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参考人(逢見直人君) 逢見でございます。私は今、連合の副
事務局長をしております。
本日は次
世代育成
支援に関する
企業の
取組というテーマでございますが、これ、実施主体は
企業でございます。しかしながら、この
企業を
構成する重要なステークホルダーである
従業員、その
従業員を組織する労働組合という立場で
意見を述べる機会がいただけたというふうに感じておりますので、その立場からこのテーマに関して
幾つかの
意見を述べさしていただきます。
お手元に私の名前が入っている
資料を用意してございますので、これに沿って話をさしていただきます。
まず、連合の
出産、
子育て支援に関する基本的
考え方でございますが、
結婚や
出産は当事者の選択であり、国や行政が介入すべきではないことを基本に、子の養育の責任は第一義的には保護者にあり、もちろん国、
社会の責務というのは
子育てについてもあると思いますが、しかし、第一義的には保護者にあって、保護者が安心して産み育てられる条件や、
子供が健やかに育つ
環境を
整備することが
社会の責任であると、このように考えております。
この観点に立って、だれもが安心して
子供を産み育てられる
環境を築いていくためには、
一つは、
出産、
子育てにかかわる経済負担の軽減、そして二つ目には、雇用不安と所得格差の解消、そして三つ目には、
ワーク・ライフ・バランスの促進、そして四点目に、国民的運動の展開が必要であるというふうに考えます。この順番に沿って
幾つか
意見を申し述べさしていただきます。
まず、経済的負担の軽減でございますが、これは後ろの方に図がございますが、図一をごらんいただきたいと思います。これは、連合が昨年二月に行ったインターネットによる妊娠・
出産費用に関する
調査の一部でございます。ここで健康診査と
出産費用の負担感について聞きましたところ、回答があったのは約三千名ですが、「やや負担に感じた」というのが五〇・七%、「とても負担が重く感じた」というのが三五・二%、合わせますと八五・九%の方が
出産にかかわる
費用を負担というふうに答えております。
次に、図二、図三というのがありますが、大変申し訳ございませんが、図二と図三が同じ設問になっております。図二はこれで正しいんですが、図三は、
出産費用の総額が合計幾らですかという設問でございます。
図三にありますように、
出産費用については三十五万円から四十万円と答えた方が二七・二%で最も多い。それから図二では、妊娠中と
出産後の健康診査
費用が幾らであったかということですが、これで十五万円以上と答えた人が最も多い。合計しますと五十万円以上掛かります。
今月十日に閣議決定されました医療
制度改革関連法案で、
出産一時金については現行の三十万円から三十五万円に増額されることが提案されております。しかし、この
調査結果で見ますように、まだまだ十分とは言えないと思います。連合はかねてから、健康診査料も含めて
出産にかかわる
費用は安心して安全に
出産する医療
体制を
整備するためにも健康保険で賄うべきということを
提言しております。これは直ちにはそうならないかもしれませんが、少なくともせめて
出産一時金は四十万円程度まで引き上げていく必要があるというふうに思っております。
出産費用以外にも
保育料、特に一歳児の
保育料は
子育て世帯にとって大変大きな負担となっております。これは、次のページに表一というのがございますが、これは連合の
保育ニーズに関する
調査、二〇〇一年に実施したものでちょっと年数がたっておりますが、ここで希望する
保育サービスについて選択していただいたものでございますが、六七・五%の方が
保育料の引下げを国や
自治体に対して望んでいます。
政府は、現在、二〇〇九年までに
保育所受入れ児童数を二百十五万人に拡大するということを目標にしていますが、
保育所のキャパの拡大ということももちろん必要でございますが、
保育料につきましても保護者負担を現行の半額程度に引き下げていくべきではないかというふうに考えております。
企業の中には
子供が
生まれたときに五十万円とか百万円とかいった
出産一時金を
支給するところもありますが、これは
企業、非常に恵まれたところに働いている
方たちであって、財政的に厳しい中小
企業等ではこうした
対応はできません。基本的には国や
自治体が積極的に応援するべきであるというふうに考えております。
第二に、
少子化の大きな要因であります雇用不安と格差の解消の是正についてであります。
平成十七年版の国民
生活白書というのを図四で引用さしていただいております。この平成十七年版の国民
生活白書では、
子育て世代をめぐる所得
環境は若年層のパート、アルバイトを
中心に極めて厳しいという見方を提起しております。
この図四は年齢層別に見たジニ係数の推移でございますが、一九八七年から二〇〇二年にかけての推移を見ますと、特に
男性では三十四歳以下、
女性では二十四歳以下で所得格差が拡大しています。
男性の二十から二十四というのは、八七年の〇・一八六ポイントから〇・二二一ポイントまで上昇しております。ちょうどその
子供を産み育てる
世代のところで所得格差が拡大しているということでございます。
この白書は、若年層の所得格差の拡大の要因がパート、アルバイトの割合が増加したためだと分析しております。パート、アルバイトは職種や労働時間によって所得が大きく違い、また正
社員とパート、アルバイトの間での賃金に大きな格差があります。より多くの若者が不安定で比較的賃金の低い
仕事に就くことで、若者の間の所得格差が拡大し、その中で低所得層が増えているという
実態があるというふうに思います。
次のページに図がございますが、図六をごらんください。
これは一時間当たりの平均所定内賃金格差というのを一九九〇年から二〇〇四年まで見たものであります。
男性のパート労働者の一時間当たりの平均賃金は二〇〇四年で千十二円、これは
男性一般労働者の五〇・六%、
女性の二〇〇四年のパート賃金は九百四円で、これは
女性の一般労働者の四五・二%と、いずれも半分あるいは半分以下になっています。正
社員とパート、アルバイトには転勤や残業の有無とかあるいは
仕事上の責任の軽重などの差があって、賃金格差というのはそのような
部分も反映しているわけですが、最近ではそういうような合理的な
理由の付くものとそうではないものと、その説明ができないという
部分も多くなっているんではないかと思います。
左側に図五がありますが、これは連合が行った
調査ですが、パートや派遣などの非典型労働者に同じ
仕事をしている正
社員がいるかということを尋ねたものでありますが、二一・九%が「同じ
仕事・責任の正
社員がいる」というふうに答えています。それから、二八・五%は「責任は違うが同じ
仕事の正
社員がいる」、一八・九%は「一部同じ
仕事を行う正
社員がいる」と回答しています。つまり、
職場の中には、正
社員とパート、アルバイトが同じ
仕事あるいはその責任も同じという形で同じ
職場でいるということも二割以上あるわけでありまして、こうなると、果たしてこの賃金格差というのは合理的説明が付くのかという問題が出てまいります。
図七をごらんいただきたいと思います。
これは正
社員以外で働く
理由は何かということを聞いたものですが、最も多いのは「正
社員の
仕事につけなかった」ということがあります。特に九〇年代、バブル崩壊以降、
企業が正
社員の採用をどんどん縮小してきたという中で、正
社員の
仕事に就けなかったという方が増えているんだというふうに思います。
女性や若者が正
社員として働くことを選択しないのは、必ずしも働く意思や
能力にかかわる問題とは限りません。
企業は労働コストを削減するために正
社員からパート、アルバイトの置き換えを進めています。
こうした状況を見ますと、均等な雇用機会が確保されるような労働市場への見直しを図るとともに、非典型雇用と正
社員の合理性のない格差を徹底的に是正することが必要と思います。また、
企業は、労働力の非典型化をどんどん進めるというだけではなくて、安定した雇用機会を若年層を
中心に広く提供して、
仕事を通して若者の自己実現や
社会参画を積極的に後押しするべきであるというふうに思います。
次に、
ワーク・ライフ・バランスの促進についてであります。
仕事をしながら
子供を産み育てていく男女を
支援していくためには、多様な働き方と組み合わせ、
支援策が重要となっております。ただし、
子育てに特化した施策だけでは、
男性の長時間労働や
柔軟性を欠いた働き方という
現実の前では両立の負担が
女性に偏る傾向が変わりません。
子育てだけを聖域にしていると、
子育てをしている労働者が働きやすくなっても、周囲の労働者がそのしわ寄せを受けるということになりかねません。
図八をごらんいただきたいと思います。これは、週六十時間以上働く人の割合について一九九四年と二〇〇四年を比較したものであります。正に
子育て世代の
男性で長時間労働が多くなっています。三十歳から三十四歳の
男性では一八・九から二二・二%、三十五歳から三十九歳の
男性は一九・一から二四・〇%。週六十時間ということは、週休二日と考えますと、週五日間ほぼ半日
職場にいるということになります。
その下の表二にありますように、二〇〇四年に労働者が取得した年次有給
休暇は一人平均八・五日、取得率は四七・四%でありまして、ここ年々、年次有給
休暇の取得率が下がっております。正
社員の数が減った分、残った正
社員は
仕事の量が増え、年休も取れないという状況が続いております。ますますそれが悪化していると。
国連開発計画の
人間開発報告では、表三にございますように、男女の一日の総労働時間に関する
家事時間という
調査をしていますが、
日本の
男性は一日の労働時間の中でわずか二十五分、七%しか
家事や
子育てに当てていないという結果がございます。ヨーロッパの中では、比較的、
日本のように
男性は
職場、
女性は
家庭という
役割が比較的はっきりしていると言われているドイツ、イタリアでも、まだまだ
日本の方は極端に少ないということが分かります。
しかし、
日本の
男性が
生活よりも
仕事を優先することを意識しているかというと、必ずしもそうではありません。前のページに戻りますが、図九で見ますと、三十代では、
生活優先の働き方を希望する、どちらかといえば
生活を優先あるいは
生活を優先と合計しますと、
仕事優先よりも多くなっています。
生活を優先したいのはやまやまだけれ
ども、しかし実際
職場にいるとそういう
環境ではないというのが
現実ではないかと思います。こうした
男性の長時間労働を是正しない限り、
ワーク・ライフ・バランスが図られず、
少子化に歯止めが掛からないと思います。
女性が
子育てと
仕事を両立していける
企業というのは、男女を問わず個々の
生活を尊重しながら働くことを可能にする
環境を有する
企業であり、
企業経営にとってプラスであるという
考え方が
企業の中、特に
企業のトップの中に浸透しつつあると思っております。
日本経団連が二〇〇六年版の
経営労働政策
委員会報告、私
ども通称経労委報告と呼んでおりますが、その中で、労働時間や就労場所、
休暇などについて多様な選択肢を提供、
整備し、ダイバーシティー、人材の多様化を生かす
経営戦略は、長期的に見て高い創造力を持つ人材を育成し、競争力の高い
企業の基盤をつくることになるということが記載されております。正に
ワーク・ライフ・バランスの重要性が、特に
企業の競争力を高めていくという点でも重要であるということが経労委報告によって認識されております。しかし、実際に
ワーク・ライフ・バランス施策を取っている
企業というのはまだまだ一部であります。
表四をごらんいただきたい、最後のページですが。
育児のための短時間
勤務制度や
フレックスタイムを入れている
企業というのは、二〇〇四年の
調査で四一・九%、まだ全体の半分以下です。これは、二年前の二〇〇二年の
調査と比べましても八ポイント以上減っております。
子供が三歳以上になってもそういった
制度のある
企業を合計しますと二二・九%、四一・九の中の二二・九ですから、全体では九%程度にすぎません。
ワーク・ライフ・バランスが重要であり長期的には
企業の業績を向上していくことが分かっているけれ
ども、しかし短期的にはそれが
企業の利益に結び付かない、やはりコスト高になると、そう考える
企業がまだまだ大半を占めているんではないかと思います。
ワーク・ライフ・バランスを促進する
企業の多くが
女性を多く雇用する
企業であったり、また、そこで提供する製品や
サービスが市場において
女性を対象としている
企業であったりするのもそういうことが要因だと考えられます。
妻の
勤務先だけが
ワーク・ライフ・バランス施策を充実させている場合、夫の方の
会社ではその必要性がなくなるという、言わばただ乗りといいますかフリーライドという問題も出てきます。そういう
意味では、
女性がたくさんいる
会社だから
ワーク・ライフ・バランスを考えなきゃいけないという発想はやはりやめるべきではないかと思います。
昨年四月には次
世代育成
支援対策推進法が施行されました。
企業全体で
子育て支援を前進させていくという点では大きな前進であります。
連合も、二〇〇四年春に、労働組合が積極的に行動計画策定に関与するための手引というのを作成して、行動計画の労働協約化に向けて取り組んできました。今年の春季労働条件交渉においても、長時間労働の是正と
ワーク・ライフ・バランスの促進を重要なテーマの
一つと位置付けております。その結果、各
企業において、
育児休業の取得率の向上ですとか
育児休業取得者の
職場復帰
支援の充実とか
管理職に対する教育啓発など、働き方の見直しに向けた
取組が少しずつでありますが進んでまいりました。
行動計画の策定は、三百人以下の
企業については現在努力義務となっておりますが、中小
企業や労働組合がない
企業こそ行動計画によって次
世代育成
支援を推進していくべきであると。そういった
意味で、政府は三百人以下の
企業に対する指導も強化していくべきであると思います。
行動計画を策定した旨を届け出て、そこで定めた目標を達成する等一定の要件を満たすと、次
世代認定マークというのをその
企業の広告や
商品に使うことが許されていますが、果たしてこの次
世代認定マークというのはどのぐらい一般に膾炙されているのかということでございますが、連合では先週の金曜日から、インターネットを使って、行動計画がどのぐらい
社会的に認知されているかの
調査をしています。
まだ
調査中ですが、昨日までで百十一名の回答がありました。認定マークについて正しく言い当てた人はそのうちの六十名、五四・一%。まだそこで、
調査したばっかりの百十一名ですから、恐らく今のところは労働組合関係者の回答がほとんどだと思います、そこで五四・一%。これから一般の人が回答してくれるようになると更にこの認知率は下がっていくんじゃないかと思います。
この認定マークというインセンティブをせっかく作ったにもかかわらず、まだ
企業もいま
一つ本当の
意味でこの認定マークを
企業の競争優位として生かす、あるいは市場でもっとアピールするということが進んでいないんではないかと思います。むしろ、こういう認定マークをもらっていない
企業が恥ずかしいと思うような
社会を国民全体の運動としてつくっていくことが必要だと思います。
そして最後に、国民運動の推進についてですが、
一つは、連合として三百人以下の中小
企業にも行動計画を策定していく、そして地域の
ネットワークという点も重要だと思います。連合としても、NPO法人などを設立して、
子供の一時預かりとか、残業、出張まであるいは緊急のときの
子供預かりといったものをサポートしておりますが、こうしたものを全国的に輪を広げていきたいと思っております。
最後に、官民運動連携
会議ですが、今までも、有識者
会議とか国民
会議とかいろんなものが
少子化に関連して作られてきました。総理を
会長とする
少子化対応を推進する国民
会議というのは、二〇〇四年九月以降開催されておりません。次年度からは官民運動連携
会議というのが設置されるということでございます。省庁ごとの縦割りの施策を検証し、全国の
子育て支援に関する
情報を収集、発信する基地と位置付けるべきだと思います。そのために関係省庁あるいは
民間出身の方も入った
事務局を設置するなど、実効ある機関としてこの官民運動連携
会議が実効性のある
役割を発揮していくことを期待して、発言とさしていただきます。
ありがとうございました。