法案内容を考える必要があるものと存じます。  今回の法案取りまとめに当たりましては、法制審議会におきまして、学者、裁判官弁護士経済界等関係各界を交えて長期にわたり慎重な議論が行われました。また、パブリックコメントで広く各界意見が寄せられております。その結果、各界主張最大限バランス良く反映された形で法例全面的見直し作業が行われたことは適切であり、また時宜を得ていると考えております。また、その内容につきましても、法の予測可能性個別事件適用するときの具体的妥当性を確保するための柔軟性とのバランスがうまく図られているものと思います。したがいまして、本法案に賛成であります。  次に、個別の論点につきまして、経済界として特に関係の深い事項として、不法行為法累積適用の問題、すなわち不法行為の成立及び効力について日本法累積適用する特別留保条項現行法例第十一条第二項及び第三項、通則法案第二十二条第一項、第二項について意見を申し上げます。  特別留保条項につきましては、米国のような過度な訴訟社会の国と我が国との違いを抜きに考えてはならないと思っています。裁判制度全体及び特に裁判管轄制度国際比較をいたしますと、日本はまだまだ訴訟抑制的であり、また外国企業に対し日本裁判管轄を及ぼす点においても抑制的であります。他方、裁判管轄制度国際的調和を図るための道は前途遼遠の感がございます。このような状況下米国との取引を行う際、十分な契約的、法的武装ができない中小企業個人事業者を勘案いたしますと、日本特別留保条項を先行して削除することは、経済界理解を得られないだけでなく、広く社会一般理解も得られないものと考えます。  今回の法案では、不法行為準拠法原則として結果発生地とする改正生産物責任に関する準拠法原則として生産物引渡地法とする改正及び名誉・信用毀損準拠法被害者常居所地法とする改正といった、不法行為についての予測可能性を高めるための抜本的な改正が提案されております。これらの改正は、基本的に合理的なものであると考えますが、一方、予期しない不利益が生じるのではないかと不安を持つ層がいるのも事実であります。この特別留保条項があるために妥当な結論に達した判例もございます。したがいまして、日本経団連コメントでは、特別留保条項が維持されることを前提にこれら諸改定に賛成するとしております。  なお、特別留保条項やその前提となります我が国不法行為制度に関しまして、実務界におきましては、この点を諸外国から問題にされた経験は皆無でございます。先生方におかれましても、是非政府案の方向で立法化していただきたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  以上で私の御説明を終わらさしていただきます。御清聴ありがとうございました。
  7. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) ありがとうございました。  次に、手塚参考人にお願いいたします。手塚参考人
  8. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) 日本弁護士連合会国際私法現代化関係及び国際裁判管轄制度に関する検討会議委員弁護士手塚裕之でございます。  本日はこのような場で意見を申し述べさせていただく機会をお与えいただきましたこと、大変光栄に存じます。  私は、法制審議会国際私法(現代化関係)部会というところで幹事として、この法案前提となる要綱案についての審議に参加してまいりました。日本弁護士連合会では、国際私法現代化に関する要綱中間試案について、平成十七年五月二十三日に日本弁護士連合会としての意見意見書として提出させていただいております。以下、日弁連意見書といいますが、この日弁連意見書における基本考え方について、まず簡潔に御説明申し上げます。  第一に、法例は百年以上前に制定された古い法律でございまして、多様化複雑化国際化した現代社会における渉外的法律関係、事実関係を対象とする国際私法法選択に関する一般準則にふさわしいものとするためには、法例の全般的な現代化を検討するということは有意義であったというふうに考えます。  他方、国際私法は、それ自体として何らかの特定の法益の実現、紛争解決や社会規律の実現を目的とするものではなく、かかる目的実現のため適用されるべき実体法を選択するための法でありまして、実体法適用前提問題でございます。したがって、その前提問題についていたずらに争いを生じさせ、紛争予防あるいは紛争の迅速、適切な解決を阻害するということは避けるべきであるというふうに考えております。  したがいまして、実務上、現行法例の各規定について加除修正を要するだけの現実必要性が生じているのかということをまず考えるべきであり、加除修正を要する箇所についても、新たな規定内容が簡潔かつ客観的に明快で、解釈運用上の論争の余地をできる限り排除し得るものとなっているかという観点からの検討が必要だと。要するに、前提問題のところで余り複雑にし、訴訟遅延を招くというようなことは避けるべきだという考え方でございます。  ただし、日弁連の内部でも、国際私法についても一定の保護法益に向けた機能を積極的に果たすべきであるという立場から、進歩的あるいはその個別法益実現に向けたより詳細な一歩踏み込んだ規定を置くべきだという意見もございました。したがって、日弁連意見書としては、異例のことかと存じますが、そのような意見については日弁連意見書に併記させていただくということにいたしておりました。  今回の法案、以下本法案といいますが、と日弁連意見書との整合する点について、まず御説明したいと存じます。  要綱中間試案段階で、法制審議会国際私法(現代化関係)部会の内部あるいはパブリックコメントで提出された意見が分かれていた項目が相当数ございました。しかし、その多くについて、日弁連意見書における意見は本法案においても採用されており、そのことは日弁連として積極的に評価いたしております。そのうち特に重要なものについて、以下御説明申し上げます。  第一に、法律行為準拠法原則的連結。原則的連結というのは、法律行為準拠法を決める場合にどこの地の法にするのかということについての一般的、原則的なルールでございますけれども、現行法例七条一項は、法律行為準拠法については当事者の合意によって選択された準拠法によるとしつつ、第二項において、そのような当事者の合意、選択がない場合には行為地法準拠法とするとしております。  しかしながら、現代社会における多様化した国際取引における契約内容と行為地、具体的には契約書にサインをしたような地が典型ですが、これとの関連性は希釈化しておりますし、またインターネット、電子メールその他各者間の通信というものが発達しておりますので、行為地法というものが一般的、原則的な準拠法を定める地としての適格性を欠くに至っているということでございまして、櫻田参考人からも御指摘がございましたが、実務では行為地法ではまずかろうということで、裁判所が、当事者の黙示の意思をかなり技術的に推定するような形で、行為地とは異なる地の準拠法当事者の合意内容だというようなことで具体的な解決を図ってくるということがございましたが、それは法的安定性という点からは必ずしも好ましいことではないということで、今回、当事者の合意がない場合については最密接関連地法という形で明確化をし、かつその最密接関連地法については、諸外国の例に倣いまして、特徴的給付についてはかかる特徴的給付の給付者の常居所地法、不動産については不動産所在地法を最密接関連地法と推定するという規定を入れたと。これについては合理的なものと考えております。本法案で言いますと、八条ということになります。  次に、消費者契約の特例でございますが、消費者契約については、事業者と消費者との力関係あるいは約款の使用ということで、消費者に一方的に不利益な準拠法選択が行われる可能性がございます。消費者契約準拠法について一定の消費者保護規定を置く立法例も諸外国に見られます。消費者保護法はいわゆる絶対的強行法規として当事者の合意により選択した準拠法にかかわらず適用されるという理論もございますし、そのような可能性もありますが、絶対的強行法規の適用範囲というのは必ずしも明らかではございません。したがって、消費者契約のように、消費者保護法の適用の有無が類型的に問題となり得るものについては、あらかじめその範囲適用条件を明確にしておくべきだというふうに考えます。  他方で、一方で消費者保護という観点から有力に主張されておりますいわゆる優遇性原則、すなわち、裁判所当事者の法的主張を待たずに、合意された準拠法と消費者の常居所地法との間でそれぞれの争点ごとに消費者に有利な方を適用するという考え方については、日本裁判実務、これは非常にまじめな法適用をするという日本裁判実務前提とした場合に、あらゆる争点についてそれぞれの準拠法における要件効果を裁判所が比較するということになりまして、裁判所にとっても、また消費者にとっても過重な負担となりかねず、手続の遅延、複雑化を招きかねない。したがって、かえって消費者に不利益となりかねないというふうに考えまして、消費者が適用主張した特定の法的争点についての消費者の常居所地法における強行規定についてのみその適用を認めるのが妥当だというふうに日弁連としては意見を申し上げ、本法案十一条一項はかかる考え方と整合をいたしております。  なお、自らの意思で外国へ赴き、その地で契約を締結し、あるいは履行の全部を受けたという、いわゆる能動的消費者については、そのような消費者保護規定適用の例外とするということは合理的でありまして、この点でも本法案の十一条六項は日弁連意見書の考え方と整合しております。ただし、その消費者が事業者から海外で消費者契約を締結することについて勧誘を受けたときについては、そのような例外の更なる例外とするということも合理的と考えます。  なお、日弁連消費者問題対策委員会からは、消費者保護の観点から、優遇比較を行うべきだという意見が提出され、その意見は日弁連意見書に併記されているところでございます。  次に、労働契約の特例でございますが、労働契約については、労働者保護の観点から、準拠法選択がない場合、労務提供地法を最密接関連地法と推定すべきであり、準拠法の合意による選択がある場合であっても、労働者が最密接関連地法、基本的には労務提供地法でございますが、これの特定の強行規定適用主張するときには、当該強行規定をも適用すべきだというふうに意見を申し上げ、これについては本法案の十二条と整合していると考えます。  次に、不法行為原則的連結でございますが、現行法例十一条一項は、不法行為等の契約によらない法定債権準拠法を一律に原因事実発生地の法としておりますが、隔地的不法行為、すなわち原因行為と損害の発生とが離れている不法行為においては、加害行為地、結果発生地のいずれを原因事実発生地と見るかという争いがしばしば生じております。不法行為制度というのは加害行為地における行動規範を定める公益維持規定的な側面よりも、当事者間の利益調整制度としての側面、それから被害者保護という機能、これを重視する考え方が近時有力となっておりますので、侵害結果の発生地原則連結点とすべきであるというふうに考えます。他方で、加害者にとっての予測可能性、行為規範としての側面ということもございますので、その種の結果のその地における発生を通常予想し得ない場合には例外的に加害行為地を連結点とすることが合理的であると考えます。  ただし、かかる例外の要件として、法制審の部会における議論では過失という概念を入れるのはどうかという議論もございましたが、日弁連としては、そのことについては問題があるという意見でございまして、過失というのはそれ自体としていろいろな解釈の余地がある概念でございますから、そういう概念を入れてしまいますと、それが訴訟遅延あるいは手続の複雑化を招きかねず、前提問題としての国際私法の性格からは問題だというようなことで、詳細な証拠調べをしなくても、客観的類型的に通常予見不可能と明らかに言える場合だけ例外を認めれば足りるというふうに考えまして、本法案十七条はそのような日弁連の考え方と整合をいたしております。  次に、債権譲渡でございますが、債権譲渡の債務者その他の第三者に対する効力の準拠法については、現行法例十二条は、債務者住所地法によるとしておりますが、債権譲渡の債務者に対する効力は譲渡対象債権の準拠法によるべきものだという考え方が強く、日弁連もそのように考えております。債務者以外の第三者に対する効力の準拠法、まあ具体的には二重譲渡の場合の後から譲渡を受けた人等との関係の対抗要件ですけれども、これの準拠法についても、債務者に対する効力の準拠法と同様に譲渡対象債権の準拠法によるのが簡明であり、実務上の処理にも整合するというふうに考えます。  これに対して、部会の審議の段階では、債権の大量譲渡、流動化の便宜の観点から、債務者以外の第三者に対する効力の準拠法については債権の譲渡人の常居所地法あるいは主たる住所地法にすべきだという見解も有力に主張されておりましたが、法例は一定の取引促進を目的とする法律ではなく、他方で、実務的には、いずれにせよ対債務者との関係では譲渡対象債権の準拠法を見る必要がございますので、かかる見解によって直ちに債権流通が図られるとも言えないというふうに考えておりました。本法案の二十三条は日弁連の意見と整合するものでございます。  次に、日弁連の意見書と本法案が整合しない点が幾つかございましたので、そのうち重要なものについて申し述べます。  一番大きなものは特別留保条項でございまして、これは、現行法例十一条二項、三項でございますけれども、外国法を準拠法とする不法行為についても日本法上不法でないものについては不法行為の成立を認めないということと、それから日本不法行為に対して与えられる被害救済、そういうもの以外は認めないという二項、三項でございますけれども、これについては、学説上は過度に内国法を優先するものだとして批判が強くて、諸外国においても、不法行為全般について法定地法を累積適用するという立法例はほとんどございません。名誉毀損等についてごく例外的に認めるというような例はございますが。  したがって、その現行法例十一条二項、三項双方を維持、存続するという考え方は時代後れであり、国際的批判に堪えないであろうというふうに弁護士会では考えております。被害者保護の観点からも、双方を維持するという考え方、問題がございます。ただ、実務的には過剰な加害者保護となりやすいのは成立についての十一条二項の方でございます。侵害結果の発生地法や加害行為地法では無過失責任であっても、日本裁判をする以上は必ず日本法による過失責任だというような結果は違和感がございます。特に、今回の改正によって不法行為原則連結点が明確化され、原則として被害者保護を図りつつ、加害者側とのバランスも取るという形で合理化されたにもかかわらず、特別留保条項により一方的に加害者保護を図ると。これは日本法選択するのではなく、外国法でも日本法でも二重に不法行為が成立しない限りは不法行為の成立を認めないということになりますので、これは加害者保護バランスを欠くもので、かえって従来よりも不法行為の成立要件が狭くなりかねずに、まあ過剰な加害者保護だというふうに考えております。  産業界からは、自らが加害者として外国当事者日本で訴えられる場合を念頭に特別留保条項の存続論が主張されましたけれども、実際には日本企業被害者となるケースも多数、まあ弁護士をやっておりますと見掛けます。さらに、法例日本裁判を行う場合にのみ適用があり、今回のような加害者保護規定が維持されることで、例えば米国訴訟を起こされた場合に、日本裁判をするべきだというような主張をしても、日本裁判したのでは特別留保条項があるために十分な被害者保護、原告保護が与えられないではないかという理由でアメリカの国際裁判管轄がより広く認められてしまうというリスクも否定できないのであります。  他方、損害賠償方法範囲については、懲罰的損害賠償等について公序という規定で排除することも不可能ではないわけですが、国際私法における公序の利用は限定的、例外的であるべきだという原則論からも、また現行法例十一条三項については改正を要する需要が必ずしも強くないということからも、十一条三項のみを維持し、二項を削除すべきということを日弁連としては意見を申し述べておりましたけれども、本法案の二十二条一項は、現行法例十一条三項のみならず二項も維持することとしておりまして、この点については私どもとしては問題があるというふうに考えております。  生産物責任の特例については、その特質から侵害結果の発生地よりも生産物の取得地、市場に置かれた地を重視すべきであって、不法行為原則連結点の例外として取得地、市場地を原則連結点とすべきだということと、通常その地における取得を予見できないときには、例外として生産業者等の主たる事業所所在地連結点とすべきだというふうに日弁連は考えておりまして、本法案の十八条は基本的にはこれと整合いたしますけれども、連結点について、被害者生産物の引渡しを受けた地という言い方に整理したことから、市場に置かれた地という本来の意味とどこが違うのかというような解釈上の問題が生じないかと、あるいは飛行機事故の被害者の場合はどうなのかという若干の解釈上の問題があるのではないかと懸念しております。  なお、消費者問題対策委員会からは、被害者保護の観点から、被害者常居所地法、結果発生地法、生産物取得地法のうち被害者選択する法を適用するという意見が提出されておりまして、これは日弁連意見書に併記されております。  最後に、名誉・信用毀損の特例ですが、名誉・信用毀損については日弁連としては特段の規定を置く必要がないという意見でございました。これは、各国ごとに名誉・信用毀損が成立するといういわゆるモザイク理論はインターネット時代においては余りにも現実離れしておりますので、統一した準拠法が望ましいという点では一致するのでございますが、被害者保護とは別に報道の自由という観点も考える必要がございまして、特別留保条項が削除されても公序によって報道の自由の保護が考えられるところであるという中でどのような連結点にすべきかということでございますが、日弁連としては、被害者の常居所地が侵害結果発生地と重なることも多いと思われますけれども、例外として予見不能な場合もあり得るわけでございますし、被害者の名誉・信用侵害の中心地を一つに確定するという作業によって具体的、妥当な結果は図られたのではないかというふうに考えておりまして、この点については意見の異なるところでございます。  以上、御清聴ありがとうございました。
  9. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) どうもありがとうございました。  以上で参考人意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  10. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 どうも皆さん、おはようございます。自由民主党の谷川秀善でございます。  本日は、大変お忙しい中、法の適用に関する通則法案の審議のために、参考人として櫻田大村手塚先生方がお越しをいただいて、ただいまは大変貴重な御意見を述べていただきました。非常に参考になりました。心から厚く御礼を申し上げます。  私の質問時間は、まあそれぞれいい問題ですが、往復で十五分でございますんで、なかなか非常に、個々の条文につきましていろいろお伺いしたい点も多々ございますけれども、なかなかそれは時間の関係で非常に難しかろうと思いますので、私としては全般的な話としていろいろお伺いができればなと、かように思います。  ただいまお話にもございましたように、我が国国際私法基本法でございます法例につきましては、明治三十一年、大変古い話でございます、三十一年にこれ制定をされまして、平成元年に、櫻田先生からお話がございましたように、婚姻と親子に関する手続につきましては一部改正がございましたが、それ以後全然改正をされていない。大体百年改正をされていないということでございますから、こんな法律も割に珍しいんではないかというように思いますが、特に最近、非常にもういわゆる経済情勢だとか社会情勢だとか、もう本当に目まぐるしく変転をしておりまして、特に取引なんかにつきましても全部インターネットなんかで、当時考えられもしなかったことがどんどん起こってきているということでございまして、そういう意味で私は、本当に一日も早くこういうものは改正をしておくべきなんでしょうけれども、これは手続法でございますから余り支障がないのかなというようなことでずっと延び延びになってきてたんだろうと思いますが、今回こういうふうに改正をされたということは、私は非常に時代に即応したいいことではないか、遅きに失したんではないかと、こういうふうに思っておるところでございます。  同時に、法例というのは、これは何か晋の時代にいろんな言葉があって、それを明治のときに使ったということでございますが、この法例というのは何かなと。恐らくこれを見た場合、何にも分かりませんね、素人の人は、これは何の法律なのかということなんで、今回は法の適用に関する通則法というふうにちょっとは分かりやすくなった。ところが、いろいろ意見を聞いてみますと、いやいや法例というのはなかなか味のある言葉なんで、これは置いておいた方がええという意見もあるようでございます。同時に、いやもうちょっと分かりやすい題名にした方がいいという意見もあるようでございます。そういう意味で、それぞれ、今回せっかく改正をするわけですから、やっぱり法律というのは名を表すというか、中身が非常にぱんと見て大体分かるというのが一番いいんだろうと私は思います。  そういう意味で、この法の適用に関する通則法という名称が、これでいいんじゃないかというのか、それとも、いやもっと昔の法例でいいよというのか、もっと違う名称がいいよというのか、その点についてそれぞれ参考人お三方の御意見を賜りたいと思います。
  11. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) 私どもは、先ほどもお話ししましたように、従来この分野については国際私法という用語を使っております。したがいまして、本来であればその国際私法という名称の、私はこれは十分に定着している名称だと思っておりますので、そういうものを使っていただければと思ったわけでございますが、この法例には、御承知のように一条、二条という、その国際私法とは関係のない規定もございますので、これを一括して表すとなると国際私法というのは使えないということになろうかと思います。  だから、そういう一条、二条も含めて考えられるというのであればやむを得ないかなというふうに存じますけれども、国際私法に関する、特に準拠法に関する通則という意味でございましたら、これは国際私法という名称の方が適正なのではないだろうかというふうに考えております。
  12. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 私は賛成でございます。特に違和感もありません。
  13. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) 私は海外の依頼者に日本法律を英語で説明することが多いのですが、国際私法という名前であれば、プライベート・インターナショナル・ローというふうに言えば一言で通じるのですけれども、今回の名前ですと若干の説明は必要かなというふうに思います。ただし、結論的には、櫻田先生がおっしゃったように国際私法でない規定も入っておりますし、一部後見開始審判等については国際裁判管轄規定も入ってしまっておりますので、理論的に正しいのはどちらかと言われれば、法の適用に関する通則法ということでもやむを得ず、外国の方に説明するときには一工夫すればいい話だというふうに考えております。
  14. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 どうもありがとうございました。  それで、司法試験がいろいろ、受験科目がいろいろ変わってきているわけですけれども、民事訴訟法と刑事訴訟法が必須科目になったという関係もあるんでしょうけれども、その選択科目の中からこの国際私法が外れているということになっているわけですね。そうすると、全然勉強しないという生徒もたくさん出て、司法試験を受ける前に、これ関係ないからやっぱり関係のあるものを勉強するということだろうと思うんですが、ますますこれ国際化してきて、いろんな取引もインターネットとかいろんなことがあって、これから恐らく訴訟だとか何だとかという場合に非常に関係が深いと思うんですね。ところが、そういう専門家を私はこれからどんどん大いに養成すべきで、法律実務家の中でも養成すべきではないかと思うんですけれども、なかなかそういうことで外れてしまったと、負担軽減ということもあるんでしょうけれども。そういうことについて、できればやっぱり勉強してもらう、それは大学ではいろいろ選択科目がございますから勉強するんでしょうけれども、勉強してもらうということが必要ではないかなと。できればやっぱり選択科目なりなんなりの中に、そういう司法試験の科目の中に取り入れる方が、従前あったわけですから選択科目で、と思いますが、櫻田先生はどうお考えでございましょうか。
  15. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) 大変有り難いお話でございまして、私もこの国際私法自体を例えば選択科目にすると。台湾では、この国際私法というのは司法試験の必修科目になっているようでございますし、ドイツにおきましては、州によりましては必修科目になっております。ですから、こういうものを選択科目として取り入れるということは、かねがね学会の方としても申し上げていたところでございます。  ところが、このたびの司法試験科目の選定に当たりましては、選択科目としてだけ可能性がございまして、この選択科目を決めるときにどういうふうにして決めたかと申しますと、私の伺っているところでは、法科大学院で四単位以上のカリキュラムを展開している科目を、まずたしか二十校でしたですか、二十校以上そういうのを展開しているものを選択科目としてはどうかというような話がございまして、残念ながら国際私法はそこまで達してはおりませんでした。  したがいまして、国際関係については重要な科目であるので選択科目にしたいけれども、これではできないので、合わせて一本と申しますか、一つ選択科目にするということで、国際関係については国際関係法(公法系)というものと、国際関係法(私法系)という二つの選択科目がこのたび認められております。  この国際関係法(私法系)の中に実はこの国際私法、それから最近問題になっております国際民事手続法、それから国際取引法というものが併せて入れられておりまして、これでは余りに範囲が広過ぎてどなたも受けないんではないかというふうに危惧しておりますけれども、実情はそういうことでございます。
  16. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 どうもありがとうございました。  それで、この法例改正に当たって、法制審議会等でいわゆる日本法の、日本法律国際化といいますか、が非常にいろいろ議論されたと聞いております。それで私は、やっぱりこれだけ世界が小さくなったといいますか、非常に狭くなったといいますか、密接な関係が出てまいりますと、日本法律の信頼性といいますか位置というのは非常に大切だと思うんですね、信頼されるということが。同時に、ところが、どうも日本語というのは特別な言葉でございますから非常に難しいと。そうしますと、どうも見ていると、どうも諸外国から見ると、どうも日本法律は余り日本が思っているほど信頼されていないのではないか、評価がそんなに高くないのではないかということを私は非常に心配をするわけですね。  そういう意味では三人のそれぞれの参考人先生方、正直言いまして、現在における日本法国際的地位といいますか、それはどの程度なのかということをお考えでございましょうか、お伺いをいたしたいと思います。
  17. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) その日本法国際的地位と申しますと、私はすべてについて通じているわけではございませんのでよくお答えできないわけでございますが、まず信頼されていないのではないかという御意見でございましたけれども、その前に日本法は知られていないのではないかと。ですから、外国におりますときによく電話が掛かってまいりまして、全然知らない方から、日本に今度ビジネスに進出したいんだけれど、日本法はこの点はどうなっているんだということを聞かれたことが多々ございます。そのときに、それじゃこうなっていますよということを説明するのもなかなか難しいわけでございますから、まず第一に知られていないので、信頼性以前の問題ではないかというふうに思います。  この点につきましては、現在、日本法国際化という何か政策が実行されているようでありまして、それを全部、少なくとも英文化するということが出ておりますので、そういうものが浸透しました暁にはやがて日本法の評価というものも決まってくるのではないかと、こういうふうに考えております。
  18. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 私も櫻田先生と全く同じ所感を持っておりまして、まずは法律をきちんと世界に通用する英語に、政府が統一的な訳をちゃんと作って説明可能にするということが大事かなと思っています。  ちなみに、私が勤めている三菱商事でも、社内の規則、会社の中の法律であります社内規定を作るときには、同時に必ず英文を作り、そして三菱商事の傘下には世界じゅうに外国人が働いていますから新しいルールは必ず同時に英文とともに発表すると、こういうふうなことをやっていますが、今回やっている日本の法令の英文化についても、主要な法令、これとこれとこれを選ぶという質問があって、どの法令を選んだらいいかという質問があったので、私は、そういう問題じゃなくて全部だと。それから、もっと言うと、重要な法律については法案の段階から法律について諸外国意見を聞くと、このぐらいにすべきじゃないかという意見を私どもは経団連、申し上げています。  以上でございます。
  19. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) 私どもは、日本の依頼者のみならず外国の依頼者の仕事もしており、また外国の相手方を相手とする仕事もしておりまして、そこで契約準拠法として日本法にするのか外国法にするのかというようなことが問題になった場合に、日本法内容が信頼できないから駄目だというようなことを言われるケースはほとんどございません。日本語が分からないからとか、中身がよく分からないということで若干抵抗感があるということはございますが、基本的にはこれは大陸法系であって、明治以来、先人の方々の努力で、当時としては最先端の民法ですとか商法、こういうものを導入し、時代に合わせて変えてきたんだというようなことでやっておりますし、私も最近、スイスの弁護士が書いた国際建設契約ですね、これの解釈についての論文を読みましたら、そこでの解釈手法が非常に日本での議論に似ているのに改めて驚いたこともございまして、大陸法の方たちから見れば、日本でやっている契約解釈の手法などというのは異例のものではなく、非常に安定した、かつ具体的な状況に応じた合理的なものだというふうに思っていただけるんではないかと思います。  ただし、例えば最近、匿名組合というようなものをいろんな投資の方法として利用する例が増えておりますけれども、これなどは非常に古い法律でございまして、古いままの法律、これはなるべく早めに改める必要もありましょうし、参考人先生方おっしゃっていたように、英語で発信していくということも必要かと思います。  しかし、全体としては、私は日本法の中身というのは非常に信頼に足るものだというふうに考えております。
  20. 谷川秀善

    ○谷川秀善君 ありがとうございました。  終わります。
  21. 簗瀬進

    ○簗瀬進君 民主党の簗瀬進でございます。  今日は、三人の参考人先生方、大変有益な、また興味深いお話をいただきまして、大変勉強になりました。まずは御礼を申し上げたいと思います。  実は、今も谷川委員の方から我が日本法国際的な評価と、こういうふうな質問がございましたが、私も実は同じような関心を持っておりまして、ジュリストの二〇〇二年の特集号で、その中では櫻田先生も御参加なさってお話をいたしておりますが、そこで日本法の競争力というふうな言葉が出ておりまして、今、言葉の問題がお二人の参考人からも語られておりましたけれども、手塚参考人内容の話にもお触れになられておりました。  やっぱりかなり、百年前、このアジアの国に先駆けていわゆる欧米の法制度をいち早く導入したのは日本であったと思うんですね。そのころはアジアの各国も随分日本法律をお手本にしたようでございますけれども、昨今はもう随分様変わりしたような感じがございます。言葉の問題ももちろんあると思いますけれども、内容的においても、随分新しい経済状況や新しい例えば環境の問題あるいは市民運動、もう様々な分野でどうも日本法のブラッシュアップが、内容的な現代化というようなものが変化に伴っていない結果として非常に内容的には見劣りをするようになっているんではないのかなと。  結果として、例えば先ほどの大村さんのお話の中にあった準拠法として我が法は選ばれなくなってしまっているんじゃないかとか、あるいはアジアの国が例えば新しい倒産法制を作るときに日本法律参考にしなかったり、新しい証券法を参考にするときに日本法がどうもお手本にならなかったりという、こういう状況が随分法律全体に見られるようになった結果、全般的な我が法の持っている魅力というか、競争力というようなものが随分低下をしているんではないのかなという、こういうふうな問題意識を昨今私、感ずるようになっているんですけれども、こういう観点で言ってみて、お三方の御意見ちょっと、簡単で結構でございますんで、聞かせていただければと思います。
  22. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) 私どもの専門にしております分野におきましては元々国際的な交流というのが大変多うございます。したがいまして、この国際私法の問題につきましては、そういう意味で日本法の魅力がなくなったというふうには私は考えておりませんで、むしろいろんなシンポジウムその他で日本法は大変優れているというふうなことも多々聞いております。したがいまして、この国際私法レベルにおいてはそんなに遜色がないのではないか。  ただ、今回改正がされますように、さすがに百年たちますと、これは老朽化しておりますので、その部分は新たにするということで今回新たにすれば相当に国際通用力はあるのではないかというふうに考えております。  ほかの実質法の分野につきましては、恐らく一番対応が遅れているのは、国際化に対応することが遅れているのではないだろうか。国内、純粋の国内の事件についてはそんなに変わっていないと思うんですね。ですから、その辺の対応は確かに遅れていて、外国の人たちが日本法律を使いたいと思うかということになりますと、その辺がやっぱり問題になってくるのではないでしょうか。
  23. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 私も実は一九九九年の法律専門誌に法制の競争力という視点を持って今後の立法活動を考える必要があるという文章を書いた記憶があります。  最近の商法の大幅な改正、新しい会社法でございますが、商法改正、それから次には会社法が分離したと。その過程で新しい受皿、投資の受皿会社、組織形態ができる等、日本も大きく皆、関係者のマインドセットが、競争力というのを法制においても考えるということになってきたと思っています。  ただ、この国際私法は例えば百年放置されたということで、法律行為準拠法行為地法と言っているのは全く合ってないと。したがって、契約の最密接関係地や行為地ともうほとんど関係がなくなってしまっているということから、国際私法を参照する意欲が起きなくなってしまうというのがありましたので、今回、正に改正はもう待ったなしかと思います。  以上でございます。
  24. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) 弁護士としての実務の中で、韓国の弁護士から、韓国の裁判所で問題となっている事件について、韓国法上判例がないけれども日本ではどうなっているのかということの意見書を提出するように言われることがかなりございます。それは、韓国の法制度が、いろいろな歴史的な経緯もございますが、かなりの程度日本からの輸入したものがあるということと、それから、一時期は言わば大法院というか、裁判制度も一緒だった時期もございますですから、そういう意味で韓国はいまだにそういう形で日本法については兄貴分として尊重してくれているわけです。  そういう意味で、日本法に対する国際的な評価というのは、その面を取ってみますと、評価、尊重されているはず、つまり日本の方がその問題点について判例があるんじゃないかというようなふうに考えてもらっているわけなんですが、ただ、そういう評価を今後更に向上させ落とさないようにするという意味で、いろんな点での置き忘れた問題についてのフォローは必要だというふうに考えております。  それから、私は日本弁護士連合会では国際交流委員会というところの副委員長をしておりますが、ここは、国際協力部会というところで、アジアのカンボジアですとかベトナム、ラオスというところに弁護士を長期派遣いたしまして、言わば昔フランスのボワソナード博士がやってくださったような形で、日本に民法を導入するというときのお手伝いをそのボワソナード博士はしてくださったわけですけれども、私どもは、そういう市場経済に戻ってきたアジア諸国に対して、日本法をその国の実情に合わせて導入していただくような形の活動をしております。日本は、海外のものを単に輸入するのではなく、なるべく新しいものを輸入し、かつその国の実情に合わせてそれを取り入れるということについては先輩格でございますので、ここら辺の活動はJICAの活動とも併せて現地から大変評価されていると思います。  ですから、私は、日本には誇るべきそういう資産と伝統があり、これを何とかより向上させるということが必要かと思います。
  25. 簗瀬進

    ○簗瀬進君 時間がございませんので次に進みますけれども、今日の参考人のお話の中で大変なるほどと思ったのは、大村参考人の、アメリカの過剰訴訟はみんな意識をしているんですけれども、過剰管轄過剰域外適用と、こういうふうな御指摘は、これはなるほどずばりその部分が核心なんだなという、こういう関心を持たせていただきました。  したがいまして、まず大村参考人の方から、この過剰管轄過剰域外適用のそれぞれの意味と実態ということについて若干補足をしていただいた上で、それが結果として今回の法改正でいわゆる不法行為の過剰適用についての経済界考え方と日弁連の考え方のずれているところにつながっているのかなという、こういう理解もできますので、そういう観点から、やっぱりアメリカ対応ではこの不法行為法をそのまま従前どおり引き継いだ方がいいのかなと、累積適用ですね。しかし、アメリカ以外との関係、例えばヨーロッパの関係とかその他多くの諸外国との関係の中で、やっぱり例外的な、いわゆる日本不法行為にならなければという部分を優先的にかぶせていくというようなやり方、これは余りよろしくないなと日弁連の方なんかでもお考えになっているわけで、その辺についてのそれぞれのお立場から補足的な御説明をいただければ有り難いなと思います。
  26. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 米国管轄制度はミニマムコンタクトということで、米国と最小限の接点があればもう管轄が生じてしまうと、その取引に関しましてでございますが。それから、仮にその取引関係なくても、いわゆるドゥーイングビジネス、商行為を一般的にやっているというふうに認定されますと、そこにオフィスがなくても管轄が固定されるという形で、我々のような企業米国で訴えられた場合に、昔は、今から去る三十年以上前は日本の大企業管轄権を争ったということがありましたが、全敗でございまして、無意味であるということで、もう最近はあきらめて管轄争いはもうしませんので、もう訴えられたらおしまいと、闘うしかない、こういうようなのが状況でございます。  それからもう一つ過剰域外適用ということでございますが、アメリカの法制自体がアメリカに影響を与えるような行為は、世界じゅうの行為は全部対象にするという、いわゆるリーガルエンパイアリズムと申しますか、法律、法制の帝国主義というのは現実問題として、この言葉はハーバード大学の先生が使っていますので、私が言っているわけじゃないんですが、こういう考え方でやっています。特に独禁法とかそれから製造物責任法に関しては、もうアメリカマーケットに少しでも影響があれば全部アメリカ法が適用されるんですよというのが徹底しております。  実は、今回の法例改正に当たって、日本法累積適用するという考え方に関しまして、若干もう判例がありますので参照してまいりましたけれども、カートリッジ事件でございますか、一番最近の最高裁の判例でございますけれども、内容は今言ったシチュエーションとちょっと違いますが、アメリカの特許法を事実上日本に域外適用するというような法律があって、それを利用して日本で訴えを起こしたところ、日本裁判所はこの法例に従って日本ではそういう考え方がないんだからという、こういう判断をしたと理解しています。したがって、結果的に法例のこの規定がアメリカの域外適用に対する対抗立法的な機能を果たしているんだなということを今回確認させていただいたということでございます。  この問題に関しましては、知的財産の問題全体のこの法例における位置付けということが実は先送りになっているわけでございます。知的財産についての準拠法に対する法原則国際調和というのは大変大きな課題でございまして、まだまだ先が遠いと、国際的合意が得られる。こういう中で、日本法例だけを先行して日本法の歯止めをなくしていくことに関しましては、知的財産関係者は大変な不安を持っていると思います。  以上でございます。
  27. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) まず、アメリカとの関係でいいますと、問題となるのは、一番問題となるのは懲罰的損害賠償でございますが、これは最高裁の萬世工業事件判決というカリフォルニア州の判決日本における執行に関する事件で、カリフォルニア州の懲罰的損害賠償は実損害のてん補を目的としないものであって、制裁を目的としているので、これについては日本では公序に反して執行できないという判例が出ておりまして、日本裁判をした場合はどうかという点ですけれども、これは、私は別に十一条二項、三項が両方なくてもそういうものについては公序規定適用日本では請求できないんだと思いますが、日弁連の意見は十一条二項削除論で三項温存論でございます。  したがって、日弁連としては、懲罰的損害賠償のようなものは日本法上ないので損害賠償としては取れないんだという、そういう規定を残すことは、それは一向に構わない。しかし、二項については、例えばある件ですと、ドイツ企業が製造したものを日本の大手の企業が使っていたと、これはクレーンなんですけれども、それが壊れて運んでいたものが、発電機が落ちて大変な被害を受けたというようなことで、日本裁判を起こそうということになりますが、ドイツでは無過失責任なんですけれども、日本では過失責任になってしまっていると。したがって、加害者保護規定があるために、日本企業としてはあえてドイツに行くかあるいは日本で過失を立証するかという、そういう局面に立たされているということもございますので、国際私法というのは、やはりアメリカ一国だけを見ると、あるいは日本企業が加害者になった場合だけを見るというのでなく、いろんな場合があり得ますので、そういう面では、私は、日弁連の言っているようなことというのは大きな目で見たときには決して日本企業にとって不利益な話ではないというふうに思っております。
  28. 簗瀬進

    ○簗瀬進君 時間が来ましたので、まだまだ質問したいんですけれども、とにかく魅力ある日本法を作るために頑張りたいと思います。  ありがとうございました。
  29. 仁比聡平

    仁比聡平君 日本共産党の仁比聡平でございます。三人の先生方、本当にありがとうございました。  これまでの御意見を踏まえまして、まず不法行為に関する準拠法について私からもお尋ねをしたいと思うんですが、特に手塚先生からも先ほど来お話がありました成立にかかわる従前の二項ですね、これをどうするのか。あるいは、大村参考人手塚参考人それぞれのお立場でこれまでお話しいただいた現場の実情を踏まえて、やっぱり櫻田先生にお話をお伺いをしたいと思いますが、いかがでしょうか。
  30. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) この第一項の原則的なところでございますか。それとも、二項、三項。
  31. 仁比聡平

    仁比聡平君 今度の法改正に当たって、櫻田先生として、あるいは研究者、学会として、この不法行為の特に成立要件の問題についてどのような議論があってきたかという辺りでございます。
  32. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) 不法行為について、まず原則的な準拠法のことでございますが、これにつきましては、従来、特に隔地的不法行為というものがございます。要するに、加害行為を行った地と、それからその結果が発生した地が異なる場合というのがございまして、そういう場合について現在の不法行為地というのではなかなか不法行為地が決定できないのではないかと、そういう問題がございまして、それから不法行為というものをどのような性質のものとしてとらえるかということについて、例えば、端的に言いますと、被害者を救済する、損害をてん補するというのが不法行為の機能であるか、あるいは行為規範としてこういうことはやってはいけませんよという意味での不法行為というものが主流であるのかということで、不法行為というものの性質をめぐって考え方の違いがございました。  そういうこともありまして、不法行為地を決定するときに種々困難を感じる場面がございまして、そこで今回はその点について結果発生地を主とするということで一本化した。これは損害のてん補が不法行為の機能であるということにしたわけでございます。例えば無過失責任主義の不法行為については、これは行動地というのを考えても仕方がございませんので、結果発生地を取る方がいいのではないかというようなこともありまして、そういうふうにしたということでございます。  ただ、そういたしますと、加害行為になると知っていてやる場合は別ですが、過失によって、そうでない場合もございますから、そういう人が、とんでもないところで結果が発生して、そこの法律で自分の責任を問われるというのは困るということで、その点を考えまして、まあ予見可能性と申しますか、これは、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときはというふうにして制限を加えているということでございます。  したがいまして、この原則的な準拠法の決定の仕方についてはおおむね合理的ではないかというふうに考えております。  そういたしますと、ただ問題は二点ございまして、その原則適用すると困る場合が出てくるのではないかと。幾つかございますけれども、規定が熟していると申しますか、議論が熟しているものを取り上げまして、生産物責任それから名誉又は信用の毀損の部分についての特則というのを置いたということでございまして、これもそれぞれ必要な手当てではなかったかなというふうに私は考えております。  先ほど来手塚参考人がおっしゃっている現行法例の十一条の二項のところでございますが、要するにいわゆる特別留保条項と呼ばれるものでございます。この点につきましては、学説は従来このようなものは不要であると、それはそういうことをしなくても現行法例の三十三条の公序の規定がございますので、甚だしい場合はそれではねることができるわけだから、特別留保条項のようなものは不要であるというふうに考えていたところであります。  しかし、まあ現在でもこの立法例も少数ながらこういうものはございますし、それから、何よりもこの新たな特別留保条項を設けるのではなくて、既存のものを、その削除を見送るかどうかという消極的な判断でございますので、その点については積極的に設けるよりはやや程度が、何といいますか、決定の程度が低いと申しますか、それで削るかどうかということについて議論があったわけでありますけれども、先ほど触れました名誉棄損の問題については、例えばこの法制のモデルになりましたイギリスなんかにおいても、一九九五年に法律によりこういう特別留保条項というのは廃止されているわけですよね。ところが、名誉棄損については、これは表現の自由もあるということで、これは残されております。  それから、さらに、先ほどちょっとカードリーダー事件でお触れになりましたけれども、アメリカの特許侵害について日本適用する場合に、アメリカの特許法では、要するに外国からそういう特許侵害を幇助するといいますか、そういうものも適用対象にしているという、そういう意味で一種の域外適用になろうかと思いますけれども、そういうものも認めておりましたので、そういうものをやはりこれでたしかけっていたわけですね。  ですから、ほかに時効期間について、これは公序に反するとまでは言えないけれども、日本法考え方と違うということで、時効期間についてそういうものを排除しているものもありまして、大村参考人の方から御指摘がありましたように、実際に使う産業界の方でなお多くのところで不安があるとおっしゃるもんですから、それだったらまあ当面は存続させる以外はないのかなということで、ある意味でそんなに賛成をしていたわけではございませんけれども、消極的な判断としてはやむを得ないのかなということでこの特別留保条項が残ったのではないだろうか。確かに問題はございます。
  33. 仁比聡平

    仁比聡平君 よく勉強させていただきたいと思います。  今のお話をお伺いをしていましても、改めて感じるんですが、成文法の規定ぶりとともに、現実に事案を踏まえた裁判例も含めた判断がどんなふうに積み上げられていくのかということも国際私法の重要な中身を構成しているように思いまして、特に今回の法改正に当たって、この国際私法実務、現場の、ここの関係といいますか、実務において国際私法がどういう機能を果たしているのかということもちょっと手塚先生にお伺いしたいと思うんですけれども。  先ほど準拠法の、特に契約の中での合意による決定ということが特に大企業を中心に行われているというのはそのとおりだろうと思うんです。そういった合意による準拠法を決めていくに当たってのいろんな考え方というものの中で国際私法があるいは様々なルールがどんな役割を果たしているのかという点が一つですね。  もう一つは、今そういったその実務の現場で、先ほど不法行為については少しお話をお伺いをしましたので、消費者契約ないしはその取引、あるいは労働契約について今回特段の規定が置かれることになるわけですけれども、ここで特に我々立法に当たるものとして踏まえておくべき実態あるいは事案というものがどんなものがあるかというその二点、手塚先生にお願いしたいと思います。
  34. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) まず、国際私法準拠法を合意で定めるときにどういう役割を担っているかということでございますが、一つ契約に手慣れた大企業同士であれば、大村参考人がおっしゃったように、準拠法については必ず合意をするように努めるわけでございまして、ただ実際にはいわゆるその発注所だけで契約をしてしまう事例もございますし、後から問題となる事例が多いんですけれども、その場合に行為地法というような準拠法の決め方をしていたためにいろんな点で争いがあったということで、今回の準拠法決定についての最密接関連地という基準、それからそれを補うものとしての特徴的給付の理論等、これについては私は実務にとっては非常に有り難い、明確化をしたものとして評価できるというふうに思っております。  それから、消費者契約、労働契約でございますけれども、これは、今回の消費者保護立法がなくても、いわゆる絶対的強行法規だというような議論で消費者側に有利な保護を与えることは理論的には不可能ではないのかもしれません。しかし、先ほど申し上げましたように、やはり消費者保護というのは非常に類型的に問題になりますので、今回その規定を世界の先進的立法例に倣ってきちんと入れたということは評価すべきでございますし、かつ入れ方も余り、消費者に一見有利に見えるように優遇性比較を常に必ずいろんな論点について裁判所が自らするんだというような入れ方では、かえって訴訟遅延あるいは非常に手続が複雑になるということもございまして、それはよくないというふうに考えておりましたところ、法案としては消費者が主張した特定の争点についてのみ消費者の常居所地法の強行規定適用するということで、これは大変バランスが取れているというふうに思います。  労働契約についても今までは特段の規定がございませんでしたので、例えば外国の方を企業日本子会社で雇うような場合に日本法で採用してしまいますと、解雇権濫用法理というのが日本人と同様に適用されるのかと。そうはいっても非常に高い給料をもらっていながら解雇はできないということでいいのかというようなことで、そういう場合にはあえてアメリカに呼び戻した上でそちらで解雇するというようなことをやっておったわけですけれども、今回、労働契約についてはその点明確化されて、労務提供地の規定でやるんだということが明確になりましたので、それを踏まえて実務は対応していくということでございまして、明確化されているということが非常にそれ自体として価値があるというふうに思います。
  35. 仁比聡平

    仁比聡平君 いろいろ現場の実情も勉強させてもらいたいと思っています。  最後に、大村参考人にお尋ねをしたいと思うんですが、私も、先生方お話がありましたように、この国際私法の今現在果たしている役割の議論の中で、分かりにくくて、日本の条文とそれから積み重ねられているルールが分かりにくくて予測可能性に欠けるのではないかという趣旨の文章といいますか論文といいますか、そういったものを幾つか拝見したわけですけれども、経済界国際取引において、今回の改正でそういう懸念というのは払拭できるというものなのかどうなのかという辺りをちょっと御所見を伺って、終わりたいと思いますが。
  36. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 今回改正された事項はいずれも先ほど手塚参考人のおっしゃったとおりでございまして、前進でございますが、今回すべての分野について規律を明らかにしたわけではなくて、先ほど申し上げました知的財産の扱いとか非常に難しい議論、先送りになっています。したがって、今の御質問に対しては、現時点で皆様が検討した事項については分かりやすくなっていると。まあ課題は一杯あると。  それから、先ほどの累積適用の問題につきましても、これだけの論点で果たして国際私法だけで議論していいかどうかと。もっと広い視野で検討しなきゃいけないんじゃないかというような問題が先送りになっている。こういう面もあろうかと思います。
  37. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 国民新党の亀井でございます。  今日、参考人の皆さん方三人、お忙しい中、ありがとうございます。いろいろと勉強させていただいておりますが。  最初にちょっとお尋ねしたいのは、先ほどお話が出ましたけれども、百年ぶりの改正だということでございますけれども、不思議に思えるのは、戦後六十年、特に最近三十年間の日本国際化というのは激しいものがあるわけでありまして、そういう意味では国際私法という、この問題はもっと早く取り組まなければならなかった問題ではないかと思うわけでございますけれども、それがこんなに遅れたのはどういうことだったのかということと、同時にまた、今回の改正で、さっきも大村参考人おっしゃいましたけれども、まだまだ残された問題が知的財産権を始めとしていろいろあるということでございますけれども、残されたもので大事なものはどういうことがあって、それについてはどういう取組がこれからされるんだろうかということについて、それぞれの参考人からお尋ねしたいと思います。櫻田参考人から。
  38. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) どうしてこの改正がここまで遅れたのかということ、これは法務省の方にお聞きいただいた方がよろしいかと思いますけれども、私どもといたしましては、もっと早く国際私法改正をしたいというふうに考えていたところでございます。  ただ、最近多くの、一九八〇年代以降多くの国で大変立派な国際私法立法がなされておりまして、その参考にすべき法律がたくさん出てまいっております。そういうこともあって、そういうものを慎重に検討しながら新しいルールを考えてはどうかという意味では、まあ今がちょうどいい時期かなというふうにも考えております。  それから、今後は、先ほど何度も出てまいりましたように、例えば世情をにぎわしております職務発明だとか知的財産権の問題でございますね。これについては、現在、国際的にいろんな提案がなされておりますので、そういうものについてもいずれは何らかの手当てが必要かなというふうに考えておりますけれども、これはどの国も悩んでいるところだろうと思いますので、今後の課題として是非法務省辺りに考えていただければと思います。
  39. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 国際私法抵触法というのは国のインフラに、法律の中で、法律そのものはインフラなんですが、その中で更にインフラストラクチャーに当たる部分でございまして、どうしても目先の直接取引とか利益とか活動にかかわるところには法律を変えてくれという動きになるんですが、インフラに対してはどうしても先送りになると。その結果、百年もたってしまったというような考えであります。  それから、今後の課題でありますが、国際取引法を考えるときにはやはり裁判管轄制度国際調和というのが大変重い課題で、これは各国の国家主権が絡みますので、この問題はなかなか前へ進まないんですが、やはりこれは本質的な問題であろうかと思っています。
  40. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) 第一の遅れた理由ですが、私が理解するところでは、やはりバブル崩壊後、倒産法の改正というのを優先したというふうに聞いております。  で、実際には今回の法例と同様に非常に古いものとしては仲裁法というのがございまして、これも百年以上ほとんど改正がなかったんですが、これにつきましてはUNCITRAL、国連商取引委員会ですか、こちらのモデル法、模範法というのがございまして、これにぴったり準拠した非常に国際水準の仲裁法がもう施行されております。  実は、来週にも、日弁連、それからIBA、国際法曹連盟、日本商事仲裁協会等主催で大きな国際仲裁のシンポジウムをやる予定でございますけれども、日本の仲裁法は改正によって世界に誇れる最先端の仲裁法にはなったということなんですが、この仲裁法自体も倒産法の改正関係で成立は遅れたというふうに聞いております。  今後の課題ですけれども、知的財産のほかに信託に関する準拠法規定の整備は先送りになりました。これは信託法そのものを大改正するということが予定されておりましたので、その改正を待ってからということでございますから、これは積み残し。それから、あと、国際裁判管轄については、管轄を定める国際的な条約を目指して各国で協議していたところ、まとまらずに合意管轄、専属的合意管轄のみの非常に小さい条約になってしまいました。日本としてはそういう状況を踏まえて、むしろ国内法での管轄を整備するという方向になっていくと思われますが、これについてはなるべく早急にそういう作業をすべきものと考えております。
  41. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 ありがとうございました。  ごめんなさい。法務省に聞かなきゃいかぬことを皆さんに聞いちゃったので、この次の質問のときに聞かしてもらいますから。  それはそれとして、今回のなんで、消費者問題ですね、消費者保護の問題が入ったわけですけれども、これについていろいろちょっと勉強さしてもらったんですけれども、そうすると、いわゆる能動的消費者については保護の対象から外すということになっておりますけれども、しかし、そこで勧誘を受けた場合にはそうじゃないんだということですね。そうすると、その場合の勧誘がどういう形で、どの程度の勧誘受けたら保護の対象になるのかという辺りのところについての解釈が手塚参考人大村参考人の間でちょっと意見が違うように思うわけですね。大村参考人の場合は、文書もちょっと、ほかの資料も読ましてもらいましたが。  そういうことで、これについて、この範囲の問題について、手塚参考人大村参考人、そしてまた櫻田参考人も客観的な立場からちょっとお話しいただきたいと思います。
  42. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) ただいま御指摘のありました能動的消費者というのは、例えばですが、私がどこか、タイか何かに行って、そこで、現地のお店から物を買ったというときに、日本裁判を起こして日本の消費者保護法の規定に基づいて代金返還請求をすると、こういうことはできないということなんですが、たしか、ドイツのお客さんを相手にした大カナリア事件というんでしょうか、そのグランドカナリア諸島というところが消費者保護規定が弱いものですから、ある業者がドイツ人の旅行客を集めて、そこへいらっしゃいということで、観光ツアーのような形で実はそこでいろんなものを売り付けたという事件がございまして、そういう現地へ赴いて買っているんだけれども、事業者の方でそれを積極的に勧誘した場合には例外の例外を認めるというような考え方のもとになった事件でございます。  私どもとしては、そこで言っている勧誘というものに余り、インターネットで世界各地に向けて一般的な宣伝をしているというようなものも一種の誘引行為なんですけれども、そんなものまで広く含めて例外の例外でいいのかというようなことがありまして、基本的には、そういう勧誘をするというのは、ある程度特定の人に対して勧誘をするということでいいのではないかというふうに考えておりまして、今回の例外の例外規定はそういう考え方と整合しているのではないかというふうに考えております。
  43. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 手塚参考人の今の御発言と全く同じ認識をしていまして、差はありません。  個別の勧誘があったときにはそのまた例外になるということが今回の法案で明確になったと理解しています。
  44. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) 基本的には特に意見はございませんけれども、基本的には、消費者を保護すべき、保護すべき消費者とはどういうものであるか、どういう消費者契約保護されるべきかと、こういう点でございますので、自分で進んで行っていると、これはまあ飛んで火に入る夏の虫でございまして、そこでその法律に従わないといけないのはこれはもう仕方がないだろう。しかし、同じように行っていても、呼び出されたといいますか、だまされて連れてこられた、こういう場合については保護しようということでございますので、そういう趣旨から考えていくより仕方がないのかなというふうに考えております。具体的にはそういうことだろうと思います。
  45. 亀井郁夫

    ○亀井郁夫君 ありがとうございました。  私がいろいろ資料を読んだ限りでは、手塚参考人は消費者の立場に立ち、大村参考人企業の立場に立って、この勧誘の範囲手塚参考人の方が広くて大村参考人は狭いというふうに理解しておったんですけれども、それは間違いですね、分かりました。  ありがとうございました。
  46. 浜四津敏子

    浜四津敏子君 公明党の浜四津でございます。  本日は、お三方の参考人の先生、お忙しい中おいでくださり、貴重な御意見、御提言いただきまして、大変ありがとうございます。  今回の通則法案では、その表記の平仮名、口語化を図るとともに、実質的にも、諸外国における国際私法の立法動向を踏まえた上で、消費者や労働者に対する保護規定の導入など、弱い立場に立たされた人々の視点ということも踏まえた改正になっておりまして、その点をまず高く評価したいと思います。  国際私法は、かつてもう何年も前に学び、また実務でも使わせていただいた経験がありますけれども、身分関係国際婚姻、国際離婚、あるいは国際養子縁組、国際相続、また国際取引関係など、本当に幅広い問題についてその準拠法を定めているという、準拠法を定めるルールでございますが、今回の改正の中で、特に、先ほど申し上げました弱者保護という立場に立った改正という視点から質問をさせていただきたいと思います。  まず、通則法案におきましては、法律行為に関する規定改正の一環として、消費者契約について消費者保護の特例が盛り込まれております。十一条で、消費者にとって利益と考えられる関係が密接な地の法律常居所地法をなるべく適用できるようにという配慮がなされております。  これまで、我が国においては、消費者契約法など国内法による消費者保護はありましたけれども、国際的な契約において消費者が当事者となる場合に、必ずしも我が国の消費者契約法などの消費者保護規定適用があるかどうかということが明確でなかったところでございます。このような規定によりまして消費者のために適切な法律適用が確保されることになったというのは、大変意義が深いと考えております。  そこで、まず櫻田参考人にお伺いいたします。  法律行為準拠法について、新たに消費者保護規定を設けることについてどのように評価しておられるでしょうか。また、契約における消費者保護について、諸外国ではどのような法制が取られているのでしょうか、お教えいただきたいと思います。
  47. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) まず、法律行為とこれ申しておりますけれども、主として、これは単独行為契約を含んでおりますので、単独行為の方は少しおいておきまして、契約に絞って考えてみますと、原則として、これは消費者契約といえども契約であるということでございますから、当事者によって自由にその準拠法を決めることができる、これは当事者にとって便宜であろうというふうに考えられます。  しかし、これは、消費者契約の場合には、先ほどおっしゃいましたように、御指摘のとおり、弱者といいますか、交渉力が対等でない人が当事者になっておりますので、その準拠法を決定する際にもその強者の方の論理が入ってくるわけでございます。したがいまして、当事者だけに任せておいてはこれは合理的な準拠法が決まらないということでございますので、こういう場合には特に消費者を保護しなければいけないということで、それともう一つは、客観的な連結のところで、客観的連結と申しますのは、当事者によって準拠法の指定がない場合について、今度は最も密接な関係がある地の法ということを決めたわけでございますが、そのときの推定規定としてはいわゆる特徴的給付の理論というのを採用しております。  特徴的給付の理論というのは、現代型の契約というのは、これはほとんどが一定の金銭を支給して、お金を払って何かを、サービスをしてもらうという、こういう双務契約の場合はそういう構造になっているものですから、このお金を払うというところについてはその契約の特徴は出てこない、皆同じである。そうしますと、金銭給付に対応する反対給付の方にその契約の特徴が出てくるのであろうということで、その反対給付の方に目を付けまして、それを基準にして準拠法を決定する、それを推定するわけでございます。  そういたしますと、消費者契約の場合には、消費者というのは大体お金を払うだけでございますので、常に相手方の事業者の法が適用されることになってしまいはしないか。これはまずいわけですから、二重の意味で。つまり、選択をするときにも問題があるし、それから客観的に連結する、つまり事業者の法を適用するという推定にも問題があるということで、そういうことを考えまして、消費者を特に保護すると。  それはどういうふうにして保護するかと申しますと、消費者は自分が一番よく知っている、身に付いた法と申しますか、一番よく知っていてそれらの生活上使っている法律、それは知っているべきだろうと。ですから、それによって保護されるのが消費者の保護になるのではないか、こういうことで作られたと、こういうことでございます。
  48. 浜四津敏子

    浜四津敏子君 ありがとうございました。  次に、手塚参考人にお伺いいたします。  この消費者保護規定につきましては、これまでの法例には規定がありませんでした。今回の通則法案によって導入されるというものですから、これまでの契約準拠法前提とした実務とは異なる考慮が必要になると思われます。  特に、消費者の側からしますと、消費者契約について準拠法契約で決まっている場合には、消費者の常居所地法適用を受けるためには、消費者が適用を受けたい強行規定を特定して主張しなければならないと、こういうことになっております。この消費者保護規定適用を受けるに当たって、消費者がその常居所地法中の強行規定を特定しなければならない、つまり消費者の行為がなければ保護規定を受けられないとされている点についてはどのようにお考えでしょうか。
  49. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) 消費者保護規定としては、例えば解除権を消費者に与えるですとか、あるいは一定の条項を無効にするとか、いろんなものがございます。場合によっては、例えば、いわゆる遅延利息というんですか、そういうものが何%というのは高いとか低いとか、いろんな保護の仕方があると思うんですが、法制審議会の部会における議論では、優遇性原則といって、裁判所が全部面倒を見てあげるという考え方も強く主張されました。  ただ、日本裁判所は非常にまじめでございますので、そういう義務裁判所に課してしまいますと、恐らくそのありとあらゆる論点について全部調べてからでないと判決が書けないということになって、これは裁判所にとっても非常に大変であるし、消費者も外国法を調べるのはなかなか大変なんですね。  したがって、私どもとしては、消費者の方でクーリングオフしたいんだと、あるいはこれは無効だと言いたいんだというような特定の争点について御主張をされればいいということでありまして、それは契約のときにそういう論点に気付かなきゃいけないということでは全くございません。裁判になってから主張する、これでも構いませんし、裁判になる前に代金請求を受けたら、いや、私は解除するんだと、こういうことでも構いません。そういう意味で消費者の負担を減らし、裁判所の負担も避けつつ、消費者にはそういう権利を与える。  日本裁判所実務としては、消費者が言わなければ、じゃ黙って無視するのかというと、これは一種の釈明義務というのが民事訴訟法にございますから、明らかにこの主張をすれば勝てるのにそれを一切言わないというのは、これは裁判所義務としてはやはり釈明義務違反になりかねませんので、実務上今回こういう規定が入ったということは、裁判所は何にもやらなくていいということではなく、釈明義務についてはきちんとやっていただけるという信頼の下に、日弁連としても、まああえて消費者問題対策委員会からは優遇性原則を入れてほしいという要望もあったんですけれども、そういう信頼の下に消費者が主張することを要するという規定ぶりを支持したということでございます。
  50. 浜四津敏子

    浜四津敏子君 次に、大村参考人にお伺いいたします。  この消費者保護規定による影響は、他方で事業者側にもあるわけで、事業者の側においても消費者契約であれば常に消費者の常居所地法適用するというのでは対応が困難になってしまうことがあると思われます。  そうした観点から、消費者保護と事業者の利益のバランスを考慮して、自分の意思で国境を越えて事業者の下に赴いて契約をしたような場合、つまり能動的な消費者と言われるような場合についてはこの消費者保護規定適用を除外するということにしております。  このような消費者保護規定の除外適用に関する通則法案規定内容について、大村参考人はどのように評価しておられるでしょうか。
  51. 大村多聞

    参考人大村多聞君) この件に限らず、全体が大変バランスが取れた規定ぶりだというふうに評価していまして正にこの規定も非常にバランスが取れたものと評価しておりまして、個々的にはいろいろな、こんな規定要らぬじゃないかという意見を言う人もいるし、いや、時代の流れでむしろ前向きにという、考える企業さんもいますが、基本的にはこの結論で異存はないと考えております。
  52. 浜四津敏子

    浜四津敏子君 次に、櫻田参考人にお伺いいたします。  不法行為準拠法に関しましても、これまではその原因になる事実が発生した地の法律によることとなっていた点を、被害者保護の観点も踏まえまして明確化して、原則として結果発生地法律によることとされております。  確かに、不法行為により被害を受けた側からすれば、加害者が行動したのがどの国かということよりも、実際に被害を受けた結果発生があった場所がどの国かということの方がより重要だと考えられますので、被害者保護という観点からいたしますと、この点の改正も非常に重要なポイントではないかと考えております。  この不法行為準拠法について、原則として結果発生地法律によるということとした点については櫻田参考人はどのように評価しておられますでしょうか。
  53. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) 先ほども申し上げましたように、基本的にはこれは諸国の立法の動向も踏まえた妥当な結論ではないかというふうに考えておりますし、実際問題として、先ほど申しましたような、無過失責任主義の不法行為のタイプについても対応できるということで、原則はこれでよろしいのではないかというふうに考えております。
  54. 浜四津敏子

    浜四津敏子君 最後に、時間がございませんので、お三方にお一言ずつ御意見を賜りたいと思います。  今回の改正におきましては、不法行為準拠法に関する特則として生産物責任及び名誉毀損準拠法に関する規定が導入されております。このうち生産物責任につきましては、結果発生地ではなくて、原則として被害者生産物の引渡しを受けた地の法律によるということとされておりまして、一見しますと被害者保護という観点からは後退しているのではないかというふうにも見えるところでございます。  このような生産物責任に関する特則につきまして、諸外国の法令との調和との観点から、また被害者の立場、あるいは加害者となり得る事業者の立場からどのような評価をされておられるか、お一言ずつお伺いしたいと思います。
  55. 櫻田嘉章

    参考人櫻田嘉章君) 製造物責任につきましては、通常の不法行為とはちょっと異なりまして、これは一定の製品の瑕疵に基づく責任でございますので、メーカーといいますか、製造者がございます。その被害者保護だけを念頭に置きますと、これはひょっとするといろんなところで結果が発生して過大な製造物責任、まあアメリカの場合は懲罰的損害賠償がございますので非常に過大になっておりますけれども、そうでなくても、過大な損害賠償をしなければいけないという結果が出ないとも限らない。そうなりますと、これは安んじてメーカーが製造するということが阻害されるわけでございますから、被害者の利益と、それからそういうメーカーの利益、製造者の利益というものを、これ調整しなければいけない。  それはどこでやるかということで、従来の通説によりますと、通説といいますか有力な考え方によりますと、それは両者が会う市場地ではないか。つまり、流通に製品を置いて、そこの法律によって責任を負うのはこれは仕方がないと。消費者の方も、そういうものを取得した、その市場で取得するわけですが、そこの法律によって責任を追及するしかないんじゃないかということで、こういう考え方がとられたわけです。  ただ、市場地という概念は、これは法律で定めるのは大変難しいわけでございますし、仮に定めたといたしましても解釈が非常に難しい。経済学的にもいろいろと言われているところでもございますので、それでは、その製品を購入したところ、基本的にはそれを取得したところ、それをメーカーの方から見ますと、これは引渡ししたところということになりますので、そういうところに特定して準拠法を決めたということでございます。
  56. 大村多聞

    参考人大村多聞君) 企業が物を製造して売るときには、後で責任追及されたらそれを逃げようという姿勢ではありません。その正反対でございます。顧客満足度を高めるのは企業の仕事でございますので、その国の風土、気候、生活慣習に合わせた商品を作り、その国の諸法令、安全基準、更にそれに上乗せしてやろうと、こういうことでやっているわけでありまして、したがって、一定の市場を想定して安全基準その他を引き上げて顧客満足度を高めようと行動しているわけでございますので、今回の法令はその考え方を素直に受け入れていただいた案になっていると了解しております。
  57. 手塚裕之

    参考人手塚裕之君) この生産物責任については、法制審議会の部会での議論では一時期、むしろ製造業者側の予測可能性ということから製造業者の主たる事務所地を原則にというような意見も出ておりました。そういう意味では、むしろ被害者側に保護を与える方向での法案作りの方向になったということで、ただ、通常の不法行為のように結果発生地だといたしますと、取得した市場とは別のところに持っていったところでたまたま事故が起きたというようなときに、そういうたまたまのところで準拠法を決めるというようなことになりかねませんので、やはりこれは立法例等なども参考にその当該製品が市場に置かれたところというような趣旨であったわけです。  ただ、今回の、被害者が引渡しを受けた地というふうにしてしまいますと、日本の航空会社がシアトルでボーイング社から引渡しを受けた航空機がマレーシアで落ちたというようなときに、それは被害者が引渡しとは何なのかという点は確かに問題としては残るんですけれども、私としては、そういう被害者側がその製品の引渡しを受けたというのは、今の例でいえばシアトルだと、落ちたところではないという解釈をしていくことで現実的な解決は図れるのかなというふうに思っております。
  58. 浜四津敏子

    浜四津敏子君 ありがとうございました。
  59. 弘友和夫

    委員長弘友和夫君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人皆様方に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、大変お忙しいところを貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。当委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げる次第でございます。(拍手)  本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後零時四分散会