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参考人(
田下憲雄君)
社団法人日本マーケティング・リサーチ協会の会長を務めております
田下と申します。本職の方は、株式会社インテージという市場
調査の専門機関の社長を務めております。旧社名、
社会調査研究所というふうに申し上げると、ああ、あの会社かというふうに理解していただける方もいらっしゃるかもしれません。
私の方は、既に
検討会の方にも協会としての
意見の表明もしておりますし、
パブリックコメントも発表しておりますので、これを繰り返すということになりますけれども、市場
調査の業界、協会を代表いたしまして、市場
調査のために
住民票の
閲覧をするということについて、これを今の法案では
原則駄目だということになっておりますけれども、是非、
住民票閲覧の規制の
対象外にしていただきたいという立場からお話を申し上げたいというふうに思っております。
日本
マーケティング・リサーチ協会は一九七五年に設立されております。三十一年の歴史を持っておりますが、この協会の特徴は、実は協会としての綱領というものを持っております。
マーケティング・リサーチ綱領であります。どうしてその綱領のようなものが必要なのかというと、我々が行っているその市場
調査というのは、正に社会的信頼性においてその業界の基盤を築いていると、その信頼性が失われた途端に、我々の社会的に果たす役割そのものも否定されるという強い危機感がありまして、綱領を認めた者が会員となる資格があると、その綱領に従って
業務を遂行する必要があるということを繰り返しやってきておるわけであります。
そもそも、市場
調査あるいは
マーケティング・リサーチというのは、市場経済においては全く欠くべからざる機能を果たしております。つまり、生活者あるいは
国民の消費に対する、あるいはサービスに対する
評価であるとかあるいは改善の要望であるとかいうことを定量的に把握をして、それを提供する、供給するメーカーであるとかあるいはサービス
業者にそのデータをフィードバックする、そのことによって商品の改善であるとか新しい商品の提供であるとかという、いいサイクルをつくり出すための生活者と供給側の間をつなぐ大変重要なパイプの役割をしているわけであります。そういう
調査を行うに当たっては、当然のことながら生活者の協力、その信頼ということが我々の仕事の前提であるということで倫理綱領を定めております。
ちょっと、その倫理綱領にどういうことが書いてあるのかということについて紹介いたしますと、「このような
調査は、公衆の信頼に依存している。その信頼とは
調査が公正かつ客観的に、
調査対象者の生活に不本意に立ち入ったり、不利益をもたらすことなく遂行され、
調査対象者の自発的な協力に基盤を置いているということである。この信頼は、
マーケティング・リサーチの実施方法を規制する適切で、専門的な「綱領」によって保証されるべきである。」ということで、そもそもの協会の存立基盤がございます。
したがいまして、最近では
個人情報保護法ということで新しい
法律が施行されましたけれども、それ以前より、その
個人情報を扱う上で
調査データの匿名性を維持すると、これが信頼の前提でありますので、十二分の
配慮を行ってきております。正にデータを統計的に扱う、その
個人の
情報を個別に扱うのではなくて統計的に扱うということによってその役割を果たすということですから、匿名性の維持ということが大
原則であります。これは、市場
調査においても
世論調査においても基本的に同じその
業務のプロセスが設定されておりまして、国際的に見ても、日本に限らずどこの国においても、そういういわゆる綱領というものを国際的な標準として採用することによってこの業界が成立しているということを是非御理解をいただきたいというふうに思います。
そういう
観点から、今回の
住民基本台帳の
法律を
改正する案については、総論は賛成でございます。
原則公開から非
公開に移行しますということについては我々も賛成するところでありますが、
世論調査、
学術調査のような
公益性の高い
調査においては台帳として
利用することは可であるが、市場
調査については
営利活動を
目的としているからこれは不可であるという
考え方に対しては反対の立場を取りたいというふうに思っております。
これ、公益と非公益企業、営利企業、公益企業と非営利企業、あるいはその
情報を公表するのか公表しないのか、そういうことによって
公益性の
観点ということがこの中ではうたわれているわけですが、たまたまこの
委員会の
委員長をされている
世耕委員長のこの「プロフェッショナル広報戦略」という本がありまして、私も感心して読んでおったんですが、ここにサブタイトルで「公益企業という言い方は大嫌い」というNTTの真藤社長の言葉が紹介されておりまして、ちょっと読ませていただきますと、真藤社長の発言は止まらないと、自動車メーカーや家電メーカーは自ら決して公益企業などとは言わないけれども、彼らは一生懸命庶民が手の届かなかった商品をなるべく安くたくさん提供していると、いいものを提供して、それによって
国民みんなが喜ぶ、これこそ正に公益だろうと。
つまり、市場経済においては生活者のそういう
評価だとか
意見だとかいうことをしっかり聞いて、それに選択される商品やサービスを提供することが正にその社会の発展に役に立つという理屈で成り立っている世の中なわけですよね。そこにおいて市場
調査というのは大変大きな役割を果たしているということが皆さんはよく御理解いただけるんではないかと。そのことによって、その
調査をやりたいと思ったメーカーだとかサービスの提供
業者が、正にその生活者にとって生活者の生活を豊かにする商品、サービスを提供することになるという理屈を否定するのは大変私はやっぱり違和感があります。
もっと申し上げますと、中央官庁だとか
自治体だとか
社会福祉協議会なんというそういう
公益性の高い
団体はオーケーだよと、あるいは大学だとか研究所だとかもオーケーですよという言い方もされておりますけれども、NTTは民営化されました。郵政公社も民営化されまして、ここにも
世耕委員長の郵政公社民営化に当たっての、何ですか、最終弁論の内容も出ていましたけれどもね。
正にその民活というのはそういうことであって、その生活者の
意見をしっかり聞いて、これ重要なことなんですけれども、競争するメーカーよりもいい商品、サービスを提供するということで成り立っているわけですね。ですから、公表ということについても、そういう競合の原理が働いている限りはそういう
調査データが公表されることはないんですね。そのことによって、公表性がないというのは大いなる誤りだろうというふうに私は思っております。
もう一つ、この本にすごい
調査の使い方が出ておるんですが、昨年の総選挙において自民党は大勝利をいたしました。この世論の動きを、これは選挙
調査ですよ、選挙
調査ということでデーリーでこれ
調査されているんですね。台帳として、これ
住民基本台帳恐らくお使いになってなくて、電話
調査だったんだろうというふうに思いますけれども。
選挙
調査の結果は、当然のことながら自民党以外の党には公表はされません。これは、自民党が民主党を負かすために
調査をしているわけですから、そのことによって大勝利をしたというふうに
世耕委員長はおっしゃっているわけですけれども、選挙
調査については、これ
原則オーケーなんですね。
選挙人名簿を
閲覧することはオーケーであるというふうに書いてある。その理由は何なのかというと、これは民主主義の発展の
基礎を築くものであるからいいんだという言い方をされております。ですから、公表と非公表ということは
関係ないんですね。
申し上げたいのは、私は、
マーケティングリサーチは市場経済の発展のために欠くべからざるものであると。これを規制をする、
世論調査と区別をして規制をするという
考え方は基本的に誤りなんではないか。同じように、台帳として
閲覧を許されるべきなんではないかというふうに思っております。
ちょっと余談になりますというか、国際比較をしますと、実は
住民基本台帳のようなものがほかの国にあってそれを市場
調査に
利用されているかというと、そもそもそういう台帳がないとか
利用されていないというケースの方が多いんですが、といって
世論調査と市場
調査を区別して扱うという
考え方は国際的にはございません。
我々も、ヨーロッパの、欧米の、ヨーロッパの
団体、ESOMARという
団体がありますが、ヨーロピアン・ソサエティー・フォー・オピニオン・アンド・
マーケティング・リサーチという
団体ですね。これはJMRAに相当する
団体であります。韓国ではKSOMARという、やっぱり韓国のKを使っているんですね。
ただ、不思議なことにというわけでもないんですが、まあ当然と言えば当然なんですが、これも余談なんですが、中国においては、市場
調査じゃなくて
世論調査、
社会調査に対して大変大きな規制があるんです。これは民主主義が発展していないからですよね。ただし、市場
調査については規制の
対象は非常に緩やかで、ないんですね。
先ほど、当社の名前、
社会調査研究所というふうに申し上げましたが、この社名で一九九九年に上海の方に事業所といいますか代表所を設けましたが、中国において社会を
調査するとは何事だということで大変厳しい
審査を受けました。いや、
社会調査でなくて市場
調査をやるんだということであれば、これは基本的にオーケーなんですね。国によってそれぞれ違うんですが、日本はその逆を行って市場
調査を
営利目的だからといって規制の
対象にするというのは、私は全く理解し難いというふうに考えております。
それから、もう一つ最後に申し上げたいんですが、
住民票がほぼ野放しでだれでも
閲覧できるという状態を規制するために
審査を行うということについては、これも
原則的に私どもは賛成をしております。その
閲覧した
情報がきちんと取り扱われる
仕組みを持った会社にだけそのことを許す、あるいは先ほど申しましたようにダイレクトマーケット等には
利用させないということについても基本的には賛成であります。ただし、
個人情報をそのような形で扱い、まあ市場経済において大変重要な役割を果たしている市場
調査について規制をするということについては、是非規制の
対象外にしていただきたいというふうに思います。
それから、もう一つだけ、そのことによって市場
調査のための
住民票の
閲覧がどんどんどんどん拡大していくのかというと、実はそうではなくて、少なくなることはあると思いますが、拡大することはないと理解をしております。
理由は、
住民票を使ってそれを名簿として訪問面接
調査を実施するというのは、大変
調査としての効率が今悪くなってきております。したがいまして、電話
調査でありますとか郵送
調査でありますとか、最近ではインターネットを使った
調査ということがどんどん普及してまいりますので、恐らく大きな流れとしてはそちらの方にシフトしていくだろうというふうに業界としては理解をしています。
ただし、そういう
調査においては、正確な母集団が一体何であるのかということがベースとしてないと、例えばインターネットによる
調査においてはインターネットにおける
調査に協力する人の偏りがあります。その偏りを測定することができないと、その
調査結果に基づいた正しい意思決定にはつながらないということがございますので、やはり
住民票を使った市場
調査ということについては決してなくなりはしないという理解もしておりまして、是非規制の
対象外にしていただきたいというふうに思います。
以上でございます。