○
参考人(
山口廣君) この
消費者団体訴訟制度につきましては、
弁護士会を挙げてこの実現が必要であるということを述べてまいりまして、是非この通常国会で採択していただきたいと強く願っております。
行政府の目が届かない悪質な商法や、あるいは私たちを含む司法による救済の手が届きにくい実態について、民間の
消費者団体が切り込んで
被害発生や拡大の防止を図るということは大変有意義なことだと、そう思っております。
消費者団体訴訟制度は、近年激増している
消費者被害の拡大防止につながる画期的な
制度でありますから、是非、今国会で実現されることを望んでおります。
しかし、この国会で
立法されようとしている案には、この
制度の実効性を損なう問題点が幾つかございますので、是非これを取り除いた形で
立法されることが必要だというふうに考えます。
日弁連が
内閣提出の
法案の問題点として考えておりますのは以下の点にございます。
第一に、後に述べますが、後訴遮断効の問題です。この点に関しては大変大きな弊害が予想されます。
消費者団体訴訟制度の実効性を危うくすることになると危惧しておりまして、是非削除を
検討いただきたいと思います。
第二に、
差止めの
対象となる実体法に
消費者契約法の四条、八条あるいは九条、十条のほかに、先ほども何人かからお話がありましたけれども、詐欺、脅迫あるいは公序良俗違反、借地借家法の強行
規定なども含めるべきであると考えております。
第三に、
不当条項のいわゆる
推奨行為、これも
差止め対象とすべきであると考えております。
第四に、
消費者団体訴訟制度の実効性を確保するために、
適格消費者団体に対する財政面も含めた積極的な支援を
お願いしたいと思います。
第五に、
消費者団体が
損害賠償を
請求する
制度や
事業者の得た不当な
利益を吐き出させる
制度については、これは緊急の課題でありますから今国会で
制度化することが望ましいとは思いますが、それができない場合でも早急に
導入に向けた
検討を
お願いしたいと思います。
第六に、これらの問題点の検証をするために、五年程度の年限を限った見直し
措置を是非設けていただきたいと思います。
以下、まず最大の問題であります後訴遮断効の問題について述べさせていただきたいと思います。
これについては大きく三つ問題があると思っております。
第一に、実際上、
消費者団体は、
訴訟を起こそうかと考えるときに、この
規定があるためにとても大きな重荷になるんではないか。つまり、よほど明確な事例で、もう勝訴が確実であるというような事例でないと
裁判を起こすことをちゅうちょせざるを得ないというような
制度になってしまっているのではないかと思います。
第二に、この後訴遮断効は、各
消費者団体が個別に実体上の
訴権を持っているというこの
制度の前提となる法理と矛盾し、また現行
民事訴訟法上の既判力を
実質的にいびつな形で拡張するものでありまして、理論的な整合性が取れていないと言わざるを得ないと思います。
第三に、後訴遮断効を設ける
実質上の
理由は、これは矛盾した
判決を避けることとか、あるいは
事業者の負担軽減が挙げられると思いますが、しかし、後訴遮断効がなくとも矛盾した
判決による問題は最高裁
判決などでおのずから解決いたします。
また、
適格消費者団体の
要件などを考えますと、
事業者の負担を
配慮するほどにこの
制度が活用されるといいますか、
訴訟が活発に起こるということは残念ながら余りないと私は考えております。むしろ、後訴遮断効
制度は弊害が余りに大きくて、このためにこの
制度が、
団体訴訟制度自体が絵にかいたもちになると。例えば、独占禁止法二十五条の独禁法違反事例に対する
損害賠償が本当に今
運用が難しくなっておりますが、そういう形になりはせぬかと非常に深刻に憂慮しております。
まず、この
規定を適用した場合の不都合な例ですが、十二条五項二号の「
確定判決等」の「等」には
和解とか
請求の放棄が含まれております。内閣府のこれまでの説明によりますと、例えば
各地の
適格消費者団体が同じ
事業者に対して
差止めを求める
訴訟を起こしている場合に、そのうちの
一つの
適格消費者団体と
事業者との間で
和解が成立しますと、他の
訴訟を起こしている
適格消費者団体の
請求は一斉に棄却されるということになります。
もう少し具体的に申し上げますと、例えば、九州の
適格消費者団体が、
全国に支店を有する住宅会社の
契約条項が余りに
消費者に不
利益だということで
差止め訴訟を起こして、一審で勝訴したとします。しかし、
事業者から控訴されて福岡高裁に係属していると。そういうときに、後から同じ
事業者に
訴訟を起こした札幌の
適格消費者団体が形勢不利だということですぐに
和解をしてしまったとします。そういう場合には、せっかく一審勝訴している福岡の
消費者団体はそれ以上
訴訟が続けられないで、
請求が棄却されるということになってしまいます。
これは実際に起こり得ることでありまして、札幌の
消費者団体が、非常にこれは有利な証拠だということで
被害者の、例えば年配の
被害者の証言を期待して
提訴したとした場合に、その
被害者が急に亡くなったというような場合、あるいは札幌の
消費者団体の内部事情か何かで
訴訟の継続が非常に難しくなったというような場合に
和解を余儀なくされるということがあり得ると思うんですね。このような場合に、他の地区の
団体の成果が無に帰してしまいかねないという
事態を憂慮しております。
積極的に
訴訟追行している
適格消費者団体が
消費者に有利な結果を得ようとしても、他の
消費者団体が
和解や控訴の断念を行うと
消費者に不利な結果が残ってしまうという問題がございます。
例えば、福岡地裁で、問題の住宅会社がその
契約条項を自粛すると約束したので、あいまいな形で
和解したと。ところが、北海道では、なおその
条項を使って営業していたという場合、どうなるんでしょう。非常に
運用上の混乱が予想されます。
この不合理さを
回復するため、政府案では、
適格消費者団体に、
訴訟状況を他の
消費者団体に通知する義務を課しております。しかし、
裁判所での
和解条項の詰めといいますのは、
裁判官を間に挟んで大変微妙なやり取りになります。
例えば、
事業者が、年末商戦の直前の今なら、今日の
和解期日ならばこの
条項をのんでもよいと即決を求めた場合に、これは、その
条項をのむかどうかというのは、これは即断を迫られるということになります。その場合に、事前の協議をするというのは、なかなかこれは実際には難しいという状態が考えられますので、なかなかこの
条項の、何といいますか、
運用は難しいなと思っております。
先ほど、
山本先生の方は
ドイツの例を言われましたけれども、
日本の
裁判の特徴は、これは
和解が半分以上、非常に
和解で解決する事例が多いわけでして、そこら辺は
ドイツの実情と違うところを是非御
配慮を
お願いしたいと思います。
政府案では、このような不合理な結果を回避するために三十四条一項四号を設けています。
この
規定では、
消費者団体が
事業者と通謀して
請求の放棄をしたり
消費者の
利益を害する
内容の
和解をした場合などには内閣総理大臣が適格
認定を取り消すことができると、その場合には他の
消費者団体は同一の
請求ができるとしています。
しかし、
事業者と通謀したなれ合い
訴訟かどうかという
認定は、私は実際上は不可能だと言ってよいと思っております。とりわけ、
事業者との話合いで双方譲り合って
和解したという
和解の場合には、この通謀の
認定はほとんど私は不可能だと思います。元々、
裁判所の関与の下で適法に行われた
訴訟活動を、
訴訟に関与しておらず、その問題について十分な資料も
情報もない内閣総理大臣が事後的に、
消費者の
利益に反する
訴訟追行を行ったと判断することは到底無理だと思います。
また、政府案では、後訴遮断効の例外として、前訴の、前の
訴訟の
口頭弁論終結後の事情に基づいて新たな
請求をすることはできるというふうに決めております。
しかし、例えば大型の
消費者事件の場合で、当初は
事業者の組織ぐるみの不当な
行為であると分からなかったことでも、例えば刑事
事件になって、強制捜査で勧誘マニュアルなどの新たな証拠が出てきてはっきりするということは間々あります。ところが、
口頭弁論終結後に新たな証拠が出てきたというのは、これまでの
審議の内閣府の説明を聞く限りは、
原則として
口頭弁論終結後の事情とは言えないということのようであります。そうしますと、政府案では、十二条五項二号の
規定によって、一度
消費者団体の敗訴
判決あるいは
和解ができてしまいますと、それを覆す証拠が出てきたとしても、悪質商法が大手を振って横行するのを、他の
消費者団体は手をこまねいて眺めていなければならないということになりかねません。
このように、政府案の後訴遮断効とその例外
規定では、
消費者に不
利益な
事態が生じることを防止できず、この
制度の実効性を著しく害するおそれが大きいと言わざるを得ません。
そもそも、この
制度は、
国民生活審議会の
報告書によれば、
適格消費者団体に実体法上の
差止請求権を付与するというものでした。
民事訴訟法の一般的な既判力の
考え方からしますと、各
団体に実体法の
差止請求権があるのならば、
一つの
団体が行った
訴訟の結果は他の
団体には効果を及ぼしません。ところが、後訴遮断効では、あたかも既判力を他の
団体に拡張するかのような効力が認められてしまっています。この点は
民事訴訟法の原理
原則を大きく変更させるものです。ところが、この法理の変更、矛盾について十分な
検討がなされておらず、何らかの事情でとても唐突にこの提案がなされました。
法案準備の
審議会の討議でも、それまで全く討議されていなかったことだと確認されております。
また、これまで述べたことからも明らかなとおり、法十二条六項の
規定の
内容も不明確です。
十二条六項で同一事由の
差止め訴訟を起こすことができるとされる
確定判決などの成立後に生じた事由とは何を指すのか。政策的
配慮で設けた
規定と説明されてきたようですが、それでも余りに
規定の
運用の現場に混乱をもたらします。
ある地区で
和解かあるいは敗訴したと、ところが、ほかの地区で新しい証拠が見付かり、
被害も次々に出ているので
訴訟を起こしたと、こんなとき、この十二条六項に該当して再度同一
事業者相手の
差止請求ができるのかどうか。このこと自体をめぐって
裁判所で消耗な入口論争が強いられるということが予想されまして、これは弊害が大きいなと思っております。
内閣府は、十二条五項二号のような仕組みを設ける
必要性について、紛争の一回的解決の要請などを
理由としておりますが、これまで述べましたとおり、このためにこのような不合理な
制度を設ける必要はないと思っております。おのずから最高裁
判決などで明白になるはずであります。
また、濫訴の防止は、先ほど
齋藤委員も言われましたけれども、様々な、事後的担保
措置や
行政への業務、財政の報告義務、あるいは
行政監督権などが設定されておりまして、防止策が十分
配慮されているかと思います。
最後に、私は、
損害賠償制度についても是非早急に
検討いただきたいと思います。
一昨日でしたか、国会
審議の過程で、いわゆる振り込め詐欺などの不正利用の疑いでメガバンク四銀行に凍結された口座の残高が三十五億円あるということが事実として明らかになりました。私自身は、郵便局や地方銀行にプールされている資金も含めますと、振り込め詐欺の
被害のお金が百億円程度は現在銀行あるいは郵便局の口座に眠っているのではないかと思います。
このような犯罪
被害者、あるいは不当
利益をどのような形で
被害者に還付するのかということについての
制度設計は早急になされるべきでありますし、これについていわゆる
消費者団体の
団体訴権を活用する道は大いにあるのではないかと思います。
以上、
発言の時間をいただきましてありがとうございました。